瀬島龍三 ― 参謀の昭和史 保阪正康

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山崎豊子氏の「不毛地帯」を読んでいた時から、一度は読んでおこうと考え待機させていた本をようやく読了しました。  本日の KiKi の読了本はこちらです。

瀬島龍三 ― 参謀の昭和史
著:保阪正康  文春文庫

51ScRAwY7nL._SX230_.jpg  (Amazon)

陸代を優秀な成績で卒業し、太平洋戦下の大本営作戦参謀を務め、戦後は高度経済成長期に商社の企業参謀、さらに中曾根行革で総理の政治参謀として活躍 - 激動の昭和を常に背後からリードしてきた瀬島龍三。  彼の60年の軌跡を彩る数々の伝説を検証し、日本型エリートの功罪と歴史に対する指導者の責任を問うノンフィクション力作。  (文庫本裏表紙より転載)

瀬島は、太平洋戦争時には大本営作戦参謀、高度経済成長期には商社の企業参謀、そして中曽根政権下の行政改革では臨調・行革審の政治参謀として活躍した昭和史そのものの参謀ともいえる人物である。  本書は、その参謀を身近に見てきた多くの人間にインタビューすることにより、もう一つの昭和史を描き出そうとしたものである。
瀬島は戦時に作戦参謀として多くの作戦にかかわり、東京裁判に証人として出廷、さらにその後はシベリアで抑留生活を送るなど、その体験からして本来ならば昭和史の貴重な証言者としての役割を果たすべき人物でもある。  しかし彼は、いついかなる場面においてもその真髄には触れず、周辺のごく瑣末な部分にのみ冗舌となる。  おそらくそうした真髄を語らない姿勢がまた、瀬島が常に参謀として「上司の信頼をもって」生き続けてこられた理由なのだろう。
著者は、綿密な取材によって瀬島が語らない昭和の裏側をかなりの部分明らかにしている。  しかし、瀬島自身に対するインタビューを終えた感想は「知りたかったことになにひとつ正確には話してくれない」ということだった。  おそらく、瀬島が語らなかったことは、そのまま昭和史の闇の中へ消えていくのだろう。  ただ一つ、瀬島の大本営参謀としての本音がもっとも正直に吐露されていると思われる『北方戦備』という自らが記した大著は、一般の人間は閲覧することのできない、防衛庁戦史室という密室に寄託されているということである。(杉本治人)  (Amazonより転載)

「不毛地帯」を読んでいる間にも何度も感じたことだけど、山崎豊子氏の描く「壱岐正」なる人物はあまりにも理想化されすぎていて、どこかリアリティに欠けていた(そうであればこその「物語」ではあるかもしれないけれど)ように思うんですよね。  で、その「壱岐正」のモデルとしてある意味で一世を風靡した「瀬島龍三」なる人物に関して興味を持ったわけだけど、この本を読んでみての感想は「やっぱり壱岐正は現実にはいなかった、フィクションだった」ということでしょうか??

個人的には瀬島龍三という人物に関して、実際に会って話したことも一緒に仕事をしたことがあるわけでもない KiKi 自身は肯定でも否定でもない立ち位置にいるつもりなんだけど、こと山崎豊子氏の作品に関する評価としては、題材をリアル世界に求めるのは構わないとしても、氏の作品が世論に及ぼす影響に関してもう少し慎重であってもよかったんじゃないのかなぁと思わないでもありません。  

もしも瀬島龍三氏が保阪氏がこの本で言っているように自分のイメージを巧みに「壱岐正」にすり替えていったようなところがあったとしたなら、そんな欺瞞行為に走った瀬島氏ももちろん褒められたものではないけれど、彼自身にも生活があるわけで、自分と家族が戦後を生き抜いていくために格好の「復権イメージ」、しかもどう読んでも自分をモデルにしているとしか読めない人物像がそこにあり、尚且つ世間がそのイメージを称賛していたとしたら、それを意識しないことは難しいだろうし、ましてそのイメージを壊すようなことはなかなかできるものではないというのもわからないではありません。  


KiKi 自身がこの本を読んでいて一番納得がいかなかったのは、彼が「第二臨調」のキーパーソンであったにも関わらず、彼には一切の「国家ビジョン」と呼べるものがなく、いわゆる調整役に徹していたというくだりで、人生のスタートを国費をかけた教育の恩恵を受け(もちろんそのために必死に勉強したという個人の努力はあるものの)、あの戦争の時には大本営作戦参謀、軍刀組というエリート集団の中に身を置き、その後敗戦を経験し、シベリア抑留なんていう人並み外れた体験を生き抜いてきた人物にしては、小者感が漂うなぁ・・・・・と。  

もちろん彼の立場は国民による選挙で選ばれた議員でもなければ、行政府の大臣でもないわけだから、ある意味でそういう立場の人たちとは一線を画した立ち位置であることを意識して「自分の意見を語らない」というスタンスをとっていたとも考えられるけれど、だとしたら彼が(実質的には中曾根さんが・・・・かもしれないけれど)推進したとされている「裏臨調」の行動はあまりにもあまりにもの越権行為にしか見えないわけで、そういう面では瀬島氏の立ち居振る舞いに好感を持つことだけはできそうにないなぁ・・・・と。

一般の日本国民があの戦争のことを忘れ、バブルで踊れ弾け、「土光さんのイメージ」に酔っている裏でうごめいていた日本の行く末を見据える「長期計画策定」とでも言うべき場所で力を振っていたのが実は旧海軍人脈だったというあたりも、正直なところ違和感を感じます。  もちろん彼らがある時代のエリートであったことは事実だし、そういう世の中の動きにまったく興味を持たず、ひたすら利己的に自分の利益を追求していた KiKi に彼らを批判する資格はなかったし、今もないわけですが・・・・・ ^^;

この本全体の論調は伝聞系をベースにしていて、噂話やらあやふやな証拠から導いたように受け取れる少々強引な解釈もあったりで、この本自体は「ノンフィクション」とカテゴライズされているものの、どこかに「エンターテイメント・チック(≒噂話チック)な臭いもするだけに、ここに書かれていることだけを信じるのは危険な感じがしないでもありません。  

ただ、この本の優れているところは、著者はどう考えても瀬島氏の欺瞞を追求しようという意欲からこの本の取材を始めているにも関わらず、必要以上に彼を貶めたりダーティー・イメージを強調していないことで、彼の面倒見の良さやら生真面目さもきっちりと書き記しています。  そうであるだけに KiKi なんぞは

「エリートも、一皮むけば、こんなもの」

的な感慨を持ったりもするわけです。  考えてみると西欧貴族社会においては、「ノーブレス・オブリージュ」(≒身分の高い者はそれに応じて果たさねばならぬ社会的責任と義務があるという、欧米社会における基本的な道徳観)が歴史的に培われてきたようなところがあるけれど、日本型エリートという人々は恐らく本人自身が「身分が高い」とか「高貴な存在」という意識があるわけじゃなくて、どちらかというと「自分が苦労して得たポジション」という意識が強いし、そうであるだけに本来ならそこに発生するべき「社会的責任、義務」という意識が薄いものなのかもしれないなぁ・・・・・と。

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このページは、KiKi (Brunnhilde)が2012年8月 1日 08:23に書いたブログ記事です。

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