飛ぶ教室 E.ケストナー

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KiKi の子供時代、自宅でもっともお世話になったのは岩波少年文庫と親戚のお姉さんからのお下がりだった河出書房新社(だったと思う)の「少年少女世界文学全集」でした。  そしてこの「飛ぶ教室」はその「少年少女世界文学全集」の中の1冊として読みました。  そういう意味では岩波少年文庫版は今回が初読となります。  もっともその「文学全集」の方の読書はあまりにも昔のことなので、2つを比較できるような読み方はできないんですけどね(苦笑)  ま、いずれにしろ本日の KiKi の読了本はこちらです。

飛ぶ教室
著:E.ケストナー 訳:池田香代子  岩波少年文庫

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ボクサー志望のマッツ、貧しくも秀才のマルティン、おくびょうなウーリ、詩人ジョニー、クールなゼバスティアーン。  個性ゆたかな少年たちそれぞれの悩み、悲しみ、そしてあこがれ。  寄宿学校に涙と笑いのクリスマスがやってきます。  (文庫本裏表紙より転載)

恐らく KiKi が初めてこの物語を読んだのは小学校の低学年から中学年にさしかかる(2年生か3年生)頃だったと思います。  当時の KiKi には正直なところこの物語のよさがさっぱりわかりませんでした。  と言うのも、舞台は男の子ばかりが暮らすドイツのギムナジウムです。  しかも物語の冒頭で印象的に(?)登場する男の子は大食らいときています。  挙句ギムナジウムに通う男の子が実業学校に通う男の子たちに拉致され、それを助けにギムナジウム組が殴り込み・・・・・ ^^;  寮生活の何たるかも知らなければ、男だけの世界に流れる流儀みたいなものにも疎く、ついでに「暴れん坊」が苦手だった当時の KiKi にしてみれば「なんじゃ、こりゃ?」の世界だったのです。

でもね、もう少し成長して小学校を卒業するちょっと前ぐらいのタイミングで読んだときにはこの同じ物語がスッと心に沁みこんできたんですよね~。  これは小学校生活の中で男の子っていうのはどういう生き物なのか、その行動原理にどんな気持ちがあるのかということが何となく理解できるようになってきていたということもあっただろうし、初読の際には読み飛ばしていた大食らいの男の子の将来の夢がボクサーであることもちゃんと理解できていたからだと思うんですよね。  実業学校の子供たちが別の学校の子供を拉致するという設定にはリアリティは感じられなかったけれど、協力して仲間を助けるという義侠心とか、伝統的な対立意識とか、勇気ある行動に憧れる気持ちといったものがある程度身近なものに感じられる年齢になっていたからだと思います。

狭い世界で暮らしている少年たちが見せるある種の純粋さはキラキラと眩しかったし、どんなに仲間が大勢いてそれが素晴らしい仲間だったとしても、その中の個人には何かしらの問題・悩みのようなものがあって、その何かに時に押しつぶされそうになったり、抗ったりするわけだけど、その時は結局1人ぼっちなんだよなぁということも考えさせられました。  ただ、その決着をつける過程で、あるいは何らかのしっぺ返しを食らったときには周りには誰かがいてくれるのがいい。  それは仲間であることもあれば、この物語に出てくる2人の魅力的な大人、「正義さん」と「禁煙さん」のような「子供の心を忘れてはいないけれど、そこにホンモノの知恵も身につけた懐の広い大人だったりもすれば最高です。  そして思ったものでした。  「私もこういう本当の意味で良識のある大人になりたい。」と・・・・・。

 

さて、今回本当に久々にこの物語に手を出してみたわけですが、今回の読書では KiKi は又全く違うことを考えていました。  それはね、そもそもの事件(ギムナジウム組 vs. 実業学校組の喧嘩)に関してです。  この拉致事件のきっかけとなったのは「ギムナジウム組が実業学校組の旗を盗んで返そうとしなかったうえに、ようやく返されたその旗が破れていた」という子供らしいイタズラと呼んでもいいような些細な出来事なんですけど、その根っこにはもっと根深いものが潜んでいました。  事件のあらましを禁煙さんに語る子供曰く

実業学校の生徒とぼくらは、言ってみれば有史以前から対立しています。  十年前から、もうこんな状態だったそうです。  これは学校どうしのけんかで、生徒の誰かが誰かといがみ合っているとか、そういうことではありません。  生徒は、それまでの学校の歴史をひきつぐだけです。

