二つの祖国(4) 山崎豊子

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東京裁判に引きづられ、とうとう一気読みしてしまった感があります。  本日の KiKi の読了本はこちらです。

二つの祖国(4)
著:山崎豊子  電子書籍

51Gfc2aPyRL._SL500_AA300_.jpg  (Amazon)  (Sony Readers)

極東国際軍事裁判の苛烈な攻防戦も終盤を迎え、焦土の日本に判決の下る日も近い。  勝者が敗者を裁く一方的な展開に、言語調整官として法廷に臨む賢治は、二つの祖国の暗い狭間で煩悶する。  そして唯一の慰めであった梛子の体に、いつしか原爆の不気味な影が忍び寄る......。  祖国とは何か。  日系米人の背負った重い十字架を、徹底的な取材により描ききった壮大な叙事詩の幕が下りる。  (Sony Readersより転載)

山崎豊子さんの作品は悲劇的なものが多いなぁ・・・・・。  「白い巨塔」しかり、「華麗なる一族」しかり、そしてこの「二つの祖国」しかり・・・・・。  なまじこれらの作品の主人公たちが途中までは強靭な精神力の持ち主として描かれているだけに、最後が・・・・。  

個人的にはこの作品に於いて、賢治と梛子さんの恋愛エピソードは不要なものに感じました。  もちろんあの時代にアメリカの日系人迫害を逃れたアメリカ国籍を有する日系2世の人が広島で被爆したというエピソードと彼女が最期に漏らす「私はアメリカの敵だったのでしょうか?」という問いかけはとても重要だと感じるし、この物語の中で別の形でなら出てきて然るべき話だとは思うけれど、本妻エミーとの不仲とか友人の元ワイフとの恋愛模様っていうのはどうなのかなぁ・・・・。

なまじそこに恋愛関係を持ち込んだことにより賢治の絶望感の深刻さがちょっと別物になってしまったような印象を受けるんですよね。  初読の20余年前にはこの「悲劇性」にただただ感情的に埋没しちゃっていて、気が付かなかったことなんですけど・・・・・。  本来この小説は「国家と個人」というテーマを真摯に扱う物語になるべきだったところ、そのいとも厄介なテーマをやんわりとオブラートに包んで終わらせちゃったような気がして仕方ない・・・・・。  

実際、この物語が執筆された時代(≒ KiKi が若かりし時代)には、KiKi をはじめとする多くの若者があの戦争を過去のものとして忘れ去り、同時に過去の「国粋主義」への反省(?)からか、個人主義にどんどんはまっていって、挙句、KiKi のように「愛国心が薄い」という自覚のある世代をじゃんじゃん生んでいた時期だったわけで、そうであるだけにそこに何となく読者に媚びているような、敢えて軟派を気取っているような不自然さに近いもの・・・・を感じてしまいました。

もっともあの若かりし頃にはこのエピソードがなかったら、あまりにも重すぎるテーマについていくことができず、軽佻浮薄に日々を過ごしていた KiKi は放り出してしまっていたかもしれないのも又事実(苦笑)で、そうであればあの「東京裁判」を知らなければならないという義務感のようなもの・・・・・を感じることさえなく、この歳まで生きてきてしまったかもしれないんですけど・・・・・ ^^;

「正義」、「祖国愛」、「国益」という耳触りだけはいいものの、実際にそれが何を表しているのか、人によっても解釈が異なるし、その守り方も立場が異なれば違ってくるものが、「すわ、一大事」ともなれば大手を振るって個人を抑圧する・・・・・。  なまじバランス感覚を大切にしようと努力する個人がそこにいると、その環境下でもがけばもがくほど、その圧迫感は真綿で首を絞めるかのように、個人を支えている大切な何かを絞め殺していく・・・・・。

賢治は「大和魂(民族の文化)を体現した良きアメリカ国民たろう」としていたわけだけど、平時であればそれは1つの生き様として称賛されたかもしれないことが、戦時という特殊状況の中では命取りになってしまった好例なんだろうと思うんですよね。  逆にそういう「民族」とか「文化」とか「生まれ育った環境」といったものに無頓着であれば、彼ほど悩みを抱えることもなく、絶望することもなかっただろうに・・・・・と思わずにはいられません。

彼の絶望は彼が辿ってきた苦難の人生(収容所送り、収容所における「踏絵」的な思想テスト、下の弟のヨーロッパ戦線での戦死、上の弟と戦場で相まみえ誤射、その弟との間のわだかまりに満ちた日々、妻のレイプ事件、梛子の被爆による白血病発症と死亡、軍歴、東京裁判での判決翻訳)を経てもなお、疑われ問われるアメリカ合衆国への忠誠という一事に尽きると感じます。  常にギリギリの妥協点でアメリカ国民であろうとし続けた人生の全てが否定されたと感じられた瞬間、しかも自分がギリギリの線で選んできた祖国アメリカが為した「東京裁判における偽善」の罪深さに、彼を支えていた何かがプツリと切れたのだろう・・・・と。

ただ、今回の読書で KiKi が感じたことはもう1つあって、賢治はある意味であまりにも純粋(? 頑な?)に「話せばわかる」という幻想に近いものを抱き続けてしまった人だったのではないかなぁ・・・・と。  以前、梨木香歩さんの「春になったら苺を摘みに」の Review でも書いたことだけど、あの本の中に書かれていた

「信念を持ち、それによって生み出される推進力と、自分の信念に絶えず冷静に疑問を突きつけることによる負荷。  相反するベクトルを、互いの力を損なわないような形で一人の人間の中に内在させることは可能なのだろうか。  その人間の内部を引き裂くことなく。  豊かな調和を保つことは。」

の「互いの力を損なわないような形で1人の人間の中に内在させること」を目指した賢治は結局は「その人間の内部を引き裂かれ」てしまった人だったのではないのかなぁ・・・・・と。  実際、彼のまわりには彼の立ち位置を理解・・・・とまではいかないまでも納得・受容してくれていたアメリカ人が全くいなかったわけではないし、そういう意味ではアメリカで教育を受け、アメリカ国籍を保ちながら広島で原爆後遺症に苦しむ人々と寄り添う梛子の妹広子のように、たった一つの教会が見せてくれた誠意だけで生きる力を得ることができた人もいるわけで・・・・・。

いずれにしろ私たち日本人は今の日本で暮らしている限りにおいては賢治と同じような苦悩とは無縁の生活を送ることができます。  そしてこの日本国の大きな経済力というお守りを引っ提げて、海外では比較的安全に観光なりビジネスなりをすることもできています。  これって決して当たり前のことではないということ、例えば現在のアメリカや西欧社会(実は日本も含め)でも人種差別は決して過去のものではないことを忘れてはいけないと感じました。   

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このページは、KiKi (Brunnhilde)が2012年6月18日 09:44に書いたブログ記事です。

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