雪 中谷宇吉郎

| コメント(0) | トラックバック(0)

さて、今日から少しずつ、少しずつ、読書カテゴリーの中の新企画、「松岡正剛千夜千冊フォロー」の読書にも着手していきたいと思います。  これに着手するにあたって KiKi は1つのルールを設定することにしました。  そのルールの基本線は既に持っている本はともかくとして、それ以外に関しては原則として図書館から借りることとします。  もっとも KiKi にとってアクセスのよい図書館にも蔵書されていない本も紹介されているようなので、その場合にはよほど KiKi 自身がそのタイトルに興味を持てない本に関しては無視(笑)することにします。  もしもそのタイトルが「うんうん、これは KiKi と相性がいいような気がする・・・・」と思える本だった場合には単価 2,000 円を上限とし、それ以下で入手できそうだった場合には購入を検討、そうでなければやはり無視することにします。  敢えてこんなルールを設定したのは、こういう企画ものは下手をすると追いかけることに夢中になるあまり、冊数をこなすことに躍起になったり、字面を眺めて満足したり、あたかも蔵書コレクターになったかのように並べて満足・・・・みたいなことに陥りがちだと思うからです。  

ま、てなわけで本日の KiKi の読了本は千夜千冊の第1夜です。

松岡正剛千夜千冊 第1夜

著:中谷宇吉郎  岩波文庫

51YWFSQGAZL__SL500_AA300_.jpeg (Amazon)

天然雪の研究から出発し、やがて世界に先駆けて人工雪の実験に成功して雪の結晶の生成条件を明らかにするまでを懇切に語る。  その語り口には、科学の研究とはどんなものかを知って欲しいという「雪博士」中谷の熱い想いがみなぎっている。  岩波新書創刊いらいのロングセラーを岩波文庫の一冊としておとどけする。   (文庫本表紙より転載)

KiKi は静岡県の出身なのですが、幸せなことに子供の頃からスキーに親しむ機会を与えられていました。  両親、特に KiKi の父親はいわゆる「遊園地」のようなところにはあまり連れて行ってくれたことがないのですが、自然相手のレジャーに関してはかなり理解があって(というより本人が好きで? 笑)、釣り、トローリング、スキーといったレジャーに関してはかなりの頻度で KiKi を連れて行ってくれました。  

もっともイマドキのファッショナブルなレジャー・スタイルとは大きな違いがあって、例えばトローリングであれば決してカッコいいレジャーボートではなくゴムボートに船外機をつけただけの船を両親が交代で操縦して・・・というものだったし、例えばスキーであれば、スキーの板もストックも靴もすべてを知り合いや親戚からおさがりを譲っていただき、ウェアに関してはそれ専用に開発されたスキーウェアではなく、ウールタイツの上に厚手の冬物のズボン、上はウールの徳利セーターの上に冬物ジャンパー。  スキーを始めるにあたり新規で購入したのはレザー手袋のみ・・・・というスタイルでしたけどね ^^;  

でも、KiKi がスキーを始めたばかりの小学校低学年の時代であってさえも、人工降雪機なるものが既に開発されていて、イマドキのそれよりも雪質に問題はあったものの、静岡県から比較的アクセスのよいエリアのスキー場では天候の具合によってはそれが大活躍をしていた時代でした。  教育者だった父はスキー場に行くたびに、KiKi にその日の雪を握らせ、「今日の雪は○○な感じがするね。」「今日の雪は××な感じがするね。」なんていう風に感想を言い合いながら「雪」という物質を子供の KiKi に肌で感じさせようとしていました。

KiKi が初めて雪の結晶の写真を見たのはそれからずっと後のことで、その美しさに驚愕すると共に、あんなに何度も触ったことのある雪だったのにそれを顕微鏡で、否、虫眼鏡で見てみようとさえ思わなかった自分が何だかとってももったいない忘れ物をしていたことに気がつかされ、愕然としたことを覚えています。

 

本書はそんな KiKi とは正反対、「雪の研究」にほぼその一生をかけた物理学者の随筆風の読み物で、KiKi がこの本(但し当時は岩波新書)を初めて手に取ったのは大学生になってからでした。  旧仮名遣いで記された本だったので若干読むのに難儀したものでしたが、それでも「大学生ならこれぐらいでへこたれてどうする!」という気概と、当時の KiKi が「スキーフリークだった」ので純粋に雪そのものに対する興味があり、何とか読み通すことができました。  その本は大学の図書館で借りたものだったので KiKi の蔵書にこの本は入っていなかったのですが、先日、この本の著者中谷博士の恩師である寺田寅彦の「科学と科学者のはなし」を読んだ際に、寺田寅彦その人に魅了され、同じ岩波文庫の「寺田寅彦随筆集 5冊セット」を購入した際に、同時に買い求め、今では KiKi の蔵書の1冊となっていました。

