世界樹(ユグドラシル)について - トネリコ

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昨日のエントリーで「ニーベルングの指環」に出てくる「だいじなもの」について不充分ながらご紹介させていただきました。  今日のこのエントリーはそこからもう一歩踏み込んで、この物語の背景にある「北欧神話」の世界の中で「世界樹(ユグドラシル) - トネリコの木」がどういう存在だったのかについて触れておきたいと思います。

「ニーベルングの指環」はドイツ中世の叙事詩「ニーベルンゲンの歌」や北欧神話「エッダ」、「ヴェルズンガ・サーガ」などに題材を求めた作品ではありますが、決してそれらの神話から何らかのエピソードを抜粋した物語ではありません。  ワーグナーという稀有の天才がいったんそれらの物語を吸収し、そのエッセンスを彼の頭の中で様々な空想・妄想を働かせて分解・再構築し、それをオリジナルの脚本として編み出したものです。  ですから必ずしも元の題材にあるがままの姿で全ての事象が描かれている物語ではありません。  でも、神話の世界で「ある出来事の象徴」として考えられている事物に関しては、やはり原本の持つ強いイメージが何らかの影響を与えていることは否定できないと KiKi は考えます。

ましてヴォータンの持ち物としての「槍」やノートゥング登場の舞台として選ばれたトネリコの木に関しては、この「ニーベルングの指環」の中ではあまり多くが語られることがありません。  逆に KiKi などは生まれて初めてこのオペラを観たときには第3夜の「神々の黄昏」冒頭で、3人のノルンがこの世界で起こったこと、起こりつつあることをかいつまんで語ってくれるレチタティーヴォを聴いて初めて、トネリコの木が「ものすご~くだいじなもの」であったことに気がついたくらいぼけ~っとしていました。  そしてトネリコの重要性に気がついたときに初めて、北欧神話を読み直してみて世界樹(ユグドラシル)がトネリコの木であったことを思い出したのです。  てなわけで、今日は「ニーベルングの指環」本編からはちょっと離れますが、世界樹(ユグドラシル)のご紹介をしておきたいと思います。  尚、このエントリーを書くにあたり、KiKi が参考にしたのは以下の文献です。

「北欧神話物語」 
 出版:青土社 著者:K.クロイスリーホランド 訳:山室静 & 米原まり子

 

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「ニーベルングの指環 神々の黄昏」
 出版:新書館 作:R.ワーグナー 訳:高橋康也 & 高橋宣也

 

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さて「ユグドラシル」のお話をする前に、ニーベルングの指環に出てくるヴォータン(神々の長)と北欧神話の最高神「オーディン」の関係についても少し触れておく必要があると思います。  多くのサイトや文献では「ヴォータン=オーディン」という記述が見られますが、この2人は必ずしも同一人物・・・・とは言えないようです。  ただ明らかに、オーディンはヴォータン(オリジナル)の特質を受け継いだ神様でした。  その特質とは「戦いの神」という側面です。  ヴォータンは一般に「北欧神話」と呼ばれる物語には登場せず、その物語の土壌になったと考えられている「最初期のゲルマン神話」に登場する神様です。  ただ、このワーグナーの「ニーベルングの指環」のヴォータンは「神々の長」「独眼の者」「戦いの神」というオーディンのキーワードとも言える物語はそのまま引き継いだ存在として出現してきています。  ですから、この2人を同一人物と考えるのは決して間違いとは言えないし、逆にそう考えたほうが彼の人となりは理解しやすい人物設定になっています。

さて、では本題。  世界樹、ユグドラシルです。  「ユグドラシル」という言葉は「恐ろしき者の馬」という意味を持っています。  「恐ろしき者」とは北欧神話の最高神「オーディン」のことで、彼が実際に(?)乗っている馬は「スレイプニル」という名前で知られ、足が8本あるかなり特殊な馬でした。  で、この「ユグドラシル」と「スレイプニル」が同一、もしくは同一視できるものかと言えばそれはどうやらチト違うようです。  では何故樹木の名前が「恐ろしき者の馬」になってしまうのかと言えば、それは北欧の詩人たちが「絞首台」のことを「馬」と語っているから・・・・と考えられています。  そして「絞首台」とこの樹木がどう結びつくのかと言えば、それこそが北欧神話の中の1節、「絞首台の王」という物語で語られているお話なのです。

オーディンは知恵を体得することにとても意欲的な神様でした。  彼はありとあらゆる人たちから多くを学びましたが、死者からも知恵を学ぼうと考えました。  でも死者から知識を得るためには自分自身も死者となる、もしくは臨死体験でもして死者に接することなくしては難しい・・・・。  さて、どうするか??  そこでオーディンはまさにその臨死体験をするために我が身を差し出すことにしました。  わき腹を槍で貫かれた状態で9夜、このユグドラシルにぶらさがり(一旦死して蘇ったとも考えられています。)、彼はようやく死者の知恵を得た・・・・とされています。

そうなると次の疑問は「死者から学ぶために、何故ユグドラシルにぶらさがる必要があるのか?」ということになります。  ここでこの神話世界の世界観が重要な意味を持ってきます。

