風の万里 黎明の空  小野不由美

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再び雪に閉ざされてしまったLothlórien_山小舎で、薪ストーブを前に読書に耽る。  そんな贅沢な1日を過ごしてしまいました。  本日の KiKi の読了本はこちらです。

風の万里 黎明の空
著:小野不由美  講談社文庫

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天命により慶の国、景王となった陽子は民の実情を知るために街へ出た。  目前で両親を殺され芳国公主の座を奪われた祥瓊は、父王の非道を知り自らを恥じていた。  蓬莱から才国に流されてきた鈴は華軒に轢き殺された友・清秀の仇討を誓った。  それぞれの苦難を抱いて三少女はやがて運命の邂逅の時を迎える―。  (文庫本上巻裏表紙より転載)

思うままにならない三匹の豺虎(けだもの)を前に自らの至らなさを嘆く景王・陽子の傍にはいつしか祥瓊、鈴、二人の姿があった。  "景王に会いたくて、あなたは人人の希望の全てなのだから"  陽子は呪力をたたえる水禺刀を手に戦いを挑む。  慶国を、民を守るために。  果てしない人生の旅立ちを壮大に描く永遠の魂の物語。  (文庫本下巻裏表紙より転載)

これは素敵な物語ですねぇ。  「ポジションが人を作る」という KiKi も経験してきた社会における暗黙のルール(・・・・のようなもの)が見事に描かれているし、「人生は辛い事と幸せな事が半々のはずなのに、人間っていうのは、なぜか辛い事の方を大きくとらえてしまう」という人生における1つの真実も的確に描かれています。  物語は「月の影 影の海」で十二国の世界に否応なく巻き込まれてしまった「巻き込まれ系主人公」の陽子が、腹を括って「景王」であることを受け入れた後の顛末が描かれています。

前作、「東の海神 西の滄海」の Review でもちょっと書いたように、蓬莱での人生経験が「お気楽、周りに流され系の女子高生」に過ぎなかった陽子なだけに、彼女なりにかなり悲愴な覚悟をしたうえで即位した「景王」という立場・・・・ではあっても(であっただけに・・・・と言うべきか?)、正直なところ延王の物語みたいに安心感を持って読むことができませんでした。  案の定、自分が目指すべき王の姿も、自分が実現したい成果の Vision も持つことができずに戸惑う陽子の姿が何とも初々しい限りです(笑)  でも、彼女の「もがき方」「迷い方」を読んでいるうちに、それは少しずつ安心感に変わっていきました。  


人のことは笑えないもので、KiKi も社会人になって初めて「組織の長」となったときには、「マネージャーのあるべき姿とは?」な~んていうことを真剣に考えたし、自分よりも会計学の知識があるように見えた(要は資格保持者の)部下を前にした際には萎縮もしたものでした。  実際に人の下で働いているうちは「人の上に立って働く」ということがどういうことなのか、そのポジションにおける孤独感・身を切られるような不安感・それでも毅然としていなければならない(決して威張っているとか虚勢を張るという意味ではなく)緊張感というものはわからないものです。  そして「人の上に立つ」ということは必ずしも「誰よりも賢く何でも知っている必要があるわけではない」ということや、「組織を動かすということは自分個人の裁量でできることを考えるわけではない」ということも・・・・・・。

一方で、被害者意識の塊で誰かの助けをひたすら待つ「巻き込まれ系悲劇のヒロイン」の殻をなかなか破れない鈴や、「世間知らず系お嬢様感覚引き摺り型のヒロイン」に徹している祥瓊(しょうけい)を登場させたことにより、陽子の潔さ・真摯さが際立ち、恐らく上巻を読んでいる限りにおいては大方の読者に鈴や祥瓊の言動はイライラ感を感じさせるのではないかしら・・・・・。  でも、実際の世の中には、そして悲しいことに女性にはこの傾向の強い人が多いのは事実なんですよね~(苦笑)  

KiKi はね、以前某会社で部長職をしていた時に、KiKi の部下ではなかったんだけど派遣の女性社員数名に相談をもちかけられたことがあります。  で、その時に彼女らが開口一番に言ったセリフが

「KiKi さんは同じ女性だからわかってもらえると思うんですけど・・・・・・。」

というもので、そのセリフを聞いた途端にうんざりしたことがあるんですよ。  これってまさしくこの物語の「鈴 Version」。  まあ、KiKi にも経験がまったくなかったわけじゃなくて、まだまだ甘ちゃんだった頃には心の奥底でまったく感じたことがなかったわけでもない苛立ちの表明だったから、その場でピシャリと遮断まではしなかったけれど、「女性だから」という枕詞がつく訴えには呆れちゃうものが多い・・・・。  この時の相談事の詳細は書かないけれど、ものすご~く正直に言ってしまえば

「ごめん、同じ女性だけど、ここが会社であることと、組織を運営する立場にある者として言わせてもらえるなら、あなたたちが言っていることはさっぱりわからない。  文句を言う前にまず最初にしなくちゃいけないことは、あなた自身がどういう仕事をしたいのか自分の覚悟を決めなさい。  責任を持たされることなく気楽にこなせる仕事をしたいんだったら、へたな欲目を出さずに言われたことをやっていればいい。  責任ある仕事を任せてもらいたいんだったら、『派遣社員なんだから』とか『女性なんだから』とか言う言い訳をしていないで、まず任された仕事に対して責任を全うするべきで、誰かが守ってくれると期待するのが間違っている。」

