水木しげるのラバウル戦記 水木しげる

| コメント(0) | トラックバック(0)

NHKの朝ドラ「ゲゲゲの女房」で今を時めく向井理君が演じていた水木センセイ。  TV版になる前の「ゲゲゲの鬼太郎」は KiKi の子供時代に「少年マガジン」に連載されていて、親戚のお兄さんから借りた漫画で初邂逅した KiKi だったけれど、正直なところあの画風にはどうしても馴染めず、でもお話は面白いので片目をつぶって読んでいた記憶があります。  たまたまその親戚は歯医者さんをしていて、KiKi の母親がアルバイトで月末(月初?)になると保険の点数計算をしに行っていたので、一緒についていくと無造作に投げ出してある「少年マガジン」が読み放題だったんですよね~。  ま、それはさておき、件の「ゲゲゲの女房」で水木センセイが南方の土人さんと親しくされていらしたような描写があって、KiKi のイメージする戦争体験物語とはちょっと異なるお話が聞けるかもしれない・・・・な~んていう期待があり、今回長らく積読状態だったこの本を手に取ってみました。

水木しげるのラバウル戦記
著:水木しげる  ちくま文庫

51HHFSJTR5L._SL500_AA300_.jpg  (Amazon)

太平洋戦争の激戦地ラバウル。  水木二等兵は、その戦闘に一兵卒として送り込まれた。  彼は上官に殴られ続ける日々を、それでも楽天的な気持ちで過ごしていた。  ある日、部隊は敵の奇襲にあい全滅する。  彼は、九死に一生をえるが、片腕を失ってしまう。  この強烈な体験が鮮明な時期に描いた絵に、後に文章を添えて完成したのが、この戦記である。  終戦直後、ラバウルの原住民と交流しながら、その地で描いた貴重なデッサン二十点もあわせて公開する。  (文庫本裏表紙より転載)

たまたま年末・年始にかけて、「池上彰の現代史講義」とか「池上彰の20世紀を見に行く」な~んていう「池上先生シリーズ」の世界史の復習番組をせっせと観ていた直後だったということもあって、激戦地として知られるラバウルであの水木センセイがどんな経験をされたのか、とても興味深かったんですよ。  何せ、水木センセイの場合、その戦地で片腕を失くされたという壮絶な体験をされていらっしゃるだけに、さぞやご苦労の多かったことだろう・・・・・と。

ところが意外や意外、「戦記物」と言えば付き物(?)の悲愴感・切迫感が極めて薄い・・・・・。  もちろん場所は戦地だし、乏しい物資の中で行軍ばかりしている陸軍さんだから悲愴感を漂わせようと思えばいくらでも漂わせられるエピソードが網羅されている割には「ホノボノ感」やら「ワクワク感」やらがそこはかとな~く漂ってくるんですよ。  それと言うのも、ここに登場する「水木二等兵」は凡そ兵隊さんらしくないんです。  勇ましさもないかわりに、臆病さも微塵もなくどこか飄々としているんですよね~。  戦争をさせられるために南方へ向かわされたにも関わらず、何だか珍しいもの・文化のあふれる南方世界に好奇心丸出しで本気でそれらを楽しんじゃうある種の「ふてぶてしさ」に満ち溢れているんです。


もちろんこの本の読者である私たちは彼が生還したことを事実として知っているわけだけど、それを知っているから・・・・・と言うよりは、彼の彼の地での生き様エピソードの一つ一つに「ああ、この人は絶対に生き残る」と思わせる生命力みたいなものが溢れているんですよ。  戦地での食糧不足から空腹感があるとはいえ、得体の知れないものを率先して食べちゃったり、上官から禁止されていてもしもバレたら通常以上の体罰(ビンタとか)を食らうことも承知のうえで土人部落に遊びに行っちゃたり、終戦後は本気で現地除隊を志願して南方に住み着こうと考えちゃったりと、凡そマイペース(笑)。  これが戦時中のお話であるという絵や説明がなければ「戦記」というよりは「南方旅行記」みたいな感じなんですよね~。

でも逆説的にはその「ホノボノ感」が溢れる場所に凡そ似つかわしくない戦争が日米両国によって持ち込まれちゃっていたわけで、現地の人にしてみれば迷惑千万このうえない。  ・・・・にも関わらず、水木センセイがいよいよ帰国するという段になって、とある土人の部落の人たちが彼を引き留めるために

