エヴェレストをめざして J.ハント

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たまたま手持ちで未読の図書館本がなくなってしまった(要するに返却 - 新規借り出しをしていない)ので、KiKi の岩波少年文庫コレクションの中から未読のものを読んでみることにしました。  子供時代には所謂「物語系」の本が好きで、まして現実の冒険ものにはさほど興味がなかった KiKi には初読本となります。

エヴェレストをめざして
著:J.ハント 訳:松方三郎  岩波少年文庫

2011_Sep26_001.JPG  (Amazon)

1953年5月、世界最高峰のエヴェレスト(チョモランマ)は、ついに人類の足跡をしるした。  長年にわたる入念な踏査と周到な準備、国境を越えた人々の友情と団結の力、チャレンジ精神 - この隊をひきいたイギリス遠征隊の隊長みずからが若い人たちに語る感動的な冒険物語。  (文庫本扉より転載)

人類初の・・・・・という物語が数多ある中で、KiKi にとって最も縁遠く、ついでに興味の対象にならなかったのがこのエヴェレスト登頂をはじめとする「肉体酷使系冒険物語」です。  基本的には「山好き」の KiKi だけど、そんな KiKi にとって「エヴェレスト(チョモランマ)」とか「K2」というのは KiKi の分類では「山カテゴリー」に属するものではなく、「極所カテゴリー」に属するもので、それに人生をかける人たちを尊敬(? というより驚嘆?)こそすれど、自分に引き寄せて何かを考える対象物にはなりえません。  要するに軟弱なのです(苦笑)

最近では NHK BS なんかで数多くのネイチャー番組が放映され、それらを観ることはよくあるのですが、そんな時 KiKi の口をついて出てくるのは

「信じられない!!  よくもまあ、あんな所まで行ってみようと思うものだこと!  KiKi なら挑戦したら1億あげると言われても絶対に行きたくない!!」

という言葉だったりします。  よくよく考えてみると映像として見せてくれるものに関しては敢えてチャンネルを合わせてまでして観る癖に(まあ、これには最近のTV番組に対する幻滅・・・・みたいな感情があって、他に観るモノがないという事情もあるのですが)、こんな発言をするのですからゲンキンなものです。  でね、映像としてだったら観てみたいと思う癖に、こういう本に関しては子供時代から今に至るまでさほど興味を持たずに生きてきたというのも、甚だゲンキンなものです。  まあ、そういう意味ではこの Blog で「岩波少年文庫全冊読破プロジェクト」を立ち上げていたが故に古本屋めぐりをしてまでして手にすることになった1冊と言えます。     

よく「困難に挑戦し、諦めずに頑張って、限界を突破する人間は素晴らしい」と言うけれど、そしてそれを否定するつもりもないけれど、KiKi が挑戦の対象とする事物の困難度は、極限的なものであった試しはありません。  せいぜいが「今の自分にはちょっと無理そうに見える、でもやり方によっては何とかなりそうな、事実世の中にはそれを実現している人が既にそこそこはいる」レベルのそれで、「前人未到」という言葉とは確実に一線を画した世界でもがいてきました。  恐らく今後の人生に於いても、KiKi はそこまでの冒険を求めることはないだろうという確信に近いものがあります。  そんな KiKi にとって、1953年という KiKi が生まれるよりもさらに前の時代に、多くの技術も装備も現代よりは乏しかった状況下でエヴェレストに果敢に挑んだ人々というのは「人間じゃない」と言うか「KiKi とは全く別の構造の人種」というぐらい驚異的な存在だと考えていたようなところがあります。

この本では遠征の準備段階から初登頂までのあれやこれやが図版入りで解説されています。  比較的最初の方で、この大偉業を成し遂げた人々のうち、メイン(要するに隊員)の14名の顔写真と名前、略歴が紹介されています。  ちょっと見、普通のオジサンたちに見えなくもない人たちで、こんな大偉業を成し遂げた人に対して手前勝手に期待する「オーラ」のようなものが感じられるわけでもないことに、ちょっと衝撃を受けました。  「世界で最初にチョモランマを制覇した人たちの写真だ」という前提条件があって観ている写真であるにも関わらず・・・・・です。  そこに、こういう本の意義・・・・のようなものを感じました。  つまりは、「自分の限界は自分が決めている」という言い古された言葉が真実の物として迫ってくるように感じられました。

