流れ行く者 - 守り人短編集 上橋菜穂子

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図書館っていうのは色々な本があって、それらをタダで読ませてくれる素敵なところだけど、図書館ゆえのストレスもあるっていうことを、久しく図書館通いをしていなかった KiKi は今回思い知らされました。  いえね、大した問題ではないんだけど、例えばこの「守り人シリーズ」みたいなシリーズ作。  やっぱり順番通りに読み進めていきたいっていうのが人情っていうものじゃありませんか?  

で、最新作(例えば、KiKi が今図書館で予約待ちしている五木寛之の「親鸞」とか)の場合には、なかなか順番が回ってこない・・・・というのも理解できるし、ようやく図書館から準備ができた旨の連絡がきて喜んだのも束の間、上巻よりも先に下巻だけ順番が回ってきたりするな~んていうこともよくあって、まあ、それが KiKi の足が図書館から遠のいた原因の1つだったりもするわけですが、今回はねぇ。  かなり時代から遅れてこの「守り人シリーズ」に手を出しているので、当然のことながら順番に借りられるだろうとタカをくくっていたのですよ。  ところが・・・・です。  一昨日、図書館に「精霊の守り人」( & 「魔女の宅急便」)を返却しに行って、さて続きをド~ンと借りて、Lothlórien_山小舎で「守り人の週末」を過ごそうと目論んでいた KiKi なのですが、「精霊の守り人」の次の作品、「闇の守り人」が貸し出し中・・・・・ ^^;  

一応、「闇の守り人」以外は全部揃っていたのでとりあえず「夢の守り人」「流れ行く者」「○○の旅人 2作」を借りてきたものの、どうしても「闇の守り人」を飛ばして「夢の守り人」に手をつける気分にはなれません・・・・(苦笑)  なら、「旅人」にいってみようか・・・・とも思ったのですが、発刊された順番が「闇」「夢」の次が「虚空の旅人」で、その後に「神の守り人」があって、さらにその次が「蒼路の旅人」であることを知っちゃっているだけに、やっぱり何となく手を出しにくいものがあります。  

で、結論からすると発刊順序からすると最新作であることは百も承知のうえなんですが、番外編に位置するこの「流れ行く者」から読み始めることにしました。  Amazonの情報などを見る限りにおいては、時系列という観点でいけば、「精霊の守り人」よりも遡ること10余年という時代のお話ということもあり、それならば比較的手をつけやすいだろうって思ったのがこの本を選んだ大きな理由の1つです。  ま、てなわけで、本日の KiKi の読了本はこちらです。

流れ行く者 - 守り人短編集
著:上橋菜穂子 絵:二木真希子  偕成社 ワンダーランド36

51MQfb3jVfL__SL500_AA300_.jpg (Amazon)

王の奸計により父を殺された少女バルサと暗殺者の魔の手から親友の娘バルサを救ったがゆえに反逆者の汚名を着ることになったジグロ。  ふたりは故国を捨て酒場や隊商の用心棒をしながら執拗な追ってをかわし流れあるく。  その時々にであった人々もまたそれぞれに過去を持つ流れ行く者たちであった。  番外編にあたる守り人短編集。  (Amazon より転載)

 

・・・・・・・・

 

 

いや~、すごい!の一言です。  番外編だし、短編集ということなので、もっとあっさりした内容のものかなと思っていたのですが、確かに1つ1つの物語は短いものの、ありとあるゆることが凝縮されて表現されている、抗いがたい魅力にあふれた珠玉の作品ばかりでした。  

浮き籾
ラフラ(賭事師)
流れ行く者
寒のふるまい

の4作でこのうち「浮き籾」と「寒のふるまい」の2作がタンダ視点の物語。  「ラフラ(賭事師)」と「流れ行く者」の2作がバルサ視点の物語っていう感じでしょうか。  タンダ視点の2つの物語はなんともいえないのどかな雰囲気が漂い(自然の厳しさ等はあるものの)、古い日本の原風景という感じがして、日本人なら誰もが何となく甘酸っぱい郷愁を感じるような描写にあふれているのに対し、バルサ視点の2つの物語はそんな時代背景の中にありながら、「用心棒稼業」や「賭場稼業」に糊口を求めざるをえない人間の悲哀が余すところなく描かれています。

1作1作、少しずつ雰囲気は違うのですが、あのバルサの原点がどこにあるのか、あのタンダの原点がどこにあるのか・・・・が、物語の端々から香りたつように感じられる短編集だと思います。

 

