第九軍団のワシ R.サトクリフ

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図書館本のサトクリフで助走期間をたっぷりと取った(?)ので、そろそろこのブログのご本尊、「岩波少年文庫」のサトクリフ作品に取り組みたいと思います。  年明けからは「グリーン・ノウ」に没頭するためにも、ローマブリテン四部作だけは何とか年内に読了したい KiKi です。  ま、てなわけで本日の読了本はその第1冊目のこちらです。

第九軍団のワシ
著:R.サトクリフ 訳:猪熊葉子  岩波少年文庫

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ローマ軍団の百人隊長マーカスは、ブリトン人との戦いで足を負傷し、軍人生命を絶たれる。  マーカスは親友エスカとともに、行方不明になった父の軍団とその象徴である<ワシ>を求めて、危険に満ちた北の辺境へ旅に出る。  (単行本裏表紙より転載)

この本は15年位前、一度途中まで(というよりは最初の方)を読みかけたのです。  でも、当時の KiKi は「落ちこぼれながらも会計人」として、かなりお仕事に邁進していた時期で、深夜残業・休日出勤は当たり前という生活をしており、そんな中で夜中に眠い目をこすりながら読書をするのは睡魔との闘いという側面もあったのです。  で、冒頭部分ではちょっと物語に乗り切れないものを感じ、結果、常に睡魔には負けてしまい読み通すことができない・・・・・ということを数回繰り返し、読了するのを諦めたという前科がありました。  今回は睡魔との闘いはないし、サトクリフ作品に嵌り始めているという自覚も手伝って、何とか冒頭のダラケを乗り切り、後はマーカス & エスカとあたかも共に冒険しているような気分のままラストまで突っ走ることができました。

北イングランドからスコットランドにかけての、どことなく荒涼とした、そして厳しい自然の中の描写が思わずため息をついちゃうほど美しく、そんな厳しい自然の中で生きる人たちの鍛え上げられた自尊心には心を打たれ、征服するもの vs. 征服に抗うものの関係性も克明に描かれた素晴らしい作品だと思いました。  うん、できればこの作品は中学生のころに読みたかったなぁ・・・・。  そう考えると KiKi が中学生だった頃の岩波少年文庫のラインナップにこの作品が含まれていたかどうかは定かじゃないんだけど、「岩波少年文庫 ≒ 小学生のための読み物」と勝手に決めつけていた自分が情けなくなります。

    

この物語を読んでいてもっとも強く感じたこと。  それは「自分らしさ」とか「生き甲斐」とか「やり甲斐」といったようなものは、やはりある日突然、現在の自分とはかけ離れたところからあたかも神の啓示の如く降って湧くようなものではないということです。  以前に、これと同じことを、今では閉鎖となってしまった「落ちこぼれ会計人の独り言」というブログで書いたことがあるんだけど、KiKi は昨今流行の「自分探し」という言葉をと~っても胡散臭く感じていたんですよ。  思うに、そもそも「○○甲斐」な~んていうものは、他から与えられるものでもなければ、本来の自分(生き方、考え方、やりたいこと)から離れた場所を探して見つけるような類のものではなく、自分の内側からある種の Ownership (「自分がやらないで誰がやる」というような覚悟とか、「どうしてもこれをやらずにはいられない」という飢餓感にも似た突き動かされるもの)を持って、その何かをやり続けることによって、時がある程度過ぎた時に「ああ、これが自分の生き甲斐だ」と感じる・・・・そんな類のものだと思っているんですよね。

この物語の主人公マーカスが、そのキャリアのスタートとしてローマ軍の中での出世・栄達を夢見たのは悪いことではないし、それはそれでとっても納得のいくものだけど、その道を閉ざされたときに、本人がどれだけ自覚できていたかは別として、結局彼は、本当のところ亡き父親の姿そのものをそのキャリアの冒頭から追い求めていた・・・・ということだと思うんですよね。  それを実践するための1つの手段がローマ軍内での出世だったし、カレバに暮らす叔父に会うことだったし、この冒険だった。  そしてそれらは順番や状況こそマーカスがイメージしていたものとはかなり異なってしまったけれど、結果、行き着くところに行き着いた・・・・・KiKi にはそんな風に感じられます。  もっともこんな風にあっさり片付けてしまえるほど彼の冒険は安易なものではなかったけれど・・・・・ ^^;

