エンジェル エンジェル エンジェル  梨木香歩

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今日も梨木作品を読み続けています。  どうやら KiKi は上橋作品同様に梨木作品にも嵌ってしまったみたい・・・・(笑)  多分、そこには同世代を過ごし、同じようにイギリス文学に傾倒してきたという一方的な親しみと、Border ということを常に感じながら時を重ねてきたという共通点、そして、物事の思考の仕方に垣間見える共感(但し、梨木さんのほうがず~っと深いんだけど・・・・)みたいなものがあるように感じます。  上橋作品はどちらかというと読んでいて「やられた~!、  参った!」と感じつつ楽しめる(Joy)なのに対し、梨木作品は「そうそう、あ、それよ!  私も感じてた。  こういう風に言語化できるんだ、なるほど~」っていう風に腑に落ちるっていう感じでしょうか。  ま、それはさておき、本日の KiKi の読了本はこちらです。

エンジェル エンジェル エンジェル
著:梨木香歩  新潮文庫

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コウコは、寝たきりに近いおばあちゃんの深夜のトイレ当番を引き受けることで熱帯魚を飼うのを許された。  夜、水槽のある部屋で、おばあちゃんは不思議な反応を見せ、少女のような表情でコウコと話をするようになる。  ある日、熱帯魚の水槽を見守る二人が目にしたものは―  なぜ、こんなむごいことに。  コウコの嘆きが、おばあちゃんの胸奥に眠る少女時代の切ない記憶を呼び起こす...。  (文庫本裏表紙より転載)

女の子は誰もが子供時代は純なもの、美しいもの、優しいものに心惹かれ、自分こそがそれを体現したものになるんだ・・・・・と無意識のうちに思っているようなところがあると思うんですよね。  でも、時を重ねている中でそんな自分の中の秘めた目標と現実のギャップに否応なく気がつかされるんですよ。  思っていた以上に不純で、醜くて、意地悪な自分という現実に。  それを認めたくはないけれど認めざるをえず、必死で言い訳しようとするんだけど言い訳になっていないことに気がつき、「ごめん」と言いたいのに言えない自分。  多かれ少なかれ誰もがそんな苦い想い出を心の奥底のどこかに封印しているんじゃないでしょうか?

コウコの寝たきりのおばあちゃん、さわちゃんもそんな1人。  寝たきりになってボケちゃう年代になって、それでも残っている想いは女学生時代に封印した天使になれなかった自分、「ごめんなさい」と言えなかった自分、封印してしまった醜い自分に落とし前をつけるということ・・・・・だったような気がします。  

娘時代の自分のワガママの余韻を放つ、物置の中に眠っていた現代の価値観からすると「サイドテーブルとしての格も落ちれば実用的とも言えない」テーブルを目にし、娘時代の自分の悪行と切っても切れない関係にある「コウコ」という名前、そして天使の名を持ちながらも案外獰猛なエンジェルフィッシュの所業を目にするという3点セットによって、さわちゃんの心の奥深くに封印されていた「苦い思い出」とそれに対する「謝罪の念」が表出してきた・・・・・そんな物語だと思います。

 

さわちゃんの心の底にたまっていたオリのようなもの。  それは実は小さな小さな「ひどいこと」で、誰もがふとしたはずみに持ちかねないちょっとした心のささくれのようなものなんだけど、じっくりと考えてみると小さい割には本当に「ひどいこと」で、このギャップゆえに人の心に棘のように刺さって、後味悪く残るものだったというのがなんとも切ないと思うんですよね。  案外その「ひどいこと」の対象だった人は本人ほどには痛みを感じていないかもしれないのに・・・・・。  それを自身の痛みとして感じ続ける能力の備わった人こそがひょっとしたら本当の意味での「天使みたいな人」なのかもしれないのだけれど・・・・・。

キリスト教世界の中では言ってみれば善悪を相対するものとして扱い、かたや天使がかたや悪魔がそれを体現する存在であるかのごとく扱われがちだけど、人の精神ってそんなに単純なものじゃない。  どんなに優しい気持ちで、心と時間をこめて一所懸命彫ってみても「蝙蝠の羽のついた天使」にしか見えない木像だって、それを彫っていた人の気持ちは天使そのものだったかもしれない。  

神さまは悪魔をどう思っていらっしゃるのだろう。  神さまが作り出した楽園を乱す悪魔を。

なぜ、万能であるはずの神様が「悪い存在」の悪魔を作ったのか。  神様は悪魔について、どう思っているのか。

・・・・コウちゃん、神様もそう呟くことがおありだろうか。  「私が悪かったねぇって。  お前たちを、こんなふうに創ってしまって」って、神様がそう言ってくれたら、どんなにいいだろう。  ・・・・・気が納まるよねぇ・・・・・とりあえず。

人は自分の中の「悪」をここまで重く感じ続け、封印せずにはいられないほど思い悩み、赦されたいと願い続けるものなのか・・・・・。  コウコがさわちゃんの傷には気がつかないながらも、悪魔にもかわいそうだって言うと応じたとき、さわちゃんが涙を流しながら言う

「・・・・・ごめんね、コウちゃん、ごめんね、コウちゃん、コウちゃん」

という言葉は、ずっと言えなかった謝罪の言葉であるのと同時に、さわちゃんが女学生時代に呼びたくても呼べなかった「コウちゃん(山本さん)」という呼び名を何度も口にするという意味で、さわちゃんが「自分の中の悪の塊」と感じていたどす黒く重く淀んでいるものを浄化する過程だったんだろうなぁと思うと、思わずつられて目頭が熱くなってしまいました。  

最後に・・・・・

さわちゃんの思い出を語る偶数章の旧仮名文体のところがとても好きです。  ここを読んでいたとき、KiKi が初めて旧仮名文字に接したときのことを思い出しました。  あれは、KiKi がまだ文字を覚えたての小学校1年生かもしくはその前のこと。  ようやく文字を覚えたばかりの KiKi はそれが嬉しくて活字という活字には片っ端から興味を持った時代。  たまたま訪ねた親戚の家(その家は父方の家の別荘だった)で、父が昔使っていたという教科書を目にしました。  なんでも父は世情不穏な東京から当時はまだまだ安全だった静岡県清水市の興津というところにあった別荘に移住していた時期があったらしいのです。  

これはざうです。  てふてふが○○して、××でせう

覚えたてのひらがなの読み方どおり、一所懸命音読する KiKi に、父は大笑い。 

「これは昔の書き方で、ざうはぞう。  てふてふは蝶々。  でせうはでしょうと読むんだよ。」

と言われて、幼かった KiKi は「まだまだこんなにも覚えなくちゃならないことが多いのか!」とがっかりしたような気もすれば、「世の中にはまだまだ知らないことがたくさんある!」とわくわくしたような気もする、なんとも不思議な気分になったものでした。  発音と書き文字がほぼ一致している現代文とはちょっと違う、日本人のどことなく非合理的な精神の産物みたいな旧仮名文字。  何となくそこに横たわる「日本人気質」みたいなものが感じられ、KiKi は好きなんですよね~(笑)

  

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「エンジェルエンジェルエンジェル」は、梨木香歩の世界が好きならお勧め。 (この記事、ネタばれあり)     おばあちゃんの世話をすることになったコウコ... 続きを読む

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このページは、KiKi (Brunnhilde)が2010年7月12日 11:13に書いたブログ記事です。

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