f植物園の巣穴 梨木香歩

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吾妻郡図書館で借りてきた梨木作品2作目です。

f植物園の巣穴
著:梨木香歩 朝日新聞出版

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植物園の園丁は、椋の木の巣穴に落ちた。  前世は犬だった歯科医の家内、ナマズ神主、烏帽子を被った鯉、幼きころ漢籍を習った儒者、アイルランドの治水神...。  動植物や地理を豊かにえがき、埋もれた記憶を掘り起こす会心の異界譚。  (単行本の恐らく帯;図書館本のため、表紙に貼ってあったこれは恐らく帯と察せられる より転載)

歯痛に悩む植物園の園丁がある日、巣穴に落ちると、そこは異界だった。  前世は犬だった歯科医の家内、ナマズ神主、愛嬌のあるカエル小僧、漢籍を教える儒者、そしてアイルランドの治水神と大気都比売神......。  人と動物が楽しく語りあい、植物が繁茂し、過去と現在が入り交じった世界で、私はゆっくり記憶を掘り起こしてゆく。  怪しくものびやかな21世紀の異界譚。  (Amazon より転載)

う~ん、これは難解な本ですなぁ・・・・。  でも、難解ではあっても何故か近しく、親しく、ついでに言えば「現代の神話的」であり、KiKi の好みにはまさにジャスト・フィットの作品でした。  彼女の著書としては「家守綺譚」にかなり近いもの(若干「沼地の~」にも近いかも・・・・ ^^;)だと感じます。  

昨日のエントリーで「昭和の香り」みたいなことを書いた KiKi だけど、恐らくこの作品の舞台も昭和初期の日本のような気がします。  まだまだ日本神話の世界も今ほど廃れて(と言うとちょっと一般化しすぎでしょうか?)いないけど、西洋的合理主義も表舞台に出てきた時代。  まだまだ「庄屋」な~んていう言葉が身近だった時代。  そして、祖先とのつながりが感じられ「家」が重んじられ、オノコの美学が通用した時代。  この本を読んでいてふと思い出したのは随分前に読了した、内山節の「日本人はなぜキツネにだまされなくなったのか」という本のことでした。

まだまだ「キツネにだまされた」人が生息していた時代背景でこそ、説得力のあるこの「あわい」の世界。  騙されているような、訳がわからないような世界でありながらも、何故か日本人のDNAにはしっくりと馴染む、現代の神話のような摩訶不思議な世界に主人公ともども漂う自分の心に一種の安らぎに似たものを覚えました。  いえ、本当は不思議だったり理解できなくてもどかしかったりするんですよ。  でも、現実世界では感じる「理解できないことによる不安感」が、何だか頭の中のことだけであり、魂レベルではそれは大したことじゃないと感じられるような安堵感なんです。

 

主人公を取り巻く女性の名前がまた意味深だと思うんですよね。  千代さん。  千の世代・・・・要するにどこの世代にも属するものを連想させ、現実主義一辺倒の現代社会との対比・・・・のようなものも感じます。  しかもこの千代さんがあちらこちらで入れ替わること、入れ替わること。

虫歯の後の穴とご神木のうろが繋がるだろうなぁ・・・・というのは、物語の序盤で既に予感されるんだけど、ここで大気都比売神(オオゲツヒメ)とアイルランドの年老いた女の姿の精霊・カリアッハ・ベーラが通じるのは奇想天外な展開でした。  でも、生命と再生の象徴としての「水」が出てくるに至り(カリアッハ・ベーラは治水神)、そして大気都比売神(オオゲツヒメ)が日本神話の中では多くの作物の種を生む女神であることを思い出すに至っては、作者の「生物の営み」に対するある種の視座みたいなものが感じられ、思わず舌を巻きました。

今年、KiKi は上州高山農園で田んぼ作りを体験したわけだけど、田んぼの水は水道の水とは全く別の物であると感じたことを思い出しました。  科学的に成分がどうとか、自然環境の中で温度の変化がどうとか、そういうことではなくて、日頃水道水の蛇口をひねって出てくる水に「生命の源」とか「再生」な~んていうことは感覚的にも感じることはなくて、それは単なる「水」という名前の物体に過ぎなくて、これが用途として「洗濯」にも「ご飯を炊く」にも「味噌汁の材料」としても使われるまあ資源の一種に過ぎないモノなんだけど、田んぼの水には資源の一種というよりは「生命そのもの」のような感じがしたのです。  

思い起こせば、初めてここLothlórien_山小舎のある土地を見に来たとき、ここの土をいじっってみて最初に KiKi の口をついて出てきた言葉は「あ、この土。  生きてる!」というものでした。  子供時代に父親の園芸趣味につきあって土づくりを経験している KiKi には何となく「生きている土」と「死んでいる土」が感覚的に察せられるようなところがあって、この場所の土は感嘆詞付きで言わざるを得ないほど「生きている土」だと感じられました。  それとほぼ同じような感覚が、あの田んぼの水を「生きている」と言わしめた・・・・・そんな感じでした。

この物語に登場する主人公が坊と漂う水。  それは決して水道水のそれではなく、間違いなくあの田んぼの水に近いものだろうなぁというのが読中の KiKi のイマジネーションでした。  その水は決して透明度の高いものではなく、時にぬるっとした異物の感触があったり、時に何か微小な生き物が肌を刺したり噛みついたりする水。  ぬるっとした異物を感じても不快ではない不思議な水。  

この水に嵌ってあわいの世界を旅する主人公が「個人」からある意味では脱皮して「縁の中の1つの存在」となっていく様。  そして「坊」との別れ。  「坊」に授けられた名前。  その一つ一つの展開が非現実的でありながら、いえ、逆に非現実的であればこそ心に沁み込んできます。

KiKi がここ何年かずっと感じている「思考停止している自分の状態への危機感」とこの主人公の「硬直化した人生観」がどことなくクロスし、その痛みをそっと真綿でくるんで暖めてもらったような不思議な読後感でした。  

それにしても・・・・・・

梨木さんの世界観。  どんどん、難解な方へ流れていきますねぇ。  ありとあらゆる「記憶」「感覚」を総動員しないと読んでいて迷子になりそうな恐怖も味わいつつ、読み進める読書体験だったように感じます。

 

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このページは、KiKi (Brunnhilde)が2011年9月18日 12:52に書いたブログ記事です。

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