と言い放ってしまいたい気分になった・・・・・ということだけは記しておいてもいいのではないかしら??  こういう人たちってこの物語の鈴や祥瓊(しょうけい)と同じように、自分を省みることにはまったく思い至らないで、他人を勝手に持ち上げたり、蔑んだり、はたまた羨ましがってばかりいたりするものなんですよね~。  で、それを性別のせいにしたり、社会のせいにしたりする。  自分とはちょっと違うように(恵まれているように)見える相手がいると、その相手が実は体の芯がうずくように痛むような号泣に夜な夜な耐え、ブラックホールに吸い込まれるような悪夢を見ながらも、昼間は笑っているような生活をしていてもそんな姿には気づきもしなければ、そもそもそんなことは想像さえできないままに・・・・・。

この物語では最後は鈴も祥瓊(しょうけい)もちゃんと目覚めるわけだけど、それは「生きるのに必死な世界だからこそ」なんだと思います。  必死にならなくても飢えることなく、グラビア雑誌に載っているようなオシャレはできなくても着るものには事欠かず、雨風に打たれ凍えることもない「恵まれた」生活をしていれば、恐らく彼女たちも目覚めないまま「景王」を勝手に羨み、勝手に憎んで、何のために生まれてきたのかわからない一生を送ってしまった可能性もあったような気がします。  もちろん、彼女たちが出会った素敵な人たちのおかげ・・・・という部分も大きいけれど・・・・・・。

ところで、この物語の中で KiKi にとって一番興味深かった登場人物は陽子でも鈴でも祥瓊(しょうけい)でもなかったりします。  一番興味深かったのは祥瓊(しょうけい)を一時的に預かり、彼女を徹底的に無視した恭の国の王の珠晶(しゅしょう)という女の子です。  設定からするとまだまだ幼女のはずなのに何ともカッコいい(笑)

「あなたの身柄を引き受けたのは、あなたが芳(祥瓊の母国。  彼女はその国の公女だった。)にいては国のためにならないから。  決してあなたに対する慈悲ではないことを、覚えておいて。」

「あたしは王になったけど、聖人君子になったつもりなんかないわ。  そんなの御免だもの。  -  そしてあなたはあたしの下僕なの。  そうでしょ。  国を治めるのって本当に大変なんだから。  それをさぼって遊んで暮らして、父親を窘める分別も持てなかった愚者を哀れむ慈悲なんて持ち合わせがないの。  麒麟とは違ってね。」

「この事態を招いたのは仲韃(ちゅうたつ; 祥瓊の父、先代の芳王)だわ。  仲韃自身と、その周囲にいて王を諌めることができなかったぼんくらたちのせいよ。  だから祥瓊は嫌い。 - それがそのお涙で一杯の水樽みたいな頭にも理解できたら、鞜(くつ)を拾ってきて履かせてちょうだい。」

「そりゃあ、祥瓊は腹立たしかったでしょうとも。  あんなに気位が高くっちゃあ、奚(げじょ)の暮らしは侮辱だと感じるでしょうよ?  そうでなきゃ、意味がないわ。  だってあたしは祥瓊をいじめてやりたかったんだもの。  一国の王族よりも豊かな暮らしをしてる人間なんていないの。  あたしが奚(げじょ)より恵まれた暮らしをしてるのは、奚(げじょ)たちより重い責任を担っているから。  だからあたしが絹にくるまれて生活してても、奚(げじょ)たちは許してくれるの。  頭を下げてくれるのよ。  そうでなかったら、たちまち峯王みたいに首を落とされてるわ。  違う?  祥瓊はその責任に気づかなかった。  その責任を果たさなかった。  野良仕事は辛い、掃除は辛い、嫌だ嫌だって駄々をこねて逃げ出す人間を許すことはね、そういう仕事を果たしている人に対する侮辱なの。  同じように朝から晩まで働いて、盗みも逃げ出しもしなかった人と同じように扱ったら、まっとうな人たちの誠意はどこへ行けばいいの?」

(平伏している他の奚に向かって)
「顔を上げてちょうだい。  -  あなたたちの務めがとっても誘惑の多いものだってことがよく分かったわ。  魔が差しそうになったこともあったでしょうに、よくこらえてくれたわね。」

まだまだ若い(というよりは幼い)女の子だったら可愛らしくていい子で優しい子を演じたい年頃だろうに、ここまではっきりと「聖人君子になるのは御免」「嫌い」と言い切れる覚悟の強さ、そして本当の意味での「平等」をしっかりと認識できる知性、更には一見気が強い生意気そうな発言が多いようにも感じられるけれど、本当に優しさを示すべき相手を間違わずに、タイムリーにそこをフォローできる臨機応変さ。  彼女自身のセリフを借りるなら、こういうことができることこそが「王の責任を自覚する」ことの第一歩だけど、大したものです。

さて、次は「図南の翼」です。  おやおや、文庫本の扉にある解説を見ると、今度はその珠晶(しゅしょう)の物語なんですねぇ。  これは楽しみ♪です。  もっとも・・・・・・・

今朝図書館から電話がかかってきて、上橋菜穂子さんの新刊「災路を行く者」が貸し出せる状態になったとのこと。  これはできるだけタイムリーに読みたい作品だし、これを読むとなると「守り人シリーズ」を再読したくなっちゃうんだけど、どうしたもんでしょうか・・・・・・。  KiKi は「守り人シリーズ」は「軽装版」で揃えているので、蔵書化するのはやっぱり「軽装版」にしたいから、とりあえず図書館から借り出すことにしたんだけど、図書館の本っていうのは返却期限があるから最優先で読まなくちゃいけないしなぁ・・・・・。  優先順位をどうするか、じっくりと考えなくちゃいけません!(笑)

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このページは、KiKi (Brunnhilde)が2012年2月26日 14:11に書いたブログ記事です。

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