影のオンブリア P.A.マキリップ

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以前「本が好き!」で「アトリックス・ウルフの呪文書」が献本されていたことがあり、残念ながら KiKi はその抽選で落選しちゃったんだけど、その紹介文からマキリップという作家の作品に興味を持ちました。  以来、ブックオフやらネットオフでせっせとマキリップ作品の文庫本を集め始め、積読状態になっている本が山積みになってきました。(苦笑)  本来だったらこの本の前に「妖女サイベルの呼び声」(第1回世界幻想文学大賞受賞作)や、「イルスの竪琴 3部作」を読んでみたかったんだけど、それらはまだゲットできていないし、そろそろマキリップ作品の積読山を崩しはじめなくちゃいけないような気もするので、まずはこの作品から手を出してみました。

影のオンブリア
著:P.A.マキリップ 訳:井辻朱美  ハヤカワ文庫

51ME53A3MTL._SL500_AA300_.jpg  (Amazon)

オンブリア ― それは世界でいちばん古く、豊かで、美しい都。  そこはまた、現実と影のふたつの世界が重なる街。  オンブリアの大公ロイス・グリーヴの愛妾リディアは、大公の死とともに、ロイスの大伯母で宮廷を我が物にしようとたくらむドミナ・パールにより宮殿から追いやられる。  だがそれはふたつの都を揺るがす、怖るべき陰謀の幕開けにすぎなかった・・・・・  2003年度世界幻想文学大賞に輝くマキリップの傑作ファンタジイ!  (文庫本裏表紙より転載)

何とも詩的な文体で貫かれた物語ですねぇ。  そもそも舞台背景自体が幻想的な物語です。  架空の都オンブリアを舞台にした陰謀劇なんですけど、物語のあらすじを書いてしまうとめちゃくちゃシンプルなんですよ。

豊かで美しい都の大公が死ぬ。
幼い忘れ形見の少年が大公の地位を継ぐ。
正体不明のモンスター的な女摂政が立つ。(どうやら大公を殺害した模様)
宮廷に出入する多くの人々が、摂政を除こうとし、幼い大公(もしくは別の人物)を傀儡に仕立てようとする
幼い大公の味方はふたりだけ。  そのふたりがなんとか陰謀を排除し、大公を守り通す。

恐らく大筋はこんなお話なんです。  でも、そこに絡んでくるのが、オンブリアの影に寄り添うように存在している異次元の世界、「影のオンブリア」で、そこの住人であるフェイという魔法使いとその弟子マグの存在と彼らがなす様々な事件です。

地上にある現実の都オンブリアを支配するドミナ・パール(女摂政)と、その地下に広がる魔法と幻想の街の魔女フェイ。  この二人を軸に、陰影深い物語が繰り広げられ、読む人を幻惑させます。

そもそもこの「オンブリア」という地名が「名は体を表す」を地でいっていると思うんですよね。  だってフランス語で「影」は「ombre」だし、イタリア語では「ombra」なんですもの。  宮殿に存在する「表通路」と「裏通路」、豊かで明るい「昼間の都」と女一人では歩けないほど危険が充満した「夜の都」、「現在のオンブリア」とその土台にさえなっている「過去のオンブリア」、表の世界のドミナ・パールと裏の世界のフェイ。  物語に登場するすべての人・モノが二重写しになっていて、光と影があふれます。

でも「光のない所に影はない」のと同じように、そして更には「影は光の加減でいかようにも変化する」のと同じように、すべての出来事がどこか夢幻的で、歪みを感じさせ、同時に靄に霞んでいるかのように現実感が乏しいんですよね~。  まあ、だからこそ「幻想的」なのかもしれませんが・・・・・(苦笑)

多くの登場人物の中でもっとも魅力にあふれているのは、幼い大公の叔父にあたるデュコンとフェイの弟子(?)とでも言うべきマグなのですが、この2人のみがこの「光」と「影」の両方の世界を行き来しつつ、それぞれの世界での存在がどこか曖昧です。

(デュコンは)マグと同じように、どこにも属し、どこにも属していない。
出自はあいまいで真の名前を持たない。
マグと同じように恐れなくさまよい歩き、秘密を愛好する。
ひとりが世界の上の宮殿に住み、ひとりが地の下に住むとしても。
それまでマグは、自分がこれほど、ある人間に近いと感じたことはなかった。

この、どこか寄る辺ない雰囲気が物語全体を支配しています。 

1回の読書でどこまでこの物語を読み解くことができたのか、はなはだ不安なんだけど、1つだけはっきりしていることは、恐らくこの物語、人が主人公の物語ではないんだろうな・・・・ということです。  恐らくこの物語の主人公はこの「オンブリア」という都そのものだったんだろうなぁ・・・・と。  まるで、吟遊詩人がリュートを片手に歌い語るバラッドのような物語だったと思います。

この二重都市を表現するのに用いられている小道具の扇がこれまた雰囲気満点なんですよね~。

骨は細い象牙、繊細なライスペーパーを二層に貼りあわせた扇だ。  片面には絵が描かれ、もう片面には細かな切り絵細工が貼られて、扇を光に透かすと、影と二重写しに絵が浮かびあがる。  リディアはゆっくりと扇を開いて、絵のある面を出した。

・・・・・・「こちらがオンブリアの世界」

扇をランプの正面にかざし、光が扇を透かして流れ出る。

・・・・・・「こちらがオンブリアの影のがわ」

オンブリアの裏側に都がそびえている。  宮殿を見おろす壮麗な影の都が。  影の船団が水上を行く。  小さな影の人々が、絵の中の通りを歩いてゆく。

どこか月の光を思わせる、不思議で美しく静かな物語でした。

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