ニーベルングの指環が象徴するもの その6

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さて、今日からは「ニーベルングの」を考えてみたいと思います。  つまり、例えば何故「力(権力)の指環」じゃなくて「ニーベルングの指環」というタイトルになったか?を考えてみるっていうことですね。

まずここで言うニーベルングとは誰のことなのか??  アルベリヒか?  ミーメか??  名もない隷属奴隷の皆さんか???  それともアルベリヒの血を引くハーゲンか????

まずこの点に関する KiKi の考えは全員です。  彼らは皆、指環に対するポジショニングが違うだけで、結果的に指環に与えられた価値観に振り回されている人々です。  そして彼らは神話世界の「小人コスチューム」を着て舞台に現れますが、これは現在の人間社会を構成している人員そのものです。

アルベリヒ:   指環の製作者にして所有者 ブルジョワジーの体現者
ミーメ:      指環の力の前に屈服する奸智を働かせてのし上がろうとしている人物
           プロレタリアートの体現者
名もない皆さん:指環の力の前に屈服する奸智を働かせないまじめな市民
          プロレタリアートの体現者
ハーゲン:    没落ブルジョワジーの末裔
          一族の悲願(御家復興)達成を期待されているホープ

つまり KiKi はこの物語の主題は「欲と密接に結びついた価値観に振り回されている人々とその価値観の本質の物語」だと思います。  ただこれでは楽劇のタイトルとしてはあまりにも長すぎる!!  だから「欲と密接に結びついた価値観に振り回されている人々」が「ニーベルング族」で「その価値観の本質」が「指環」なのだと思います。  で、これをそのまま置き換えると「ニーベルング族と指環」というタイトルになってもおかしくないところだったのです。  ところがこの物語の主人公は必ずしも「ニーベルング族」じゃないところがやっかいなんですよね~。

 

 

じゃあ、誰が主人公なのか??  KiKi は本質的にはヴォータンが主人公だろうと思っています。  ワーグナーがこの物語を書き進めた経緯からすると、当初は「ジークフリート」が主役になる予定だったのだと思います。  でも、よく知られているように彼の英雄的な死を書いているうちに、その彼の生い立ちを書かざるをえないと考え始め、彼の生い立ちを書いているうちに彼の出自にも触れざるをえなくなってしまい、彼の両親の物語を書いているうちにその両親の出自を、そしてすべてのことの発端をと遡っているうちに英雄がこの物語の中で果たしている役割がどんどん小さくなっていってしまったのだと思います。

で、ふたを開けてみたら全編通じて物語に(舞台にではなく)存在しているのは永遠の神々だった・・・・と。  で、よくよく考えてみたらすべての事の発端はその神々の長であるヴォータンの欲から始まり、その欲と徳が抗う迷いとその迷いの中での選択、結果の受容の物語になっていて、ふと気がつけば物語の最初と終わりが同じだった・・・・ということではなかったかと。

「ラインの黄金」から始まるこの物語は一見するとアルベリヒによる「愛の断念」と「黄金強奪 & 力の指環鋳造」がすべての出来事の引き金を引いているかのように見えるけれど、「欲」という観点から見つめなおすと、ヴォータンの欲はそれよりずっと以前に、まずは自分の権威を見せつけるかのような「ヴァルハラ城建築請負契約」を結んだところまで遡れるし、もっと言えば彼が世界を統べることを目論み「契約の概念」を得るために片目を差し出して、さらには彼が得た「契約の概念」を刻み込むために世界樹の一枝を折り取ったところまで遡ることができると思います。  アルベリヒは本来「ライン河」のものであった黄金を奪いました。  でも、それよりももっと以前にヴォータンは「世界樹」のものであった枝を奪いました。  この行為にたいした差はありません。  ヴォータンとアルベリヒの違いは、ヴォータンは「力」と同時に「徳」も求める人物だったけれど、アルベリヒは「力」を得るためには「徳」や「愛」を諦められる人物だったということだけです。

こうして2つの欲がぶつかりあう「力の指環争奪戦」の物語が全体を引っ張っていくことになりました。  その中心にあるのは「ニーベルング族たるアルベリヒが作った指環」で、この争奪戦のメインの戦いはヴォータン vs. アルベリヒです。  ミーメは指環の周りでウロウロしているだけ、ファフナーは指環の上で惰眠を貪るだけの存在です。  さて、そんな争奪戦の対象物たる指環ですが、残念ながらこの指環もこの物語の主人公にはなりえません。  というのも指環に「力」を認められるのはそれを一時的に所有するものが「力」を欲したときだけだからです。  こうしてその指環の力を遂行しようとしないファフナーが指環を保管している間(「ヴァルキューレ全編」&「ジークフリート」のファフナー殺害まで)は指環がどこに行っちゃったのか初見ではよくわからない状況(ファフナーとともに惰眠を貪っている状況)が生まれます。

でも、舞台に姿を現さない指環が舞台の上でドラマを紡ぎだすアルベリヒの、ヴォータンの、ミーメの、そしてハーゲンの行動の、意志の原動力です。  アルベリヒは「ラインの黄金」では存在感を示しますが、「ヴァルキューレ」では指環とともに姿をくらませ、「ジークフリート」でもファフナーの洞窟の前で姿を現すだけ、「神々の黄昏」に至っては実在の存在ではなくハーゲンの夢の中に出てくる亡霊でしかありません。  でもアルベリヒの存在は「指環」に、そして息子である「ハーゲン」にしっかりと刻印されています。  一方のヴォータンは先日もこのエントリーで見たように、「神々の長」から「ヴェルゼ」、「さすらい人」と姿を変えながら出たり引っ込んだりを繰り返しています。  そう、本来はアルベリヒ vs. ヴォータンの争いだったはずの「力の指環争奪戦」は世代を超えて彼らの子孫に引き継がれて物語を紡いでいくのです。

 

その7へ続く

 

 

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