フランバーズ屋敷の人びと 1.愛の旅だち K.M.ペイトン

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さて、何気に再開してしまっている「岩波少年文庫読破計画推進シーズン」ですが、せっかくならまずはあのスタジオ・ジブリの宮崎さんの推薦本から片付けていこうかな・・・・と。  ま、てなわけで「とぶ船」に続く読書本は宮崎さんの取り上げ順に従いこちらになりました。

フランバーズ屋敷の人びと 1.愛の旅だち
著:K.M.ペイトン 訳:掛川恭子  岩波少年文庫

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20世紀初頭のイギリス。  12歳の孤児クリスチナはフランバーズ屋敷にひきとられてきた。  相反する価値観を持つマークとウィルの兄弟、心やさしい馬丁のディック。  彼らとの交流を通じて、クリスチナは自分の人生の在り方を選ぶ。  (文庫本裏表紙より転載)

いや~、参りました。  読んでいて次々と出てくるあまりにもベタなプロットの数々に辟易としそうになりつつも、これが案外面白い・・・・・(苦笑)  この巻でのメインの登場人物、クリスチナ、マーク、ウィリアムズ、そしてディックの心理描写が巧みで思わず引き込まれちゃうのと、クリスチナがどちらかといえば前時代的な女性でありながらも、その思考の端々に近代的な想い(直感?)が顔を出すために、現代日本に住む私たちにも古き良き時代(?)のイギリス的な価値観みたいなものが、妙な説得力をもって迫ってくるんですよね~。

ま、逆に言えば、ふとしたはずみにクリスチナが感じる直感めいた想いを決して深堀しようとはしない姿に拍子抜けだったりもするわけですが・・・・・・(苦笑)  でも、そこで拍子抜けするのは KiKi が紛れもない現代人である証左なわけで、物語の背景となる文化・時代を考えればクリスチナは十二分に「現代的な感覚の持ち主」であることに気が付かされます。


12歳の孤児(但し21歳になったら莫大な財産を相続することが約束されている)のクリスチナが引き取られた先が物語のタイトルになっているフランバーズ屋敷で、ここで暮らしているのが貴族的な生活を送っているラッセル一家です。  主のラッセルおじは狩猟だけが生きがいといった風情の人物なんだけど、何年か前の馬の事故で半身不随になってしまい、かつては生き生きと馬を駆っていた自分と今の自分の落差に傷つき、無様な姿を見られた次男に悉く辛くあたる暴君です。  

お世辞にも酒癖が良いとは言えず、感情の起伏のままにムチや松葉づえを振り回す姿に子供時代の KiKi だったら嫌悪感を覚えたんじゃないかと思うんだけど、大人になった今の KiKi はそういう形でしか何かを表現できないうえに自分が制御できないラッセル伯父の姿に憐憫に近い感情を抱かされます。  ま、自分がそのムチや松葉づえの被害者の立場だったら、憐憫なんていう呑気なことは言っていられないと思うんですけどね。

で、そんな暴君の妻は既に亡くなっており、彼と息子二人の男所帯(プラス 厩の雇い人 & 女中二人)の暮らしは当然「一家団欒」とか「家庭の暖かさ」みたいなものとは無縁です。  まして長男のマークは父親をそのまま生き写したかのような人物で、馬を駆る力だけは優れている(とはいえ、馬に無理をさせることには頓着しない)ものの、知性とか優雅さとか優しさには欠ける男の子。  傲慢で嫌味なくらい尊大なんだけどどうやら抗えない魅力を持っているらしく、クリスチナは彼に反発しながらも魅かれ続けているし、通いの女中ヴァイオレットに至っては憧れを通り越して惚れちゃっていたりします。  

対する次男は父親とも兄とも共通点があまりなくて、言ってみればラッセル一族の異端児です。  馬が大嫌いな彼は馬の手綱よりも当時としては先進的な飛行機の操縦桿を選び、その夢を完遂するために、自分で自分の足を「馬に乗れない状態にする」ことにためらわないような普通の感覚ではちょっと理解できないようなよく言えば一途、悪く言えば無鉄砲な行動をとる人物でもあります。

