赤ちゃんはトップレディがお好き

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赤ちゃんはトップレディがお好き
1987年 アメリカ 監督:チャールズ・シャイアー

51HwYbi8ioL__SL500_AA240_.jpg  (Amazon)

ニューヨク、マンハッタン。  J.C. ワイアット(通称タイガーレディ)はイェール大学を
トップで卒業し、ハーバード大学で経営修士号を取得、一流企業で働き、仕事に生活のすべてを
注ぐバリバリのキャリア・ウーマン。  そのタイガーレディのもとに遠い親戚から思いがけぬ
遺産が舞い込んできた。  だがその遺産は、大金ではなく、なんと13ヶ月のかわいい
赤ちゃん!  重役ポスト目前の大事な時に、慣れない育児に振り回され、恋人には逃げられる
は、部下に仕事を横取りされるは・・・とふんだりけったり。  果たしてタイガーレディは
この危機をどう乗り切るのか・・・・。

この映画は KiKi の大好きなコメディの1本です。  まだ学生だった頃、レンタルビデオ店でたまたま見つけ、ダイアン・キートンの主演というだけであまり期待せずに借り、1回観たらとっても気に入り、レンタル期間内に2~3回続けて観て、しまいには Video Library の1本にしようとセル・ビデオを購入。  その後、折にふれちょっと落ち込んだときや、忙しい生活の中でストレスを感じたときなどに繰り返し観ていました。  ところが数年前、ビデオデッキの故障により HDD 付き DVD Recorder を購入したのを機にそのビデオを処分(再生機がないのにソフトだけあっても仕方ないので)。  こんな映画があったことをすっかり忘れかけていたところ、つい最近 HMV でこの DVD を発見しました。  懐かしさとともに思わず手にとって、そのままレジへ直行しました。  

邦題「赤ちゃんはトップレディがお好き」はちょっといただけないけれど、作品自体はよくまとまっている良質のコメディ & サクセスストーリーだと思います。

物語の登場人物の1人 J.C. が勤務するコンサルティング・ファームの社長フリッツが J.C. に重役ポストを打診する際に「常日頃私は君のことを女だとは思っていない。  でも、この場合女性重役という言葉が気になる。  ・・・・  いろいろ犠牲を強いられる。  男はバリバリ仕事をしながら家庭を持てる。 ・・・・  男は恵まれている。  すべてを持てるわけだ。」と言うのに対し、「ご心配なく。  全てなんていらないわ。」と返答していた J.C. が物語の最後で「覚えてる?  フリッツ。  あの夜言ったわよね。  キャリアウーマンになるためには犠牲を覚悟しろと。  私は犠牲など払いたくないわ。  払う必要もないのよ。」と言うようになる。  初めてこの映画を観たとき(つまり学生時代)、そんな彼女の変化に清々しいものを感じるのと同時に、自分の中にあるある種の迷いに対する答えを得たような気持ちになったことを今でもよく覚えています。

 

 

あの若かりし頃、KiKi 自身もどちらかと言うと家庭に収まって主婦の仕事だけに満足できるタイプの人間ではないという自覚があり、けれども当時は今に比べるとまだまだ社会では男尊女卑の傾向が強い時代で、自分の将来が思うように思い描けずちょっと悶々としていました。  (何せ就職試験の面接で「あなたはバリバリ仕事をするキャリア志向の人間ですか?  それとも数年勤めたら家庭に入りたいと考えるタイプの人間ですか?」なんていう質問が大手を振るっていた時代なのです。)  そんな時代背景の中で、KiKi はこれから社会に出て行くにあたり、自分はどんな道を歩んでいけばいいのか、女性が仕事を続けていくというのはどういうことなのか、ただひたすら想像の世界の中で模索している時期でした。  そんな時にこの映画を観て KiKi が感じたのは、例えば上記のような質問に対する正しい(?)答えは「そんなことはわかりません。  今はとにかく社会に出て自分に何ができるのか、どんな貢献ができるのか、それを考えながら今自分にできることをやってみて、まずは自分の足で立ってみるだけとしかお返事のしようがありません。  でも、数年経ったら、仕事よりも大切にしたいと思えるものが出てくるかもしれないし、逆に仕事が面白くて仕方ないかもしれません。  その時その時、自分なりに今何をしたいのかを真正面から考え、その時目の前にある選択肢の中から自分が後悔しないと思えるだろう何かを選ぶだけだと思います。」というものなんじゃないかと思いました。  で、実際、面接の際にそう答えたりしたのですが、まあ、それはさておき・・・・。

