妖女サイベルの呼び声 P.A.マキリップ

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今日はLothlórien_山小舎付近は小雨模様。  重苦しい霧が立ち込め、薄暗い中、机の前の窓から見える美しい紅葉が妖しく光り輝いています。  周囲の他の色はすべて霧の中に溶け込んじゃったかのようにぼやけているんだけど、紅葉のオレンジと黄色だけが鮮やかさを保っているさまは何とも不思議な光景です。  ま、そんなどことな~く妖しげな雰囲気の中、同じように妖しげなタイトルのこちらを読了しました。

妖女サイベルの呼び声
著:P.A.マキリップ 訳:佐藤高子  ハヤカワ文庫

518XNE854YL._SL500_AA300_.jpg  (Amazon)

魔術師サイベルは、エルド山の奥深く、伝説の幻獣たちのみを友として魔術の修行に励んでいた。  そんなある日、サイベルのもとをひとりの騎士が訪れ、赤児を預けてゆく。  その赤児はサイベルの血縁であり、しかもエルドウォルド国の王子にほかならなかった。  やがてサイベルは、凄惨な王位継承争いに否応なく巻き込まれて、人間の世界の愛と憎しみを知り始める・・・・・・第1回世界幻想文学大賞に輝く不朽のハイ・ファンタジイ!  (文庫本裏表紙より転載)

KiKi の手持ちの本の書影はこれ(↑)とはちょっと違って、もっとパステルチックな色使いの本なんですけど、まあ、それは置いといて・・・・・と。  なかなか読みごたえのあるファンタジーだったと思います。  だいたいタイトル(邦題)がいいですよね。  いきなり「妖女」ときたのでどんなに怖そうな女性が出てくるのかと読み始める前は思っていたんですけど、意に反して美しくも初心な(世慣れていない)女性だったので、実はちょっと拍子抜けしてしまいました(苦笑)。

物語全体のトーンは重厚で寡黙な雰囲気で、どこか神話世界を思わせます。  彼女が山奥で共に暮らしている幻獣の顔ぶれが実に魅力的です。  あらゆる謎の答を知り、吟遊詩人のように伝承民話を吟唱できる赤い眼と白い牙の猪・サイリン、ある魔術師を殺害した7人の男を八つ裂きにした青い眼の隼・ター、ある王女を幽閉中の石塔から背に乗せて救い出した大きな翼と黄金色の眼を持つティルリスの黒鳥、呪術と不可思議な魔力の持ち主として語り草となっていた巨大な黒猫・モライア、王の財宝にも匹敵する黄金のライオン・ギュールス、宝物を褥に長い間まどろんでいた竜・ギルド。

どの幻獣の姿もありありと想像できるような筆致で描かれ、しかもそれらが昨今のRPGのグラフィックスみたいな作りもの感が薄く、それぞれに固有の魅力を放っています。  これら、猪とか隼とか黒猫といったリアル感のある動物であるあたりがいいですねぇ。  一歩間違えれば普通の動物と何ら変わりはないんだけど、それでも彼らが幻獣となりうるのは彼らが持っている「物語」に端を発しているというのが実に KiKi 好みです。  ま、ちょっとだけCGっぽいパーツもあるけれど・・・・・ ^^;

さて、物語の主人公サイベルは彼らの往方(いにしえ)の名を呼ぶことによって彼らを服従させているわけだけど、この「名前」の扱い方もいいですねぇ。  ちょっと「ゲド戦記」に通じる部分もあるプロットだとは思うけれど、昨今のファンタジーのお手軽っぽい魔法よりもそこに歴史の重みとか、原初の世界の不思議みたいなものを感じさせる妖術だと思います。


さて、このサイベルのどこが「妖女」なのか??  確かに彼女が持っている不思議な力(彼らの名を呼ぶことによって幻獣を従わせている力)は妖術と呼ぶに相応しいけれど、それより何より彼女が普通の人たちとは決して交わろうとせず、山の中で隠棲し、「何を考えているのか、どんな感情を抱いているのかわからない女性」であることが最大の原因だろうと思うんですよね。  孤独を孤独とさえ感じていない彼女の日常が、フツーの人々にしてみれば脅威であり、理解の範疇を超えたもの≒妖しげなもの だったのだろうと思います。

人間らしい感情を何も知らずに「力」だけは持ち合わせていた頃のサイベルは言ってみれば失うものは何もなく、無敵と呼んでもいいくらいの存在でした。  そんなサイベルが預けられた赤児を育てていく中で、「フツーの人が持つ感情」にどんどん目覚めていきます。  

子供を愛おしむ気持ち、子供が父親を慕う気持ち、母親が示す無償の愛、男性が女性を恋うる気持ち・・・・・。  そして、それらの感情を学んでいく過程で彼女は人間が持つ「負の感情」にも目覚めていきます。  孤独が恐怖を育て、恐怖が憎悪を育むという負のスパイラルをも。

そしてありとあらゆる感情を我が物として意識した時、彼女は彼女に馴染んだ世界、それと切り離されたらそれまで「これが自分」と認識していた自分を失うことを承知の上で、それらとの決別を決心します。  幻獣たちを自由に解き放つ彼女の姿は痛々しいまでに神々しいと感じます。  

そして・・・・・・

最後の最後、彼女を現世に呼び戻したのは彼女が慈しんだタムローンが彼女を「呼ぶ声」であり、同時に「呼び声に応えて自らの意志で来てくれる者」であるコーレンの側に彼女は自分のいるべき場所を見出します。  人も獣も、この世に存在するありとあらゆるものは、名前があるから名前と共に存在することができている、他者からその存在を認識されている・・・・。  そんなことを感じました。

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