隣のアボリジニ 小さな町に暮らす先住民 上橋菜穂子

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KiKi の大好きな作家、上橋菜穂子さんの文化人類学者としての著作があのちくま文庫から出ている・・・・ということを知ったのは恥ずかしながらつい最近のことでした。  彼女の文学作品から溢れ出ているある種のリアリティに常に心惹かれてきた KiKi は、そのベースにあるのはきっと「人が人としていかに生きているのか?」をじっくりと考察した文化人類学者としての顔があるからだろうと思ってきました。  彼女はきっと物語を書く際にもこの人たちは朝何時に起きて、まず何をして、食事は3度取るのか、その食事は誰が作るのか、行動するのは昼間か夜か、男の主な役割は、女の主な役割は、時間の観念はあるのか、通貨を持っているのか、死をどう考えているのか・・・・etc. etc.。  要するに「出産から墓場、さらには死後の世界まで」をきっちりと想定してから描いているに違いないと思っていました。  ま、てなわけで、そんな彼女の文化人類学者としての顔をちょっと盗み見したいという好奇心からこの本を手に取りました。  ま、てなわけで本日の KiKi の読了本はこちらです。

隣のアボリジニ 小さな町に暮らす先住民
著:上橋菜穂子  ちくま文庫

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独自の生活様式と思想を持ち、過酷な自然のなかで生きる「大自然の民」アボリジニ。  しかしそんなイメージとは裏腹に、マイノリティとして町に暮らすアボリジニもまた、多くいる。  伝統文化を失い、白人と同じように暮らしながら、なおアボリジニのイメージに翻弄されて生きる人々。  彼らの過去と現在をいきいきと描く、作家上橋菜穂子の、研究者としての姿が見える本。  池上彰のよくわかる解説付き!  (文庫本裏表紙より転載)

「異文化交流」「異文化共存」。  あまりにも手垢にまみれた感のあるこの言葉。  それぞれの言葉が持つスローガンは高尚なものだと思うし、決してそれらを否定するものではないけれど、その実現となると絶望的なまでに多くの問題を孕むものなんだなぁ・・・・ということを改めて再認識しました。  極論すれば異文化が共存するために必要なことは「侵略なしの相互不干渉」しかないのではないか・・・・と。  だいたいにおいて「農耕民族」と「狩猟採集民族」が同じ道義で生きているはずはないし、「土地を所有する」という考え方がある民族と「土地はみんなのもので個人に属すものではない」という考え方がある民族が同じフィールドに立てば摩擦が起こるのは必至なわけで・・・・・。

KiKi はね、今Lothlórien_山小舎で大半の時間を暮らすようになってますます感じていることなんだけど、KiKi の都市的感覚だと KiKi の地所は境界線のここからここまでで、そこから一歩でもはみ出すことをすることは原則的にやっちゃいけないことで、もしも何らかの理由ではみ出して何かをせざるをえないのであれば、追加で土地を購入するなりそれなりの対価(借地料)を支払って初めてできる・・・・と考えるわけだけど、この村ではそのあたりの感覚はもっとおおらかです。  KiKi の地所と地続きの隣の地所が広々と空いていて、そこに今は薪の原材料となる材木を置かせてもらっているんだけど、それを事前に地主さんにお願いに行った際、当然 KiKi は何らかのお金で解決せざるをえないだろうなぁと思っていたんだけど、地主さんの反応は KiKi にとって拍子抜けするものでした。

「誰も使っていないんだから、遠慮しないでどうぞどうぞ。  お金?  そんなもん、いらん。  それより余っている土地も使って何か作ったら??  余らせておいても勿体ないし・・・・。  建物を建てられちゃ困るけど、必要な時は言うからそれまでは、果樹を植えるなり畑にするなりワンちゃんの遊び場にするなり、好きにしていいから。」

