ニーベルングの指環が象徴するもの その8

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さて、今日は何とかこの「ニーベルングの指環が象徴するもの」シリーズを完結したいと思います。

先代から受け継がざるを得なかった「力の指環争奪戦」。  アルベリヒ vs. ヴォータンの戦いは世代を超えて、今やハーゲン vs. ブリュンヒルデ(& ジークフリート連合軍)の戦いとなりました。  方やハーゲンは全てを知り、全てをたくらみ、今のところ全ての面で優位に立っています。  何せ神々の長の血を引く現在の指環の所有者、かつての戦乙女は恋愛ボケで「ニーベルングの指環」が何であったのかを忘れ、それを「愛の証」と呼び、「ヴァルハラなんか知ったことか、彼の愛があればそれでいい」な~んていうことを言ってのけています。  こともあろうに「愛とは縁がないからこその力の指環」を「愛の証」とは・・・・。  でも、ここでハーゲンの犬と化した狼、ヴェルズングの英雄(こちらも恋愛ボケ)は自身が与えた「愛の証」という指環の価値を自ら否定し、自分の妻のブリュンヒルデをグンターの妻としてギービヒ家に連れ帰ってくるのに大奮闘です。

そして繰り広げられる至高の愛をかけた痴話げんか。  ハーゲンにとっては予定外の騒動ではあったものの、狡猾な彼はこの痴話げんかをも利用します。  「愛」をめぐる争いがいつの間にか「ジークフリートの信義違反」にすり替わります。  こうしてハーゲンの敵であるはずの夫と妻は、己の身の証をハーゲンの槍にかけて誓うに至ります。  さらにはハーゲンにそそのかされた怒りと屈辱に燃えるジークフリートの妻と義兄弟は、声をそろえて叫びます。

  

「事は決した!  ジークフリートは死なねばならない!
 彼のもたらした恥がそそがれるように!
 立てた誓いを破った男よ、みずからの血で償うがいい!」

 

ほくそ笑むハーゲン。  こうしてジークフリートはハーゲンの槍に貫かれて死を迎えます。  これでニーベルングの英雄の狙い通り・・・・。  ところが今際の際にジークフリートは全てを理解します。  (このエントリーを参照)  そして、ヴェルズングの英雄はようやく自分の血を、指環争奪戦の幕引きを託された自分の立場を自らの意志で受け入れ、後のすべてを最愛のブリュンヒルデに託します。  ブリュンヒルデもジークフリートの死をもってようやくすべてに目覚め、彼の遺志を継ぎます。  それはとりもなおさず、神々の長、ヴォータンの意思でもありました。

 

 

ブリュンヒルデの自己犠牲と、最初から指環をラインの乙女に返すことを主張していたローゲの炎と、本来の指環の所有者であるラインの水によりすべての呪い、呪縛が浄化されていきます。    

そしてラインの乙女が指環を迎えようとしたその瞬間、ハーゲンは身を躍らせてラインに飛び込み叫びます。

H: 「指環に触れるな!」

これがこの壮大な物語の最後のセリフです。  さて、このセリフをどう解するべきか??  参考までにト書きを転載してみましょう。

 

見れば、3人のラインの乙女たちが波間を泳ぎまわっている。
今しも、彼女たちの姿は積薪の上あたりにある。
さきにジークフリートの屍体の腕に威嚇されて以来、
ブリュンヒルデをじっと見守っていたハーゲンは、ラインの乙女たちの出現に大いに狼狽し、
槍も兜も投げ捨てて、狂ったように水中に身を躍らせる。

彼はわめく。
「指環に触れるな!」

ヴォークリンデとヴェルグンデはハーゲンの首に腕を回し、泳ぎながら水底に引きずりこむ。
やや離れて泳いでいたフロースヒルデが高々と腕をさしあげる。
その手には指環が光っている。

KiKi は長いことずっとこのハーゲンの最後のセリフは欲にとらわれたままこの期に及んでジタバタしている業突く張りの最後のあがきだと思っていました。  でも、最近になってちょっと見解が変わってきました。  彼は槍も兜も投げ捨てて、狂ったように水中に身を躍らせたのです。  他の持てるものを投げ捨ててまで力の指環に囚われ続けた悪役というのがかつての読み方です。  でも最近は・・・・。  最後のこの瞬間、ハーゲンはその指環を何が何でも入手して権勢を手に入れたいと思ったのではなく、指環の申し子たる自分、指環を知る最後の者たる自分と指環を一緒に葬ろうとしたのではないかと思うのです。

振り返ればこの指環争奪戦は「力」に囚われた2人の業突く張りの意地の張り合いから始まりました。  その力は「愛を諦めること」により得られる力でした。  2人の業突く張りの片方は「愛を諦めないまま」力を欲しました。  もう片方は「愛を諦めて」力を欲しました。  相反する行動をとったはずの2人でしたが結果として、2人は次の世代に問題を先送りするしかできませんでした。  ところがこうしてこの世に生み出された次の世代、ジークフリートとハーゲンはどちらも愛を知らずに育つしかありませんでした。  そして今、指環はラインに帰ろうとしている・・・・。  しかも「火」と「水」と「至高の愛」に浄化されながら・・・・。

指環は、否、ラインの黄金は無限の富と絶大な権力を約束する存在だったからこそ、ラインの河底に封印されていました。  その禁断の果実に手を触れてしまったのはニーベルング族のハーゲンの父たるアルベリヒでした。  もし又誰かがアルベリヒと同じ事をしてしまったら、無限の富と絶大なる権力を欲し愛を諦めて別の、たとえばネックレスのような環っかに作り変えてしまったら、又同じことが始まってしまう・・・・。  最初は最後。  最後は最初。  だから、ハーゲンはわめいたのではないかと。

もう、誰も指環には触れるな!

と。  そしてそれがこのオペラを観ている私たちへのメッセージだったのではないかと。  そんな風に感じるのです。

ワーグナーはこのオペラのラストシーンに2つの歌詞を用意しました。  しかしどちらの歌詞にも曲をつけることをしませんでした。  彼が選んだのはその2つのどちらでもなく、「指環に触れるな!」だったのです。  彼が捨てたものに「指環に触れるな!」以上のメッセージがあるとは思えません。  だからこのエントリーでもその2つをご紹介するのは控えたいと思います。  (この2つに興味がある方はこちらをどうぞ。)
  
「指環」はもう2度と他の誰の名前も冠してはいけないのです。  「大和民族の指環」になってもいけないし「ヤンキーの指環」になってもいけないのです。  この過ちは「ニーベルングの指環」で終わりにしよう・・・・。  私たちはラインの河底に「ニーベルングの指環 - 浄化済」のままそっとしておくのが1番なのです。  ワーグナーはそう告げているような気がします。  

 

  

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このページは、KiKi (Brunnhilde)が2006年7月24日 21:07に書いたブログ記事です。

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