同時にエヴェレスト登頂というこの偉業は、決して限られた人数の英雄が成し遂げた快挙というわけではなく、過去に同じ山に挑戦した先人たちの経験が、頂上を目指した隊員14名+20人の熟練シェルパを支え彼らが「初登頂」という目的に邁進できるように食料・装備などを運んだその10倍ぐらいの人たちの存在が、そして彼らの命を守るための装備品の開発に携わったそれこそ無数の人たちの努力があったということにも感銘を受けました。  もちろん、それらのサポートを活かし切り、体力・知力の限界を突破した遠征隊の隊員たちが英雄であることは誰もが認めるものではあるのですが・・・・・・。

この本を読んでみて1つだけ残念だったのは、そんな彼らを支えた縁の下の力持ち的な「技術開発」がその後の世界でどんな風に生かされてきているのか・・・・に関する記述がないことでした。  特に「訳者あとがき」の中で、それらの裏方の努力に関しても多くのポイントが触れられているだけになおさらです。    

それにしても・・・・・・・

この本、現在の岩波少年文庫では絶版扱いになっています。  最近、期間限定で復刊した「キュリー夫人」といい、未だ復刊の兆しもない「エイブ・リンカーン」や恐らくはこの本と同じような系列の読み物に属すると思われる「アンナプルナ登頂」とか、とか、とか・・・・・。  所謂ドキュメンタリー系の本の悉くが絶版なのは残念に思います。  まあ、今では出版社の数も多く、岩波少年文庫で扱わなくても「伝記メイン」の出版社やら「ドキュメンタリー・メイン」の出版社等々もあるので、「棲み分け」が確立した・・・・・と言えばそれまでなのかもしれませんし、こういうドキュメンタリー系はグラビアの多い出版物には敵わない部分がある・・・・と言えばそうかもしれません。  でも・・・・・・・。  例えばTV、例えば図版メインの書物、そういうものでは味わえない良さがこの本にはあったように感じたのです。

つまり、何と言えばいいのか・・・・・。  サービス満点に多くの情報を提供してくれる図版メインの書物では味わいきれなかった、文字を追うことによってのみ逞しくできる「想像の力」みたいなものを堪能することができたように思うのです。 

 

最後に蛇足ですが・・・・・

岩波少年文庫には番外本(?)として、「なつかしい本の記憶 岩波少年文庫の50年」という本があります。  この Blog の岩波少年文庫の Index を作成する際にかなりお世話になった1冊なのですが、その本の中にこの「エヴェレストをめざして」の訳者である松方三郎さんのエッセイが掲載されています。  そこに書かれているエッセンスには常々共感を覚えています。  本の装丁に関する部分がもっとも意見を同一にする部分ではあるのですが、ラインナップに関するご意見にも感銘を受けます。  曰く

「少年文庫」は120冊をもって第一期として一段落をつけ、それから第二期に入った。  今はその第二期にあるのだが、たとえば200巻をもって第2期の段落をつけるとすれば、このあたりで次の方向付けをやってみたらどんなもんだろう。  (中略)

そして今度は10年前には全然取り上げられなかった新しい分野が、いくつも取り上げられるのではないだろうか。  原子力が平和目的に利用されるとか、人工衛星が飛び出すとかいうことは10年前の世界には、少なくとも一般には、雲をつかむような話だった。  第3期には是非もっと南極と北極関係のものを入れなければならないだろう。  生物学の世界でも歴史の方面でも、今日となっては取り上げられなければならないものは少なくないかもしれない。  (中略)

「少年文庫」なるものが岩波書店の経営の上でどんな地位を占めているか、これは局外者であるぼくなどにはわからないことだから、外から注文ばかりつけていることは慎むが、この「少年文庫」の発足当時にかかわりを持った1人として、ぼくはそんなことを考えるのである。

この「なつかしい本の記憶」自体の初版が2000年(つまり、このエッセイはそれ以前のもの)であり、上記の Amazon リンクを見る限りではこの本自体も絶版?なのかもしれませんが、2011年を迎えている今、このご提案は入れられたんでしょうか??  ここで提案されている「次の方向付け」の結果として、今の絶版本選定、ドキュメンタリー系希薄のラインナップがあるということなのでしょうか??  

現在、刊行されている「岩波少年文庫」の巻末にある「岩波少年文庫創刊50年 - 新版の発足に際して」の末尾に

美しい現代の日本語で書かれた文学作品や科学物語、ヒューマン・ドキュメントにいたる、読みやすいすぐれた著作も幅広く収録してゆきたいと考えている。

とあるにも関わらず、文学作品偏重気味に見えるのは気のせいなのかなぁ・・・・・。  まあ、KiKi 個人の嗜好からすればこれはこれでOKなのですが、たまたまこの本を読み、かつてはラインナップされていて今は絶版の本のリストを眺めてみると、そんな想いがフツフツを湧き上がってきたのです。  

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