現代仮名遣いに再編された本書はとても読みやすく、ぐいぐい惹き付けられながらあっという間に読み進めることができました。  もっとも以前の読書と今回の読書でもっとも違うことは、そういう文章の書かれている字体の違いもさることながら、KiKi 自身の「雪」に対する姿勢の違い・・・・みたいなものがあるように感じました。  冒頭で紹介されている「北越雪譜」に書かれている「雪」に関する描写の部分が、以前の KiKi にとってはさらっと読み飛ばす場所だったのが、実感を伴っている・・・・とでも言いましょうか。

過去において KiKi と雪との関わりは「スキーヤーにとっての雪」(遊びの対象物)であったか、「都会人にとっての雪」(その美しさを愛でる対象物)であったに過ぎなかったのが、Lothlórien_山小舎を構えて雪に閉ざされる経験を経ている KiKi にとっては、「損害をもたらす雪」も「資源としての雪」も、ある意味で以前よりは切実なものとなっているのです。  それでもLothlórien_山小舎のある地域の降雪量なんていうものは新潟・北陸エリアや北海道エリアと比べると大人と子供ぐらいの差があるわけですから、まだまだ「甘ちゃん認識」の域を出ていないのですけどね。

この本の読みやすさの1つは中谷博士の実験がある意味でとても原始的な方法によっていることにもあるような気がします。  とかく最先端の理系の研究を表した書物は「専門家でなければ理解できない複雑な理論や関数」に溢れ、実験装置も高額で技術の粋を極め(≒ 素人にはその装置の構造そのものが理解できない)、実験手法も素人には複雑怪奇に過ぎて完璧にお手上げ状態・・・・となってしまうものが多いのに対し、昭和10年代という時代・・・・ということもあるのでしょうけれど、中谷博士のこの研究はある意味で素人にもイメージしやすいものだと思うんですよね。  考えの進め方(≒ 理論構築)に関しても難しい部分を廃して書かれているということもあるのでしょうけれど、あまり俗世からかけ離れすぎた理屈ではないがために「なるほど、なるほど。  ふんふん♪  へぇ~、そうか!  そういう風に考えていくんだ!」とスンナリついていける気にさせてくれちゃっているところがあるように思います。

中谷博士がヨーロッパ留学を終え、現在の北大の助教授として赴任される際に、恩師である寺田博士に

「君、新しい所へ行っても、研究費が足りないから研究ができないということと、雑用が多くて仕事ができないということは決して言わないようにしたまえ。」

と諭され、それまで研究されていたテーマを北大で引き続き追求するのが環境的に困難だったので、ある意味手慰みに始めたのがこの「雪の研究」だったという経緯があるらしいのですが、まさにその研究者にとってはある種のマイナス面だったところが、かえってこの本にとっつきやすさを与えているのは面白いことだなぁ・・・・と思うんですよね。  まあ、往々にしてどんな分野でもそのパイオニアの考えることは案外親しみやすい発想から出ているものだとは思うんですけど・・・・・。

雪の結晶の観察による分類の話も面白ければ、今ではおなじみの「人工雪」を作る話も面白いけれど、もっと面白かったのは「附記」や「解説」で触れられている「中谷以降の雪研究」に関する記述です。  その後の研究の過程で一度は「ナカヤ・ダイヤグラム(≒ 雪の生成と温度 & 水蒸気量の関係を視覚化・数値化したもの)」が1度は覆されかけたものの、結果的には現段階では「ナカヤ・ダイヤグラム」が正とされているという話などは、多くのことを考えさせられます。

十勝岳へ出かける度に、毎日のように顕微鏡で雪を覗き暮らしているうちにも、これほど美しいものが文字通り無数にあってしかも殆ど誰の目にも止まらずに消えてゆくのが勿体ないような気が始終していた。  そして実験室の中で何時でもこのような結晶が自由に出来たなら、雪の成因の研究などという問題を離れても随分楽しいものであろうと考えていた。  (本文より転載)

