水滸伝 13. 白虎の章  北方謙三

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北方水滸第13巻の2周目です。

水滸伝 13. 白虎の章
著:北方謙三  集英社文庫

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官は十万以上の兵で、梁山泊への進攻を開始した。  流花寨には趙安の軍が押し寄せ、呼延灼、関勝、穆弘がそれを迎え撃つ。  呉用は流花寨の防衛に執心するが、官の狙いは別の所にあった。  董万の大軍が息を潜め、急襲の秋を待っている。  一方、孔明と童猛は官の造船所の襲撃を計画した。  強固な防備の中、百名の寡兵で潜入を試みる。  そして、ついに董万が疾風の如く動き出した。  北方水滸、決死の十三巻。  (文庫本裏表紙より転載)

まずは恒例の各章のサブタイトルとその星が表す豪傑の名前の列挙からです。

天剣の星: 立地太歳・阮小二
地祐の星: 賽仁貴・郭盛
地僻の星: 打虎将・李忠
地飛の星: 八臂哪吒・項充
地退の星: 翻江蜃・童猛

前巻の Review で KiKi は

お互いの「譲れないもの」と「国家のありようはこうあるべき」というビジョンを賭けての全面戦争の空気を漂わせて13巻へ進みます。

と書いたわけだけど、とうとうこの巻に至って官軍 vs. 梁山泊の戦いはほぼ全面戦争の様相を呈してきました。  数で劣る梁山泊側にとってみれば「全軍挙げての戦い」はこれが初めてではないけれど、官軍側が多面的に動き始めた最初の戦いと言ってもいいかもしれません。  それでも相変わらず童貫元帥とその直属の精強メンバーはまだまだ様子見のままなんですけどね(苦笑)  この物語の中での童貫元帥の描かれ方はどちらかというと偏屈親父で自分の戦の美学だけに拘り続ける扱いにくい人という印象が強いけれど、この巻ではそれだけではないことを匂わす描写がありました。  曰く、

そもそも帝と帝がおわす都を守ることがその存在目的である禁軍は当然のことながら遠征のための予算は限られている。

このままの表現ではなかったけれど、これ、結構重要なポイントだと思うんですよね。  「都を守る」≒ 「都の近くからは離れない」というほど短絡的なものではないと思うけれど、やっぱり金がなくちゃ戦はできないわけでして・・・・・。  まして地方軍を動かすための軍費は青蓮寺が運営する銀山から出てくるようになったからこそ戦ができている財政基盤状態の官軍です。  武力だけを頼みに後先考えずに戦に赴くわけにはいかないのは総大将であればある種当たり前の感覚だよなぁと思うわけです。

そういう意味では事ここに至って尚、自分の趣味の世界に大金を費やしてノホホンとしている帝はやっぱり暗愚としか言いようがないし、その周りでおこぼれ頂戴に躍起になっている政府高官の皆さんも情けない限りです。

   

さて、大方の「北方水滸ファン」の皆さんが萌えるのは戦のシーンと華々しい英雄たちの死のシーンなんだろうと思うけれど、根っこのところで「死を美化する」ことに抵抗を覚える KiKi にしてみるとそれはそれ・・・・・。  しかも、戦の描写も少しずつではあるもののワン・パターン化しているように感じられます。  まあ、戦の流れなんていうものはそうそうバラエティに富んでいるようなものではないのも又事実だと思うんですけどね。

そんな中、この巻で KiKi の印象に残ったのは、梁山泊・軍師を務めていた呉用と戦闘員、呼延灼、関勝、秦明を筆頭とする各隊長との間に生じた溝のお話と宋江のお父さんに孝行を尽くす武松・李逵の凸凹コンビのお話でした。

呉用と各隊長との間に生じた溝のお話は現代社会にもよくある構図で、いわゆる部長さんと現場スタッフの間に生じる意識・考え方の相違と限りなく似たものがあると思うんですよね。  現場スタッフの方っていうのは、あるタスクを遂行するプロフェッショナルで、そのタスクを取り巻く様々な周辺状況にはとても詳しい。  で、時に直属の上司の上のさらにその上の上司ぐらいのポジションの人からスタッフさんにとっては「現場のことが全くわかっていない」としか感じられないような命令が下ることがあります。  往々にして数で勝る現場スタッフさんたちの声は大きくなりがちで「あの人は現場のことがわかっていない。」と大合唱が発生したりもします。

