わたしを離さないで K.イシグロ

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先週、約1週間という時間を東京で過ごさなければいけなかった KiKi はどんな本を持っていくか、結構悩みました。  Lothlórien_山小舎に帰る時に、ただでさえ荷物が多いのにかさばるのは嫌だから、さらっと読めちゃうような本は避けた方がいいだろうし、かと言ってハードカバーの本では重いし・・・・。  ま、本来ならそんな時のための電子書籍のはずなんだけど、以前にもこのエントリーで書いたように、印刷コストも流通コストもさらには在庫コストもかからないはずの電子書籍が普通の本と同じ値段で売られていることにどうにも割り切れない想いを抱えている KiKi としては、あらたにソフトを購入する気さえ起きません(苦笑)

ま、そんな中選んだ1冊はまさにその電子書籍リーダーを購入した際に「お試し版」として最初の何ページかが初期値で入っていたこちらです。  巷ではイシグロの最高傑作との呼び声も高かったので、随分前に KiKi は購入してあったんですけど、何となく読まずに放置しちゃってあるのを思い出しちゃったんですよね~。

わたしを離さないで
著:K.イシグロ  ハヤカワepi文庫

41H0RqxVxyL._SL500_AA300_.jpg  (Amazon)

自他共に認める優秀な介護人キャシー・Hは、提供者と呼ばれる人々を世話している。  キャシーが生まれ育った施設ヘールシャムの親友トミーやルースも提供者だった。  キャシーは施設での奇妙な日々に思いをめぐらす。  図画工作に極端に力をいれた授業、毎週の健康診断、保護官と呼ばれる教師たちのぎこちない態度・・・・・。  彼女の回想はヘールシャムの残酷な真実を明かしていく ― 全読書人の魂を揺さぶる、ブッカー賞作家の新たなる代表作。  (文庫本裏表紙より転載)

ちょっと不思議な、そして考えさせられることの多い小説でした。  でも、この物語で描かれている世界そのものについて言うなら、KiKi はあんまり感心しなかったかも・・・・・です。 

物語は1990年代のイギリスを舞台に、臓器提供のために生み出されたクローン人間というちょっとSFもどきな存在によって展開されています。  主人公で語り手のキャシーをはじめとする友人たちは世間とはちょっと隔離された施設ヘールシャムで育てられ、成長するとまずは既に臓器提供をしたクローン人間(提供者と呼ばれるらしい)の介護者として外の世界に巣立っていきます。  そしてその介護生活を終えると今度は自分自身が「提供者」となっていきます。  

優秀な介護者として活躍するキャシーがその介護活動をして英国内をあちらこちら走り回りながら出会う風景から過去を追想し、ところどころ自分の主観を交えた(つまりは彼女に都合よく捏造・歪曲された)記憶を語るというスタイルをとっているのですが、その語り口に何とも言えない歯切れの悪さみたいなものを感じながら読み進めました。  長々と語られる個人的思い出話には、思春期に近付くにつれて普通だったら現れてくるだろう葛藤とか自己嫌悪といった情緒の変化・混乱といった要素が乏しく、これもまた施設の閉鎖性を表すエピソード もしくは語り手の信頼性を落とすための仕掛けなのかもしれないけれど、正直なところ読んでいてちょっと辟易としました。


物語の骨格にあるのは「遺伝子工学」と「臓器移植」の問題だと思うんだけど、この物語の英国政府(?)はクローン人間の製造とその臓器提供をいわば制度化していると思われ、キャシーたちは「提供者」としての運命を甘受して死んでいくしかないという前提のもとに全てが描かれています。  KiKi にとってどうにも居心地(読み心地と言うべきか?)が悪かったのは、とどのつまりこの物語では、臓器移植やクローン人間という科学の進歩に対する倫理的な問題が扱われているようでありながらも、その実、まったく扱われていないということに気がついてしまったことに理由があるように感じます。

自分に課せられた運命を粛々と受け入れるしかない人間の姿はあっても、そこにはその運命に抗う姿、逃避する姿は皆無なんですよね~。  ファミリー・ネームさえ与えられない「提供者たち」が、ただひたすらいずれは臓器を提供するという目的だけのために生かされ、生かされている間に何をするのか?を扱っているとも言えるわけだけど、彼らは自分たちの運命を「漠然と」しか知らされていなかったりもするわけで、「限られた生」「生まれ持った運命」という大きな障壁がありながらも、どこか「人間的な何か」が欠落した(これはもちろん本人たちの責任ではない部分が大きいんだけど)存在に成り果ててしまっていて、感情移入のしようもない・・・・・そんな雰囲気なんですよね~。

クローン人間である以上、そのモデルというか、遺伝子のもとを持つ存在というか、そういう人がいるわけだけど(物語の中では「ポシブル」と呼ばれる)、その「誰それのポシブルと思われる人発見」というプロットでも、彼らの反応の仕方がどこか薄いというか淡白に過ぎるというか・・・・・。  一方では普通の人間として自由に生きることができる存在がいて、その人の遺伝子から作られた自分は「提供者」としてしか生きられないな~んていう現実(いやフィクションだけど・・・・ ^^;)を前にして、あんなに淡々としていられるものなのかなぁ・・・・・・。

ただ、この物語を読んでいる間、KiKi は物語で扱われている主題とはちょっとだけ離れたことなんだけど、「人間という生き物のエゴイズム」みたいなものだけはヒシヒシと感じていました。  自分や自分の家族が何らかの病に倒れた時、拒絶反応を起こすリスクが極めて低いクローンの臓器なんていう都合のいいものを求めたがるエゴ。  原子力発電所と同じように、そこから得られる恩恵だけには浴していてもその背景にある問題を知ろうとさえしないエゴ。  そんなものは感じました。

と同時に、もう1つ思ったことがありました。  たまたま KiKi はつい先日健康保険証の改姓手続きと言うヤツをしたばかりなんですけど、その時改めて再認識したのは最近の「国民健康保険証」には裏面に「臓器提供の意思表明欄」があるんだけど、KiKi 自身はなかなかそこに署名する気分になれずにいたりします。  心の奥底では本当に自分が助からないことが明白な場合、もしくは植物状態になってしまうことが分かっている場合には、延命措置なんかをするよりはKiKi の臓器や網膜で助かる人がいるなら有効に使ってほしいと思っているんです。  でも、そこに署名することがためらわれるのは、どこかで現在の医学・・・・というか、医療体質みたいなものに不信感を持っているからなんですよね~。

それを自分の意思で選ぶことができるという現実が目の前にあっても逡巡する自分 vs. それを前提として生かされているこの物語の登場人物たちという対比に、言葉では説明しきれない大きな隔たりみたいなものを感じ、そこにも自分の偏狭さみたいなものを突き付けられているような気分で、あんまり気持ちの良い読後感とはいかないものがありました。  

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このページは、KiKi (Brunnhilde)が2012年12月11日 15:30に書いたブログ記事です。

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