背教者ユリアヌス(中) 辻邦生

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ふと気がつくと5月も終盤。  まもなく梅雨のシーズンです。  中学生の頃、校長先生の訓話の中に「4月の雨は嫌だけど、5月の花を咲かせます。」という言葉があり、長い間そんなことはすっかり忘れてしまっていたけれど、ふいに昨日その言葉だけが思い出されました。  この言葉を用いながらどんなお話をしていただいたのかは残念なことに思い出すことができないのですが、とても心に残る言葉だと思います。  因みに「マザー・グース」には、これに似たこんな歌があることを大学生の頃に知り、この歌に出会ったときもその校長先生のことを懐かしく思い出しました。

  March winds and April showers
  Bring forth May flowers.

「三月の風と四月の雨が、五月の花々を咲かせる」というほどの意味でしょうか。  又、イギリスに暫く滞在していたとき(これも大学生の頃)、これに似たような言い回しの言葉をホームステイしていたお宅のお母さんから聞き、その時も新鮮な驚きを感じると共に、その校長先生のことを薄ぼんやりと思い出したこともありました。

  A windy March and a rainy April make a beautiful May.

「三月の風と四月の雨が美しい五月をつくる」というほどの意味ですよね。  どうしてこんなことをふいに思い出したのか・・・・・。  それはたまたま今が5月の下旬であるということもあるように思うのですが、同時に本日読了した「背教者ユリアヌス(中)」の中に描かれるユリアヌスの姿に、どことなく「青臭い」ものを感じ、同時にその「青さ」に似たものを持っていた自分への郷愁のようなものがあったから・・・・・のような気がします。  ま、てなわけで本日の KiKi の読了本はこちらです。

背教者ユリアヌス(中)
著:辻邦生  中公文庫

41aI3YIwobL__SL500_AA300_.jpeg (Amazon)

けがれなき青年の魂にひたむきな愛の手をのべる皇后エウセビア。  真摯な学徒の生活も束の間、副帝に擁立されたユリアヌスは反乱のガリアの地へ赴く。  毎日芸術賞にかがやく記念碑的大作!  (文庫本裏表紙より転載)

凡そ実務肌の人間とは思えなかったユリアヌス、学究肌で理想主義者というイメージのユリアヌスが最大の危機(皇帝への反逆罪の嫌疑をかけられたこと)を乗り越え、本来なら片腕として頼みたいはずの人々に恵まれない中、混乱のガリア平定で着々と成果を挙げる姿を描いているこの中篇。  ユリアヌスの度を過ぎているように見えなくもない「御人好しさ加減」にハラハラし、現実世界に生きつつも相変わらず理想主義を貫いている姿に惚れ惚れとし、文字の小ささ & Volumeの多さを苦ともせず、あっという間に読了してしまいました(笑)。

 

この中篇を読み進めている中で KiKi が思い出したこと。  それは2つありました。  1つ目は大学2年生の学園祭での風景です。  当時英文学部に所属していた KiKi は3年生になるにあたりゼミを選択しなければならなかったのですが、「英文学のゼミ」を専攻することに迷いのようなものを感じていました。  もともと文学は好きだったけれど高校生の頃には「文学部の学生だけにはなるまい。  なぜなら文学は趣味であって、勉強の対象としたいものではないのだから・・・・・」と思っていた KiKi。  でも、「じゃあ何を?」が見つけられずタイムオーバー。  「とにかく大学には進学したいし、これと言って『何を』がない以上、最低でも英語を身につけるという大義名分が成り立つ『英文学』でも・・・・・」という中途半端な心意気で英文学専攻の大学生になってしまっていました。

それでも最初の2年間は初めての東京暮らしに有頂天になったり、大学で新たに得た友人との付き合いに満足したり、いわゆる「一般教養科目」でそこそこ幅広くいろいろなことを学ぶことができていたことにより毎日を充足感らしきものを感じつつ過ごしていました。  でも自分の専門を決めなければいけない時期を迎えたとき、再び襲ってきた2回目のタイムリミットを前に、同じ命題に向き合わざるを得なくなってしまいました。  

