ちいさな王子 S.テグジュペリ

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KiKi が中学 & 高校生の頃、東京に出てくる時には必ず立ち寄った町がありました。  音大の先生のレッスンを受けていた頃は月に最低1度は東京に出てきていたのですが、必ず立ち寄った場所は「銀座の山野楽器の楽譜売場」と「神田の古本屋街」でした。  当時の沼津市(KiKi の実家から一番近い都会; 沼津へ出かけることを「マチへ行く」と言っていた 笑)にも楽器屋さんや本屋さんはなかったわけじゃないんだけど、音大受験生の必需品(?)だった「ヘンレ版の楽譜」はなかなか入手できなかったし、田舎の本屋さんの扱っている本の冊数・種類は哀しくなるほど乏しいものでした。

大学進学と同時に上京した KiKi はその後約25年間はそれらの「品薄感」とはまったく無縁の生活を送るようになりました。  そうこうしているうちに、ネットショップがどんどん充実してきて、今となっては都会と田舎の「その類の環境格差」はずいぶんなくなったと思うんだけど、それでも今でも大きな差があると感じているものに「ブックオフの品揃え格差」が挙げられると思います。  池袋あたりには中型 & 大型のブックオフが複数あって、時間調整のために利用しては何かを衝動買いする・・・・というスタイルで生活してきた KiKi はLothlórien_山小舎をメインの生活の場とするようになった今も、渋川やら群馬原町あたりの中古本屋さんにはよく立ち寄るんだけど、そこで売られている本には大きな偏りが感じられます。

ま、てなわけで、今上京すると必ず立ち寄る場所に「ブックオフをはじめとする古本屋さん」が挙げられる KiKi。  昨日もハローワーク通いの帰りに2軒のブックオフに立ち寄りました。  そして目を皿のようにして探すのが「岩波少年文庫」、「光文社古典新訳文庫」、「ちくま文庫」、「ちくま学芸文庫」、「講談社学術文庫」の棚です。  で、昨日も戦利品(?)として「光文社古典新訳文庫」から12冊、「ちくま文庫」から2冊、「岩波少年文庫」から1冊をゲットしました。  その中の1冊が本日の読了本です。

ちいさな王子
著:S.テグジュペリ 訳:野崎歓  光文社古典新訳文庫

51oyZx7+DtL._SX230_.jpg (Amazon)

砂漠に不時着した飛行士の「ぼく」。  その前に突然現れた不思議な少年。  ヒツジの絵を描いてとせがまれたぼくは、ちいさな星からやってきた王子と友人になる。  王子の言葉は、ずっと忘れていた、たくさんのことを思い出させてくれた。  「目ではなにも見えないんだ。  心でさがさなくちゃ」。  (文庫本裏表紙より転載)

つい先日、岩波少年文庫で「星の王子さま」を読了したばかり・・・・・。  そういう意味ではなぜこのタイミングでこの本をいかにブックオフ価格とは言え購入してまで読んでみたいと思ったのか、我ながらちょっと不思議(苦笑)。  まあ、半分はこのブログで今年は「岩波少年文庫」と並んで「光文社古典新訳文庫」もとりあげようと年頭に決心したからっていうのもあったのかもしれません。  でもそれより何より、何年か前に「星の王子さま新訳ラッシュ現象」が発生し、都内の大きな本屋さんでは「星の王子さまコーナー」ができちゃったりして、それに触発でもされちゃったのか KiKi がよく利用する関越自動車道の寄居PAは「星の王子さまPA」に変わっちゃったりもして、日本人の得意な「一過性ブーム」が過ぎ去ったこのあたりで内藤濯氏以外の翻訳を1冊ぐらいは読んでおくのもいいかも・・・・・と思ったということがありました。

ま、それだけじゃなくて、パラパラと立ち読みしてみたら、文庫本にも関わらずこの本、挿絵がほぼ全部カラーじゃないですか!!  KiKi の手持ちの「星の王子さま」はモノクロ(要するに古い!)だったので、カラー図版の本を手元に置いておきたかったというしょ~もない理由もあったりします(笑)   

   

当然のことながらお話に大きな違いがあるわけではなく、少年文庫で読んだ記憶もまだまだ鮮明だったのでデジャブ感は満載の読書だったんだけど、今回の読書で一番感じたことはこのタイトルの意味でした。  私たち日本人には「星の王子さま」というタイトルがあまりにも強烈に刷り込まれてしまっていて、そしてこの物語のイメージはこの「星の」と著者本人が描いた挿絵の印象と相俟って固定化されてしまっているようなところがあるように感じるんだけど、今回読んだこの新訳の訳者の方はあとがきでこんなことを仰っています。

