きつねのライネケ ゲーテ

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岩波少年文庫読破計画をぶちあげ、全冊(のつもり)の Index を作成していた時、そのラインナップの中にゲーテの名前を見つけた KiKi はビックリ仰天したものでした。  あのゲーテ、「ファウスト」や「若きウェルテルの悩み」や「ヴィルヘルム・マイスターの修業時代」を書いたゲーテ、ワイマール公国の宮廷顧問を務めたゲーテ、「18世紀の知性の象徴」のような存在だったゲーテが少年文庫にラインナップされるような作品を書いていたなんて!!ってね。  でもね、この物語、実はゲーテの創作ではなかったみたいです。  ヨーロッパで多くの人に知られていた「狐物語」という物語に題材を求め、そこにゲーテなりの人生観・・・・というか、社会観を若干付け加え深みを増した物語にしあげた作品がこの「きつねのライネケ」とのこと。  ま、何はともあれ、本日の KiKi の読了本はこちらです。

きつねのライネケ
著:ゲーテ 編訳:上田真而子  岩波少年文庫

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ヨーロッパに古くから語りつがれてきた、悪がしこいきつねライネケの物語。  ライオン王の御前で、狼、うさぎ、にわとりなど、動物たちがつぎつぎにきつねの悪行をうったえる。  言葉たくみに王をだまし、死刑をのがれたライネケは...。   (文庫本裏表紙より転載)

この岩波少年文庫版「きつねのライネケ」は読者対象として小学5.6年生を想定しているようです。  つらつらと思い出してみるに、KiKi がその年齢層だった頃、子供のための読み物というものの大半は「勧善懲悪」「予定調和」の物語ばかりだったように思います。  そうであるだけに KiKi は読中、まるで当然の事でもあるかのように「ああ、最後にはライネケには罰が当たるんだろうなぁ」と思いながら、ライネケの口から出まかせ答弁を楽しんでいました。  ところが・・・・です。  な、な、なんとライネケは勝利を収め、ライオン王の片腕となって動物王国(?)の重鎮となってしまうなんて!!!

でもね、よくよく考えてみるとまさにゲーテさんが最後の最後に仰る言葉どおり

さてさて世の中とはこんなもの、いつの時代でも、永久に変わりないのではないだろうか。

だよなぁ・・・・・と。  とは言うものの・・・・・・。  こんな救いのない終わり方の物語が児童文学であって、いいんだろうか???とちょっと複雑な気分です。  だってこれじゃ「憎まれっ子、世にはばかる」だし、「正直者は馬鹿を見る」だし、「最後に勝つのは悪賢いヤツ」みたいじゃない・・・・・・。  (まあ、現実としてはそういう側面もなくはないけどさ・・・・・) 

途中までのライネケの詭弁に関しては、詭弁と言いつつもある種の真理が見事に描かれているし、未だ自分なりの物の考え方が確立していない少年期の子供にいろいろなことを考えさせるという意味では素晴らしい展開だと思うんですよね。

大好物の蜂蜜につられて痛い目にあってしまった熊のブラウン君の災難も、同様にネズミにつられて痛い目にあってしまった猫のヒンツェ君の災難も、ちょっとむごすぎるきらいはあるものの、ライネケの言うとおり「自業自得」の側面もないわけじゃない。  別にそこに教訓がある・・・・と言いたいわけじゃないけれど、罪を免れたいライネケの苦肉の策、唖然としちゃうようなジコチュー発言とはいえ、一辺の真実は感じられちゃうだけに厄介です(苦笑)。

