北京ヴァイオリン

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北京ヴァイオリン
2002年 中国 監督・脚本:チェン・カイコー


51RH23QZPZL__SL500_AA240_.jpg  (Amazon)   

中国北部の田舎町で暮らす少年チュンは、ヴァイオリン演奏に天賦の才能があり、顔も知らない母の形見のヴァイオリンで人々の心を慰めていた。  父リウは貧しいながらも、なんとか息子の才能を開花させようと、チュンを連れて北京へと旅立つ。  だが貧しくコネもないためチュンはまともな教師に習うことすらできない。  やがて、昼夜を問わず働く父リウの努力の甲斐もあって、チュンは国際舞台へと羽ばたくための大きなチャンスをつかむ。  だがそれは愛する父との別れを意味していた・・・・。  巨匠チェン・カイコーが、大都会で生きる父と子の絆と、市井の人々の温かさを数々の名曲にのせて描いた感動作。  
  


少し前に購入したきり放ってあった中国映画「北京ヴァイオリン」を観ました。  まずは簡単なあらすじを公式サイトから拾ってみると・・・

豊かに水をたたえた美しい風景と、人々の素朴な温もりが残る中国の田舎町。  そこに息子を一流のヴァイオリニストにする事を夢見て全てを捧げる貧しい父と、父を愛しながらも顔も知らない母の面影を追い求める少年が住んでいた。  少年は母の形見のヴァイオリンを弾くのが得意だった。  二人はコンクールに出場するために北京へ行き、そこで著名な先生の個人指導を受ける事になり、北京で暮らし始める。  急激な変化を遂げる競争社会の大都会は、地方出身の少年の心に影を落としたが、少年が奏でるヴァイオリンの旋律は、彼に関わる人々の心を癒してゆく。  やがて少年は国際舞台に羽ばたく大きなチャンスをつかむが、それは愛する父との別れを意味していた。  そしてその時、少年の出生の秘密が明かされる。果たして少年が選択した道とは...?


実は KiKi は子供の頃「将来の夢はピアニスト」な~んて言っていた時代がありまして・・・。  で、実際この物語の少年同様田舎町から東京の音大の先生のところへ通ってレッスンを受ける・・・な~んていうことを経験していたことがありまして・・・。  もっともこの物語の親子のように田舎での生活を捨てて一家総出で東京に出てくるなんていう生活様式一変ドラスティック方式ではなく、静岡県の実家でそれまでと変わらない普通の生活を送りながら、1週間おきの週末に東海道新幹線に乗って KiKi 1人が東京に出てくるというパターンだったのですが・・・・。  それまで田舎でついていた先生にも引き続き毎週レッスンしてもらいながら、それに追加で東京の音大の先生のレッスンも受けるという生活を数年間送っていました。  そんな経験をしているだけに、音楽で身を立てるためにはそれ相応の時間とお金を使わなくちゃいけないっていうのはすっごくよく理解できるんですよね~。

KiKi の場合は静岡と東京の経済社会がこの映画ほど大きく異なる様相はしていなかったし、幸いなことに KiKi は国際コンクールを目指せるほどには才能に恵まれていなかったので、大都会の消費社会、お金がモノを言う貪欲な拝金主義、音楽界の熾烈な競争主義と正面から対峙しなくちゃいけないような局面はほとんどなかったのですが、恐らく当時の KiKi とこの映画の主人公・天才少年との共通点、それは音楽で成功しようとか音楽で身を立てるということには実は基本的に興味がない・・・というところ。  KiKi は確かに「将来の夢はピアニスト」なんて言っていたけれど、それは何が何でもピアニストになりたかったわけではなくて、学校やそこかしこで「将来の夢は何ですか?」と聞かれ、そんなことを聞かれても別に「これ」っていうものはなくて、でも何か夢が語れなくちゃいけないような気分になって、とりあえず自分にとって1番身近で興味があったのが「ピアノ」だったから「ピアニスト」と言ってみたのに過ぎなくて・・・・ ^^;  ただ単に音楽が好きで、楽器に向かっていると幸せで、他の事よりも夢中になることができて・・・・  でも、音楽以外のことに興味がないわけではなくて、普通の少年・少女なりに他にも興味のあることはいっぱいあって、思春期もあれば反抗期もあって ^^;

