ローマ人の物語 ハンニバル戦記 塩野七生

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知力では優れていたギリシア人なのに、経済力に軍事力にハンニバルという稀代の名将までもっていたカルタゴ人なのに、なぜローマに敗れたのか。  それを、プロセスを一つ一つ追っていくことで考えていただければ、著者である私にとってはこれ以上の喜びはない。  この第Ⅱ巻(文庫 3・4・5)でとりあげる時代は第Ⅰ巻で述べたローマ人の築きあげたシステムが、その真価を問われる機会でもあったからである。 (文庫本_第3巻帯より)

紀元前218年の5月、29歳のハンニバルは、準備した全軍を率いてカルタヘーナを出発した。 (中略)  大軍を率い象まで連れてアルプスを越えたハンニバルこそ、その後の2,200年、歴史に興味を持たない人でも話には聴いている、有名な史実になった。  だが、彼は2,000年経った後でも拍手喝采されたいために、あの冒険を行ったのではない。 (中略)  なぜアルプス越えを強行したのか、という疑問が頭をもたげてくる。  (文庫本_第4巻帯より)

二人の武将は、左と右に分れて丘を降りた。  史上有名な「ザマの会戦」は、明朝を期して決行されることになったのである。  これは、カルタゴ対ローマ、五万対四万の会戦であることの他に、戦略戦術の上での師と弟子との、はじめての対決でもあった。 (中略)  「ザマの会戦」は、戦役の行方を決すると同時に、地中海世界全体の将来をも決する戦闘になるのである。  (文庫本_第5巻帯より)

 

   

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古代ローマ史の圧巻といえばやっぱりポエニ戦役ですよね~。  実は塩野七生さんが「ローマ人の物語」の執筆を始めたというニュースを聞いたとき、KiKi が一番楽しみにしていたのがこのローマ vs. カルタゴの戦いの物語。  象を連れてアルプス越えをしたハンニバルのお話を是非じっくりと読んでみたかったのです。  彼女じゃないけれど世界史の教科書(および参考書)ではあまりにもあっさりと通り過ぎてしまうこの世界史上の大事件、単行本で一冊丸々、文庫本にして三冊の物語がどんな風に紡がれるのか、興味深々でした。


いや~、圧巻でした。  地図やら布陣図やら図表がそこそこ盛り込まれているために、とってもわかりやすかったし、著者一流の筆致により、ナポレオンが尊敬していたと言われるハンニバルの人となりも、漠然とではあるもののわかってきたような気がしました。

とにかく冒頭が素晴らしいんですよ。  第一次ポエニ戦役がなぜ勃発したのかについて書き起こしている部分の説得力たるやものすごいものがあるんです。  もちろん KiKi も世界地図ぐらいは何度も見たことがあるし、世界史の授業を受けたときには山川出版の図録(年表とか地図がいっぱいの副読本?)を穴の開くほど眺めていたつもりだったけれど、彼女の以下のような記述に勝る状況判断が自力でできた例がないんですよね。

 

長靴を思わせるイタリア半島の「つま先」に、今にも触れそうな感じでシチリアがある。  イタリア本土とこのシチリア島をへだてる海峡は、シチリア最東端の都市メッシーナの名をとって、古代からメッシーナ海峡と呼ばれてきた。  最短距離ならば、わずか3キロ。  本土側の連絡船の発着地ヴィラ・サンジョヴァンニからメッシーナの港まででも、7キロしか離れていない。  この間を結ぶ連絡船に乗れば、コーヒーを注文して、それをゆっくりと飲み終る頃には着いている。

 

そりゃ、近いわ!  コーヒー一杯分の距離に危機が迫っていたら、そりゃ、焦るだろう!  しかもそれが本土防衛のための前哨線であれば何とかしなくちゃいけないと思うだろう!!  で、本来であれば本土防衛のために始まったはずのポエニ戦役がハンニバルという稀代の戦術家&打倒ローマに燃える気概に触れちゃったら、戦争が長引くこともあるだろう!!  まして、本土に上陸されちゃったら「何とかしなくては!」という防衛意識にも火が点いちゃうだろう!!!