その後も繰り返される数々の悪行の後、ライネケが甥の狸のグリムバードと語りあう場面では、政治家という顔も持っていたゲーテの「社会観」がよく表れていると感じます。

王様はどうだ?  ひとの命を掠奪してやしないかな?  自分では手をくださないというだけで、家来に獲ってこさせてごちそうにありついている。  それが権利だと信じているんだよ。  だから、狼や熊みたいに、獲物を献上してへつらう者だけを大切にして取り立て、おれのように真実を述べる勇気のある者は邪魔なんだ。  (中略)  だから見てみろ、王様の寵愛を受けているのは、贈り物をする者とか、王様のご機嫌をとって言葉巧みに取り入る者とか、そういったやつらじゃないか。  (中略)  つまりだな、こそ泥は縛り首、強い者が餌をあさるのはお手柄なんだ。  全くもって不合理だよ。  (中略)  それに、正直な、りっぱな者になったからって、それがどうだってんだい?  いまどき生きていけやしないぞ。  行いすましている坊さんだって、実際はどんなものかねえ。  善良で博識だっていうけれど、お説教のあとでいうことを聞いてみろ。  「みなさん、懺悔をして神のおめぐみをいただき、罪をゆるしてもらいなさい。  そのためには惜しみなく喜捨して、りっぱな教会を建てなければなりません!」と、こうだ。  だから坊さんたちは歌ったり祈ったりしながら、いつも金持ちに寄り添っている。  善を説きつつ悪を為しているのさ・・・・・。

もちろん彼の弁舌の中にはこの物語の読者(≒ 事の一部始終を傍観者としてすべて観ている者)だから知りうる嘘が多く含まれているんだけど、上に抜き出した部分だけを聞く限りでは、「お説ごもっとも・・・・」と言うしかないパワーのようなものが感じられます。  矛盾に満ちた人間社会の諸相の一端っていう感じで・・・・・・。

思うに、この物語って「大人のための童話」なのかもしれません。  もちろんライネケは褒められた存在ではないけれど、じゃあ「聖人君子面している他の者たちが褒められた存在なのか?」と言えば「そうです」とは言い切れない。  そこに「理想の社会」を実現する難しさがある。  そんなことを感じさせられます。

ところで・・・・・・

この「きつねのライネケ」ですが、この少年文庫版では散文形式で子供にも読みやすい文章になっているのですが、実はゲーテは韻文詩の形で書いているのだとか・・・・・。  訳者のあとがきによれば、日本に最初に紹介されたのは明治17年のことで、その「狐の裁判」という翻訳出版は第5版まで出版されていた(≒ 人気があった)とのこと。  更には、あの内田百閒が子供向けの「狐の裁判」を編纂したと言うし、あの芥川龍之介をして「ゲーテは、『ライネケぎつね』を書いただけでも偉大だ。」と語ったとのこと。  う~ん、そうなってくるとゲーテの韻文詩も、内田百閒編訳の「狐の裁判」も是非、読んでみたいものです。

そう思って Amazon で色々調べてみたんだけど、その流れの物語はあんまり廉価本では出ていないんですねぇ・・・・・。  辛うじて見つけることができたのは岩波文庫に収録されている「狐物語」でこれはゲーテが元にしたフランス版の物語で狐の名前も「ライネケ」ではなく「ルナール(フランス語で狐の意)」とのこと。  読み比べをしてみて「ゲーテらしさ」を感じてみるにはいいかもしれません。

狐物語
編:鈴木 覚、 福本 直之、 原野 昇  岩波文庫

51UIW87aWrL__SL500_AA300_.jpeg (Amazon)

12世紀後半のフランスで、異なった時期に異なった作者によって作り足されて成った悪狐ルナールの物語。  狼イザングランとの闘争を中心に、宮廷の会議の様子、商人や農民たちの暮しなど、当時の社会が生き生きと描かれる。  その流行はヨーロッパ各地に及び、数多くの「狐物語」が生まれた。  ゲーテの『ライネケ狐』もその流れを汲むもの。  (文庫本表紙より転載)

あれ??  でも、これも今は絶版みたいですねぇ。  今のうちなら中古本でもかなり廉価だけど、時期を逸するとべらぼうなく高くなっちゃったりして・・・・・・ ^^;

   

 

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このページは、KiKi (Brunnhilde)が2011年9月27日 14:01に書いたブログ記事です。

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