ニーベルングの指環が象徴するもの その7

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さて、今日も昨日に引き続き「ニーベルングの」を考えてみたいと思います。  本来 アルベリヒ vs. ヴォータンの戦いであったはずの「力の指環争奪戦」が世代を超えた悲願となっていることは昨日のエントリーで触れました。  つまりここで アルベリヒ vs. ヴォータンの戦いは、アルベリヒの血を引くもの vs. ヴォータンの血を引くもの の戦いになりました。  アルベリヒの血をひく人物は・・・・と言えば、弟のミーメと息子のハーゲンです。  そしてヴォータンの血を引く人物は・・・・と言えば、ヴェルズング族のジークムント、ジークリンデ、ジークフリートそして神格を失ったブリュンヒルデです。

ヴォータンとアルベリヒは「力の指環」を相手の手にだけは渡さないようにとお互いに知恵比べ(?)のようなことをしていますが、様々な紆余曲折を経て2人の目的・・・・と言うか、指環を得た後どうするかのビジョンは大きく乖離するに至ります。  方やニーベルング陣営はそれを入手した暁には、その指環の魔力を行使することを目的としています。  対する神々陣営は、様々な思惑の中で揺れに揺れ、最終的にはその指環をラインに返すことを目的とするようになります。  

さて、ではそれぞれの種族の悲願を背負った次世代の主人公は誰なのでしょうか??

 

   

まずニーベルング陣営ですが、こちらは言わずと知れたアルベリヒの息子のハーゲンです。  ミーメは所詮プロレタリアート、指環のまわりでウロウロして養い子のジークフリートの前に敗れ去り姿を消します。

では神々陣営は??  少なくともヴォータンはまずはジークムントに、次にはジークフリートにその責を託します。  でもこの期待には無理がありました。  契約の掟に縛られているヴォータンはアルベリヒのように息子や孫に彼の悲願を直接吹き込むことは許されていないのです。  更にはジークムントはフリッカの怒りの前にヴォータン自身が彼を裏切らなければならなくなってしまいました。  その血を受けたジークフリートはこともあろうにヴォータンの敵陣営のミーメに育てられ、まともな教育を受けてさえもいません。  人里はなれた森の中で育ち、熊を友とするジークフリートには、世間の常識も価値観も何もかもが無縁です。  ヴォータン自身が予定したとおりブリュンヒルデと出会い彼女と結ばれ、彼女の知恵を授けられてもそれをすぐには理解できない不肖の孫なのです。  

こうしてそれぞれの種族の争いの張本人だった アルベリヒ vs. ヴォータンが望みを託した ハーゲン vs. ジークフリートの争いはニーベルング族有利!な状況で動き始めたかのように見えます。  ところが・・・・。  肝心の主役たちが何を見つめ、何を欲していたのかを考えてみると面白いことが浮かんできます。  この「ニーベルングの」を考えるという企画では最後のまとめは「ニーベルング」で終わりたいのでまず、ヴォータン陣営から見て行きたいと思います。

まずジークフリートですが、このエントリーでも触れたように、無知ゆえに・・・・という部分もあるのですが、登場早々ヴェルズングの(ヴォータンの)血を、「父祖の約束」を、約束の剣を粉砕して鍛えなおすことによって自らの意志で(意識はしていないけれど)あっさりと断ち切り否定してしまいます。  「約束」を否定したということは「契約」を否定したことと同義・・・という面もあるように思います。  そして後は何も学ばず世間知らずのまま、ハーゲンの奸智にはまって最期の時を迎えます。  そしてこのエントリーでも詳細に触れたように最期の瞬間ににあっという間に全てを学び、その学びを自分の恩師でもあるブリュンヒルデにおまけつきで返すことによってヴォータンの悲願達成の犠牲となります。  彼は自らが一旦断ち切ったヴェルズングの血を、父祖の約束を最後の瞬間にしっかりと認識し、それを受け入れた・・・・とも言えると思います。
      