中谷や福田は、雲の中を落下する雪の結晶の成長を再現することをめざして装置をつくったのに対して、メイソン、小林たち(ナカヤ・ダイグラム否定の理論を検討していた人たち)の装置では、物に付着して成長する霜の結晶に近いような条件が加わっていたために、樹枝状結晶の成長範囲に違いが生じたと考えられる。  (解説より転載)

中谷の没後で、メイソンたちが華々しく研究成果を発表していた頃、(国際クモ物理学会議の)懇談会で、久しぶりに花島に会った私が「先生、雪の結晶の研究も、ずいぶん進んだものでしょう」と問いかけると、花島は笑って、「そうかなあ、結晶を空中に浮かべて成長させなければ、駄目だよ」と答えた。  (解説より転載)

雪を研究する・・・・と一言で言っても「降り積もった雪を研究する」のと「降っている真っ最中の雪を研究する」のでは大きな差があるんですねぇ・・・・。  

img_research03.gif 

今回の読書で身近なモノ・現象を乗り越えるために、その本質を調べ、それを知恵によって何とか解決もしくは有用しようと努力する先人の姿勢の一例をつぶさに見ることにより、既に与えられたものを享受するためのカネを稼ぐことのみに邁進してきているわが身を振り返るひとつのいいきっかけをもらったような気分なのですが、それが決して自虐的な雰囲気にならず、何となく清々しく感じられるのはどうしてなんだろう??  それはやっぱり雪の結晶の美しさに助けられている・・・・ということもあるのかもしれません。

images.jpeg

今年の冬は KiKi もLothlórien_山小舎で雪の観察でもしてみようかな♪  

ま、そんなことを言っていられるのは、今がたまたま気候のよい時期で、相も変わらず雪を美しいイメージで捉えているからなんですけどね(苦笑)  

このように考えれば雪の結晶は、天から送られた手紙であるということができる。  そして、その中の文句は結晶の形及び模様という暗号で書かれているのである。  その暗号を読み解く仕事が即ち人工雪の研究であるということもできるのである。

なんとも詩的で美しい文章だけど、これに騙されちゃいけません!!  極寒の地で雪を観察するなんていう酔狂な真似はよほどの充実した体力と、その対象物に対する熱意がなければ、おいそれとできるもんじゃありませんから!!(笑)

 

トラックバック(0)

トラックバックURL: http://poco-a-poco.chu.jp/mt/mt-tb.cgi/727

コメントする

2015年2月

1 2 3 4 5 6 7
8 9 10 11 12 13 14
15 16 17 18 19 20 21
22 23 24 25 26 27 28

Current Moon

CURRENT MOON

東京のお天気


山小舎のお天気


Booklog



ブクログ

アーカイブ

ウェブページ

Powered by Movable Type 4.261

TrackbackPeople

クラシック・ピープルの Trackback People Site


チェロ ラヴァーズの Trackback People Site


Piano~ぴあの Trackback People Site


ピアノオススメ教本の Trackback People Site


ピアノ教室の Trackback People Site


Book Love Peopleの Trackback People Site


本好きPeople・ぴーぷるの Trackback People Site


今日読んだ本の Trackback People Site


ファンタジーが好き♪の Trackback People Site


この絵本がすごい!の Tackback People Site


児童書大好き♪の Trackback People Site


ハヤカワepi文庫の Trackback People Site


岩波少年文庫応援団の Trackback People Site


薪ストーブの Trackback People Site


週末は田舎暮らしの Trackback People Site


野菜育てPeopleの Trackback People Site


ガーデニングの Trackback People Site


パッチワークキルトの Trackback People Site


あなたの訪問は?


日めくりカレンダー


Real Time News


カテゴリ

ノルンはいくつ?

本が好き!


読書メーター

KiKiさんの読書メーター
KiKiさんの読書メーター

最近読んだ本

KiKiの最近読んだ本

今読んでいる本

KiKiの今読んでる本

読了目標





今やってるゲーム

KiKiの今やってるゲーム

このブログ記事について

このページは、KiKi (Brunnhilde)が2010年10月 2日 13:19に書いたブログ記事です。

ひとつ前のブログ記事は「2010年9月の読書 読書メーター」です。

次のブログ記事は「ペガーナの神々 ロード・ダンセイニ」です。

最近のコンテンツはインデックスページで見られます。過去に書かれたものはアーカイブのページで見られます。

高速運賃





Edita

ブロガー(ブログ)交流空間 エディタコミュニティ

名言黒板


作家別タグ