ぼんぼん 今江祥智

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このエントリーでお話した新刊ラッシュの岩波少年文庫で購入したばかりの1冊を読了しました。  この本はまさにこの日(8月12日)に仕入れてきたばかりの1冊です。  で、今年の KiKi の「終戦記念日付近であの時代を考えてみる企画」(← いつから企画になったんだ???っていう感じでしょうか?  でも、ブログでエントリーを書くという形ではお初っぽいかもしれませんが、一応 KiKi の年間スケジュールとしてはこれってもう何年も続いている恒例企画なのです 笑)は一旦ここで終了です。  ま、てなわけで本日の KiKi の読了本はこちらです。

ぼんぼん
著:今江祥智  岩波少年文庫

41wShbIId6L__SL500_AA300_.jpeg (Amazon)

洋が小学3年生の年、突然おとうちゃんがたおれた。  そして、戦争がはじまった。  軍国主義の波にもまれながらも、ほのかな恋心にめざめる少年の成長を、元やくざの佐脇さんが見守る。  大阪弁にのせて、人間の真実にせまる作者の代表作。  (文庫本裏表紙より転載)

う~ん、この本は凄い!!  戦時中の話だからめちゃめちゃ暗いかと言えばそんなことはなく、あの時代の市井の人たちの暮らしぶり(とは言え、タイトルからもわかるように、どちらかというと裕福な家の子の話だけど)や、時代の空気感はちゃ~んと伝わってくるし、そして最後の最後で大阪空襲の悲惨さもきっちりと描かれていて、時に笑い、時にハラハラし、時にじ~んとくるといった感じで、物語の世界にぐいぐい引き込まれながら読み進めることができました。

構成もものすご~く凝っていると思うんですよね。  物語冒頭は昭和16年、主人公の小松洋(小学4年生)は中1のお兄ちゃん洋次郎に連れて行ってもらったプラネタリウムで、10万年後には北極星が北にはないことを知るというエピソードで始まります。  でね、これは彼らにとっては大問題なんですよ。  だって、学校では北極星は必ず北にあると教えられてきたのですから。  この日、2人の兄弟は「この世に確かなもの、永遠に変わらないものなど実はないらしい。」ことを知るんです。  とは言うものの、それはすぐ先にあることではなくて10万年後のことだから、まあいいかと一時は思うんですけど、その直後に父親が病没し、それを追うように祖母も亡くなります。  そしてその年の暮れには日本は米英との戦争に突入します。  

でも、それは最初のうちは、どこか遠くの場所で行われている出来事なので、洋君一家の生活をさほど脅かすことはありません。  まして、大本営の発表だけを聞いていれば(そして実際もそうなんだけど)洋君が大好きな相撲取りのいる部屋の力士が連戦連勝しているのと同じく、日本は勝ちっぱなしなのですから。  でも、少しずつ何かが変わり始めます。  まずはお兄ちゃんの雰囲気が変わり、ノートの紙質が悪くなり、食糧が乏しくなり、人びとの笑顔が少なくなり、最後には大阪大空襲で家も町もなくなってしまうんです。  でもね、そこに至るまで洋君は実に生き生きと生活しているんですよ。  まあ、洋君が生き生きとしていられるのは「みごとに堅気の人ではない」佐脇さんという大人の男の人が同居していて、大きな翼で彼ら母子家族を影に日向に見守ってくれているから・・・・・というのが大きいんですけどね。  

俗に言う戦争文学であるにも関わらずどことなく明るいのは、語り口にもあると思うんです。  この物語の大半は大阪弁で語られているんですけど、ポンポン機関銃のように飛び出してくる大阪弁じゃなくて、どことなくのほほんとしているんですよ。  で、ついでに洋君がけっこう飄々とした男の子なので、どこかちょっととぼけているというか、トンチンカンというか、そんなところのある子なんです。  で、もっと言えばこの洋君、未だに「男」ではなくて「男の子」だもんだから、あの時代にあってしてもプチ恋愛というか、女の子との触れあいを必要以上に避けようと不自然になるわけでもなく、かといってませているわけでもなく、何とも自然体・・・・というか、不器用というか、微笑ましいというか・・・・・(笑)

 

KiKi がこの物語を楽しく読むことができた別の理由はお兄ちゃんの洋次郎君にあります。  実はこの洋次郎君、クラシック音楽の大ファンなんです。  あの時代にレコードを898枚も持っていたんです!!  で、物語のそこかしこで彼は Victor の電蓄でこれを聴くんですよ。  まあ、時代が時代なので基本的にドイツ音楽ばかりなんですけどね。  で、この洋次郎君が大阪大空襲の日に選びに選んで運び出したレコードがワーグナー!!!!  きっと「リング」だろうなぁと思うとなんだかとっても嬉しい♪  もっとも逃亡中に落としちゃいけないとばかりに必死で運んでいるので、結果的に全部割れちゃうんですけど・・・・・。  

でね、大阪大空襲よりもっと前にあるオーケストラの定期演奏会の記述があったりするんですけど、それが切実と言えば切実、おかしいと言えばおかしいんです。  ちょっと引用してみると

