不思議な羅針盤 梨木香歩

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一時期、遅ればせながら・・・・ではあるものの、梨木果歩さんの作品(但し文庫本)を連続して読んだ時期がありました。  その前後の時期から気になってはいたものの、未だハードカバーしか出版されていないことにより「文庫が出たら・・・・・」と待ち続けていた作品が何冊かありました。  でも、なかなか次の文庫本が出てきません・・・・(涙)  そうしたら先日、たまたま吾妻郡図書館でそれらの気になっていた本3冊を発見!!  今日はその中の1冊、「不思議な羅針盤」です。

不思議な羅針盤
著:梨木香歩 文化出版局

316Jv8CNx4L__SL160_.jpeg (Amazon)

憤ったり寂しかったり納得したり、何かを慈しんだり発見したりうれしくなったり。  そんな日常にあっては穏やかに南北を指す磁針では物足りず、心の深いところで「不思議な羅針盤」が欲しかったという著者。  同じ年代の女性たちとおしゃべりするような心持ちで、同時に07~09年の社会的事象までも映し出した、万華鏡のようなエッセイ集。  (Amazon より転載)

私自身どこか心の深いところで「羅針盤」が欲しかった、ということもあるのだろう。  憤ったり寂しかったり納得したり、何かを愛しんだり発見して感激したり嬉しくなったり、何だか同じ年代の女性たちとおしゃべりしているような感覚だった。  (あとがきより抜粋部分 帯より転載)

以前、一連の作品を読んだ時にも感じたことだけど、彼女の感性のアンテナに引っかかってくるものとKiKi 自身のアンテナに何らかのシグナルを送ってくるものにはびっくりするぐらい共通項があるんですよね。  もっともそこから展開される物語(心情でもある)には大きな差があって、こちらがモタモタと「えっと、それは○○みたいなもので、でもそう言い切ってしまうのとはちょっと違って・・・・・」などと逡巡している間にスパッと「ああ、それよそれ!」と言わざるを得ないジャスト・フィットの言葉であっさりと言語化されちゃう・・・・・そんな違いは間違いなくあるんですけどね(苦笑)。  でね、ずっと「何でそうなんだろう??」(言語能力の差は置いといて、この感性の正体は?)って考えていたんだけど、やっぱりそこには「同世代」というキーワードがあるような気がするんですよ。

梨木さんは1959年生まれ、KiKi は1961年生まれ。  ほんのちょっとの差はあるけれど、「戦争が終わって経済発展を遂げつつある時代」に生まれ育ったという意味ではおんなじで、今の私たちの生活を支配している電化製品の数々もなかったわけじゃないけれど今ほど多くはなくて、ひもじくて餓死しちゃうような国民はほとんどいなかったけれど今ほど経済的には豊かじゃなくて、スーパーはちらほらとあったけれど日常の買い物は個人商店が主で、都会にはマンション(というよりアパート?)が増えつつあったけれど、戸建て(自己所有か貸家かは別にして)の家の方がまだまだ一般的で・・・・・。  

端的な例をあげるなら、まだ一家にTV一台とまではいかない(要はTVのない家だってあった)時代、当然パソコンだの携帯だのという情報機器ツールはまだ誕生さえしていなくて、(家の固定電話だってない家が多かった)子供の情報源と言えば「親の会話」「近所の大人の会話」「その会話を聞いた友達の話」「幼稚園や小学校の先生のお話」ぐらいが関の山。  要するに誰かの感性(もしくは知性)のフィルターを通ったものだけで、その一つ一つの信憑性は誰も担保してくれない・・・・・そんな時代に育ったということが大きな要因としてあるような気がするんですよ。

 

誰かの感性 or 知性のフィルターを通っているっていうことはそこに彼の人の思想・考え方というものとは無縁ではなくて、子供は知らず知らずのうちにそれを自分なりに斟酌し、「○○さんがこう言うっていうことは、こういう事実は確かにあるに違いないけど、自分なら同じように感じるだろうか?」とか「普段、信頼のおける○○さんの言うことだから、これは信ずるに値する」とか多くのことを分相応に解釈する力みたいなものが知らず知らずのうちに育まれていた時代だったような気がするんです。  

彼女のエッセイにある題材の多くはとても身近な出来事が多く、それについてあれやこれやと自分なりに斟酌する姿が描かれていることが多いんだけど、その斟酌する目盛り・・・・みたいなものが、同世代の人ならでは・・・・・と思わせる部分が多いような気がして仕方ありません。

彼女はこのエッセイのあとがきで、Amazon の内容紹介(↑)にあるようなことを語っているけれど、これって若い世代が感じるある種の「精神的なもがき」みたいなもので、世代を超えて共通するものかもしれないけれど、KiKi にはあの時代を生き抜いてきた♀に特に顕著な焦り・渇望のような気がして仕方ないのです。

