不毛地帯(5) 山崎豊子

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今日は雨。  畑仕事や田んぼ仕事が一段落ついている今の状況でのこの悪天候は KiKi にとっては恵みの休息時間です(笑)  ま、そんな中、ようやくこの大作を読了することができました。  てなわけで、本日の KiKi の読了本はこちらです。

不毛地帯(5)
著:山崎豊子  電子書籍

51BfDzV84KL._SL500_AA300_.jpg  (Amazon)  (Sony Readers)

油田開発を商社マンとしての最後の仕事と思い定めた壹岐は、社内の反対を押し切り、イランのサルベスタン鉱区に賭けた。  政官界からの逆風をかわし見事採掘権の落札に成功するが、灼熱の大地からは一向に原油の噴き出す兆しはなかった......。  シベリアと中東、二つの「不毛地帯」を彷徨する一人の日本人の戦いを、戦後史を背景に圧倒的な筆致で描ききった一大巨編、ここに完結。  (Sony Readers より転載)

日本のあの時代の女性作家の作品とは思えないぐらいの重量級の物語がようやく完結しました。  KiKi にとって決して初読の物語ではなかったにも関わらず、グイグイと惹きつけられ、大作の割には一気に読み終えることができてしまったように感じます。  この物語の初読の大学時代には、戦中は大本営参謀というポジションにあり、かの敗戦でいわゆる「戦争責任」を我が事として心に刻み、商社マンとしての第二の人生に真摯に対峙する壱岐正の生き様・・・・みたいなものに感銘を受けたものでしたが、自分自身が社会人としての生活を長く続け、今の年齢に至った KiKi にとっては主人公の人物造形にはどうしても「嘘くささ」を感じる読書になってしまいました。

にも関わらず、これだけ熱中して読むことができた背景には、KiKi がこの物語の主人公を「壱岐正」とは見做さず、「敗戦から立ち上がろうとする日本社会そのもの」という視座があったからだったように感じます。  KiKi 自身はこの物語からはるかに時代を下った「高度経済成長真っ只中」の時代に生を受け、幼年期を過ごし、バブル期と呼ばれる時代に学生時代及び社会人新人時代を過ごしてきたわけですが、祖父母、父母が壱岐正とは立場こそ違えど必死に立ち上がろうとしていた様を、自分なりの物差しを持って見つめられるほどには成熟していませんでした。  

岩波少年文庫の旧版の「発刊に寄せる言葉」にある

一物も残さず焼きはらわれた街に、草が萌え出し、いためつけられた街路樹からも、若々しい枝が空に向かって伸びていった。  戦後、いたるところに見た草木の、あのめざましい姿は、私たちに、いま何を大切にし、何に期待すべきかを教える。  未曽有の崩壊を経て、まだ立ち直らない今日の日本に、少年期を過ごしつつある人々こそ、私たちの社会にとって、正にあのみずみずしい草の葉であり、若々しい枝なのである。

が、この物語の時代の人びと(それは必ずしも主人公である壱岐正に限らず、物語に登場する近畿商事の様々なポジションの人々、政治家、秋津(兄)、ライバルの鮫島さん)の生き様の中に、的確に描写されている・・・・・。  そんな感慨を持ちました。  なまじ現実社会の中の誰かさんとこの物語の中の誰かさん(法人も含め)が安易にリンク付けしやすいだけに、あたかも伝記物語、事実であるかのように感じられちゃうのがこの物語のもっとも大きな難点なんじゃないかと・・・・。  


でもそこは図らずも著者自身が物語の冒頭で断り書きを入れているように

これは架空の物語である。  過去、あるいは現在において、たまたま実在する人物、出来事と類似していても、それは偶然に過ぎない。

ということなのですから、やはりこの物語は決して「商社マン賛歌」「壱岐正英雄譚」として読むべき物語ではなく、あの時代の日本社会を動かしていたムーブメント、ある種の力学を描いた物語として読むべき物語なんだろうと思います。  もっとも、「仮にそうであったとしても類似し過ぎだろう!!」という突っ込みは心の中のどこかには燻ってしまうやっかいな物語ではあると思うんですけどね(苦笑)


第4巻の Review で KiKi は


「組織で仕事をしているっていう感じがあんまりなくて、個人技で仕事をしている・・・・そんな印象なんですよね。」


と書いたけれど、この第5巻で壱岐正が


「組織です。  これからは組織で動く時代です。  幸いその組織は、出来上がっております。」


と言っているところから類推するに、やはり戦後すぐぐらいの日本社会というのは「組織で仕事をしていたというよりは、個人技で仕事をしていた時代」だったのかもしれません。  そして、KiKi 自身はその「組織で仕事をする時代」に社会に出ているので、「 1 + 1 > 2」という個人技では達成しえない成果により大きな価値を置くスタンスで長らく仕事をしてきたけれど、これは良い面に出れば確かにその通りなんだけど、裏目に出ると「組織の歯車の1つに過ぎない私 ≒ アイデンティティの喪失」みたいな部分もあるわけで、なかなか難しい問題なんだよなぁ・・・・と。  

事実、景気の良い時代であれば「組織でこそ達成できる 1 + 1 > 2 の成果」が大々的に持ち上げられ、そこに携わった人たちにある種の「達成感」をもたらしたりもするわけだけど、景気後退の時代になってしまうと「個人の市場価値」だの「他の人にはない自分だけの強み」だの「自己責任」だのという言葉がマスコミには舞い踊り、それが閉塞感をさらに深め、社会全体に負のスパイラルを生んだりもするわけで・・・・・。

いずれにしろ、私たち「戦争を知らない世代」がある種の「既得権」であるかの如く、享受している「経済大国日本」ができあがるまでには、この物語で登場したような「使命感に燃えた世代」があったこと、経済的弱者の立場から強者の立場を必死に模索し、「企業戦士として生き抜いた世代」があったことは、日頃は忘れがちなだけにあらためて思い出すことができた貴重な読書だったように感じました。  

そしてこういう時代を必死に生き抜いてきたような人であれば、いつぞやの原発事故後の「これからの日本はどうあるべきか?」という類の討論番組に登場したとある若い世代の人の意見

「日本はこれまで経済大国として一人勝ちみたいな道を歩んできたけれど、それが原子力によってしか支えられないものであるならば、今迄みたいに贅沢でなくてもいいのではないか?」

に対し、

「貧しい時代を知らずして、『贅沢でなくてもいい』、『経済大国であることに拘る必要がない』などと言ってくれるな。  それがどういうことなのか、わかっていないからそんなことが言えるんだ!」

と反駁する、そうならざるを得ないことが腑に落ちたような気がしました。  もっとも・・・・・  その問題に関しては KiKi 自身もちゃんとした自分なりのスタンスがまだまだ定まっていない(KiKi 個人の生き方としては定まっているんだけど、日本社会全体がどうあるべきか?という意味では結論が出せずにいる)、中途半端な「いい歳したモラトリアム人間」なんですけどね(苦笑)。    

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このページは、KiKi (Brunnhilde)が2012年6月 9日 10:02に書いたブログ記事です。

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