「お前がここに残るなら畑もつくってやろう」  「家も建ててやろう」  「踊りも見せてやろう」 

と口々に言ったというエピソードと、七年後には再訪する約束をしたその部落にようやく二十三年後に訪れた水木センセイを泊めてくれたとある家で

「電気もない真っ暗なところで、一人ぐらい殺されたって判らないような環境だったために、かつて日本軍にいじめられたり、肉親を殺された経験のある者が、よからぬことをしないとは限らない・・・・・・ということで、家の中に若い者を1ダースぐらい同宿させて水木センセイの安全を担保した」

な~んていうエピソードを読むと、彼がいかに現地の人と溶け合っていたのか、信頼を得ていたのかを知ることができ、南方では必ずしも評判が良いとは言えない日本人の1人としては、彼のことを誇りに思いました。  

KiKi はね、外資系の会社でお仕事をしていた頃に、東南アジアの国々へは何ヵ国か訪ねたことがあるんだけど、その時に感じずにはいられなかった「同じ日本人として申し訳ない・・・・・」という想いを忘れきれない・・・・と言うか、無視することはできないようなところがあったんですよね。  でも、「こんな日本人もいた」ことを知ることにより、その「申し訳なさ」がほんの少し慰められたような気がしました。  KiKi の場合、「自虐史観」と言うほどには「日本悪人説」の持ち主ではないつもりなんだけど、それでもやっぱり彼の地で年配の方とお話すると、彼・彼女個人に与えた苦しみに関しては「私がしたことじゃない」とか「あの時代の日本がどうしたこうした」と他人事にできるほどには図太くないうえ、当時の日本の立場も理解できないわけじゃないけれどだからと言ってそれを声高に叫んで「日本擁護」の立場に立つ気にもなれない人間だから・・・・・・。


それはさておき、この本は大きく分けて3つのラバウル戦記(要するに戦時中の話)と戦後の2つの話、最後に年を経られた水木センセイが23年ぶりにラバウルを再訪した日以降の話の6つに分かれているんだけど、ラバウル戦記の最初の2つ & 戦後の内地へ帰る前の話は「少年マガジン」なんかでお馴染みになった水木画風以前の絵が添えられています。  この絵がいいんですよね~。  ラバウル戦記3の絵は水木画風炸裂という感じの絵で、現代の蛍光灯の下でこそ直視できるけれど、裸電球1灯の下だとちょっと恐そう・・・・・・(笑)  

ドンドン・パチパチの悲痛な「戦記」しか読んだことのない方にはオススメできる1冊だと感じます。


     

トラックバック(0)

トラックバックURL: http://poco-a-poco.chu.jp/mt/mt-tb.cgi/1111

コメントする

2015年2月

1 2 3 4 5 6 7
8 9 10 11 12 13 14
15 16 17 18 19 20 21
22 23 24 25 26 27 28

Current Moon

CURRENT MOON

東京のお天気


山小舎のお天気


Booklog



ブクログ

アーカイブ

ウェブページ

Powered by Movable Type 4.261

TrackbackPeople

クラシック・ピープルの Trackback People Site


チェロ ラヴァーズの Trackback People Site


Piano~ぴあの Trackback People Site


ピアノオススメ教本の Trackback People Site


ピアノ教室の Trackback People Site


Book Love Peopleの Trackback People Site


本好きPeople・ぴーぷるの Trackback People Site


今日読んだ本の Trackback People Site


ファンタジーが好き♪の Trackback People Site


この絵本がすごい!の Tackback People Site


児童書大好き♪の Trackback People Site


ハヤカワepi文庫の Trackback People Site


岩波少年文庫応援団の Trackback People Site


薪ストーブの Trackback People Site


週末は田舎暮らしの Trackback People Site


野菜育てPeopleの Trackback People Site


ガーデニングの Trackback People Site


パッチワークキルトの Trackback People Site


あなたの訪問は?


日めくりカレンダー


Real Time News


カテゴリ

ノルンはいくつ?

本が好き!


読書メーター

KiKiさんの読書メーター
KiKiさんの読書メーター

最近読んだ本

KiKiの最近読んだ本

今読んでいる本

KiKiの今読んでる本

読了目標





今やってるゲーム

KiKiの今やってるゲーム

このブログ記事について

このページは、KiKi (Brunnhilde)が2012年1月17日 10:37に書いたブログ記事です。

ひとつ前のブログ記事は「小さい牛追い & 牛追いの冬 M.ハムゼン」です。

次のブログ記事は「せむしの小馬 エルショーフ」です。

最近のコンテンツはインデックスページで見られます。過去に書かれたものはアーカイブのページで見られます。

高速運賃





Edita

ブロガー(ブログ)交流空間 エディタコミュニティ

名言黒板


作家別タグ