黒馬物語 シュウエル

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今日も現在絶版中の岩波少年文庫の1冊を読みました。  この本は KiKi にとって懐かしい1冊です。

黒馬物語
著:A.シュウエル 訳:土井すぎの  岩波少年文庫

2010_Sep03_001.JPG (Amazon)

つややかな美しい毛なみをもつ黒馬が、生まれ育った牧場やなつかしい母親のもとを離れて、ひろい世の中で体験したさまざまな出来事を語ります。  馬をこよなく愛した作者が熱い思いをこめて、人生のよろこびと悲しみ、愛と真実をつづった感動的な物語。  (文庫本扉より転載)

この物語を初めて読んだとき、KiKi はびっくりしたのです。  と言うのも、「馬の自叙伝」っていう感じで、とことん馬目線になって、馬の言葉(と言っても当然それは人間言葉 ^^; なんだけど、要するに1人称が馬なんです。)で書いている物語なんですよ。  でもね、物語冒頭が「わたしが~」で始まっているんだけど、最初は「わたし≒馬」とは思えなくて、そのすぐ後に「小さい頃は草が食べられないので」と出てきたとき、「え?  く、草??  そりゃ大きくなったって食べられなさそう・・・・」とまず思って、次に「あ、ひょっとして わたし≒馬 だったの?」って思って、もう一度冒頭に戻って読み直しちゃった・・・・・  そんな思い出があります。(苦笑)

いかに当時の KiKi が鈍感であったとしても、冒頭の文章が馬っぽい(?)、いかにも馬が言いそうな(?)、凡そ人間とはかけ離れた感性で何かを語っているのであれば、さすがの KiKi も「わたし≒馬」という公式がすんなりと頭に刷り込まれたと思うんだけど、そうじゃないところがこの物語の吸引力に大きな貢献をしていると思うんですよ。  物語最初の一文を引用してみるとこんな感じです。

わたしがよくおぼえている、さいしょの場所は、きれいにすみきった池のある、ひろびろとした、気持ちのいい牧場でした。  茂った木が何本か、池の上にしだれるように立っていて、池の深いほうには、トウシン草やスイレンが生えていました。  牧場の生け垣のむこうは、一方に、耕した畑が見え、反対側に、木戸をこえて、主人の家が見えました。  そして、家のわきには、道がとおっていました。 ・・・・・・・・

ま、こんな感じです。  ね、凡そこの文章から「わたし≒馬」という公式がすぐに成立するとは考えられないと思いませんか?  でもね、そうであるだけに、まだ幼かった KiKi にも「馬にも人と同じように気持ちというものがある」ということだけは、感覚的につかむことができたような気がするんですよ。

 

KiKi がこの本を手に取ったのは、当時 KiKi が実家の近くにある「乗馬クラブ」で乗馬を習い始めていたということがきっかけだったんだけど、最初のうちは大きな馬が怖くて、実はかなり優しい目をしている馬にチョロっと見られただけで足がすくんじゃって、萎縮している乗り手を馬は馬鹿にして、馬鹿にされていることが伝わってくると KiKi はますます萎縮するという負のスパイラルに陥っていた時、馬場のトレーナーの先生が「読んでごらん。」と薦めてくれたのです。  「馬が怖い」と思っている自分の気持ちにしか目が向いていなかった KiKi に「馬の方は KiKi のことをどう思っている?」という馬の気持ちを考えるきっかけを作ってくれた本でした。

まあ、当時の日本とこの物語が書かれた1870年代のイギリスでは状況があまりにも違うし、この物語の「ブラック・ビューティー(主人公の馬の名前)」たちは人間のために動力として働かされていた(しかも必ずしも恵まれているとはいえない環境で!)のに対し、KiKi はいわゆる「娯楽」のために乗馬体験をしていたわけで、半分は物語執筆当時のイギリスの風物に対する物珍しさで読み進めていったようなところもあるんだけど、それでもやっぱり強く印象に残ったのは「馬の気持ち」でした。

この物語がきっかけとなって「馬の待遇改善」みたいな社会運動があって、現代に至っているらしいんだけど、そんなことはさておき、もっと素朴に「他者の気持ちを斟酌する」ということの本質は、「自分に置き換えて考える」ということだというのがヒシヒシと伝わってくる名著だと思います。

ブラック・ビューティーは様々な飼い主のところを転々として、その過程では悲しくなるような出来事にもいくつも遭遇するんだけど、基本的には「穏やかな気持ち」で過ごすことができているということが救いだし、そんな素直な性格が「恵まれていた子馬時代」にあるというのが印象的です。

この物語の中でいわゆる「流行」のためだったり、「ショーアップ」のために犬の尾っぽや耳を切る行為についても言及されているんだけど、

人間は、いつだって、自然を改良したり、神様のおつくりになったものを改良したりできると思ってるんだからね。

という「馬の言葉」は多くの示唆に富んでいると思います。  そう、改良と言えば聞こえがいいけれど、それが本当に改良なのかどうかをきちんと考える癖だけはつけたいなぁ・・・・・と。  少なくとも「流行」というやつは、必ずしも本質・本分とはかけ離れたところで形作られることがあるということだけは、普遍的な事実として認識する必要があるなぁと改めて感じました。

そしてもう一つ。  今回、この本を再読してみて KiKi が大きく頷いてしまったこと。  それはこの物語の主題とはちょっとだけ離れるかもしれないけれど、馬丁修業が始まったばかりの1人の少年が大労働をした後のブラック・ビューティーの扱い方を悪意なく間違えて、病気にしてしまった際にベテラン馬丁が思わず口にする以下のセリフです。

知らないってのは、この世の中じゃ、悪意の次に悪いことだってことを、おまえ、知らないのかね?  そしてどっちの方が害があるかは、ちょっとわからないんだ。  世間のやつらは、「まあ、存じませんでした。  ちっとも悪気でしたことではございません。」なんて言えば、それですむと思っているんだ。

KiKi はね、これを仕事をしている中で実感したことがあります。  KiKi がまだ落ちこぼれながら会計人だった頃、某社で仕事をしている中で何度も「知らない」「わからない」「できない」という発言を耳にしました。  まるでそれが免罪符ででもあるかのように、連発する人達がいたんですよ。  で、要するに面倒くさい仕事はこの3種の神器を振りかざさない人間が常に負う・・・・・・。  当時の KiKi は思ったものでした。  本来、「知らない」というのは少なくとも威張れることではないはずなのに、それがこんな風に大手を振ってまかり通るなんて世も末だなぁ・・・・・と。  人間社会の中で最強の拒絶の言葉は「イヤだ」だと KiKi はず~っと思ってきたけれど、実は「知らない」「わからない」「できない」の3つなんだなぁ・・・・・と。

この物語の著者は敬虔なキリスト教信者だったということで、キリスト教的な倫理観が全体を覆っているのは否めない(だから・・・・と言うことでまあ、悪く言えばちょっと抹香くさいというか、説教くさいところもあったりする)けれど、人間ではなく馬が、しかも当時の社会では弱者の代表のような存在が、それを語るという形をとっているので、比較的スンナリと読み進めることができます。

決して派手さのない地味~な物語の代表かもしれないけれど、こういう良書が売れないというのもちょっと淋しいなぁ。  こういう物語を読まずに大人になると、今で言う「Monster Parents」とか「幼児虐待をする親」とか「動物虐待をする人間」になっちゃうんじゃないかと思うんだけどなぁ・・・・・。   

  

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このページは、KiKi (Brunnhilde)が2010年9月 3日 08:53に書いたブログ記事です。

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