これってものすご~く単純に言い切ってしまうなら、世界各国から決してなくなることのない「民族問題」の小型版じゃありませんか!  彼らはそんな「学校の歴史を引き継ぐ」ことに使命感にも似たようなものを持っていることがありありと感じられます。  そしてそんな使命感に燃え「それまでの学校の歴史を引き継いだ」子供たちは、相手側の1人を拉致・監禁し、挙句その人質に10分ごとに6発も暴行を働き、ギムナジウム組の子供たちの所有物である書き取りノートを焼いちゃうなんていう暴挙にまで及んでいます。  そして最悪なのはそれらの行動に何ら罪悪感を抱いていないということです。

子供の世界のいたづらにしては度が過ぎていると考えるのは、ひょっとしたら平和ボケした日本人だから・・・・・なのかもしれません。  ケストナーがこの物語を書いたのが1933年。  ナチス・ドイツが台頭してきたまさにその年です。  そしてナチス・ドイツが誕生する背景には第一次世界大戦後のヴェルサイユ条約下の天文学的数字とまで言われたドイツに課せられた戦争賠償責任があり、終戦後のドイツ国民の窮乏があったことを忘れてはいけないと思うんですよね。  恐らくドイツ国内には「歴史的な屈辱」という意識は蔓延していただろうし、それこそ「歴史を引き継ぐ使命」みたいな意識は通奏低音みたいに流れていたんじゃないかと思うんですよ。

これはパレスチナ vs. イスラエル然り。  ボスニア・ヘルツェゴビナ然り。  モンゴル vs. 中国然り。  etc. etc.  そしてケストナーはそんな人間の心に潜む対立感情をギムナジウム vs. 実業学校という比較的こじんまりした世界に再現してはいるものの、決してそれを甘受せず、「正義さん」や「禁煙さん」や別の先生の口を借りて、やんわりと諭しているかのようです。  曰く

平和を乱すことがなされたら、それをした者だけではなく、止めなかった者にも責任はある。

ぼくが願っているのは、何が大切かということに思いをめぐらす時間をもつ人間が、もっとふえるといいということだ。  金も地位も名声も、しょせん子供じみたことだ。  おもちゃだ。  それ以上じゃない。  ほんものの大人なら、そんなことは意に介さないはずだ。

そして物語同様に素晴らしいまえがきの中でケストナーは彼自身の言葉としてこんなことも言っています。

世界の歴史には、賢くない人々が勇気を持ち、賢い人々が臆病だった時代がいくらもあった。  これは正しいことではなかった。  勇気ある人々が賢く、賢い人々が勇気を持つようになってはじめて、人類も進歩したなと実感されるのだろう。  何を人類の進歩と言うか、これまではともすると誤解されてきたのだ。

この物語、児童文学の体裁をとっているし、実際小学校高学年から中学校低学年ぐらいまでの読み物としては素晴らしいと思うけど、案外、大人にこそ読んでもらいたい読み物なのかもしれません。  ま、ちょっと直球勝負すぎて白々しいと感じちゃうところもあるかもしれないけれど・・・・・。  でもね、寺田寅彦先生名付けるところの「国民的健忘症」の日本人、せめて本の中でぐらい「理想論かもしれないけど、やっぱりこういうことって大事だよね。  ちゃんと考えないと・・・・・。」と思う時間も大切なんだと思います。  因みに「岩波少年文庫」ではちょっと恥ずかしいと思われるむきにはこんなのも出ています。

飛ぶ教室
著:E.ケストナー 訳:丘沢静也  光文社古典新訳文庫

416-B89O0jL._SX230_.jpg  (Amazon)

孤独なジョニー、弱虫のウーリ、読書家ゼバスティアン、正義感の強いマルティン、いつも腹をすかせている腕っぷしの強いマティアス。  同じ寄宿舎で生活する5人の少年が友情を育み、信頼を学び、大人たちに見守られながら成長していく感動的な物語。  ドイツの国民作家ケストナーの代表作。  (文庫本裏表紙より転載)

実は KiKi は「岩波少年文庫」と同様、「光文社古典新訳文庫」もこのブログの目玉企画としているので、そのうちにこちらも読んでみたいと思っています。


最後に・・・・  この本の宮崎駿さんの推薦文は以下のとおりです。

子供の時、ぼくはこの本にとても感動しました。  キラキラした夢のような世界でした。  この本の少年たちや大人たちのように、勇気や誇りや公正さを持てたら、どんなに素晴らしいかと。

残念ながら、ぼくは勇気を発揮するチャンスを何度も逃し、傷つきやすく臆病な少年時代を過ごしてしまいました。

読み直して、勇気や誇りを持つことに、自分がどれほどあこがれていたのかを思い出します。  ぼくには少年時代も大人の時代もやり直すことはできません。  でも・・・・・と思います。  ちゃんとした老人になら、まだチャンスはあるかもしれないって・・・・・・。


KiKi も「ちゃんとした老人」を目指したいものです。

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