ぼく自身は、「星の王子さま」という題名は甘ったるくてちょっと照れるなあとずっと感じてきたひねくれ者である。  だから内藤訳に親しんだことはない。  「小さい(プチ)」という形容詞がタイトルから消えているのはまずい、とも考えてきた。  なぜなら、「望遠鏡でも見えないくらいの」小さな星からやってきた、小さな王子の、小さな物語、それが本書だからだ。  「大きな人(グランド)」つまり大人の考え方や発想の彼方で、子どもの心と再会することが本書のテーマである。  「大きい」「小さい」の区別が物語にとって重要な事柄となっているのは、バオバブの一件がよく示しているとおりだろう。  もちろん、petit は単に物理的に「小さい」というだけでなく、幼い、可愛らしい、いとしい、といったニュアンスを帯びてもいる。  漢字を避けて、ひらがなで表記することでその感覚を多少なりとも漂わせられないだろうか。  そしてまた、「ちいさい」よりは「ちいさな」とする方が、より感情のこもったいい方になるのではないか。   と考えた結果生まれたのが「ちいさな王子」という次第である。

実はね、KiKi は以前このエントリーでも書いたように大学時代のフランス語の授業のテキストでこの「星の(もしくはちいさな)王子」の文章に出会ったことがあるんですよ。  もちろん全文ではなくて、抜粋なんですけどね。  で、そこには所謂出典も記載されていて、「Le Petit Prince」と書いてあったんだけど、最初はそれがこの超有名な「星の王子さま」のことだとは思わなかったんです。  で、仏日辞典をひきながら和訳文を書いているうちに、「あれ?  これってひょっとして『星の王子さま』じゃない!!」と気が付いてねぇ。  当時は至極単純にこの「Le Petit Prince」に「星の王子さま」というタイトルをつけた内藤氏のセンスに感銘を受けてそれでお終いでした。

でも今回、この新訳を読んでみてこの「petit」に拘らずにはいられなかった訳者さんの気持ちが何となくわかるような気がしたんです。

KiKi の子供時代、とあるコマーシャルで「大きなことはいいことだ」というフレーズが使われたことがありました。  でもその後の価値観の変動の中で「大きけりゃいいってもんじゃない」という風潮が生まれてきて、今はその延長線上にあるように感じます。  でも、一度は大きい方に舵をとったこの社会はこの「大きい」と「小さい」のひずみの中で喘いでいる・・・・・そんな気もしないじゃないんですよね~。    

でね、今回、この「小さな」「大きな」という対比の中に、KiKi は「大きな組織で動く効率的・合理的社会」というものを感じ取りました。  もちろんそれが「悪いこと」とは言い切れないんだけど(特に落ちこぼれながら会計人感覚からすると 苦笑)、それでもその「効率性」「合理性」追及の陰に、王子が自分の星から地球に至るまでに立ち寄ったいくつかの星に住む不思議な住民の姿がダブって感じられるんですよ。  「支配だけしたがる王さま」、「ただ目立ちたがる男」、「自分を見失い酒ばかり飲んでいる男」、「ひたすら忙しがるビジネスマン」、「点灯だけを仕事とする男」、「フィールドワークをしない机にかじりついている学者」・・・・・・。 

今更ながら・・・・・ではあるけれど、この物語ってひょっとしたら「人間性の喪失」に対する危機感の物語であり、どんどん近代化していく世界への警鐘の文学だったのかもしれません。  そう・・・・、言ってみれば「怜悧な社会風刺の物語」。  そしてもう一つ感じたのは、ここ何年か KiKi 自身もず~っと考え続けていることなんだけど「グローバル・スタンダードって本当のところ何???」という命題について扱っている物語でもあるんだなぁということでした。

「翻訳の好き・嫌い」というのは個人の趣味の問題もあるうえに、自分自身に馴染みのある言葉が使われているか否か(つまりは時代性)みたいなものもあるので、KiKi 自身は旧訳がどうとか、新訳がどうとか、そういうことに評価ができる立場ではないと考えています。  でも、例えばベートーヴェンのピアノ・ソナタのCDを聴いていて、KiKi 自身は「アラウの演奏」を理想としている(≒ このソナタにもっとも感受性が強い時期に繰り返し聴いた演奏だったから)のと同じように翻訳に関しても「自分に何らかのインパクトを与えた翻訳」が結局のところその個人の「スタンダード」になるように思うんですよ。  そういう意味ではこの「Le Petit Prince」は内藤訳のものが培ってきた時間が長い分、一番しっくりくるのはこれはしょうがないことだと思うんですよね。   

でも、今回その馴染みのあるタイトルの「星の」が取り払われ「ちいさな」に変わったことによって考えさせられることが多々あったのも又事実です。  そういう意味ではこの物語(この新訳)をこのタイミングで読んだことは KiKi にとって良かったことだと感じています。


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