平等教育を施され、表面的には「男女平等」で女性にも選挙権はあれば被選挙権もある時代。  でも、学校時代には平等だったはずの男子と女子が社会に出た瞬間に決して平等ではないことを思い知らされたあの時代。  概念の中で培われてきたある種の指針のようなものが、社会に出た瞬間に「残念でした。  あれは理想像。  でも現実はね・・・・。」とあっさりと崩れ落ち、「どっちを向いて何を目指して日々どんな風に過ごしていけばいいのか?」は個人に委ねられてしまい、「それが自分で考えられないなら男が営々と築き上げてきた社会通念に黙って従えば?」とでも言わんばかりの世界に放り出されたあの所在感のなさ、孤独さ。  入社面接で「あなたは、バリバリ仕事をしたい人ですか?  それとも腰かけ程度に数年働いたら嫁に行きたい人ですか?」な~んていう今の時代だったらセクハラで訴えられちゃいそうな質問さえが大手をふるっていた時代。    

そんな中で「自分を活かす」ために、まずは日々の営みに安定感を持つこと(要するに丁寧に生活すること)、周りの状況を黙って観察しそれを自分なりに解釈すること & 適切な距離感を推し量ること、声高には主張しないけれど自分なりの物差しを崩さない努力をすることがこの時代を女としてではなく人として生き抜くためには必須要件だと感じずにはいられなかったあの時代。  彼女が欲しかった羅針盤とはそんなものの集大成だったのではないか??  要するに KiKi が若かりし時代に欲してやまなかった「世間に迎合はしないけれど、大きく外れて異端者扱いはされない程度の自分なりの判断基準になりうる物差し」と同じもの・・・・・だったのではないか?  そんな気がするのです。

そういう意味では、彼女のエッセイに書かれていることは「昔はよかった・・・・」という類の押しつけがましい回顧談とは一線を画してはいるものの、やはり「昭和という時代の香り」をそこかしこに纏ったものであるような気がして、恐らく KiKi はそこに共感を持つような気がします。

どこの家にも小さいながらも庭・・・・のようなものがあり、植栽があり、夏の暑い日には親と一緒に草むしりに精を出したあの頃。  植物や動物はイマドキの都会生活とは比べ物もないくらい身近なものでした。  プラスチック製品がまだまだ出始めだった時代、買い物には「買い物籠」が必要で、一家の主婦は誰もが買い物籠を提げて地元商店街に出かけ、店主と他愛無いお喋りをしながら買い物をし、包装紙は新聞だったり新聞広告を切り刻んだものでした。  そして、そんなリサイクルされた紙をさらに丁寧に畳んで押入れの奥にしまい、何かの折には取り出される・・・・・そんな時代。  当事者として・・・・というよりは、そんな親の一挙手一投足を垣間見ながら育った世代特有の目線を彼女のエッセイには感じます。

一時期、KiKi はとある会社のとあるプロジェクトに参加していたんだけど、そこに集うコンサルタントは全員が昭和生まれ & 昭和時代に社会に一歩を踏み出した人々でした。  そして自分たちのことをある意味自虐的意味合いも含めて「昭和の電球」と呼んでいました。  スイッチを入れるとパッとつくイマドキの電球とは異なり、まずはグロー球が通電し、それから2~3回チカチカしてからようやく電気がつく、あの昭和の電球特有の「間」みたいなものを、「そういうもの」と大らかに受け入れる素地のようなもの・・・・・を持つ世代。  ツーと言えばカーみたいな反応の仕方を否定こそしない(特にビジネスの側面ではそれが必要なこともあるとわかっている)けれど、一旦自分の中で咀嚼する間も大事だと考える事物への対峙姿勢。  それと根っこが同じものを彼女のエッセイには感じます。

それにしても・・・・・・

「とんでもカーナビ」の話は面白かった(笑)  KiKi の所有していた初代カーナビ(このカーナビはその車と一緒に KiKi の前から姿を消したけど 苦笑)を彷彿とさせるエピソードで、到着しなければならない時間が迫っている時こそ「ああ!  もう!!!」とイライラさせられたけれど、ちょっとした時間の余裕がある時ならこのしょ~もない機械に与えられた「寄り道」を楽しんだことが懐かしく思い出されました。  まあ、当時のガソリン代が今のレベルだったら、楽しむ気持ちはもっと小さかったかもしれないんですけどね・・・・・ ^^;  

まさに同世代の女友達とのおしゃべりという評にピッタリのエッセイでした。    

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このページは、KiKi (Brunnhilde)が2011年9月17日 23:16に書いたブログ記事です。

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