もちろん中にはおバカな上司というのも確実に存在していて、どこをどうつついても現場スタッフさんたちの意見が正しいということもままあります。  でもね、逆にスタッフさん達はもっと大きな視野を持って全体を見渡していないことが多いのも又事実だったりします。  要するに一面だけ捉えれば、もしくは目先の問題の解決だけを考えたらスタッフさんたちの言うとおりだったとしても、問題の根本解決を目指すとしたら異なるアプローチを模索しなければならないことがあったりすることもあるんですよね。  でも、それを「いいから言われた通りにやれ」と鶴の一声方式の命令で押し通すとろくな結果を導かない・・・・・。  だからと言ってそれをみんなが納得できるまで説得していたら時間が足りない・・・・・。

結局、その解決策は最低限でも現場のリーダー的な存在(この水滸伝で言えば呼延灼、関勝、秦明といった隊長クラスの人たち)から「この人の言うことだから・・・・・・、この人がこう言うっていうことは何かがあるに違いない」という最低限の信頼を得る以外に道はなかったりするわけです。  でもそのためには日頃からそういうリーダー的な存在の人たちとどれだけコミュニケーションを図っているかに全てがかかっていて、呉用さんみたいに忙し過ぎて何でも自分がやらないと気が済まないタイプだと難しい・・・・・(苦笑)  ある意味では宋江さんみたいにどこか暇そうにしていて鷹揚なところがないとねぇ。  結局、この段階での呉用さんは水滸百八星の第3位という高位にありながら、やっていることはプレイング・マネージャー(それもメチャクチャ優秀な)の域を出ていないことに問題の根本があると思うんですよね。  

そういう意味ではこの問題が発生した時に呉用さんを軍師から外す決断をし、皆の居並ぶ前でそれを言明した宋江さんは素晴らしかったと思います。  ようやく彼が梁山泊のトップである意味がここで理解できた・・・・そんな気がするんですよね~。


さて、もう一つのお気に入りのプロットが武松・李逵の凸凹コンビ vs. 宋大公(宋江のお父さん)の触れ合いのシーンです。  青蓮寺の魔手から宋江さんのお父さんを守るために派遣されたこの凸凹コンビが覚悟を定めて頑なになっている老人の心をほぐしていくシーンは戦・戦のシーンが続くこの巻の中で極めて温かみに溢れ、ほっとさせてくれるものだったと思います。  特に李逵の純粋さには誰も勝てないなぁと思わせるあたり、素晴らしいと思いました。  原典の李逵は単なる暴れん坊だったのにねぇ・・・・・(苦笑)

さて、まだまだ立ち上がらない童貫元帥がこの先、何をきっかけに、そしてどんなタイミングで立ち上がるのかを楽しみに14巻へ進みます。  

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コメント(2)

お早うございます。岳飛伝の一巻を読了いたしました。要するになんだかんだ言って楊令伝は、全巻読んでしまったということです(笑)。童貫戦以降少しテンションが落ちたような気がしていたので読むのをやめようかとも思ったのですが、楊令十五巻を読了した時「止めなくてよかった」と思いました。武松と李逵は本当に名コンビでしたよね。ああ、ありましたね。李逵が宋江のお父さんに尽くしてあげるところ。もともと李逵は好きでしたが、あのエピソードでますます彼が好きになりました。KiKi様の「王進スクール」っていうおっしゃり方少し可笑しいです。なんだか予備校みたいで(笑)。私は李逵と王進以外では鮑旭が好きなのですよ。最初は、手の付けようのないチンピラ青年でしたけど、王進と王母様に教育されて真人間になりましたね。そして梁山泊の中核武将の一人になります。あの立派な武将になった鮑旭を見ると「あんた、立派な人間になったなあ」と褒めてあげたくなるんですね。鮑旭は私に褒められても嬉しくもなんともないかもしれませんけど(笑)。「お前の名前はこう書くのですよ」と王母様に生まれて初めて読み書きを教わった時の思い出を宝物にしているところも好きです。天才的な戦士でも偉大な武将でもなかったかもしれませんけど部下思いのいい大将でした。鮑旭の部隊が一番梁山泊で戦死者の少ない部隊だったというのもうなずけました。最後は敵将・張俊に感銘を与えるほど壮絶な戦死をとげましたね。草葉の陰で王母様と語り合っている鮑旭を創造すると何だか楽しくも切ない気持ちになります。

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このページは、KiKi (Brunnhilde)が2013年8月16日 10:03に書いたブログ記事です。

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