同じ日、洋次郎は洋楽気狂い(ファン)の友人山本から、面白くないニュースを聞いて、よけいにくさっていた。  昨日の日響の定期演奏会では、楽団員全員国民服を着ていたというのだ。  白と黒の整然たる美しさのオーケストラは、もう見られなくなったのだ。  カーキ色の、兵隊服よりも少しやすもののカレー粉に似た色のオーケストラのメンバー。  そいつを想像すると、洋次郎はそれこそ本物のインド・カレーを食べたときのように、のどがいがらっぽくなってしまった。  カレー粉色の人間が演奏するベートーベン。  帰ってレコードを聴いても、以前のようなオーケストラの像が消え、カレー・ライスが動いているような気がしてしまうのである

ね、この時代の閉塞感を表している1つのわかりやすいエピソードだとは思うんだけど、それで眉をひそめちゃうかって言われると、ちょっと迷っちゃうような描写でしょう???

それからもう1つ、KiKi が思わずクスっと笑っちゃったのは以下のくだりです。  当時の国民学校では折にふれ勅語奉読という教育勅語や別の勅語が校長先生によって語られるのを直立不動で静かに聞いていなくちゃいけないんだけど、その時に洋君が考えていることなんです。

(カタカナ表記の勅語の朗詠の後)  意味がわからなかった。  けれど、勅語というのは天皇陛下のお言葉で、天皇陛下は神様だったから、人間に、まして子どもに、神様の言葉がわかるはずがない・・・・・

ここでクスッと笑っちゃったりしたら、あの時代だったら「非国民扱い」されちゃうところだけど、何だかこの洋君に親近感が湧いてくるエピソードだと思いませんか??

まあ、そんな感じで、何とも素朴な子どもらしい素直な反応を楽しんだり、人間社会の暗さに比して何も変わらない美しい自然の描写やらを堪能しながら読み進めていくと最後の最後にものすご~く辛いシーンを迎えるんですよ。  それは、大阪大空襲で逃げ惑う洋君たちの姿ではなく、その空襲の翌日に自分たちの家(のあったところ)を見に行く途中で起こる出来事なんだけど、これが半端じゃなく辛い!!!

それは撃墜された B-29 の墜落現場。  ほとんどもとの形を残していない B-29 の残骸に向かって多くの人たちが大声でののしったり、鉄の棒でつついたりしているんだけど、実はそこには機体だけではなく何人にも踏みにじられ、焼け焦げた真っ黒なものあって、実はそれは堕ちた米機の搭乗員さんの遺体なんです。  で、あたりには人の焼けた鼻にまとわりつく匂いが充満していて、それだけでも気分が悪いのに、家を焼け出され住み慣れた町を焼き尽くされた人たちがその遺体を踏んづけながら罵声を浴びせているんです。  挙句、洋君にどこかのご隠居さんに見える年寄りが声をかけて言うんです。

ぼん。  そこのぼん。  ぼんも、行かんかい。  蹴とばしたらんかいな。  うちの孫を焼き殺しよった、にくい鬼畜生や。

で、あまりのことに吐き気をもよおし、それでも吐くことができずつばの塊しか出なかった洋君に重ねて言うんです。

つばかけたったんか、ようやった、ぼん・・・・・。

で、それで終わるわけじゃなくて、血の気がひいてちゃんと立っていることができなくなった洋君が飛行機の残骸にしがみつくとさらに言うんです。

よっしゃ、今度はそいつをこわしたるのンやな。  しっかり行かんかい。 ぼん!

このご老人の気持ちがわからないわけじゃない。  たった一晩で家も、町も、孫も、何もかもをなくした辛さ、恨みは半端なものじゃないこともよくわかる。  でもね・・・・・。

ようやく洋君をその場から助け出した佐脇さんの言葉が胸に痛い・・・・・。

えらいもん見てしまいはったんだす。  地獄だす。

KiKi の母は戦時中に東京大空襲で焼け出された経験の持ち主です。  子供時代に何度か空襲の凄さ、その時の恐怖、空襲の翌日に町中に漂う匂い等々についての話を聞いたことがあります。  その時も背筋がぞっとしたけれど、今回、この物語で大阪大空襲の日からその次の日の描写を読んだときはその時以上の寒気が KiKi を襲いました。

そしてもう1つ、あんなに優しくて、ユーモアのセンスもあって、子供の気持ちがよくわかって、元ヤクザの割には時代を見抜く目を持っていた佐脇さんのその後の災難の話があまりにも痛ましいんですよ。  山田太一さんの「あとがき」によれば、この著者の次の作品「兄貴」というのに詳細が書かれているらしい・・・・・。  

この本を手にするまでこの著者の本は読んだことがなかったのですが(お名前は見たことがあるんだけど、どこでだったか思い出せない・・・・ ^^;)、

『ぼんぼん』 児童文学者協会賞
『兄貴』 野間児童文芸賞
『「ぼんぼん」「兄貴」「おれたちのおふくろ」「牧歌」の自分4史』 路傍の石文学賞

という児童文学の作家さんだとのこと。  今後、この方の作品をいくつか読んでみたいなぁと思わせるに十分な感銘を受けた1冊でした。

 

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このページは、KiKi (Brunnhilde)が2010年8月30日 19:16に書いたブログ記事です。

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