そんなお屋敷に引き取られたクリスチナは男所帯で荒れ放題の家(しかもこれ、設定からするといわゆる「マナーハウス」と思われる)に胸を痛めることもあるんだけど、当時の女性特有のそしてそれにわをかけて自分が孤児であるが故に誰かの庇護下でしか生きられないという自分の状況への諦念も手伝って、人物観察眼だけは鋭いものの自ら変革を起すわけでもなく、おじに求められるままの暮らし方を始めます。  

そんな彼女が最初は恐る恐るだったものの「乗馬」や「狩猟」にのめり込んでいく様子は、昔の KiKi ならそのカッコよさにある種の憧れを持ったかもしれないけれど、今の KiKi にしてみると痛々しく感じられて仕方ありませんでした。

彼らが狩猟に明け暮れているのは、はっきり言ってしまえば「暇」で「食べたり生活すること」に何の不自由もなく、他に打ち込むべきものを持っていないからに他ならないわけですが、そんなことはラッセルおじもマークもそしてクリスチナも気が付いていません。  ただクリスチーナだけは「乗馬レッスン」をフランバーズ屋敷で馬丁を勤めるディックに習っているなかで漠然と・・・・ではあるものの自分たちを取り巻いている「階級社会」というものの残酷さ、自分が巻き込まれている生き方以上に厳しい生き方を強いられている人が同じ屋根の下にいることに気が付き、そこにある種の疑問(とは呼べないほどささやかな「現状認識のきっかけ」ぐらのもの)を抱きます。

彼女の生き方を見ていると、いかにもその時代のいかにもそこそこの家系のお嬢様の生き方だなぁ・・・・と。  言ってみれば家長に言われるがまま、とにかく決められた生き方を守り、押し付けられた価値観を生きるための羅針盤とし、時に何かを感じるとしてもそれを「見なかったことにする」「聞かなかったことにする」ことにためらいはなく、ある決められた枠の中で日々を送る・・・・・。  現代女性からしてみれば歯がゆいくらいに無知で、「自己実現」なんていう言葉とは対極にある生き方をしています。    

でも、彼女が感じた「現状認識のきっかけ」は彼女自身もそれとははっきりと気が付かないうちに彼女を動かす原動力になっていて、さらにはディックの解雇やらマーク & ウィル兄弟双方からのプロポーズなどをきっかけにして、初めて自分の意思で自分のこれからの生き方の第一歩であるとある選択をするようになる・・・・・ま、ざっと言ってしまうとそんなお話です。

この物語の素敵なところはいくつかあると思うんだけど、やっぱりその第一は馬と草原を疾駆する躍動感じゃないかと思うんですよね。  KiKi は子供のころ「乗馬」を習っていたことがあるんだけど、馬に駆け足させて大自然の中を走る爽快さたるや、スキーでこぶこぶ斜面を滑走する爽快さと同じくらい素晴らしいものだったことを懐かしく思い出しました。  さすがに狩猟経験はないけれど、馬上からの景色、馬上で感じる風の肌触りは今でもはっきりと思い出せるほどです。

そして2つ目は馬に夢中なラッセル一族 vs. 一族の異端児ウィルの対比がそのまま2つの時代の比較となっているところなのではないかしら。  ウィルの世界は現在の私たちにお馴染みの飛行機とか車といったエンジンの世界。  対するラッセル一族の世界は人力の延長線上にある馬の世界。  2つの時代の象徴がそのままそんな時代に生きる「人間像」と重なっているあたりが読み応えあると感じました。

そして3つ目はクリスチナの成長に対する期待・・・・のようなものじゃないかしら。  この先、この2つの時代の価値観がどんな風にぶつかり、その狭間に生きているクリスチナがいつ何に目覚め、どんな選択をするようになっていくのか、なかなか期待を煽ってくれちゃった第1巻目だったと思います。


最後に・・・・・・  恒例のこの本に関する宮崎駿さんのコメントを転載しておきますね。

やっと飛び始めた頃の飛行機の原始的なエンジンや機体について、こんなにありありと書かれた本はありません。  本当にその時代に居合わせてもなかなか書けるものではないのです。  しかも女性の作家です。  ぼくはすっかり感心して、今も感心しつづけています。 


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このページは、KiKi (Brunnhilde)が2012年9月18日 12:00に書いたブログ記事です。

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