司馬遼太郎 「明治」という国家(上)(下)

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「明治」という国家(上)(下)
著:司馬遼太郎 NHKブ ックス

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暁闇の海に一条の光を求めて

「明治」は清廉で透きとおった "公" 感覚と道徳的緊張=モラルをもっていた。  維新を躍進させた風雲児・坂本龍馬、 国家改造の設計者・小栗忠順、 国家という建物解体の設計者・勝海舟、 新国家の設計助言者・福沢諭吉、 無私の心を持ち歩いていた巨魁・西郷隆盛、 国民国家の形成を目指した彼ら "明治の父たち(ファーザーズ)" は偉大であった。  本書は、明治草創の精神を捉え直し、「明治国」という人類普遍の遺産を巨細に語りつくす。  これは、著者畢生の日本論であり、鮮明な日本人論である。  (上巻 カバー扉より転載)

 

彼方の国、蜃気楼のような

二十世紀は「明治」に始まり、いま、その総括の時期にある。  激動の昭和が終わり平成となった年は、世界史の一大転換期でもあった。  時代のうねりは、歴史を書きかえ、人々は、自らの行く手に思いを馳せる。  歴史の中に、鮮やかな光芒を放った "「明治」という国家"、その「かたち」を、「人々」を、真摯に糺しながら、国民国家の形成を目指した " 明治の父たち(ファーザーズ)"の人間智と時代精神の核と髄とを、清冽な筆致で綴り、日本の国家と日本人のアイデンティティに迫る。  (下巻 カバー扉より転載)

本来であれば「坂の上の雲」を読み進めるはずなのですが、たまたま 「学問のすすめ」 に寄り道してしまい、その中で著者の斎藤さんが紹介されていたこの 『「明治」という国家』 に興味を持ってしまい、先にこちらを読了してしまったので、読書記録をつけておきたいと思います。  いや~、この2冊。  かなり面白かったです。

子供の頃から日本史の中では「鎌倉幕府の成立」の頃、「戦国末期から徳川幕藩体制の確立」の頃、そして「幕末から明治維新」の頃という、それまでの体制から大きな変換を迎える時期にもっとも興味を持っていた KiKi なんだけど、実はその興味を持続させ勉強を続ける根気には欠け(って秋山真之さんの真似してみただけなんだけど・・・・^^;)、疑問には思ったものの自分なりの解釈が確立できていなかったいくつかのポイントに関して、この本は「なるほど。  そういう考え方もあるか!  そういう観点で推論するのもありか!」と得心させてくれたことが多かったです。

特に面白かったのは上巻では「第三章 江戸日本の無形遺産 "多様性"」という章、そして下巻ではいわゆる「あとがき」にあたる「"モンゴロイド家の人々"など」という章です。

  

維新後の明治政府を引っ張っていったのが「薩長土肥」の4藩であることは、日本史の授業で勉強していたし、ある意味で「幕末の大戦(おおいくさ)の勝者だから当たり前・・・・」と受け流してしまったきらいがなきにしもあらず・・・・・だったんだけど、なぜ彼らが幕末の時代にあのような動き方をしたのか・・・・・とか、彼らの民族的な特質がどのように育まれたのか・・・・・等々については、実は興味を持ったことはあれど、あまりちゃんと考えたことがなかったんですよね。  それを司馬さんはこの上巻の第三章で解き明かしてくださいました。  彼らを理解するためには幕末という一時代ではなく、もっとず~っと長い歴史の中でルーツを考え、結局どういう人たちだったのか、そしてその人たちの心の奥にある想い(拘りとも言えるかもしれない)にどんなものがあったのかを考えるというアプローチはまさに KiKi 好み。  司馬さんが触れられる1つ1つの歴史上の史実は「出来事」として知らなかったわけじゃないけれど、それを民族的特質にまで昇華させて考えたことがなかった KiKi には驚きでした。  「藩制度と言う徹底的な地方分権社会が産み出した「多様性」が明治国家を支える基礎になった」という捉え方は、ほんとこれまでに経験したことがない視点でした。  ふと感じたのは、現在は東京に一極集中している中央集権体制・・・・・ともいえる状態です。  我々が今、この混迷の時代からなかなか抜け出せずにいるのはこの「明治維新後にはあった多様性が欠如しているためかもしれない。」と感じました。

いずれにしろ幕末から明治初期そして明治憲法制定までの時期は、歴史を学んでいくうえでは登場人物も多く「何がどうしてどうなった」を体系的に整理しにくい時代・・・・・という認識があったのですが、司馬さんのこの本ではさまざまなエピソードを盛り込みながらも、1つ1つの章がバラバラのようであってバラバラではなく、常に1つのテーマ(国民や国家という概念が全くなかった江戸時代から、その概念を創出・具現化させたのは何か?  そしてそれを確固たるものとしていかに成立させていったのか?)を軸に語られていることにより、読み終わったときにず~っと事実の羅列(個別ファイル)としてしか頭に残っていなかった歴史上の出来事がきちんとフォルダ管理でき、ついでにアーカイブの検索機能も備えちゃった・・・・・そんな気分になりました。

もっとも・・・・・  ただでさえ歴史の教科書に登場人物が多いこの時代、歴史の授業・テストからもずいぶん遠ざかり、有名どころだけでも本を見なければ正しい漢字でフルネームが書けない人もいるなか、司馬さんは KiKi にとっては名前を聞いたこともないような方(小栗忠順さん とか 副島種臣さん とか 津田出さん とか とか とか・・・・)まで取り上げられているので、読んでいる間は「ふんふん、なるほど」と楽しく読み進むことができちゃったんだけど、読み終わった後、「あれ?  ○○の話の時に出てきたのは誰だっけ??」みたいな悩みまでおまけにくれちゃった本・・・・ではありますが(苦笑)