主人公の少年が楽譜の間に女性グラビアを挟み持っていたり、駅で出会っただけの女性、そして偶然に近所に住むことになった女性に淡い初恋のような感情を抱くストーリーを見ていて、何となく KiKi は親近感を覚えてしまいました。  実は KiKi がその東京の先生のレッスンを辞める(=音楽で身を立てるという選択肢を捨てる)決心をしたきっかけになったのはその先生の「音楽に一生身を捧げるのは素晴らしいことだと思いませんか?」という一言だったんですよね。  天邪鬼の KiKi がその言葉を聞いたときに思ったこと。  それは「音楽は大好きだしピアノも大好きだけど、一生涯、自分の全てを捧げるのはイヤだ!!  他の選択肢がなくなってしまうのもイヤだ!!」ということだったりしたわけで・・・・。  で、その時同時に思ってしまったのは「でもそれぐらいの覚悟がないんだったら、この先生のレッスン代を親に負担させちゃいけないんじゃないか」ということだったりもしたわけで・・・。  (って言うのもその先生の1レッスン代は田舎の先生の2か月分の月謝よりも高かったんです。  でもこれもその先生が特別高いわけじゃなくて、逆に安かったぐらいでそれは当たり前のことなんですが)  高いレッスン代+ 往復の新幹線代って決して裕福だったわけではない当時の KiKi の両親にしてみると結構な投資だったはずで、別にその先生が拝金主義の悪い先生だったわけではないけれど、KiKi は何となく感じてしまったのです。  「お金儲けとは対極にあると思っていた音楽の道も、お金とは無縁じゃないんだ・・・。」って。  で、結局資本主義の中で生きるんだったら、表面的にはそれとは無縁を装う世界ではなく、資本主義そのままの世界(=ビジネス社会)で生きるほうがややこしくなくていいんじゃないかしらって。

  

この映画はまず第一義に父子の絆の強さ、献身的な親の愛をユーモアを盛り込みながら描いた「感動のヒューマン・ドラマ」だと思うんですよね。  でも恐らく監督のチェン・カイコーが言いたかったことは市場経済が導入された転換期にある中国社会、そして資本主義によって訪れたパラダイム・シフトに対する問いかけなんじゃないかと思うんです。  「今の人は社会的に成功して物質的に豊かになることばかりを追い求めているけれど、それだけが人間の幸せなんだろうか?」みたいな・・・。  その舞台として選んだのがある意味で英才教育を前提としている音楽界だったのではないかと・・・。  しかもその表向き英才教育の裏ではしっかりとカネも動いている・・・。  物語の結末は一見、ヴァイオリンの天才少年が「音楽か父親か」の二者択一を迫られているように見えるのですが、KiKi は違うんじゃないかと思いました。  彼が選択を迫られたのは登場する二人の音楽教師の姿勢が物語る2つの音楽的価値観の選択だったんじゃないかと思うんです。  

一方の師チアン(主人公が北京で最初につく先生)は、知性も音楽に対する情熱も溢れんばかりに持っているのだけど、「お金がすべて」という風潮にはどうしてもなじめず、厭世的な生活をしながら野良猫を友に生活する人物。  この先生のスタンスは「音楽は教えてあげられるけれど、自分には社会的な後ろ盾がないから君を成功させてあげることはできないよ。」と言うもの。  もう一方の師ユイ教授は中国音楽界のスター育成システムを体現したような人物。  立派でこぎれいな家に住み、フレッシュジュースを愛飲し「テクニックは教えられるが、感情は教えられない。  音楽で大切なのは心だ」なんて言いながらも、実は自分の物質的な豊かさ・社会的成功のためなら子どもを利用することもいとわない冷たさを持つ欺瞞に満ちた俗物。  このかなり対照的な2つの価値観のうち、息子の成功を心から願う善良な父親は後者を選ぶけれど、肝心の天才少年はそこに居心地の悪さを感じている・・・・。  そんな印象を受けました。  これって現在のコンクール至上主義批判に通じるものがあるよなぁと。

でも、この映画って本当の意味での悪人は1人も出てこないんですよね~。  ユン教授だって別に悪人っていうわけじゃない。  主人公の少年が入れあげちゃうきれいなお姉さんだって、善良な一市民というわけではないけれど悪人じゃない。  かと言って善人っていうわけでもない。  ただ誰もが時代の転換期の中で必死に生きているだけ・・・。  時代の価値観と自分の価値観を摺り合わせながらもがいているだけ・・・。  そこに普遍的なものを見たような気がします。  そう、世の中勧善懲悪というほどシンプルじゃない。  

いずれにしろ、音楽界にほんのちょっとだけ足をつっこみかけたことのある KiKi にとってこの映画は過ぎ去りし日の自分の選択を彷彿とさせ、かなり感情移入できてしまった映画でした。  KiKi はこの少年ほど天才ではなかったから、今では単なるアマチュア音楽愛好家です。  でも、この少年は KiKi とは違う。  せっかく掴みかけた「成功への階段」を自ら一旦は手放してしまった彼の今後の人生はどうなっていくんだろう??  真の天才はそれでも花を咲かせていくんだろうか??

 

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