もちろん人様の土地に建物を建てるほど図々しくもないけれど、果樹なんて植えたら「ちょっとどけて」と言われてホイホイと対応できることでもないのになぁ・・・・と思うと、何だかおかしいやら、呆れちゃうやらだったことをこの本を読んでいて思い出しました。  でもね、その地主さんは「空いているのになぜ使おうとしないか不思議だった」と言いながら、あれやこれやと使い道の指南をしてくださったりもして、今はありがた~く畑にさせていただいているんだけど、彼らは土地を「所有する」という考え方は持っていて、それを「売る」という感覚も持っているのに、なぜか「貸す」という感覚だけはしっくりこないみたいなんですよね~。

 

ま、話はずれちゃったけれど、同じ国の国民で同じ言葉を話す間柄であってさえも、ことほどかように「感覚」というか「考え方」にはギャップがあったりもするわけで、これが肌の色も言葉も信じる神も生活習慣も異なればそのギャップたるや半端なものではなくて当たり前なわけで、それぞれが善意で相手を理解、もしくは受け入れようとしたとしても、それでもふとした行動、ふとした言葉が相手を想像以上に傷つけたり喜ばせたりもするわけで・・・・・・。

はっきりしていることは、文化が違う者同士が接触する際に、決してそこには誰もが納得する「絶対的な優劣」は存在しないということを自覚するべきであるということだけなんだと思うんですよ。  例えば文化的な生活を営む私たち先進国の人間は、とかく原始的な生活を送っている人たちを「歴史の発展から取り残された可愛そうな人たち」とか「ある種のノスタルジーを感じさせる貴重な(稀有な)人たち」と考えがちだけど、それは自分の物差しだけで物事を見ているちっちゃな考え方だし、彼らからすれば余計なお世話なんだということをきちんと自覚すべきなんだと思います。

でも悲しいことに人類はその歴史の中でこのことに関して無自覚な行動を繰り返してきたし、その結果として今も尚世界のあちらこちらに「民族問題」「人種問題」を抱え続けています。  そしてそれを何とか解決しようとする善意の活動であってさえもその多くは「上から目線」で解決策を模索しようとしているような気がしないでもありません。  

この作品を読んでいてとても印象的だったのが本来「土地を所有する」という感覚がなかったはずのアボリジニなのに、それでもシッドおじさんという著者と関わりを持った1人のアボリジニの方が亡くなった際、ローラという著者の友達がその亡骸を運んで400キロも離れた場所まで運んだというくだりです。  亡くなったシッドおじさんはそれを望まなかったし、ローラもそうしたくはなかったのにそうせざるを得ないというある意味私たちには理解するのが難しい状況・・・・。  思うにアボリジニの生き方として「土地は人に属さないけれど、人は土地に属す」という思想が根強くあるように感じられます。 

何年か前に「エスニック・ブーム」みたいなものがあって、自然と共に暮らす人々の持つ文化にスポットライトが浴びた時代があったけれど、あれってよ~く考えてみると思いっきり上っ面のみに注目があたったブームだったような気がします。  だからこそ、彼らの生き方・哲学まで掘り下げて・・・・という活動ではなく、あくまでも新種のファッションという扱いで終わってしまった・・・・。  そしてそのファッションを結局は資本主義の枠組みの中に美味しいところ取りをしただけだった・・・・そんな風に感じました。

振り返って私たち日本人の辿ってきた歴史を考えてみると、私たちはある意味「侵略される前に欧化する道」を選ぶことによって今のポジションを獲得してきているのかもしれません。  そうであるからこそあの明治の時代に近隣アジアの国々からある種の軽蔑(民族性と自国文化を捨てようとしている民族)と羨望(侵略されることがなく繁栄への道をまっしぐら)がないまぜになった眼差しで見つめられていたのかもしれない・・・・とも感じました。  と同時にほんの数年前まで私たち日本人が近隣アジアに目を向けようとしなかった歴史とアボリジニに対する侵略民族の白人たちの目線は似ていたような、そんな気もするのです。

とても読みやすい本ではあったのですが、多くのことを考えさせられる作品でした。

 

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このページは、KiKi (Brunnhilde)が2011年4月 2日 15:30に書いたブログ記事です。

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