夜の神話 たつみや章

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図書館で借り出してきた「月神シリーズ」に触発され、読み始めたたつみや章さんの「神様三部作」の2作目です。  取り上げられているテーマが原子力発電所の事故ということもあり、福島原発事故のもたらす多くの社会問題真っ只中のこの時期にこの本を読むことができたことに、神様に感謝したい気分の KiKi です。

夜の神話
著:たつみや章  講談社文庫

5146gzWCcdL._SL500_AA300_.jpg  (Amazon)

引っ越した田舎での生活に、馴染めずにいたマサミチ少年。  ひょんなことから神様の力によって、虫や木の声が聞こえるようになり、命の大切さに少しずつ気づいていく。  その一方、父が勤める原子力発電所で事故が発生。  兄と慕う父の同僚、スイッチョさんは被曝してしまう。  第41回産経児童出版文化賞推薦作品。  (文庫本裏表紙より転載)

この物語、1993年に書かれていた物語だったのですね。  93年と言えばあのジュリアナ東京が最後の仇花を咲かせてイケイケ・ドンドン・ムードを煽っていた時代です。  あの頃、一方では夜な夜な遊び歩きお立ち台で燥ぎまわっていた人もいた一方で、こんな物語を書かずにはいられなかった人もいたということを考えると、何とも複雑な気分です。  かく言う KiKi も93年当時には何をしていたのか?と言えば某外資系会社で初めて Manager ポジションを得て、自分の市場価値を上げることに躍起になっていた時代でした。  つまりは、この物語のマサミチ君同様にツクヨミ様に「闇鬼(アンキ)」と呼ばれても仕方のない生き方をしていた時代だったと思います。

まあ、KiKi の場合はマサミチ君ほどには競争社会の中で先陣を走りたいという意欲はなかったし、都会のアスファルトの上で干からびているミミズの死骸なんかを目にするたびに「こんなところに出てきちゃったのね、あなた。  途中で力尽きちゃうなんて考えもしないで・・・・・・。  成仏してね。」な~んていうことを感じていたぐらいには人間以外の生き物も命であるという感覚だけは持ち合わせていたけれど・・・・・。  

人間以外の生き物も「生命」であるという感覚は昨今では都会っ子じゃなくても失いつつある感性なのではないかしら。  お魚といえばスーパーで売られている切り身しか見たことがなくて、丸のお魚を前にしたら魚の目が怖くて自分ではさばけないという人が多いけれど、KiKi はそれってどこかおかしいと思うんですよね~。  丸のお魚を見てお魚全般が食べられなくなっちゃったというならいざ知らず、自分ではさばけないのに切り身になったら安心して食べられるな~んていうのはさらに悪い。

誤解を恐れずに言い切ってしまえば、そういう人って感受性が強いわけでも繊細なわけでも優しいわけでもなくて、自分だけは穢れとは無縁でありたいというある種の我儘、単なる可愛い子ぶりっ子だと思うんですよ。  「命をいただく」覚悟もないままに「穢れの場面を知らないということをいいことに」のうのうとご飯を食べ、生態系の頂点にいるかのごとく錯覚しているな~んていうのはもってのほかだと思うんです。

正直に言えば KiKi だって例えば鯛なんかは目玉が大きいだけに捌くのにそれなりの気構えを要します。  あのギョロ目と目があってしまうと、思わず手も止まるし、「申し訳ありません。  包丁を入れさせていただきます。」と口にせずにはいられないし、大きく息を吸って一気に捌いちゃわなければ居心地も悪い・・・・・。  でも、それを己が手でやることによって、自分は他者の「生命」を頂いているという現実を実感せずにはいられないし、必要に迫られなければ他の生き物の「生命」を絶つことに躊躇も覚えるようになる・・・・・そういうものだと思うんですよね~。  プラスチック容器に入って売られていて台所では鍋かフライパンで料理するだけで済んでしまう今の食生活のあり方そのものが、他の生き物に対する無関心を助長する1つの原因だとさえ感じます。  (まあ、忙しい身には便利であることは認めるけれど・・・・・ ^^;)

ツクヨミ様の「さとり饅頭」を頂くことによってようやく他の生き物の「生命」に気が付くようになるマサミチ君の姿を見ていて、どうしてツクヨミ様はもっとたくさんの饅頭を作って現代人に振る舞ってくれなかったのか?な~んていうことを感じました。  でも、彼が「生命」に気が付くのはもっと大事件のための伏線に過ぎませんでした。

原子力発電所で技術主任として働くお父さんの苦悩、お父さんの部下で大災害を食い止めるたけに一命を賭して頑張るスイッチョさん。  被爆したスイッチョさんから発する「青い炎」の描写が恐ろしくもあり、悲しくもあります。

家魂のヨネハラさんの言葉がズシリと重く響きます。  曰く

あの青い火は、まだ人たちが使うには難しいもののようですねぇ。  かと言って、一度使い始めたものをやめるのも、また難しい事のようです。  なにしろ一度燃え始めてしまったあの青い火は、何百年、何万年という「時」にまかせるほかには消す手立てがないらしいのですから。  困りますねぇ。

ひとつ間違えば家でも山でも火事にしてしまう赤い火は、人はうまく使っていますけどね。  あの青い火は、その何百倍も使い方が難しいようだ。  人の知恵が、いずれは安全に使いこなすのかもしれませんけど、それまでにいったいどれくらいのスイッチョさんが・・・・・あの青い火の犠牲になる人が出るものやら・・・・・・

我が日本国ではあの福島原発事故でいったい何人のスイッチョさんが出てしまったのでしょうか??  この物語ではこの原子力発電所の事故のあと、TVのニュースがマサミチ君が思う本当に大事なこと(原子炉がどれほど危険な状態だったか、もしかしたら何万人もの人たちが逃げ惑うことになったかもしれなかったということ、それを防ぐためにスイッチョさんが自分の命と引き換えにして人々の安全を守ったこと 等々)を一切伝えなかったのに対し

それだけだった。  たったそれだけ!

と憤慨していたけれど、今、私たちが聞いているニュースもそういう大事なことを伝えてくれているのかどうか・・・・・。  避難を余儀なくされている方々の近況はいろいろな形で報道されているけれど、それが本当の状態をちゃんと反映しているものなのかどうか・・・・・。 

こんな事件を引き起こしてしまった日本であればこそ、この物語はもっともっと読まれてもいい物語だと感じました。  児童書と言えども決して侮れる内容のものではありません。

さて、次は「神様三部作」の第三作、「水の伝説」です。       

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このページは、KiKi (Brunnhilde)が2012年3月 6日 12:31に書いたブログ記事です。

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