かなり印象に残ったのが、マーカスの親友エスカがローマの文化とブリトンの文化が相容れないということをマーカスの身に着けている短剣の鞘の規則正しい模様と彼の持っている楯に彫られた流動的で生命のある曲線を比較して説明するシーンです。

「(マーカスの短剣をさして)ほら、ここのきつい曲線がありますね、そしてこっちにはそれに釣り合いがとれるように、反対曲線があります。  そして2曲線の間に小さな丸い花があります、そして同じ模様がここにも、そこにも、またここにもくりかえされています。  きれいです、たしかに。  しかしわたしにとっては、火のついていないランプみたいに意味のないものに思われるのです。  さあ、こんどはこの楯にうってある飾りをみてごらんなさい。  水が水から流れ出、風が風から吹き出てくるようなこの流動的な曲線をみてください。  空で星が動き、風に吹かれた砂が砂丘に吹き寄せられているかのようです。  ここに描かれているのは生命のある曲線です。  これらの曲線を楯に写しとった男は、あなた方が見失ってしまったもの - 前にはそれをもっていたとしての話ですが - についての知識を持っているのです。  この楯を作った男が、あなたの短剣のさやを作った男にそうやすやすと支配されるとは考えられません。」

「このさやはブリトン人の職人が作ったものだ。  最初にこの国に上陸した時、アンデリーダで買ったのだから。」

「たしかにブリトン人の職人が作ったものでしょう。  だがこの模様はローマのものです。  ローマの翼のもとに長く暮らした者のものです - 自分だけではなくて、その父祖の代から - そこで自分自身の国の人々の精神や生き方を忘れてしまったのです。  あなた方はきちんとした石壁を築き、まっすぐな道を作り、正義を命じ、軍隊を訓練します。  わたしたちはそれを知っています。  知り過ぎているほどです。  あなたの正義は、わたしたちよりも確かなものです。  そしてわたしたちが反抗して立ち上がると、こちらの軍勢はあなた方の訓練された軍隊にやぶられてしまいます。  ちょうど岩にくだける波のようにね。  わたしたちにはわかりません。  こういうことすべては、規則正しい模様なのです。  わたしたちにとっては楯の飾りの自由な流れだけが真実のものと思われるのですから。  わたしたちにはあなた方のやり方はわかりません。  あなた方の世界を理解し始めると、わたしたち自身の世界のことがわからなくなることがしばしばなのです。」

このマーカスとエスカのやり取りは、この時代のこの場面での様々な人たちの心にある想いを的確に表現しているのと同時に、KiKi には自分自身に向けられている問いかけのようにも感じられました。  

長い間、米系の企業でいわゆる Global Standard を徹底的に学んだ KiKi は当初はその合理性、そして理解しやすさ、確実に成果を出すという結果に目を見張り、「これはすごいもんだ!」と感動し、それを身に着けるのに必死でした。  でも、あるタイミング、それはかなりの程度その神髄を理解できるようになったと感じられるようになった頃から、その考え方を否定まではしない(というよりできない)けれど、違和感・・・・のようなものを感じるようになり、まあその延長線上に KiKi の山小舎暮らしはあるわけですが、エスカが言っているように「あれを理解し始めると、わたしたち自身の世界のことがわからなくなる」感覚に陥りました。  

日本人が豊かになるのと同時に失ってきた、いわゆる「日本の原風景と呼ばれるものが醸し出す何か」にも同じようなものを感じずにはいられません。  その「何か」をこれからも探っていきたいと思うのです。

