裏庭  梨木香歩

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ここのところちょっと哲学的・・・・というか、お勉強に近い系列の本ばかり読んでいたので、ここいらでちょっくら物語系の本を読みたくなってしまいました。  で、茅田砂胡さんの「デルフィニア戦記」を制覇したい・・・・という数年来の願望もかなり頭をもたげてきているのですが、その前に・・・・。  ちょっと途中で止まってしまっている梨木香歩さんの世界に浸ってみたいと思います。  ま、てなわけで本日の KiKi の読了本はこちらです。

裏庭
著:梨木香歩  新潮文庫

51464P9Q4NL__SL500_AA300_.jpeg (Amazon)

昔、英国人一家の別荘だった、今では荒れ放題の洋館。  高い塀で囲まれた洋館の庭は、近所の子供たちにとって絶好の遊び場だ。  その庭に、苦すぎる想い出があり、塀の穴をくぐらなくなって久しい少女、照美は、ある出来事がきっかけとなって、洋館の秘密の「裏庭」へと入りこみ、声を聞いた―教えよう、君に、と。  少女の孤独な魂は、こうして冒険の旅に出た。少女自身に出会う旅に。  (文庫本裏表紙より転載)

う~ん、これはなかなか難しい本ですねぇ・・・・。  まず構成の仕方という点では KiKi の大好きな作家の1人、M. エンデの「はてしない物語」風。  庭という異世界を構成しているという点では、P. ピアスの「トムは真夜中の庭に」風。  「秘密の花園」の匂いもあれば、「不思議の国のアリス」の匂いもあるし、「ムーミン」から登場人物だけちょっと拝借・・・・という感じで、他にも古今西(東西ではない)の子供時代から馴染みの「数多の物語」の残り香が香るお話だと思います。  でも、それらの物語と決定的に違うのは、この本では現代人が忌み嫌うものとして感情的にしか捉えていない「死」と、楽観的であることがブーム・・・・のような現代世相の中で、沈思黙考することの少なくなった「自分の傷を見つめる」というテーマがこれでもかっていうぐらい出てくるところ・・・・・。  逆に言えば異世界を旅する中でのワクワク感みたいなものは極めて希薄な物語だと思います。

異世界はそこを旅してワクワクするワールドではなく、自分の傷や死を受け入れるための舞台装置。  そうであるだけに KiKi には照美が旅する異世界での出来事よりもいわゆる現世、照美が旅に出る前、そして出ている間、帰ってきた後の現実世界で起こるさまざまな出来事のほうにより多くの感情移入ができたような気がします。  

そしてもう1つ。  この本の中で語られる昨今の「癒し」という言葉の薄っぺらさ、嘘っぽさはまさに KiKi がここ何年というもの、切実に、そして頻繁に感じることで、思わず膝を打ちました。  「癒し市場」・・・・本当に現代の「癒し」という言葉はなんとまあ商売っ気だらけの言葉になってしまっていることか・・・・・。  自分の傷と正面から向き合うことは避けながら、なんらかのグッズやありがたそうに聞こえる他人のお言葉に縋るのはどこかおかしい(けれど誰もが弱さを持つ人間である以上は仕方ない)けれど、そこに群がり商売の機会とすることの浅ましさ・・・・みたいなものを感じます。  

「自分の傷と真正面から向き合うよりは、似たような他人の傷を品評するほうが遥かに楽だもんな。」

これって、現代社会のある一面を抉り取る深い言葉だと思います。

 

KiKi はね、大学時代にとある自分の中の「傷」と向き合わざるを得ないことがあって、本当に苦しかった時代がありました。  その頃、このままいくと自分は発狂しちゃうんじゃないか?と思わないではないぐらいに思い悩み、寂しさとブレンドした気分の中で、毎晩毎晩、声をあげて身を振り絞るような感じで、痛みを抱えながら泣き暮らしたことがありました。  そしてその時はその悩みに埋没しているがゆえに

「どうして私だけがこんな風に苦しまなくちゃいけないんだ!」
「こんなに痛い想いを抱えながら、苦い涙を1人で流さなくちゃいけないなんて、なんて理不尽なんだ!」
「心を閉ざしてしまうことができればどんなに楽だろう・・・・・」

というようなことを脈絡もなく感じつつ過ごしていました。  不思議なもので、泣き続けるっていうのは案外できないもので、声をあげながらおんおん泣いている時はひたすら泣いているだけで、何も考えられないんですよね~。  まるでそれが悲しみや苦しみを押し流すための清らかな流れ・・・・でもあるかの如く、泣くことに没頭するんですよ。  で、とは言えども「涙が枯れる」瞬間があって、鼻をすすったり、ヒックヒック言っている時間帯は思考の時間(笑)  その思考の時間に、上記(↑)のようなことを考えるわけです。  で、そんなことを考えているとまた悲しみ・苦しみがゾンビのように生き返り、まるでコブラみたいにムックリと鎌首をもたげ、涙腺を刺激する。  そして、又、大泣きする(苦笑)

そんな時期を乗り越えた(かなり時間がかかりました)ある時、ふと KiKi は思ったのです。  悲しむべきときはそこから逃げようなんていう風に考えず、徹底的に悲しむべきなんだ・・・・・と。  存分に悲しみ、痛みを感じた後にしか道は開けてこないんだ・・・・と。  あれはあれで KiKi にとって必要な時間だった・・・・そんな風に思うことができるようになったのです。  そして思いました。  ああ、あの時期に1人だったのは幸いだったのだ・・・・と。  

誰かと暮らしていて、誰かとお付き合いをしていて、気を紛らすことがあったりしなかったことが KiKi にとっては重要だったのだと・・・・・。

ま、本当のところはわかりません。  1人で苦しみを抱え込むことが良かったことなのか、そうじゃなかったのか・・・・・。  だって、1人じゃない状態と比較したことがあるわけじゃないから・・・・・。  でもね、この本を読んでいて KiKi はやっぱり1人で乗り越えることが大切だったというあの時の確信は間違っていなかった・・・・・そんな風に思うんですよ。

照美は異世界で再生の営みを続ける中で思うのです。

「私がなりたいもの?  私が・・・・  なりたいのは、私しかいない。」
「私は、頭のてっぺんからつまさきまで、ぴっちり私になりきりたい。」

そして異世界で照美が出会う2人目のおばばもこう言っています。

「真の癒しは鋭い痛みを伴うものだ。  さほどに簡便に心地よいはずがない。  傷は生きておる。  それ自体が自己保存の本能をもっておる。  大変な知恵者じゃ。  真の癒しなんぞ望んでおらぬ。  ただ同じ傷の匂いをかぎわけて、集いあい、その温床を増殖させて、自分に心地よい環境を整えていくのだ。  癒しという言葉は、傷を持つ人間には麻薬のようなものだ。  刺激も適度なら快に感じるのだ。  そしてその周辺から抜け出せなくなる。  癒しということにかかわってしか生きていけなくなる。」

そして異世界の3人のおばばはそれぞれ「傷」に関してこんなことを言っています。

「傷を恐れるな。」
「傷に支配されるな。」
「傷は育てていかねばならん。」

うんうん、これこそ、 KiKi があの時期の体験から直感的に掴むことができるようになったある種の「生き方の指針 その1」であるように思うのです。  もう何年も忘れていたあの時期の苦しみ、そしてそこから得た教訓・・・・のようなもの。  そんなものを思い起こすことができた不思議な読書体験でした。

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このページは、KiKi (Brunnhilde)が2010年6月29日 13:10に書いたブログ記事です。

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