血涙 (上)(下) 北方謙三

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「楊家将」全2巻に引き続き、「新楊家将」という副題を持つこちらを読了しました。

血涙 (上)(下)
著:北方謙三  PHP文庫

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剣が交錯した瞬間、壮絶なドラマが始まった。  「水滸伝」「楊令伝」に登場する宝刀の前史がここに!  (文庫本帯より転載)

宋建国の英雄・楊業の死から2年。  息子たちに再起の秋が訪れる。  楊家軍再興ー。  六郎は、父が魂を込めて打った剣を佩き、戦場へ向かう。  対するのは強権の女王率いる遼国の名将・石幻果。  剣を交えた瞬間、壮大な悲劇が幕を開ける。  軍閥・楊一族を描いて第38回吉川英治文学賞に輝いた「楊家将」の続編でありながら新展開。  「水滸伝」「楊令伝」に登場する宝刀「吹毛剣」の前史がここにある。  (文庫本裏表紙より転載)


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水毛剣から聞こえる父の声ー。  男たちの叫びが戦場に砕け散る!  青面獣楊志、楊令が佩く宝刀の奇しき因縁。  (文庫本帯より転載)

闘うことでしか生きられない者たちに勝敗を決する秋が来た。  「吹毛剣」を手に戦う六郎に、父楊業の魂が乗り移る。  その剣に打たれたとき、遼国の名将・石幻果の記憶がにわかに蘇る。   運命に弄ばれた男たちの哀しみを描く慟哭の終章。  乱世の終わりを彩る壮絶な物語が、今静かに幕を降ろす。  「水滸伝」に登場する青面獣楊志、楊令が佩く宝刀との奇しき因縁も明らかになる「北方楊家将」完結編。  (文庫本裏表紙より転載)

「楊家将」で元々北漢の軍閥で宋国軍を苦しめる先方だった楊業が宋に下ったものの、味方(宋国の潘仁美ら)の姦計に陥り命を落としてから2年。  その息子たちの中の生き残り、六郎と七郎が楊家軍を再興するところから物語はスタートします。  と同時に先の遼との戦で負傷し、俘虜となった四郎らしき人物が「記憶喪失」という現代人の感性では比較的受け入れやすい「可哀想な状態」で遼国の武将となっています。

結構、早い時期に「楊家将」ではその存在さえ全く触れられることのなかった「水毛剣」が登場します。  聞けば楊業が心血を注いで鍛え上げた剣であるとのこと。  でも楊業がその剣を佩いたという記述は「楊家将」の中にはどこにもなかったし、正直、かなり唐突な感じがしないでもありません(苦笑)。  まあ、楊業がその剣を佩いて戦場に出ていたら、楊業の死と共にその剣は行方不明になってしまう(もしくは遼に獲られてしまう)わけだから、当然「水滸伝」の楊志や「楊令伝」の楊令の手元にその剣が伝えられることはなくなってしまうわけで、ストーリー上の必然性ということで言えば分からないでもないんですけどね(苦笑)

そして楊家軍の宝刀だけだとバランスが悪いと感じられたせいか、遼国側でも楊令伝でシンボリックな宝刀として登場することになる「護国の剣」(但しこちらはこの名前こそ出て来ないけれど、「楊家将」で既に登場している)も現れ、シリーズを通して読む読者へのちょっとしたサービスみたいなサイド・ストーリーになっています。
  

「楊家将」の Review で KiKi は

武家の物語だから仕方ないのかもしれないけれど戦、戦、調練、戦という感じだし・・・・・・。

と書いたわけだけど、対するこちらは一度はバラバラになってしまった楊家軍を再興するお話なだけに、その軍閥を支える経済的基盤の話やら先の戦で負傷した人々のその後の生きる場所の話(要するに生産活動の話)なんかも出てきていて、KiKi には前作よりも深みのある物語に感じられました。  まあ、そういう裏方系の話が出てくるとある種のテンポ・ダウンみたいなところはあるけれど、やっぱりそういう話もないと単なる「イケイケ・ドンドン」の嘘っぽさみたいなものが感じられちゃいますしねぇ・・・・。

