ブリュンヒルデが命を懸けてまで守ろうとしたもの その2

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さて、知識・情報・知恵を授けられたにも関わらず、宝の持ち腐れ状態でいる「愛すべき可愛い無鉄砲なお馬鹿さん」はギービヒ家で変てこな飲み物を飲まされ、ブリュンヒルデを忘れ、彼女をグンターの花嫁にと岩山から連れ帰るのに奮闘し、ギービヒ家の皆さんと楽しい狩にお出かけです。  いつの時代も英雄の冒険譚というヤツは人の心を惹き付けます。  「ミーメという小人がいて・・・・。」  英雄のくせに狩ひとつ満足にできない「愛すべき可愛い無鉄砲なお馬鹿さん」は面目躍如とばかりに意気揚々と体験談を語り始めます。  そして、ジークフリートがファフナーの欲望の洞窟から「指環」と「隠れ頭巾」を強奪したくだりまで話が進みます。

 

H: 「まあまあ、英雄にここでこの盃をとってもらおう。
   これは霊力を仕込んだ酒。
   これを飲めば、とっくの昔に忘れた思い出が
     よみがえってくる。

 

ジークフリートは思い出しました。  ブリュンヒルデのことを。  でも、思い出したのはそれだけではありませんでした。  ブリュンヒルデから教えられたことすべてを。  「昔々、ラインの底に黄金があったとさ」から始まり「ジークムントは死んだのさ」「ジークリンデはジークフリートを生んだのさ」「ヴォータンはブリュンヒルデをジークフリートに予定したのさ」 etc. etc. etc.・・・・・・

ハーゲンの「思い出し薬」を飲んだ後の彼の力強い歌唱は歌っている歌詞の内容以上に、多くのことを思い出している、そして理解し始めている過程だと KiKi は思います。  そして、ブリュンヒルデと結ばれたいきさつを語り、驚く衆目の中ハーゲンの槍で背中を貫かれるジークフリート。  彼はもちろんこの時に急所に受けた傷により絶命することになるわけですが、無念に死んでいったわけではないと思います。  彼はこの瞬間に全てを理解するのです。  自分はグンターと義兄弟の契りを交わしたけれど、その契りはブリュンヒルデへの裏切りだったこと。  実はブリュンヒルデと結婚しているにも関わらずグンターと義兄弟の契りを交わしたということは、グンターに対する裏切りでもあったということ。  ハーゲンの槍に自分の潔白を誓った以上この死は必然であること・・・を。  だからこそ、ブリュンヒルデは後に歌うのです。  「彼ほど誓いや契りに誠実だった人はいない。  でも同時に彼ほどすべての誓い、契り、至高の愛を無残に破ってしまった人もいない」と。  

そしてジークフリートは契約・盟約の神聖さを破壊したのが他ならぬ自分のノートゥングだったことも思い出します。  更には自分が何のためにこの世に生み出され、本来なら何をしなければいけなかったのかも。  死は彼にとってもはや避けられない宿命だったのです。  全てを理解し、全てを受け入れての死だったからこそ、彼の死は「英雄の死」たりえるのです。  そうでなければ「ただのお馬鹿の死」です。

 

 

そして彼は絶命寸前にブリュンヒルデに遺言を残します。  この歌い出しの前の音楽、ここ、大事なポイント その1です。

「ブリュンヒルデ、気高い花嫁よ!
 目覚めよ! 目を開け!
 誰が君を再び眠らせ、まどろみの呪縛をかけたのだ?
 君を目覚めさせる男が来たのだ。
 そして接吻で眠りをさまし、花嫁のくびきから解き放つと、
 ブリュンヒルデの喜びが微笑みかけてくる。
 ああ、いま永久に見開かれたその目!  
 ああ、その息の妙なるかぐわしさ!
 甘美なる消滅よ!  喜ばしき戦慄よ!
 ブリュンヒルデがおれを迎えてくれる!

