ブリュンヒルデが命を懸けてまで守ろうとしたもの その1

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昨日「ワーグナーが捨てた歌詞」のエントリーにゲストさんからコメント*を頂戴しました。  今日のお題はその中からいただきたいと思います。  「ブリュンヒルデが命に代えてまでして守ろうとしたものは何だったのか?」です。

この件に関する KiKi の見解はこちらのエントリーや返信コメント**にざっとは書いてあるのですが、今一度独立したエントリーとして整理してみたいと思います。

* **  コメントを頂戴したり KiKi の返信コメントが掲載されているのは「落ちこぼれ会計人の裏ブログ(ゆびわの僕)で、本ブログにはそれらのコメントは移行していません。

このなが~い(長すぎる?)楽劇を鑑賞している間に私たちはともすると忘れがちなのですが、この物語は楽劇が長いのと同時に舞台で起こっている出来事も気が遠くなるほど長いお話なんですよね~。  5年、10年の間に起こっている出来事ではありません。  アルベリヒ(ニーベルング族)の寿命やジークフリートの寿命がどのくらいなのか、私たち人間と同じぐらいと考えていいのか、もっと長いと考えるべきなのかもよくわかりません。  何せ、神話の世界です。  このことは映画「ロード・オブ・ザ・リング」のアラゴルンが実は80歳を超えていることをご存知であれば容易に想像がつくと思います。  さて、そのなが~い時間の間にこの出来事が起こったわけですが、もう1つ私たちが忘れがちなのは、すべてのいきさつを見て、知っている人がこの登場人物たちの中に何人いるのか?です。

ヴォータンは永遠の存在(最後は滅びちゃうけれど)ですし、この「力の指環争奪戦」の当事者ですから当然観客の私たちと同様、すべてのできごとを見ています。  彼には有能なスパイ、2羽のカラスもいますから、彼が舞台に姿を現さないときも常に彼の目は、耳は、この世界で起こっていることを捉えています。  対するもう一方の当事者、アルベリヒも死して尚夢魔になっちゃうぐらいですから、ヴォータンとほぼ同じものを見ていると考えていいでしょう。  (但し、アルベリヒにはヴォータンの心情まではわかりません。)  そして、ハーゲンはアルベリヒから夜な夜な色々なこと(アルベリヒが知っていること)を吹き込まれているのですから、当然アルベリヒと同じだけの情報を持っていると考えられます。

さて、この「力の指環争奪戦」はヴォータン vs. アルベリヒの直接対決(?)では決着がつかず、次の世代に持ち越されました。  構図としては、

 

ほぼ全てを知るハーゲン

 vs. 

無知・無教養のジークフリート & 
元戦乙女 & 神々の長の娘 ブリュンヒルデ 連合軍

 

です。  ところがここにワーグナーさんは罠をしかけました。

 

まず、ブリュンヒルデです。  彼女はかつては神々の長、ヴォータンの娘であり、智の女神エルダの娘でもあり、さらにはヴォータンの心を誰よりもよく知る人物でした。  「ジークムントに死を」という結論を彼女に告げる際、ヴォータンはこれまでに起こった全てのこと、そして自分の苦悩の全てを自分の半身でもあるブリュンヒルデに告白します。  「お前に話すということは、すなわち自分に話すことだからな。」とつぶやきながら・・・・。  ブリュンヒルデは「ラインの黄金」の時代にはまだ生まれていませんでした。  でも、このヴォータンの告白により彼女はヴォータンが知っていることを全て受け継ぎました。

そして、彼女はヴォータンの「ジークムントに死を」という命令を破り、その罰として岩山で炎に包まれて眠ります。  次に彼女が目覚めるのは「ジークフリート」の最後、ヴェルズングの英雄のキスにより起こされる時です。  つまり彼女の知識・情報・知恵は岩山で眠っている間は閉ざされています。  そしてこの間、行動しているのはジークフリートです。

さて宿命の2人が結ばれます。  このとき、ブリュンヒルデは彼女の持つすべての知識・情報・知恵をジークフリートに与えます。  現代人の私たちの感覚では師が弟子に知識・情報・知恵を授けたからと言って師のそれらが空っぽになる・・・・なんていうことは想像もつきませんが、この物語では・・・・・。

B: 「ただひとつの気がかりは、この私では、
   充分にあなたに報いることができなかったということ。
   神々から受けたものを、私はあなたにあげました。
   それは、ルーネ文字の豊かな宝です。

  (中略)

   知恵は尽きながら、望みは溢れ、
   愛に満ちながら、力は底をついてしまった。
   何も惜しみはしない、でも与えるものはもはやないこの私を、
    どうか軽蔑なさらないで!」

J: 「あんなに多くのことを教えてもらったのに
   まだ無知でいる俺を許してくれ。」

B: 「神の領分である聖なる雲の上の世界から、愚かな1人の女として、私は抜け出してきた。
   そういう私にはあたなの話はさっぱりわからないわ。
   おかしなたわごとにしか聞こえないの。

B: 「ヴァルハラの悦楽よりも、永遠の神の誉れよりも、私に大切なのが、この指環。
   この輝く黄金を一瞬見るだけで、
   この聖なる輝きが一閃するだけで、神々の永久の悦楽は
   私にとってむなしいものになる。
   ここにはジークフリートの愛が、至福の光として輝いています!
   ジークフリートの愛が!」


B: 「どんな妖魔の企みなの?  
   どんな魔力が働いて、こんなことになったの?
   このもつれを解く私の知恵は、どこにいってしまったの?
   この謎を解くルーネの力は、どこにきえてしまったのだろう?
   ああ、何と言う悲しみ!
   私の知恵はすべてあの人にあげてしまった。

 

ブリュンヒルデは本来、ジークフリートから「愛の証」として捧げられた指環が「ニーベルングの指環」であることを知っていた(もしくは気づかなければならなかった)はずなのです。  なぜなら彼女はそれがヴォータンの悲願であることを知っていたはずだし、指環にまつわるアルベリヒとの争奪戦のことや、ジークフリートがその争奪戦の継承者として生み落とされた英雄であることを知っていたはずだからです。  でも、彼女は眠っている間に起こったことやヴォータンの心境の変化などは知りません。  だから、指環を捨てるかどうかはともかくとして、それは「愛の証」なんかじゃなく(ジークフリートがそういう価値を与えたのならそれもいいけれど)、「力の指環」であることに気がつくべきだったのです。  ところが彼女は目覚めるとすぐに、すべての知識・情報・知恵をジークフリートに与えてしまいました。  (← これ、指環を受け取る前です。)  彼女の頭はもはや空っぽ状態です。  ブリュンヒルデはジークフリートによって肉体的には目を覚ましましたが、彼女の知恵は「愛すべき可愛い無鉄砲なお馬鹿さん」の頭の中で眠ったままなのです。  そして、ジークフリートは?と言えば、ジークフリート本人が言っています。  「あんなに多くのことを教えてもらったのにまだ無知でいる俺を許してくれ。」と。


(その2に続く)

 

 

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このページは、KiKi (Brunnhilde)が2006年8月13日 16:42に書いたブログ記事です。

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