楊業の四男・四郎を「記憶喪失」にしちゃったのはちょっと現代人の感覚に迎合しすぎじゃないかと感じました。  確かに四郎は楊家軍の1人として「楊家将」では戦っていたし、楊業の息子だし、先の戦で生き残った兄弟の中では最年長なわけだから、「楊家軍再興」の急先鋒であってほしいのはヤマヤマだけど、あの時代、敵の虜囚となった武人の生き方として、かつての自分とは別の立場で戦う今の自分っていうのはアリだと KiKi なんかは思うんですよね。

それを証拠にあの三国志の諸葛孔明とその弟だって孔明は劉備に仕えていたわけだけど兄弟や一族の中には呉や魏に仕えた人もいるわけで・・・・・・。 

まして、楊業の死は確かに遼との戦の中で起こった悲劇ではあるけれど、実際には宋軍の中の姦計によるものなわけだし、さらに言えば楊業が北漢を見限って宋に帰順することに決める過程でも四郎は宋への帰順とは別の生き延び方を考えていた人物でもあったことになっているわけで、あの戦のあと宋を見限ったとしてもそれは不思議じゃないような気もします。

「親・兄弟と争うなんて、よっぽどの事情がなければ・・・・・」というのはある意味、ものすご~く現代的な感覚なんじゃないかと KiKi は思うんですよ。  こんな昔の物語じゃなくても我が日本国に於いても戦国時代には親・兄弟・親族が別陣営に分かれて戦う物語は掃いて捨てるほどあるわけだし・・・・・。  まあ、こういう設定にしたからこそ「血涙」というタイトルが生きるし、石幻果(≒楊四郎)と耶津休哥の間に流れる「情」の物語に深みが出たというのは否定できませんけど・・・・・・。

今回、この本を読んだのを機に、ちょっとだけ世界史の参考書で「宋の頃」の歴史を復習してみました。  もうすっかり忘れていた中国史だったけれど、小野妹子の遣隋使の隋、それに引き続く唐、黄巣の乱での唐の崩壊、それに続く五代十国の時代ときて北宋建国だったことをはっきりと思い出しました。  そして楊業が最初に属していたのが十国の中の1つだった北漢。  しかも唐代8世紀の頃には民族の侵略に備えるため、辺境に節度使を設置したこと。  その節度使が中央政府の弱体化に伴い藩鎮と呼ばれる半独立化した地方勢力が形成されていたこと等々も思い出しました。  そんな中で形成された楊業の「楊家軍」だったんですよねぇ。

・・・・・というような歴史的な背景が頭の中に蘇ってくると、楊業の死の原因となった潘仁美らの姦計の裏にある事情も「単なる嫌なヤツ」というレベルとは違って見えてくるし、この血涙で楊家軍が結局解体されるに至る事情というヤツもストンと KiKi の中で腑に落ちてきました。  そしてもう1つ、今回の中国史の復習で思い出して「な~るほど」と頷けちゃったことがありました。  それはね、黄巣の乱の首謀者、黄巣さんは闇塩商人だったと言われていたっていうことです。  

日本の故事熟語に「敵に塩を送る」というものがありつつも、四方を海で囲まれた島国日本で暮らしていると「塩」というものに対する感覚はどうしても鈍くなりがちなうえ、現代日本ではどんな小さな食料品店でも必ず手に入る調味料なわけだけど、あの広大な中国大陸に於いて、人間が生きていくためには欠かせないこの「塩」の生産地はどうしても偏ってしまうわけです。  しかも現代のような物流体制が整っているわけでもありません。  そこにこの物質の売買・流通の重要性があり、尚且つ利権が生じるということを改めて実感した・・・・・・そんな気分です。

ああ、だから「北方水滸」では「闇塩の道」があれほど重要だったんだ!  そしてこの「楊家将」でも「楊家軍」を支える財源の最重要なものが「塩の販売権」だったんだ!  と遅まきながら納得した次第です。

さて、この2冊を読了したので、今日からは「北方水滸」2周目に突入する予定です。

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