これはこのエントリーにも書いたように、ブリュンヒルデへの愛の告白であるのと同時に遺言です。  ジークフリートは至高の愛を誓いながらブリュンヒルデに、自分が彼女から与えられた知恵に呼びかけます。  目覚めよ!  もう1度知恵を働かせろ!  目を見開いて事の本質を知らなければならない・・・・と。  そして彼は自分の屍と対面したときブリュンヒルデが自分に与えてくれたものをもう1度取り戻してくれることを、そこには+α の情報、ジークフリートのみが知る情報も含めてすべてを取り戻してくれることを念じ、彼女がすべての決着をつけてくれることを信じて死んでいったのだと思います。  何故なら2人は1人だからです。

さて、ジークフリートの亡骸がギービヒ家に運び込まれた後、ブリュンヒルデが最初に舞台に出てきたときの歌。  ここが大事なポイント その2です。

 

「やめなさい、泣きわめくのは!
 
 (中略)

 子供が母親に甘い乳をこぼして泣くような声は聞こえたけれど
 私にはまだ聞こえない。  最も気高い英雄にふさわしい嘆きの声は」

 

彼女はジークフリートの遺言(最後の嘆きの声)を聞き取りたい、知らなければならないと思っています。  そして、嘆き叫ぶグートルーネを「単なる彼の愛人」とあっさり切り捨て、ようやくその場が静かになると、彼女はじっとジークフリートの亡骸を見つめます。  ここで流れる音楽はあの大事なポイント その1の音楽です。  つまり彼女はここで「最も気高い英雄にふさわしい嘆きの声」に耳をすませているんだと思うんですよね。  そんな彼女の耳にジークフリートの遺言が聞こえてきます。  「目覚めよ!  目を開け!  君を目覚めさせる男だぞ!」・・・・と。  

こうして彼女はようやく本当の意味で目覚めます。  ジークフリートが死の間際にすべてを受け入れブリュンヒルデとの至高の結びつきを信じ、そんな合一の存在である自分に後を託して、堂々と死んでいったことを悟るのです。  だから神々に向かって宣言します。  「あの人は、世にも勇敢な行為によって、あなたの望みを成就したのだ」と。  彼は私を裏切ったけれど、それは私にこうやって私が授けた知恵+αの知恵を残すためだったのだと・・・・。

そして彼女のラストのセリフ。  

「ジークフリート!  ジークフリート!  ご覧ください。
 あなたの妻が、今こそお迎えに!

これはジークフリートの最後の歌「ブリュンヒルデがおれを迎えてくれる!」と対になっています。  


さて、結論です。

ブリュンヒルデが命を懸けてまで守ろうとしたもの。  それは「ジークフリートの遺志」だと KiKi は思います。  そして全てを知り、全てを理解し、全てを受け入れたジークフリートの遺志は、ヴォータンの最後の悲願でもありました。

ヴァルトラウテに指環を捨てるように頼まれた時、ブリュンヒルデは「ヴァルハラなんか知ったこっちゃない!」と彼女を追い返します。  でも、この「ブリュンヒルデの自己犠牲」の時の彼女は「ヴァルハラなんか知ったこっちゃない」とは思っていません。  

「あなたに何をしてさしあげればいいのかわかりました。  どうぞ静かにお休みなさい、神よ。  これがジークフリートの遺志です。  彼に代わって彼の最愛の妻、彼と2人で1人の妻たる私が『恐ろしい指環』を元のあるべきがままの状態に戻します。  それと同時に永遠の神々の終焉、ヴァルハラを焼き尽くすための火を点じましょう。」

2人の知恵が合わさって、2人が本当の意味で2人で1つのことを成し遂げたとき、ジークフリートとブリュンヒルデは永遠の愛を手に入れたのだと思います。

 

 

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このページは、KiKi (Brunnhilde)が2006年8月14日 17:00に書いたブログ記事です。

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