 

 

第一次から第三次までの都合3回に及んだポエニ戦役(・・・・と世界史で習った)だけど、やっぱり圧巻なのはハンニバルが登場する第二次のポエニ戦争ですよね。  稀代の戦術家ハンニバルと時代の申し子スキピオの対決ほどドラマ性の高い戦争も少ないんじゃないかしら。  と、同時にこの「ハンニバル戦記」を読み進めていく中で、KiKi はある意味でここ何年か喉元に引っ掛かった魚の骨のようにスッキリしない気分のまま抱え続けてきた1つの疑問点に関する答えの一部を得たような気分になりました。  それは彼女の以下の記述を読んだ時でした。

 

そして、日本人である私にとってとくに興味をひかれるのは、ここには勝者と敗者しかいないという事実である。  正義と非正義とに分けられてはいない。  ゆえに、戦争は犯罪であるとは言っていない。  もしも戦争犯罪者の裁判でも行われていたならば、ハンニバルがまず、戦犯第一号であったろう。  (中略)

ローマがカルタゴとの間に結んだ講和は、厳しかったかもしれない。  だが、それは、報復ではなかったし、ましてや、正義が非正義に対してくだす、こらしめではまったくなかった。  戦争という、人類がどうしても超越することのできない悪業を、勝者と敗者でなく、正義と非正義に分けはじめたのはいつ頃からであろう。  分けたからといって、戦争が消滅したわけでもないのだが。

 

実はこれっ(↑)て KiKi のここ何年かの1つの大きな引っ掛かり(思考するテーマ)の1つなんですよね。  別のブログ「落ちこぼれ会計人の独り言」* にも書いたことがあるんだけど、ある時期から KiKi は思うようになったんです。  「正義というのは立場が変われば変わるもの。」ってね。  そして、その延長線上で考え始めるようになったのが「戦争責任っていったい何だ??」っていうこと。  このことを考え始めたきっかけの1つに「靖国問題」があるのは事実だけど、KiKi 自身はその件については実はこれといった意見は持ち合わせていません。  この問題も日本人としてはちゃんとした自分なりの意見を持たなくちゃいけないとは思うんだけど、そのことを考え始めるとそんなことよりももっと正面から考えなくちゃいけないことは「正義の戦い」というような耳触りだけはいい、でも実体のない言葉の危うさなんじゃないかと考え始めてしまって、「靖国問題」にたどりつけなくなってしまうんですよね ^^;

KiKi は世の中に「絶対的な正義」なんていうものは存在しないんじゃないかと思うんですよね。  で、絶対的な正義らしきものが人間の思考にど~んと居座り始めたきっかけっていうのは、一神教がはびこってからじゃないかと思うんですよね。  なぜって一神教には唯一無二の絶対的な存在としての神様がど~んと存在していらっしゃるから・・・・・・。  

塩野さんがこの文章で問いかけている「戦争を正義と非正義に分け始めた最初の例」が何かといえば、KiKi は十字軍の遠征だと思うんですよ。  そこに参加した人たちはある意味「至極全うな善意」によって参加していて、自分たちの行動を「聖戦」だと考えていたけれど、その実態はそんなものじゃなかった・・・・というのが KiKi の今の見解です。

そう考えてくると KiKi がこのサイトで取り上げているメインの話題が「古代ローマの物語」だったり、神話系(決して聖書系ではない)だったりする理由が何となく自分なりに得心できてしまうのです。  八百万の神々が住む国で生まれ育った KiKi にとって、「絶対」という概念ほど馴染みにくいものはないんだなぁ・・・・って。  だから、神話系の物語に回帰しているんだろうなぁ・・・・って。

何だかポエニ戦争とは全然関係ないことばかり書いているけれど、正直なところこれが KiKi のこの「ハンニバル戦記」を読んでの読後感なのです。

 

 

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