永遠の命と限りある命 その1

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さて、今日のお題は「永遠の命と限りある命」です。

「ニーベルングの指環」に出てくる神々は「永遠の神々」と呼ばれています。  でも彼らは生まれついて永遠であったわけではありません。  彼らを永遠たらしめているもの、それは豊穣の女神フライアが育てている「黄金のりんご」です。  限りある命のものにとって永遠は憧れです。  私たち人間は限りある命しか与えられていません。  そして人は永遠に憧れます。  だからこそ多くの神話・宗教の中で人は「死」をどう受け止めるべきなのかを考えました。  そして「この世」「あの世」という2つの別次元の世界を考え出してみたり、「輪廻転生」という環っかを考え出してみたり、「肉体」と「魂」という2つの別物を考え出してみたりしてきました。  でも、よ~く考えてみると永遠というのは案外恐ろしいものなのかもしれません。

「ニーベルングの指環」ではまず巨人族が神々の永遠に嫉妬し、これを奪おうとします。  巨人族の兄弟ファゾルトとファフナーが「ヴァルハラ城建築請負契約」の対価として要求したのは女神フライアでした。  でも、実はこの2人、フライアに対する認識の仕方が異なっています。  実直で「契約≒信義」にそれなりの価値を認めている兄ファゾルトは純粋に美しい女神フライアに対する「愛」から彼女を欲しています。  対する弟ファフナーには違う目的がありました。

 

「フライアをいただいたところで、俺たちにはたいした役には立たん。
 だが、肝心なのは、神々からあいつを連れ去ることだ。
 黄金のリンゴがあの女の庭になっている。
 その手入れの仕方を知っているのは彼女だけだ。
 その実を食べるおかげで、彼女の一族は永遠の若さを授かっているのだ。
 つまり、フライアを手放す羽目になれば、連中は弱って青ざめ、
 盛りのときは過ぎて、老いさらばえていくってわけだ。
 だから、あいつをかっさらっていくのさ!」

 

この時点でファフナーが神々から労働の対価として奪いたかったもの。  それは「愛」でも「富」でも「力」でもなく「永遠」でした。

 

 

対する神々は持てる者の哀しさ、フライアの黄金のリンゴによって永遠を手にしていることをフライアが連れ去られてしまうまで、すっかり忘れています。  これがきっかけで神々の長・ヴォータンは巨人族のパシリとしてニーベルハイムにおりていくことになるわけです。  彼らが何よりも大切にしている「契約」による「ヴァルハラ城建築代金支払い」の原資を得るために・・・・。  そして強盗と化す神々の長。  そこには信義も愛もあったものじゃありません。  (もっともヴォータンはそれが正義;こそ泥が奪ったものを取り返して何が悪い、だと信じ込もうとしているみたいですが・・・・。)  さてヴォータンが「指環」を差し出せとアルベリヒに迫ったときアルベリヒはこんなことを言っています。

 

「破廉恥な悪計!  言語道断のいかさま!
 悪辣なやつめ、自分がやりたくてしょうがなかった悪事を、
 この俺がやったと言って責めるのか?

 (中略)

 ニーベルングのこの俺が、恥にまみれ、憤怒に身を焦がしながら、
 やっとの思いでものにした恐るべき秘法をものにしたことも、お前にとっては好都合、
 その魔術の賜物は、まんまと貴様の手に落ちるとな!

 (中略)

 用心するがよい、高慢な神よ!
 俺が非道なことをしたとしても、それは俺一身のこと、罰は俺の上に降りかかるだけだ。
 だが、神であるお前が、今俺から指環を取れば、
 過去・現在・未来にわたって、
 ありとあらゆるものに対して
非道を行うことになるのだ!」

 

指環に魅せられているヴォータンはアルベリヒの言葉に聞く耳持たず・・・・ですが、これはかなり鋭い指摘だと KiKi は思います。  永遠の本質はこれだと思うのです。  
 
だからこそワーグナーは「さまよえるオランダ人」で永遠をさすらっているオランダ人船長がひたすら「安息」を求めている姿を描きました。  永遠とは実体のないものです。  永遠とは不在と同義です。  自分だけが存在し、周りはどんどん変わっていく世界を想像してみて下さい。  周りは誰もあなたの存在を認識してくれません。  いえ、一時的には認識してくれるでしょう。  でも、ある時に彼が言ったこと、したことを認識してくれた周囲の者たちはいずれ消え去ります。  そして新たな世代がその世代が生きる時代のあなたを認識してくれますが、あなたが過去に生きて何をしたのか、未来に生きて何をするのかの目撃者にはなってくれません。  残されるのは彼がなした行動の結果(≒現象)だけです。  永遠は果てしない喪失と果てしない不在を認識するだけの観念です。  永遠の存在を永遠に認識し続けてくれる相棒がいない限り・・・・。  永遠の虚しさは映画「インタビュー・ウィズ・ヴァンパイア」のレスタトとルイが私たちに伝えてくれます。

さて、そんな永遠を神々の長・ヴォータンは自らの意思で放棄します。  (このエントリーを参照)  彼は自分が永遠である限り、自分が犯した「指環の力の前に屈服した価値観」が救えないことを認識しています。  もはやリセットしかこの世界を救う道はないことを・・・・。  アルベリヒはこの物語冒頭でそれを看破しています。  アルベリヒは「限りある命」の者です。

もう1人、この物語の中でそれを見破っていた人がいます。  それがローゲです。  彼は言います。

 

「我と我が終末に向かって急ぐ者たち、
 世界の永久の存続を信じ込んでいる輩。
 この先もあの手合いとやっていくのは、俺の恥と言うものだ。
 揺らめく焔に又変身したい気が、むらむらと湧いてきたぞ。
 先の見えない連中と一蓮托生に消えてしまうよりは、
 いっそ、俺を服従させたやつらを焼き尽くしてやったほうが面白かろう、
 たとえあいつらが、いかに神々しき神様であろうとな・・・・。
 どうだ、この思いつき、まんざら捨てたものではなさそうだ!
 ふむ、とくと考えるとしよう。
 俺がこれから何をやらかすか、
 ま、わかる人にしかわかるまいて。」

 

彼は唯一、「ニーベルングの指環」をラインに返すことを主張していた人物です。  彼には見えていたのです。  アルベリヒの苦し紛れの叫びの中の真実が・・・・。  ここでヴォータンが犯した過ちが過去・現在・未来にわたって、ありとあらゆるものに対して非道を行うことになることが。  そしてそれを食い止めるためには永遠の神々が限りある者になるしかないこと(「神々の黄昏」)が。  では永遠の神々を限りある者にするのは何か??  彼はそこで自分の火が役に立つことを予言します。


その2へ続く

 

 

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