針さしの物語 ド・モーガン

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KiKi がまだ小学校低学年の生徒だった頃、図書館で本を選ぶときの選考基準(?)の1つは、表紙や扉絵の絵柄でした。  当然のことながら作者本人だとか、その作者の国籍だとか、どの時代に生きた人だったのかだとかということにはまったく興味がなく、表紙や扉絵がどれだけワクワクさせてくれるか?というのが重要なポイントだったのです。  まず最初に表紙や扉絵で10冊が3冊まで絞り込まれ、次に裏表紙や見開きページに印刷されたコメント(KiKi がよく本の紹介の下に「○○本裏表紙より転載」と書いているアレ)を読んで2冊に絞り込み、後はまあその日のインスピレーション次第・・・・・・(笑)  まあ、そんな感じでした。  本日の KiKi の読了本は当時の KiKi だったら1発で10冊からこの1冊に絞り込んじゃっただろう素敵な表紙絵 & 挿絵の1冊です。

針さしの物語
著:ド・モーガン 訳:矢川澄子  岩波少年文庫

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美しさを鼻にかけて妖精たちの怒りを買い、鏡にも水にも自分のすがたを映せなくなった娘の話「みえっぱりのラモーナ」。  きゅうくつなお城の生活にいやけがさして逃げだしたお姫さまと、身代りの姫をめぐる話「おもちゃのお姫さま」。  地までとどく自慢の髪をすべて失った王妃のふしぎな話「髪の木」など、クラシックで幻想的な短編集。  (文庫本扉より転載)

メアリ・ド・モーガンは「お話し上手な女性」として多くの作家や芸術家にインスピレーションを与えた女性だったようなのですが、いわゆる完成された書物(出版された形で残された彼女の作品集)としては、今日ご紹介する「針さしの物語」と近々ご紹介することになる「フィオリモンド姫の首かざり」と「風の妖精たち」のみで、その3冊すべてが現在市販されているバージョンの岩波少年文庫よりも1世代前のバージョンのラインナップでは読むことができました。  (現在は「風の妖精たち」のみです。)

とってもクラシカルな雰囲気にあふれた短編集で、読みやすいと思うのですが、現在のバージョンでは3冊のうち1冊しか残っていないというのは、やっぱり「イマドキは流行らない物語」っていうことなのかなぁ???  個人的には超有名な「アンデルセン童話集」や「グリム童話集」「ペロー童話集」などと全く遜色が無いと思うんですけどねぇ~。  否、遜色がないと言うよりは、その系列にありながらもどこかに「ちょっと違う何か」が感じられる作品集のように思うのです。  なんて言うか、西洋の童話的なモチーフに寄り添いながらも、一種独特の雰囲気を持っているとでも言いましょうか??

 

だいたい物語のベースになっている前提条件が針さしに刺されたきり、その存在を忘れかけられているブローチや留め針なんかが、「昔はよかった・・・・・」と思いながら、出番がこない暇つぶしに色々なことを語り始めるという何とも楽しい設定なんですよ。  で、ここに収録されているお話はすべて、そのブローチや留め針が見聞きしてきた物語ということになっているんです。  KiKi なんぞはその設定だけでも何となく空想力がクルクルと回り始めちゃうんですよね~。

例えば家の大掃除をしていて、思わぬところから思わぬもの(その存在を忘れかけていたもの)がひょっこり出てきて、夕方までに掃除を終わらせなくちゃいけないことがわかってはいるんだけど、思わずそれを見つめながら「ああ、これは○年前にはお世話になったなぁ。  あの頃はこんなことがあったっけ。  うん??  こんなことと言えば△△な~んていうものが当時はあったよなぁ。  あれはどこにあったっけ???」みたいな感じで、ありとあらゆることを思い出しながら「思い出の世界」にどっぷり浸り、ふと気がつくと床中がどこから出てきたかよくわからないモノで溢れている・・・・・な~んていうことがあったりするじゃないですか。  古いもの、それもかつては出番が多かったけれど、今では使わなくなってしまって、それを持っていることさえ忘れ去っていたものっていうのは人の心に「何かを訴え」、そのものにまつわる「物語」をクリアに思い出させる(場合によっては美化さえする)のにはうってつけの小道具だと思うんですよね。