さて、対するハーゲンです。  こちらはジークフリートとは異なり「ニーベルングの悲願」を宿命として生きることを余儀なくされた人物です。  でもこちらも必ずしも素直にその宿命を受け入れていたとは思えません。  ハーゲンさんにインタビューしてみましょう。

 

A: 「ハーゲン、息子よ。  眠っているのか? ・・・・。」
H: 「聞こえているさ、性悪の妖怪よ。  眠っていると言うのに何の話だ?」

 

のっけから随分なご挨拶です ^^;  自分の父親を妖怪呼ばわりです。

 

H: 「母親譲りの勇気だと?  あいにくだが、こいつばかりはお礼を申し上げる気には
   なれないぜ。  何せ、あんたの悪だくみにしてやられた女だからな。
   おかげで、この俺様、若くして老け込み、身はやつれ、顔は青ざめ、世の幸せ者達を
   呪って生きている。  心楽しいことなどあるものか。」
H: 「指環は俺が必ずものにするから、安心して待っているがいい!」
A: 「俺に誓ってくれ、ハーゲン、俺の英雄よ!」
H: 「おれ自身に誓うさ。  心配するな!」

 

この夢枕の亡霊との問答から見え隠れするハーゲンの心。  それを KiKi はこう読みます。  愛を諦めたアルベリヒは愛のない交わりによりハーゲンを設けました。  アルベリヒは自ら選んで愛を手放しましたがハーゲンは違います。  その出自からして愛とは縁がないのです。  そして恐らくは父親譲りの風貌ゆえに、母グリームヒルトから愛されることもなかったのではないかと思います。  兄弟でありながら臣下という彼のポジションがそれを物語っているように思います。  つまりハーゲンは諦めるも何も最初から愛とは無縁の存在だったのです。  父を妖怪呼ばわりするニーベルングの英雄にとって、ニーベルング族の血を受け継ぐものとしての悲願なんていうのはどうでもいいことだったのだと思います。  彼は自分の混血を、それゆえの風貌を憎んでいました。  だから彼は父親には決して誓いません。  ましてこの世界は今やヴォータンの去ったあとの世界です。  契約の象徴であるヴォータンの槍は砕かれ、彼の統治の核にあった「契約の価値」はもはや額に入れて飾ってある実効性のないお題目みたいなものです。  皮肉にもアルベリヒの夢物語により、この時点で世界情勢に1番通じているのはハーゲンなのです。  相手が必要な誓い(≒契約)なんてくそ食らえです。  そして彼はあくまでもアルベリヒとは独立した存在として自分の意志で指環を手にすることを自らに誓います。

さて、そんな自らを主役と位置づけるハーゲンの「力の指環争奪戦」の相手は誰だったのか??  残念ながら、ハーゲンはジークフリートなんてはなから相手にしていません。  彼にとってはグンターもジークフリートも言ってみればパシリみたいなものです。  ハーゲンは自分のように一族の宿命なんていうものとは無縁に生きているかに見える世の幸せ者(おめでたい)2人が義兄弟の契りを交わしているのに参加せず、それを遠巻きに見つめています。  「何故参加しないのか?」と問うジークフリートに自分の血が純潔ではないことと容姿の醜さを理由としてあげますが、ここでもハーゲンは心の中で毒づいていたことでしょう。  「愚か者たちよ!  せいぜい虚しい契約をすればいい!!」と。  

 

「自由の身に生まれついた陽気な2人連れよ、気楽に舟を進めるがいい!
 今お前たちは俺を軽蔑しているが、ニーベルングの息子たる俺の前に
 お前たちがひざまずく日は遠くあるまい。」

 

ハーゲンがまっすぐに見すえている争奪戦の相手、それは指環誕生のいきさつからその指環が隠し持つ魔力を自分と同じように、いやひょっとしたらそれ以上に知っているはずの元戦乙女です。  彼女は神々の長・ヴォータンと智の女神の娘なのですから、能天気な陽気な2人の若者よりもはるかに手ごわいはずです。  

 

その8へ続く

 

 

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