精霊の守り人 上橋菜穂子

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先日、このエントリーでもお話した久々(4年ぶり?)の図書館通い。  久々に図書館に行ったからこそようやく手に取ることができた本を読了しました。  本のタイトルからして KiKi の大好物感はぷんぷんと漂っています。  今日はその本のご紹介です。

精霊の守り人
著:上橋菜穂子 絵:二木真希子  偕成社 ワンダーランド15

51QPP85YXWL__SL500_AA300_.jpg (Amazon)

30歳の女用心棒バルサを主人公に、人の世界と精霊の世界を描いたハイファンタジー。  野間児童文芸賞新人賞・産経児童出版文化賞・ニッポン放送賞・路傍の石文学賞を受賞した作品で、『闇の守り人』『夢の守り人』『神の守り人(来訪編)』『神の守り人(帰還編)』と続く「守り人」シリーズの第1弾。

100年に一度卵を産む精霊〈水の守り手ニュンガ・ロ・イム〉に卵を産みつけられ、〈精霊の守り人〉としての運命を背負わされた新ヨゴ皇国の第二王子チャグム。  母妃からチャグムを託された女用心棒バルサは、チャグムに憑いたモノを疎ましく思う父王と、チャグムの身体の中にある卵を食らおうと狙う幻獣ラルンガ、ふたつの死の手から彼を守って逃げることになるのだが・・・

水の守り手とは何なのか?  夏至祭りに隠された秘密とは?  多くの謎を秘めて、物語は人間の住む世界「サグ」と精霊の住む「ナユグ」の問題へと発展していく。  精霊世界の存在や先住民族ヤクーの民間伝承など、古代アジアを思わせる世界の記述の細かさ、確かさは、文化人類学者である作者ならでは。

バルサを筆頭に、みずからの運命を呪いながらも逞しく成長していくチャグム、おてんばバアサンの呪術師トロガイ、バルサの幼馴染みのタンダなど、登場人物のキャラクター設定には魅力があふれている。  オトナの純愛物語、少年の成長物語としても深い味わいを残す本書は、子どもたちだけのものにしておくには惜しい1冊。(小山由絵)  (Amazonより転載)

この本はね、存在だけはずいぶん前から知っていたのです。  で、本屋さんで何度か手にとって「買って読んでみようか、どうしようか」と迷った作品なのです。  この本やその続編が次々に色々な賞を受賞していることも知っていたし・・・・。  Amazonの書評もいくつかは読んでいたし・・・・・。  でもね、本屋さんで現物を手にとったとき、どことなくアニメ的な挿絵を見て「う~ん・・・・・」と考え込み、結局はいつも棚に戻してしまう。  そんな本の代表でした。  で、棚に戻すときいつも思ったのです。  「いずれ、図書館に行くことがあったら、そこで借りればいいや。  今、急いで読まなきゃいけない理由もなし・・・・・。」と。

そうこうしているうちに本当にアニメ化されてしまい、アニメ化されたことによりさらに読者層を増やし・・・・となっていくと、天邪鬼の KiKi は「う~ん、なんか流行に乗っているような感じで読むのはイヤだなぁ・・・・。」などというひねくれたことを感じ、本屋さんでもあえてこの本を手に取らないようになっていきました。  そうこうしているうちに少しずつ、この本の存在さえもを忘れていきました。

ま、そんな経緯があったりしたものですから、今回図書館に行って、まずは「魔女の宅急便」の後半3巻を借り、ついでに児童書コーナーの本をざっと見ているうちにこの本に行き着いたとき「あっ!  精霊の守り人・・・・。  そういや、これ、図書館で借りて読もうと思っていた本だ!」と、まるでず~っと昔のクラスメート(ただし、さほど親しくはなかった)に街中でふっと出会い、お互いに子供時代はさほど話したことはなかったんだけど、顔と名前だけはなぜか一致して、その懐かしさと不思議さから急に相手に興味を持って、知り合って初めて一緒に喫茶店に入っておしゃべりしてみたいと思った・・・・というのに似た不思議な感覚をもって借りてきたのです。 

いや~、読み始めてみて「これは結構ヤバイ!」かも・・・・というのが KiKi の第一印象でした。  で、ふと気がつくとお布団の中で抜けきらない風邪による鼻水の対処に悩まされながら、「早く寝たほうがいい」とささやく理性を無視し、一気に読み終えてしまいました。  やっぱり KiKi はこういうプリミティブな信仰をベースにした物語には弱いんですよね~。

短槍使いの女主人公の活劇もかっこいいんだけど、それより何より、それ以外の登場人物のキャラや舞台設定が KiKi のツボなんですよね~。  これはバルサ陣営(?)の包容力のある薬草師 「タンダ」 しかり、ヤクー(舞台となる皇国の原住民)の知恵を持つ呪術師 「トロガイ」 しかり、彼らに守られている第二皇太子にして精霊の守り人 「チャグム」 しかり。  でもね、こっち陣営だけが興味深いっていうわけじゃないところが、まさに KiKi のツボなんです。  冒頭ではバルサと敵対することになる、チャグムの父親である 「帝」 しかり、その帝を補佐する星読人の 「聖導師」 & 「シュガ」 しかり、彼らの裏仕事を一手に引き受ける 「狩人の皆さん」 しかり。  最初はバルサ陣営 vs. 帝&星読人_時の権力者陣営 のよくわからない闘いの物語かと思いきや、本当の敵は別にいる・・・・というストーリーも Good! です。