映画のストーリーは至ってシンプル。  育児・家庭というようなものは自分の人生設計の中に入れず、仕事に生き甲斐もとめていた J.C. にある日突然、ほとんど交流のない姻戚から思いがけない遺産が舞い込んできます。  100万ドルかと思えば、さにあらず。  それは生後13ヶ月の可愛い赤ちゃん(エリザベス)でした。  否応なくこの赤ちゃんを引き取らざるをえなくってしまった J.C. でしたが、たまたまその日は大事なクライアントとのランチ・ミーティングの約束のある日でした。  約束のレストランに引き取ったばかりのエリザベスを抱えて(決して抱いてではない)飛び込む J.C.。  荷物さながら、エリザベスをクロークに預けたり、その後オムツを買うためにスーパーの野菜売り場の秤でエリザベスの体重を量ったり、まだ離乳食だって食べられるかどうか怪しい彼女の食事ににスパゲッティを用意したり・・・・。  紙オムツ1つさえ満足に扱えないドタバタぶりが、颯爽としたキャリアウーマンの姿との対比でコミカルに描かれます。

およそ子育てには向かなさそうな彼女は早速養子縁組の手続をとり始めます。  ところが、ようやく見つかった里親にどうしても納得のいかない J.C. はエリザベスを自分で育てることを決心します。  その時彼女がエリザベスに向かって言うセリフが何ともいい!  「あまり期待しないでよ!」  こうして今度こそ本当にエリザベスを引き取った J.C. でしたが彼女の同棲相手(投資銀行のバリバリ・キャリアらしい)はそんな彼女の変化にはついていけず、共同所有のマンションから出て行ってしまいます。

エリザベスを引き取ったはいいものの、男には逃げられちゃったし、根が主婦タイプではない J.C. はひとまず仕事と育児の両立のためにまずは子守りを雇うことにします。  この子守りにまつわるお話も結構笑えます。  最初はそれで何とか乗り切れるだろうと考えていたのですが、育児は J.C. の予想以上の大仕事でした。  ダメダメ・俄かママの J.C. がエリザベスとの生活の中で少しずつ母性に目覚め、それでも頑張って仕事を続ける姿は微笑ましくもあり、涙ぐましくもあり・・・・。  そうそう、J.C. の場合何せ重役候補生というキャリア・ウーマンの中のキャリア・ウーマンなだけに、9時 - 5時のオフィス定着型一般 OL とは厳しさの点で比較になりません。  (もちろんそんな一般 OL にとっても子育てと仕事の両立はとてつもない大プロジェクトですが・・・・。)  根が頑張り屋の彼女のこと、彼女なりに精一杯持てる限りの力を尽くし育児と仕事の両立にチャレンジするのですが、そこにはやはり限界がありました。

こうして、部下に仕事を取られ、重役ポストも白紙に戻ってしまった時、彼女は押さえきれない自尊心と拭い去れない屈辱感から会社を辞めて、NY を離れ、エリザベスと2人素朴な田舎暮らしを始めることにします。  まあねえ、気持ちは分からなくはないけれど、フリッツも言っていたようにそこで考え方を変えてちょっと楽なお仕事を続けて、子供との時間も大切にするという選択肢もあったとは思うんだけど・・・。  別にクビになったわけじゃなし。  いきなり田舎に引っ込んじゃうという選択にはちょっとビックリです。  それとも減俸されてそのままでは物価の高い NY での生活(子守りを雇ったり、その後の教育費とか)が成り立たなかったのかな??  そういうことにしておきましょう。  でも、無職だと貯金食いつぶし生活だからねぇ・・・・。  世の中金が全てではないけれど、なければないで生活できないわけで・・・・。  だから、KiKi もできればもう「ビジネスの世界」からは足を洗いたいけれど、それなりに何か仕事をしなくちゃいけないわけで・・・・。

ところがその田舎に購入した家がとんでもない代物でした。  家を買うのに下見にさえ行かず、まるでストッキングでも買うかのように広告だけを見て電話1本で・・・なんていうのは、MBA ホルダーともあろうものがあまりにも軽率だとは思うけれど、そうやって入手した家はまず暖房が壊れ、次に屋根がいかれ、さらには井戸が枯れて水源を失い・・・・・と普通に生活していく以上に貯金を食いつぶしていく羽目に。  自分のした選択に後悔し始める J.C.。  本当だったら自分は NY の高層ビルのコーナー・オフィスで、部下を使い大企業の社長に直接電話をかけ、颯爽としているはずだったのに・・・・。

さて、そんな J.C. に転機が訪れます。  自宅の果樹園で鈴生りのりんごからエリザベスのために離乳食を作っていた J.C. でしたが、在庫が増えすぎて置き場にも困るようになり、たまたまそれを持ち込んだ地元の商店(決してスーパーではない)に、これまたたまたま立ち寄った都会からの観光客が訪れ、彼女のその離乳食を絶賛したのです。  彼らとの会話から J.C. のビジネス・センスがムクムクと顔をもたげ始めます。  今でこそ田舎で腐っているしがないシングル・マザーだけど、彼女の本質は超がつくほど有能な経営コンサルタント。  ベビー・フードの世界にビジネス・チャンスを見出した J.C. は早速地元の図書館に駆け込み、マーケティング・リサーチを始めます。  Fortune 誌(アメリカのビジネス雑誌) Top 20 クライアント(だったかな?)を担当していた彼女の手にかかれば、未だ手つかずの分野でのビジネス・モデルの構築なんてお手のものです。