で、それが「針さしに刺された針系のもの」というのが、何とも心憎いと思うのです。  KiKi がお裁縫箱の蓋をボタンつけ以外では開けなくなっちゃって久しいけれど(^^;)、昔は女性の針仕事とお喋りっていうのは切っても切れないお友だちだったと思うんですよね。  たとえば「アーサー王の物語」でも王妃グゥイネヴィアが女官たちと針仕事をしながらおしゃべりをしているシーンがあったし、ワーグナーのオペラ「さまよえるオランダ人」でも冒頭あたりで、女性たちは針仕事をしながら「悪魔に魅入られて永遠の時をさすらっているオランダ人に夢中な女の子」の心配をしていたし、あの名画「風と共に去りぬ」ではアシュレーが大怪我を負ってレッドに助けられた晩、女性たちは針仕事をしながら集まっていたし・・・・・。  その女性たちとあまりにも近しい針さしに刺されたきり忘れられた存在になっちゃったものたちの語る物語というだけで、KiKi としては「つかみはOK」って言う感じなのです(笑)

収録されている物語はざっと以下のような感じです。

みえっぱりのラモーナ
愛の種
オパールの話
シグフリドとハンダ
髪の木
おもちゃのお姫さま
炎のかなたに

「みえっぱりのラモーナ」はギリシャ神話の「ナルキッソスのお話」にもちょっと似ているけれど、途中からグリム風。  「愛の種」と「シフグフリドとハンダ」はこれがそのままグリムに挿入されていても違和感がないような物語。  「オパールの話」と「炎のかなたに」はどことなく類似性があって(方や同じ時間帯に現れることがほとんどない「月の妖精」と「太陽の妖精」の恋物語、方や両立することがちょっと難しい「水の王子」と「火の王女」の恋物語)、でも片方は悲恋、片方はめでたしめでたしという感じで楽しい物語。  「髪の木」は可哀相ではあるんだけどちょっとお友だちにはなれないような王妃様のためにジークフリートも顔負けの冒険をしてくるルパートに感情移入できちゃう物語。  

でね、一番、ド・モーガンらしさ・・・・というか、オリジナリティを感じられるのが「おもちゃのお姫さま」なんです。  感情を表に出さない(笑わない、怒らない、気持ちを語らない)事が美徳とされているお城に生まれた、天真爛漫な性格のお姫さまが辛い思いで暮らしていたんだけど、それを見た妖精が、「どうぞ」「いいえ」「はい」「たしかに」の4つの言葉しか話す事の出来ない、本物そっくりでちゃんと年とともに成長する「おもちゃのお姫さま」を魔法使いに作らせて身代わりに置いて、本物のお姫さまは海辺の家にかくまうんです。  でね、彼女のオリジナリティを強く感じるのは、その本物のお姫さまが幸せになるのはまあ良いとして、城で暮らす王さまも重臣も侍女たちも、みんながその「おもちゃのお姫さま」を頂いて幸せに暮らすっていうところなんです。  

まあ、その「おもちゃのお姫さま」を本物だと思っているうちはそれもアリだとは思うんだけど、これらのことを画策した妖精の手によって「おもちゃのお姫さま」がおもちゃであることを証明された(ここが結構シュールな描写なんですよね~)後であってさえも、満足して相変わらず感情を表に出さないことだけを頑なに守り続けるんですよ。  KiKi なんかの馴染みの童話であれば、「おもちゃのお姫さま」がおもちゃであることに気がついた段階で、お城の人たちの目が覚めるか、そうでなければお城の人たちにとんでもないしっぺ返しがあって、「本物のお姫さま」は幸せになって(しかもそれはお城に帰らなくちゃいけない)めでたし、めでたしとなるはずなのに、「本物のお姫さま」は海辺で普通の漁師のおかみさんみたいになって幸せ、お城の人たちは「おもちゃのお姫さま」に満足して幸せという何とも不思議な終わり方をするんです。

「あなただったらどっちがいい?」と聞かれているみたいであるのと同時に、「おもちゃのお姫さま」を満足げにおしいだき、「王位継承」の準備まで始めちゃう人たちの姿に、何とも退廃的なものを感じるんですよね~。 

因みにこの本、KiKi を惹き付けた表紙の絵や挿絵を著者のお兄さんが描いています。  訳者の矢川さんのあとがきによれば、このお兄さんは「画家」「小説家」としても有名な方だったらしいのですが、装飾タイルの製造販売で名を挙げた方なのだそうで、彼のお店「モーガン商会」の大得意に「不思議な国のアリス」を書いたルイス・キャロルがいたのだそうです。  これらの絵をパラパラと見返すだけでも何だかワクワク・ドキドキしてくる素敵な本だと思います。  う~ん、どうしてこういう本がラインナップから外れちゃったのか・・・・・残念な限りです。

 

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このページは、KiKi (Brunnhilde)が2010年9月 1日 09:01に書いたブログ記事です。

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