ユグドラシルはこのサイトにも説明があるように「世界・宇宙」を体現する巨大な木であると考えられており、アースガルド(アース神族の世界)、ミッドガルド(人間の世界)、ヨーツンヘイム(巨人族の世界)、ニダヴェリール(小人の世界)、ヘル(死者の王国)などの異なる9つの世界をすべて含んでいると考えられていました。  つまりこのユングドラシルはあらゆる種族を含んでいるのと同時にその種族の生命、時間、意識、空間をも内包しており、それらの世界を結ぶ梯子のような役割を果たしていたのです。  だからアースガルドの住人であるオーディンは、死者と接するためにユグドラシルを利用しなくてはなりませんでした。

さて、そんな全ての世界を繋ぐユグドラシル(世界樹・宇宙樹)ですが、このユグドラシル自体も絶対的な存在に見えつつも、恐ろしい皮肉を抱えているところがこの神話の面白いところです。  以下「北欧神話物語」(青土社刊)から引用してみましょう。

ユグドラシルには3本の根があった。  1本はアースガルド(アース神族の世界)にもぐっているが、その根の下には、3人のノルンたちに守られたウルド(運命)の泉があるが、そこはまた神々が毎日集まって会議をする場所だ。  第2の根はヨーツンヘイム(巨人族の世界)にもぐっているが、その根の下にはその水が智恵の源であるミーミルの泉がある。  オーディンはその水を飲むために片目を捧げたし、神々の見張り役であるヘイムダル神は、ラグナレクにそれを必要とするまで、その角笛をそこに残しておいたと言われる。  第3の根はニヴルヘイムまで届いていたが、その根の下にはフヴェルゲルミルの泉があった。  それは11の河の源泉だったが、その近くでは悪竜ニドヘグと他の無名の蛇どもが、ユグドラシルの根をかじっているのだった。

普通には守護の木として知られるユグドラシルは、その中に住みついて、それを食べたり害を加えている動物たちを養ったり、それに苦しめられている。  ニドヘグ竜がその根をかじる一方で、鹿や山羊がその枝の間を跳ね歩き、新芽を食いちぎる。  一匹のリスがその幹を上ったり下りたりして、ニドヘグからの悪口を、一羽の鷹を両眼の間にとまらせて頂上の枝にとまっている鷲に運ぶ。  さらにその木は、蜜蜂がそれから蜜をつくるほどに甘い露をしたたらせる。

(中略)

ラグナレクが近づいたとき、このトネリコの木は慄え、一組の男女、リーヴとリーヴスラシルがその中に隠れて、それに続く大災厄と大洪水を生き永らえる、と言われている。  彼らはただ2人で時間と人間の1サイクルの終末と、次のそれの発端に立っているのである。

ところで苦難を受けながら、あらゆる生物のために配慮して連続を保証するその木は、代わってノルンたち、ウルド(運命)、スクルド(存在)、ヴェルダンディ(必然)によって支えられている。  だからある意味では、人間の生命だけでなく、人間の守護神のそれまでが彼女らの手の中にあるわけだ。 

「ニーベルングの指環」の第3夜「神々の黄昏」の冒頭で3人のノルンたちが歌った歌を思い出してみましょう。  以下「ニーベルングの指環 神々の黄昏」(新書館)からの引用です。

その昔、「宇宙のトネリコ」にかけて綱をよっていたことがあった。
枝にはみずみずしい葉が茂り、緑豊かに影を落としていた。
その涼しい木陰に隠れて、泉があった。
その波間からは知恵ある声が響き、私は聖なる思いをこめて歌を歌った。
あるとき勇敢な神が知恵の泉の水を飲みに来た。
知恵の代償に片方の目をさしだしたその神、大いなるヴォータンは「宇宙のトネリコ」から枝を一本折り取り、それで槍を作った。
長い年をへるにつれ、裂け目の傷は大樹を蝕んでいった。
色褪せて葉は落ち、ひからびて木は枯れた。
悲しいかな、泉の水も渇れ、私の歌も暗い思いの歌となった。
以来、私は「宇宙のトネリコ」のもとで綱をよることもかなわず、樅の木で間に合わせなければならない。

ヴォータンは正当に取り決めた契約のルーネ文字を、自分の槍に彫りこんだ。
それを掲げて世界を統べていたが、ある日、ひとりの勇猛な英雄が決闘で槍を真二つにへし折った。
聖なる契約の縛めは打ち破られた。
そこでヴォータンはヴァルハラの英雄たちに命じ、枯枝もろとも、「宇宙のトネリコ」を切り倒し、切り刻ませた。
こうしてトネリコは地に伏し、泉の水も渇れ果てた!

巨人たちが築き上げたあの偉大な城、そこでは不死の神々や英雄たちが集まっている。
玉座に着いているのはヴォータン、城のまわりには夥しい数の薪の束が、山のように積み上げられている。
これこそ「宇宙のトネリコ」の成れの果て!
それらの枝が狂おしく赤々と燃え上がり、その焔が栄光の広間を包むとき、永遠なる神々は黄昏の闇に沈んでゆく。

世界樹・宇宙樹たるトネリコ(=ユグドラシル?)を切り刻んで薪にしちゃうっていうのは北欧神話の世界観からすると信じられないお話だけど、この「ニーベルングの指環」の物語世界で永遠の神々の世界の象徴とも言うべきヴァルハラ城を焼き尽くす薪に姿を変えているっていうのは、やっぱり同じ世界観の延長にあるように KiKi には感じられます。  以上、トネリコの木に関するトリビアでした♪

 

 

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