こうして彼女のハンドメイドの離乳食「カントリー・ベイビー」はすごい勢いで売れ始めます。  まあ、その過程で田舎の獣医さんとのラブ・ロマンスがあったり、ビジネス以外での展開もいろいろあって物語はクライマックスへ。  そうそう、このビジネス・サクセスの過程で彼女が電話を顎に挟みながらエリザベスのオムツを替えるシーンがあるのですが、それはそれは堂に入ったものでした。  かつて紙オムツ1つさえ満足に扱えなかった J.C. が仕事の話をしながらテキパキとオムツを替えられるまでに成長しているのを見て、何とも微笑ましい気分になります。

さて、そうこうしているうちに嘗て J.C. が勤務していたコンサルティング・ファーム経由でアメリカ最大手の食品会社が J.C. の「カントリー・ベイビー」を買収したいという申し出が飛び込んできます。  貯金食いつぶし生活から足を洗ってビジネスの世界に舞い戻りたい一心でベビー・フードビジネスを推進してきた J.C. は大喜びで嘗ての職場を訪ねます。  M&A の世界で百戦錬磨だった J.C. を相手のオファーなだけにこの買収条件がこれまたとびきり豪華です。  フリッツじゃないけれど超リッチになれる条件でした。  会議の席でオファーの詳細を聞いた瞬間、J.C. は心の底から興奮し、「やった!  カムバックよ!」とガッツポーズ。

でも次の瞬間、彼女はふとこれまでのことを色々と思い出し、冷静になります。  この話を受けるということが何を意味するのかを・・・・。  エリザベスと暮らし始める前の J.C. であれば1も2もなく乗ったかもしれない素晴らしいオファーを自分の意思で選べる段階になって、彼女は「自分が今、どう生きていきたい」と考えているのかを見つめなおします。  そして、彼女は思うのです。  自分が欲しかったのは今のこの手応え。  でもそれだけじゃない。  エリザベスやあの田舎町で出会った素敵な獣医さんとの穏やかな暮らしも手放すことはできない。  こうして、彼女はこの Review の冒頭でご紹介した名言を吐きます。

「覚えてる?  フリッツ。  あの夜言ったわよね。  キャリアウーマンになるためには犠牲を覚悟しろと。  私は犠牲など払いたくないわ。  払う必要もないのよ。」

今の彼女には仕事もエリザベスも新しい恋も全て必要なもの。  どれ1つとして手放すことはできない。  例えそれが使い切れないほどの大金と引き換えであっても・・・・。  しかも、彼女の根っこは超有能なキャリア・ウーマンなのです。  自分が立ち上げ自分が成功にまで導いてきたこのビジネス。  確かに大手の会社に買ってもらって膨大な資金力を背景に、既存の流通ルートに乗せればあっという間に全国ベースで市場を席巻できるかもしれない。  でも、そんなことは例え時間がかかろうが何であれ自分にだってきっとできる。  自分のビジネスであれば自分が思うようなスタイルで発展させることができるけれど、このビジネスをこの大手食品会社に売り渡してしまったら、自分の今のスタイルを保ち続けることができるかどうか・・・・・。  

嘗ての上司や大手食品会社の社長が口を揃えて彼女の翻意を促しますが、彼女はそれに答えて言います。  「・・・・、ノー」  その口調は彼女のあのどうしようもない家を修理に来た田舎の大工さんの口調そのままでした。  彼女はもはや「タイガーレディ」ではなく、でも田舎で燻っているダメダメ・シングルマザーでもありません。  嘗ての彼女のデスクは書類で埋もれていたけれど、今の彼女のデスクにはベビーベッドとおもちゃに埋もれ、時々そこから書類が顔を出します。  嘗ての彼女の住まいは無機質な、まるでショー・ルームといった風情だったけれど、今の彼女の住まいは生活臭にあふれ、その中心にいるのは母と子、そして恋人でした。

多くの赤ちゃんが出てくる映画では可愛らしい子供が目玉だったりするものですが、この作品の場合は確かにエリザベスも可愛いんだけど、最大のポイントはダイアン・キートンのキャリアウーマンぶりだと思います。  彼女の演じる J.C. は実に魅力的で見事に決まっています。  バリバリ働いているところはカッコイイし、赤ちゃんを抱えてオロオロするところはチャーミングだし、カムバックに向けて頑張っているところは凛々しいし、もともと大好きな女優さんだけどこの作品で惚れ直しました(笑)。  ストーリー自体には特に目新しい部分やヒネリがあるわけでもないのですが、笑えて、感動できて、観終わったあとに暖かいものがこみあげてくる、そんな映画だと思います。

 

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