単純な勧善懲悪ではなく、立場によって変わる正義というものが子供にもわかる形で描かれている物語だなぁと思うんですよね。  教訓的に読もうとすれば「正義とは絶対なものでなく、相対なもの」ということが余すことなく伝わってくる物語だと思うんですよ。  これは上記2つの陣営(?)のどちらにも単純な悪者がいないことからも明らかだし、本当の敵である卵食いのラルンガであってさえも悪意ある悪者ではなく、そういう定めを持った生き物であるに過ぎない・・・・というのがいいなぁと。

物語の世界観も KiKi 好みです。  舞台となっている新ヨゴ皇国の成立物語 「聖祖トルガル帝の水妖退治の伝説」 っていうのも、まるで 「ジークフリートの竜退治」みたいな雰囲気で興味深いし、そこに語られていることと語られていないこと、捻じ曲げられてしまった真実があるというのも民話伝承にはありがちな話でゾクゾクするし、今に伝わる 「夏至祭りの儀式」 や 「わらべ歌」 に真理が隠されているというのもワクワクします。  

  

だいたい「民話」 「伝承」 「民謡」 「わらべ歌」 の類のものって、現代的な科学性とはちょっと疎遠で「子供だまし」といわれたり、「夢物語」といわれたり、ばかにされたりしがちだけど、私たちのご先祖様たる人間がこの世で生き抜いてきた中での「体験的な叡智」とか「自然との正しい付き合い方指南」の宝庫だったりもすると思うんですよね。  こういうものって現代の都市型生活を送るにあたっては必ずしも必要なものじゃないけれど、「何のかんの言っても所詮人間もこの大きな自然界の中の一生き物に過ぎない」と考えたときにありがたみがひしひしと伝わってくるという類のもの。

科学技術の力は私たちの生活を豊かにそして快適にしてきたし、昔であれば人為的な力の及ばない霊的なもの・・・とか、神秘ということで片付けざるを得なかった事柄に関して、さまざまな新事実や大発見をもたらしてくれたわけだけど、科学の力を過信しすぎ、すべての生物の頂点に立ったという思い込みや自然はコントロールできるものという奢った考え方が昨今では見直されるようになってきています。  そんなことを考えながら読むと、「精霊信仰」と呼ばれるものの中には、自然とともに生きることや自然との共存という、生物が本来あるべき生き方のひとつの形が見え隠れするような気がします。

そして、この物語はそんな「精霊信仰」が単なる信仰の域を出て、世界の真実の姿として実在しているという世界観のもとに構築されています。  そして人間たちが住まう「こちらの世界(サグ)」と精霊たちの住まう「あちらの世界(ナユグ)」が並立していて、双方がお互いに支え合うことでバランスをとってこの世はできているというのは、なんだかありそうな・なさそうな話で KiKi には感覚的に受け入れやすいものでした。  で、面白いのはナユグにはナユグ独自の生態系があって、この世の人間たちと同じように命を宿し生活を営んでいるということ。  そしてナユグの生物でありながら、100年に1度サグの世界に住む人間の子どもに卵を産みつけるという「水の守り手(ニュンガ・ロ・イム)」の存在とその卵を食らう化け物、ラルンガが卵を食らうために姿を現すという大事件がこの2つの世界が同時進行で存在しているというお話にある種のリアリティを与えています。

ところで・・・・。  余談ではあるんだけど、どうしてこうもこういう不思議世界の妖怪系の生き物ってクモがモデルになりやすいんでしょうか?  トールキンの「指環物語」のシェロブもそうだったし、「ハリー・ポッター」のアラゴクもそうだったし、この物語のラルンガも「蜘蛛とイソギンチャクの Mix 系」だし。  トールキンとJ.K. ローリングは「蜘蛛嫌い」で有名なのですが、この本の著者、上橋さんもご同類かしら????  KiKi は蜘蛛って可愛いとまでは思わないけれど、あんまり気にならない存在なので、ファンタジー世界に登場する化け物を紹介する文章で「蜘蛛に似た・・・」と言われる度に、「可哀想に・・・・  そこまで嫌わなくてもいいのに。  特に悪さをするわけじゃなし・・・・・」とか思ってしまいます(笑)

さて、この本を読んでいて何よりも感心したのは、作者は決して時の権力者陣営の帝や星読人たちが愚かで、ヤクーたち先住民族の方が正しく賢いのだと訴えているのではないと感じられるところです。  どうしても物語の中に「勝ち・負け」や「白・黒」をつけたがるのは現代人の悪い性向だと思うんだけど(そしてこれは日本人がアメリカナイズされてきた中で最大のマイナス要素だと思うんだけど)、この物語の中では最終的に「星読人」と「呪術師」のふたつの知識を合わせたとき、はじめて正しい答えを得ることができているのです。  

KiKi はね、そういう意味ではこの物語の登場人物の中で一番興味深いのは、女主人公バルサではなく、呪術師トロガイの弟子である 「タンダ」と、星読人の世界で出世街道を歩み始めた 「シュガ」のその後の物語だったりします。  彼らがこの先、何を考え、どのように動き、何を残してくれるのか・・・・  う~ん、そのあたりが書かれている物語はこのシリーズの中にあるのでしょうか??  これは一気にシリーズを読破したいムードに取り付かれてしまったようです・・・・・ ^^;

ああ、こうして又、「岩波少年文庫読破計画」は先延ばしにされていくことになるのでしょう・・・・・。



 

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このページは、KiKi (Brunnhilde)が2010年4月10日 08:41に書いたブログ記事です。

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