21世紀の日本人へ 夏目漱石

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たまたま昨日、「f植物園の巣穴」を読了し、そうしたら連鎖反応的に「家守綺譚」を思い出し、ついでにその本を読了した際に感じた「明治の文豪作品」へのノスタルジーみたいなものまでを思い出しました。  都合よく吾妻郡図書館で借り出してきた本の中の1冊にこちらが入っていたので、そのノスタルジーの穴埋めに・・・・とばかりに読了しました。

21世紀の日本人へ 夏目漱石
晶文社

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「一言にして言えば現代日本の開化は皮相上滑りの開化であるという事に帰着する...」  「国家的道徳というものは個人的道徳に比べると、ずっと段の低いもののように見える」   夏目漱石による日本と日本人に関するエッセイを集成。  (Amazon より転載)

Amazon の紹介文だと、あたかも漱石先生のエッセイ集からの抜粋に見えなくもないこの本。  実態としては漱石先生が明治末期から大正にかけて、日本のそこかしこで行った「講演会」の内容を書き起こしたもの・・・・のようです。  もっとも、テープレコーダーとかICレコーダーとかが既に日本に存在していたわけではなかろうと思われるので、そこは何らかの加筆修正等々が加えられ岩波書店が編纂した「漱石全集」に盛り込んであったものを、さらにもう少し現代人にもわかりやすいように若干のお色直しをしたもの、ということのようではありますが・・・・・。

収録されているのは以下の講演です。

現代日本の開化 (1911年8月15日 @和歌山)
おはなし (1914年1月17日 @東京高等工業学校)
私の個人主義 (1914年11月25日 @学習院輔仁会)
道楽と職業 (1911年8月13日 @明石)

漱石先生の文学作品はずいぶん昔(中学時代から高校時代)に一通り読んだはず・・・・ではあるものの、あんまり筋を明確に覚えておらず、この Blog に読書記録をつけ始めてからも、気になる作家ではありつつも「坊ちゃん」と「夢十夜」の2冊しか再読していません。  漠然とした印象としては、彼の作品には「暗鬱な気分」が投影されている作品が多かった(例外:坊ちゃん)し、できればあんまり直視したくない人間の性・・・・みたいなものを目の前に広げられて、若き時代の KiKi は結構戸惑わされた・・・・という感じでしょうか。  まあ、そのあたりはいずれ主要な作品を再読してみて再評価するとして、何はともあれ、この本の中に含まれている「現代日本の開化」と題する講演で、まさにその時代を体感した英才がどんなことを語っているのかに興味を覚え借り出してきました。

 

内容をほとんど覚えていない文学作品はさておき、これらの講演を読んでみて感じることはやはり彼は「文明開化」にはある種の危惧を抱いており、同時に「昔はよかった」というような懐古趣味こそ持ち合わせていないものの、日本人の性急に過ぎる変化に内発的ではないが故に内包する脆さを見抜き、時流に浮かれている人々には嫌悪に近いものを感じていたのではないか?? ということです。  同時に江戸期に生を受け、多感な時代を明治期に過ごした青年特有の「ダブル・スタンダード」っぽい価値観の中でもがきながら、想像以上に近代的と言うか「今っぽい」立ち位置を持った人物だったんだなぁ・・・・と。

これを一言にしていえば現代日本の開化は皮相上滑りの開化であるということに帰着するのであります。  ・・・・しかしそれが悪いからおよしなさいというのではない。  事実やむを得ない、涙を呑んで上滑りに滑って行かなければならないと言うのです。  (現代日本の開化 より)

上滑りであることをちゃんと認識したうえで滑って行こうよ・・・・という論調。  滑っていることをちゃんと認識しなくちゃ、だって仕方ないんだもん・・・・・というある種の諦観・受容。  でも、この流れは日本人の血肉にはなっていないから「まがい物」だよという危機感。  そんなものが溢れているように感じます。  「半髪頭(ちょんまげ)をたたいてみれば、因循姑息な音がする。  総髪頭(長髪)をたたいてみれば、王政復古の音がする。  ざんぎり頭をたたいてみれば、文明開化の音がする」(ちょんまげ頭は古いしきたりに固執している人。  総髪頭の人はちょんまげよりましだけどまだ古い。  散切り頭の人が流れに乗っている人)な~んていう当世流行の言葉遊びに乗っかって浮かれることができない漱石先生の心情吐露がちょっぴり痛々しい・・・・・。

国家は大切かもしれないが、そう朝から晩まで国家国家といってあたかも国家に取りつかれたような真似はとうてい我々にできる話ではない。  ・・・・国家的道徳というものは個人的道徳に比べると、ずっと段の低いもののように見える。  元来国と国とは辞令はいくらやかましくっても徳義心はそんなにありゃしません。  詐欺をやる、ごまかしをやる、ペテンにかける、めちゃくちゃなものであります。  (私の個人主義 より)

ここにはプロパガンダやアジテーションに乗りやすい日本人を冷徹に見つめる社会学者的な視座を感じます。  明治期にこんなことをのたまわった賢人がいたにも関わらず、お国の掲げる「正義」やら「国家主義」に踊らされるのは明治期も今も同じか・・・・・と我が身を反省することしきりでした。  もっとも、漱石先生の時代はそれでも「愛国心」という言葉がもう少しは存在感を持っていたようにも感じないじゃありませんが・・・・。  (← と言いつつも、「国」という概念自体がようやく彼らの時代に出てきたばかりだから、これもひょっとしたら一種の流行だったのかもしれないけれど・・・・ ^^;)

まあ、ところどころエキセントリックに感じられるところもあれば、いわゆる芸術家の独りよがり的なところもないじゃないけれど、漱石先生の偉大なところは「自分はそういう(芸術家)カテゴリーの人間であるけれど、世の中には別のカテゴリーの人間もいて、どちらが正しい生き方ということではなく、現世ではそれが並立していることをわかっています」と思っておられるところ・・・・・でしょうか。

残念なことに現代の私たちはこの講演の肉声を聞く機会には恵まれていない(?)ので、彼が話し上手な人(声音、イントネーション、アイコンタクト等々)だったかどうかまでは窺い知れないけれど、書き起こされた文脈だけを見る限りでは、なかなか面白い語り口の人だったんだなぁ・・・・と感じます。  やっぱり人を集める力のある人(木曜会とか)だけのことはあるなぁ・・・・と。  

う~ん、これはさほど遠くない将来、もう一度大人になった今の KiKi の視点で「夏目漱石文学作品」に対峙してみる必要がありそうです。 

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このページは、KiKi (Brunnhilde)が2011年9月19日 08:13に書いたブログ記事です。

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