追記) 宮崎駿50選の中での宮崎氏のコメント

歴史小説の傑作です。  この物語を日本の古代の東北地方に移して、壮大なアニメーション映画を作れないものかと何度か試みました。  人の姿のない古江戸湾の風景を想像したりしてワクワクしたりしましたが、まだ実現していません。  とても好きな小説です。  (2011年12月15日転記)


 

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コメント(5)

 ご存じかもしれませんが、『第九軍団のワシ』の映画が来ています。もう公式サイトなるものも。http://washi-movie.com/ 元々ローマ帝国ものは好きですし、映画も見るかもしれませんので(一応試写会には応募)、原本もこの際読もうと思いました。

 解説では、絶賛していますね。確かに評価が高いから、映画にもなるんでしょう。私は、優れた作品ではあるけれども、絶賛するほどとは・・・といったところ。

 ワシを盗みに入るところから、帝国の砦に帰り着くまでは、あっと言う間に読んでしまいました。この部分は脱帽。ストーリー全体にも不自然なところは認められませんし。目的を見失っていた主人公が冒険を通してそれを見出すという結末もいいと思います。本国で人気があるのも分かります。

 次はいちゃもんですが、そもそもワシを失うもとになった戦争を何でローマ帝国と原住民がするのか、何で帝国はブリテンを征服しに来たのか、といった点には触れていないですね。そんなところまで手を伸ばすと収拾がつかなくなってしまうからか。ですから、ご指摘のローマ文化とケルト文化の対比の部分は、私にも印象深かったのですが、その後さほど掘り下げられたようには感じられなくて・・・。狭間で迷っているような人は登場しますけど。

 個性の強烈な、枠から大きくはみ出すような人物が登場しないのは、作風ですかね。主人公は、勇敢で智恵も根性もあり、博愛精神の持ち主ですが、欠点らしいものもないし、まあ紳士です。悪人は出ないし、性格のゆがんだ人やいやな奴(参謀将校プラシドスみたいな)もほとんど出てきませんね。何か物足りないな~と。それは私がひねた大人だからか。

 原文のせいか、訳文のせいか、文章は何だかもたもたした感じのところがあるようで。ちょっと理屈っぽい、説明調と感じることも。終末近く、「アクエ・スリス(地名)は好きだったかい?」(ハードカバー361頁)という文を見て、訳文への不信は確定的に。

 何か、ケチつけの部分が長くなって恐縮ですが、KiKiさんのご紹介がなければ、この本の存在を知らず、映画にも気づかなかったことでしょう。ありがとうございました。では。

 お元気ですか。『第九軍団のワシ』の映画、見てきました。
 結論から言いますと、原作が大好きなら、失望するかも、と思います。
 ハドリアヌスの防壁を越えて、脱走兵に出会う辺りまでは原作と同じです。そこからはかなり違うのですが、2時間でまとめるためには何らかの省略・変更が必要ですし、最初のうちはかなりいい出来で、原作を越えるのでは? との期待ももたせました。
 ところが最後の20分くらいで、リアリズムを逸脱し、あらま? という展開になり、幕切れは、アメリカの青春冒険映画みたいになって、オイオイ・・・。
 もちろん映像ですから、小説にない迫力・臨場感があって、それは捨てがたいですね。マーカスのお父さんが何度も出てきましたよ。エスカの描き方は映画の方が気に入りました。
 ところで、KiKiさんは、自給自足を目指されているんでしょうか。私の友人にもそれを目指している人がいます。
 それではまた。

 わざわざご説明、ありがとうございます。了解しました。
 では、農業と同時に何か仕事をなさることになるわけですね。確か腰痛をおもちでしたよね、私もですが。農作業のときは、どうぞお気をつけください。
 なお、私の友人(画家です)は瀬戸内海の小島で自給自足の準備を進めているそうです。
 それではまた。

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このページは、KiKi (Brunnhilde)が2010年12月23日 23:56に書いたブログ記事です。

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