KiKi はね、このエントリーでもお話したように「精霊の守り人」を買おうかどうしようかと迷っていた頃、表紙の絵はともかくとして二木さんの挿絵になんとなく違和感・・・のようなものを感じて、「まあ、そのうち・・・・」と考えていたという前科があるわけですが、この「流れ行く者」では逆に二木さんの絵にものすご~く惹かれました。  特に目次ページの見開きページにあるジグロと思しき武人の絵、「ラフラ(賭事師)」の短槍を抱きかかえるようにして壁にもたれてしゃがみこんでいるバルサの扉絵、そして「寒のふるまい」の旅を重ねるジグロ & バルサの扉絵には、強い衝撃にも似た思いを抱きました。  社会の底辺を必死な思いで生き抜こうとしている人間の凄み・・・・のようなものを感じた・・・・・とでも言いましょうか。

魔女の世界もそうだし、この物語の中のトロガイのような呪術師もそうだし、タンダのような薬草師もそうなんだけど、誰もが「自然との付き合い方」の達人であるというのも KiKi にとっては興味深い世界だし、憧れの存在でもあります。  反面、ラフラのおばあさんアズノには、共感とまではいかないけれど、仕事人としてのプロ意識のようなものを感じ、と同時に人生における勝負と賭け事の勝負との緊密さ・・・・・のようなものを感じました。  

上橋さんの作品はまだ「精霊の守り人」とこの「流れ行く者」の2作品しか読んでいないのですが、「絶対悪」とか「絶対善」のようなものとは無縁な感じがします。  それよりは、「立場により異なる正義」とか「言葉では説明しきれない日常生活の中で直面する割り切れなさ」のようなものを、あの手この手で訴えかけているような気がします。

それにしても・・・・・

タイトル作「流れ行く者」は壮絶な物語です。  ジグロの特訓により、大人顔負けの腕っぷし & 精神修練を積んでいるはずのバルサが、想像さえしていなかったあまりの出来事に身動きできなくなってしまう場面、そこから一転して理屈ではなく身体が勝手に動き、初めての「命のやりとり」を遂行する場面、そして、すべてが終わったときに吐きながら初めて声をあげるバルサの姿に圧倒されました。  

そんなバルサを抱きしめるジグロ。  ジグロは彼女の生き延びさせるために剣術指南をしてきたわけだけど、13歳を迎えて娘らしさを増してきた彼女を前に「このままでいいのだろうか?」という迷いを常に抱え続けていたんだと思うんですよね。  彼女に自分と同じような金と命を天秤にかけるような用心棒稼業をさせたかったわけじゃないだろうし、だからこそその直前に「トロガイのところで暮らすか?」という問いも発せられたんだと思うんですよ。

でも、事の成り行きは彼女を「普通の女の子」にはしてくれなかった。  「今ならまだ間に合うかもしれない」という最後のときに、彼女は初めて「人を手にかけること」を経験してしまったし、それがおよそ考えられる中でも最悪に近い状況下で起こってしまった・・・・・。  彼女はもう、「命のやりとりを生業とする」世界に足を踏み出してしまったのです。  そんな彼女だからこそ、あの「精霊の守り人」での八面六臂の活躍があるわけですが、ジグロはこの時、本当につらかったんだと思います。  でも、同時に、ジグロの日ごろの鍛錬がバルサを生かしたとも言えるわけで、「生き延びてくれてよかった」という思いもあっただろうし・・・・・・。  彼女を抱きしめるジグロの描写に、単なる武人ではない、オフには書物を愛したというジグロの人間としての奥深さを感じます。

この本に収録されている4編の物語のすべてが「語りつくしてはいない」というところも、すごいところだと思います。  まだ「守り人シリーズ」全作を読みきったわけではないけれど、ここまでしっかりとした土台の世界観とキャラクター設定ができている物語。  派生するものすごい物語はまだまだ出てきそうな感じがします。  う~ん、これは「闇の守り人」を待つべきか、とりあえず「夢の守り人」に進むべきか、それともとりあえず「旅人シリーズ」にとりかかるべきか。  悩むところです。

 

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コメント(5)

こんにちは。
 
 >、「絶対悪」とか「絶対善」のようなものとは無縁な感じがします。

というのは上橋さんの作品に共通する世界観だと思います。
どちらの側にもその側なりの正義があります。
アメリカなどのファンタジーでは、悪役はどこまでも悪役のことが多いですが、
日本人には上橋さんの世界のほうがしっくりきます。

ええー、下巻が先に回ってきても
そのまま渡されてしまうんですか。
うちの図書館では、上下巻をセットで予約してたら
下巻が先に届いても、上巻がくるまで取り置きしておきますが…
だって下巻から読めるわけがないじゃないですか。ねえ。

そして守り人のシリーズだって
上下巻物じゃないし、1巻2巻…って数は入ってないけど
これはれっきとした続き物なんです!
途中をとばして読んだりはできないんですよぅ。
旅人の方にも手を出したりしないで下さいねえ。(涙)


ということで早く「闇の守り人」が届くのを祈りつつ…。

あ、そっか。
旅人シリーズの方でTBを頂いてたんですね。
うっかりしてました。
すみません、忘れて下さい…

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