あとがき的に書かれた「モンゴロイド家の人々。」  ある意味で、「こんな書物を著してしまった言い訳」的な書き方をされていらっしゃる章(苦笑)だと思うんだけど、まずは「モンゴロイド家の人々」という捉え方・命名に脱帽です。  (もっともこの命名は司馬さんに結果的にこの本を書かせた、NHKにいらした吉田直哉さんという方らしい・・・・のですが ^^;)  黄色人種のことを、「ハプスブルク家」を連想させるように「モンゴロイド家」と呼んでみる・・・・という姿勢に、なんだかとっても悠久の香りがして、目を瞑ると壮大な草原が見えてきたりもして、ちっぽけな人類の大きさ、歴史的広がり・・・・みたいなものを感じました。  そして、この吉田さんの発想の原点にあるのが蒙古系人種がどのような移動をして、どんな民族になり、それぞれがどんな歴史を持っていて・・・・・ということに簡単に触れられているんだけど、KiKi もその民族の末裔かぁ・・・・と思うと、何だかくすぐったいような、誇らしいような不思議な気分に陥りました。    

人種・宗教の話って例えばパーティの席なんかでは避けた方が無難な話題とされているけれど、こうやって文字の世界で「民族的な様々なエピソード」を読みながら、司馬さんと一対一でお話しているような妄想を持つことができる状況では、かなり楽しめる話題なんだなぁと改めて実感しました。

人種もそうだが、民族というのも、人間にとってときに荷厄介なものである。  民族とは文化と歴史を共有する意識とその集団をさすものの、それを過度に、あるいは神秘的に感ずることによって、かえって他者への憎悪をかきたて、自民族をも傷つけてきた。

司馬さん曰く、この本は「モンゴロイド家の一派が "明治国家" というふしぎなものを成立させたという話」だと仰います。  「江戸期の日本は別の体系の文明だったが、まったくそれとは違った体系の "明治国家" を成立させたということは、知的な意味での世界史的な事件ではないか。  その当時の日本人という三千万のモンゴロイドの苦痛やら何やらについて語ることは、世界の市民たちにとって多少刺激的な話題になるだろう。」とも仰います。  いえいえ、多少どころか KiKi にとっては大きな刺激になりました(笑)。

 

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 今晩は。過去記事に書き込み失礼いたします。私も司馬遼太郎・塩野七生大好き人間です。司馬さんの小説はほとんど読んでいると思います。街道をゆくはまだまだこれからですね。小学生のころ、少年少女向けの源義経の伝記を読んだのですが、「義経は戦上手で無欲でいい奴なのに、兄貴の頼朝はなんて陰険で嫌な奴なんだ!」と子供心に思っておりました。それが、高校時代、司馬さんの文春文庫「義経」と巡り合って、「ああ、兄貴には兄貴の苦労があったんだ」と大いに頼朝への認識を改めたり歴史の勉強をしたりしました。司馬さんとはそれ以来20年以上のお付き合いです。辻邦生先生を神様と崇めている点では私はShushi様と同志と言っていいほど辻邦生信奉者ですが、司馬さんも辻先生と同じぐらいかけがえのない作家です。「明治という国家」「昭和という国家」ももちろん読みました。「司馬は明治時代の日本人に好意的で、大正・昭和に点が辛い」とよく言われますが、十五年戦争で司馬さんは親戚や友人・知人を相当亡くされておられるでしょうから、ある程度仕方がないのかなあなんて思ったりしております。司馬さんの小説を読みもしないで「坂の上の雲で明治期の日本を好意的に描いたから右翼」とか「いや、司馬は日本に自虐史観を広めたサヨクだ」などと空疎な議論と呼ぶにも値しない罵りあいをしている人達をみるといつも腹が立ちますし、気の毒な人たちだな、とも思ったりいたします。

お早うございます。コメントが読めないのですが、何か不具合が生じたのでしょうか。私のコメントもKiKi様のコメントも読めないのです…

 お早うございます。さまよえるクラヲタ様のブログでも書かせていただきましたが、持病の躁うつ病が悪化して今月6日から入院しております。気持も入院前と比べると落ち着いてきて、退院の目途はたってきたようです。私のパソコンでもKiKi様の文章は読めるようになりました。色々ご心配をおかけしました。背教者ユリアヌスを読んでおいでなのですね。私は辻先生の小説はほとんど読んでおります。「春の戴冠」や「フーシェ革命暦も」面白いですよ。

 KiKi様今晩は。本日、主治医や家族と話し合った結果ようやく退院することが出来ました。今、ネット上でごあいさつ回りに行っているところです(笑)。「春の戴冠」と「フーシェ革命暦」は自信を持ってお勧めできる名作です。「春の戴冠」は、中公文庫全4巻で容易に入手できますし、「フーシェ」は今は入手するのに少しお金がかかるかもしれませんが、ネットの古書店などで入手可能だと思います。トールキン祭りの次は辻先生の壮大かつ唯美的なロマンの世界を堪能されてはいかがでしょう?至福の時が過ごせることは請け合いです。

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このページは、KiKi (Brunnhilde)が2009年12月23日 15:25に書いたブログ記事です。

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