「文学は趣味であって、人生をかけて研究したいものではない・・・・・」

「英語は英文学部の学生としての時間よりは、クラブ活動(ESS)で十分身に着くし・・・・・。」

「文学を続けていってその先に何がある???」

そして、クラブ主催の模擬店にその後2年間、お世話になることになる教授にご足労いただき、KiKi の迷いというかゴタクというかをクドクドと語ったのでした。  この時のことを KiKi 以上に教授は鮮明に記憶されていらっしゃるようで、数年前、その教授の退官を記念して当時のゼミ仲間がパーティーを開いた際に、

「KiKi さんは本当に印象深い学生でした。  学園祭のときにいろいろお話したことを覚えていますか?  でも私はあの時、こういう風にものを考える人が一番文学には向いていると思ったものです。  どうです?  そろそろ学窓に戻ってみませんか?」

というお言葉を頂戴して目を丸くしたものです。  ま、それはさておき、当時の KiKi は本当に青臭くて「人生とは何か?」「人間とはどういう生き物か?」に並々ならぬ興味を持ちつつも、「それでは食っていけない!」という焦りを抱え、「どうして自分は文学なんていう一文の足しにもならないものを専攻してしまったのか?  どうして自分はもっと実学を学ぼうと考えなかったのか?」という焦燥感に囚われていました。

それでも社会に出て、そこそこ自分の居場所を確保できるようになった頃には、英文学専攻の学生だった時間を「あの時代だからこそ持つことができた贅沢な時間」と捉えることができるようになり、一応の精神の小康状態(? 苦笑)を得ました。  でもね、それから数年後、当時お勤めしていた某外資系企業で自分と同世代・同時期に入社したスタッフが軒並み「US CPA Holder (アメリカ公認会計士資格保持者)」か「MBA Holder (米国大学経営管理学修士保持者)」だらけ・・・・という環境に身を置いたとき、再び KiKi は思ったものでした。

「ああ、どうして KiKi は大学4年間を英文学なんていうものに費やしてしまったのか!  あの時間を会計学とか経営学とかに費やしてさえいれば・・・・・・」

とね。  まあ、こんな風に感じたのは同世代・同期入社(と言っても誰も彼もが中途採用なので、同期と言う言葉は当たらないかもしれないけれど・・・・ ^^;)の資格保持者はいきなり Manager 待遇になるのに、KiKi はスタッフレベルからスタートしなければならなかったからなんですけどね。

今になって考えてみると KiKi のあの焦りは「自分が本当にしたいことは何か?」を模索する焦りではなく、今、この時代をいかに勝機に乗せるかの焦りだったように思うんです。  そして、そんな KiKi は決して「ユリアヌスのような人」ではありえなくて、どちらかというと「ユリアヌスの足を引っ張っている陣営」の思考に近いものだったのではないか?ということです。

でもね、そんな KiKi であってさえもユリアヌスに感情移入できるのは、「文学部の学生だった時代があったから」のような気がするんですよね~。  KiKi も若い頃には「正義って何だ?」という命題を漠然と考えたことが何度もありました。(真剣に・・・・ではないところが KiKi の限界だと思っているんですけどね 苦笑)  

今、この年齢になって KiKi が感じているのは「絶対的な正義なんていうものは存在しない。」「正義とは立場が変われば変わるもの。」という結論なんだけど、それでも「美しいもの」「正義と呼べるもの」を見つけたいという青臭さは未だに埋火のように KiKi の中にあるのを感じるし、社会でそこそこのポジション(ちっぽけではあるけれど)を経験し、それに背を向けた時点で KiKi は勝機に乗ることに価値を見出さなくなっていて、別の価値観を模索している状態で、その心情とこの巻のユリアヌスの想いには、共通する何かがあるような気がします。

さて残すところ1巻。  それにしてもこの本もすごい本です!    

    

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このページは、KiKi (Brunnhilde)が2010年5月27日 11:03に書いたブログ記事です。

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