山椒魚 しびれ池のカモ 井伏鱒二

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夏目漱石、芥川龍之介と読み進めてきたら、何だか無性に日本文学@岩波少年文庫を読み進めたくなってきてしまった KiKi。  こうなったら、もうあと何冊かはこの路線で突っ走ってみようかなと思います。  ま、てなわけで本日の KiKi の読了本はこちらです。

山椒魚 しびれ池のカモ
著:井伏鱒二  岩波少年文庫

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岩穴に閉じ込められた山椒魚の心の動きを描く「山椒魚」、はく製作りの名人と弟子の少年がまきこまれる騒動「しびれ池のカモ」のほか、「おコマさん」「屋根の上のサワン」を収録。  人間と動物への鋭い眼差しと、ユーモアに満ちた短編集。  (文庫本裏表紙より転載)

井伏鱒二と言えば、本日の読了本の「山椒魚」、そして「黒い雨」。  そして「ドリトル先生シリーズの翻訳」がまず思い浮かびます。  そんな KiKi にとって「しびれ池のカモ」、「おコマさん」、「屋根の上のサワン」の3作は今回が初読の作品でした。  超有名な「山椒魚」はKiKi 自身、子供の頃に読書感想文を書いたこともあるし、何もこのブログであらためてご紹介しなくても、ネット上には様々な方の様々な読後感が見受けられる(だろう)と思われるので、今日の KiKi のエントリーは残りの3作の中から、もう1つの表題作「しびれ池のカモ」をメインに書き連ねてみたいと思います。

「しびれ池のカモ」が中編、その他の3作が短編という感じでしょうか。  1作、1作、少しずつ書き方・・・というか、スタイル(筆致とでも呼ぶべきもの)に違いがあってとても楽しめる1冊だと思います。  どの作品もとても味わい深い趣があると思うのですが、特に KiKi のお気に入りになったのが、「しびれ池のカモ」です。  自然に対する著者の暖かい眼差しを感じるのと同時に、「人間」というしょうもない生き物をどことなく風刺しているようなテイストも感じられ、思わず2度、3度と読み返してしまった作品です。 

剥製づくりの名人と呼ばれる老人が作成したカモの剥製がひょんなことからしびれ池に浮かべられます。  しびれ池はカモが多く生息している池なのですが、そこに住む本物の(?)カモたちは、この剥製のカモに何故か心酔し、この剥製の後につき従い、真似をするようになります。  この出来事に絡んでくるメインとなる登場人間が「剥製づくりの名人の老人」、その老人にひょんなことから拾われた格好になる「みなし子の少年三五郎」、老人の友人(?)にして「カモ語を喋れる老人の弁三さん」、そしてこの剥製ガモをしびれ池に浮かべちゃった「サーカス団の団長さん」。  彼ら4人の人間模様も読んでいてとても楽しかったり、気持ちがほっこりしたり、考えさせられたりすることが多いのですが、それ以上に印象的なのが剥製ガモという英雄に付き従う本物のカモたちの姿です。

動物の群れにありがちな光景だと思うんだけど、この描写に「群れと群集心理」だとか「英雄視される個体の実体」といったある種の風刺が効いていると思うんですよね~。  つまり、群れの中にその他大勢とはちょっと違った行動をとる個体がいたりすると、他の個体はある意味盲目的にそれに付き従うというような・・・・・。  で、冷静になって考えてみると、そのちょっと変わった行動をとる個体というのは明らかに変なんだけど、その群集は読んで字のごとく「酔っちゃっている」からその変さ加減には気がつかないんですよ。

しびれ池の(本物の)カモたちは、風に流されたり、池に生息するフナに括りつけられた剥製カモの真似をするわけだから、およそヘンチクリンとしか言えないような行動をとったりするんだけど、「英雄のすることだから・・・・」と嗜好停止状態に陥っていて、ただもう盲目的に従うんですよ。  で、結果的に池のほとりで待ち構えているタヌキやらキツネやらに襲われたり、にっちもさっちもいかない状態に追い込まれたりもするのに、それでも剥製の真似をすることをやめようとしません。  人間の視点でこれを見ると、あまりにも愚かしく哀れなんだけど、カモにしてみると必死なんですよね~。    

最初にそんな状況を思い浮かべたとき、KiKi は苦笑せざるを得なかったんだけど、よくよく考えてみると作者・井伏鱒二の意図は、決して「カモという動物のとりがちな行動」を紹介するために、そしてそんなカモを「しょうもないなぁ・・・・」と笑わせるためにこの小説を書いたわけではないことに気がつかされます。  この作品が発表された昭和23年という年代を考えれば、それはちょうど東京裁判が結審した年なんですよね。  作者の心の中に、「どうしてあの戦争に突入していかなければならなかったのか?」という想いは当然のことながらあっただろうし、世の中全体が被害者然として「騙されていた」と考えていた真っ只中でもあっただろうと思います。  でもそれはこのしびれ池のカモたちの姿とどこかシンクロしています。  作者の心の中に、あの戦争に突入していった時代の日本人社会の有り様みたいなものがあっただろうことは想像に難くありません。  

でもね、それは今の日本人社会にも相も変わらず蔓延る、ある種の民族性に近いもの・・・・・であるようにも感じられるんですよ。  今も私たちは「ちょっと変わったように見える行動」とか「耳新しい主張」だとか、「繰り返されるスローガン」に弱くはないか?  マスコミに扇動されやすい気質を相変わらず持ち続けてはいないか?  そんなことを考えさせられた読書になりました。

 

ところで・・・・・・井伏鱒二さんのトリビア(?)を最後にちょこっと・・・・・(笑)。  

この方、長生きだったんですね~。    95歳まで生き抜かれたんですよ。  お生まれは明治の御世。  で、お亡くなりになったのが平成。  明治 - 大正 - 昭和 - 平成と4代の天皇の御世を生き抜かれた方なんですねぇ。  で、明治の最後の方の年にお生まれかと思いきや、明治38年に小学校に入学され、明治最後の年、45年には中学校に進学されたということですから、明治と言う時代に生まれつつも明治をご存じなかったという世代ではありません。  もっと言えば「日露戦争」の際には、まだまだ小さかったかもしれないけれど、逆に小さかっただけに鋭い感性でその時代の空気感みたいなものを体感された世代ということになります。  

ある意味で日本が、そして世界が急激に変わっていく時代をずっとつぶさにご覧になっていらした世代のお1人ということになると思うんですよね。  そう考えてみると、彼の著作を年代順に読んでみると言うのは一興かもしれません。

さて、井伏鱒二さんの作品の次に読んでみるのは同じく「岩波少年文庫」の「太宰治」です。  太宰治は井伏鱒二の弟子でした。  高校生の頃、太宰作品に嵌ったことが懐かしく思い出されます。      

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このページは、KiKi (Brunnhilde)が2010年10月15日 01:22に書いたブログ記事です。

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