クローディアの秘密 E.L.カニグズバーグ

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秘密を胸にもって帰るっていうのが、クローディアの望みなのよ。  天使には秘密があったので、それがクローディアを夢中にもさせたし、重要にもさせたのですよ。  クローディアは冒険がほしいのではないわね。  お風呂や快適なことがすきでは、冒険むきではありませんよ。  クローディアに必要な冒険は、秘密よ。  秘密は安全だし、人をちがったものにするには大いに役だつのですよ。  人の内側で力をもつわけね。

原題「ベシル・E・フランクワイラー夫人のファイルの山から: From The Mixed-Up Files of Mrs. Basil E. Frankweiler」が邦題「クローディアの秘密」になっちゃった理由はこの作中のフランクワイラー夫人の一言(↑)にあるんですねぇ・・・・。  本日の KiKi の読了本はこちらです。

クローディアの秘密
著:E.L.カニグズバーグ 訳:松永ふみ子  岩波少年文庫

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少女クローディアは、弟をさそって家出をします。  ゆくさきはニューヨークのメトロポリタン美術館。  そこでこっそり生活をするうちに、2人はミケランジェロ作とされる天使の像にひきつけられ、その謎を解こうとします。  (文庫本裏表紙より転載)


この本を読むたびに KiKi が思い出すのは KiKi がクローディアと同じぐらいの年齢だった頃、やっぱり「家出」をしたくなっちゃった時のことです。  何が直接の原因だったかのかは忘却の彼方なんだけど、ある日「絶対に今日こそ『家出』を決行するんだ!」と決心した KiKi はクローディアと同じように親に置手紙を書きました。


1週間の家出  KiKi


ってね。  で、その KiKi の家出は1週間はおろか1日ともたなかったんだけど、半べそをかきながら帰宅した KiKi を母は物凄い勢いで叱り飛ばしました。  自分の計画が失敗だったこと、さらには母親にこれ以上はないっていうほど怒られて意気消沈した KiKi を見て、父は笑ってこう言いました。


あのなぁ、KiKi。  期限付きの家出っていうのはないんだぞ。  そういうのは「家出」じゃなくて「旅行」って言うんだ。


ってね(苦笑)    ま、それはさておき、クローディアには「生まれた時から一番上の子供で、その上女の子だったというそれだけの理由で、下の子たちのお手本になるようないい子でいなくちゃいけなくて、女の子らしく弟の世話や家事手伝いをさせられるうえに、それを怠るとお小遣いが減額される」という不公平に抗議するという家出をするうえでの大義名分がありました。  さらには同じことの繰り返しである日常への倦怠感がそれに拍車をかけ、自分は家出をするんだと思い込んでいました。

でもね、本当の家出の理由は実は別のものだったんだろうと、過去に「1週間の家出」を企画して遂行できなかった KiKi は思うんですよ。  彼女がしたかった家出というのは「親の庇護からの脱出」だったんじゃないのかなってね。  実は KiKi 自身、上にも書いたように「1週間の家出の直接の原因」はまったく覚えていないんだけど、はっきり覚えているのは親に何がしかの不満を持つぐらいまでに親から精神的に分離し始めている感覚があったこと、別の言い方をするならば親への感情が絶対的なものではなくなってきていたということなんです。

要するに自我の目覚めっていうヤツですね。  だから親が望む優等生であることもイヤ、親にあれしろこれしろと言われるのもイヤ、ましてやそれにちょっと反抗すると親が立場の優位性をふりかざし「お小遣いの減額」というような痛い所をついてくるのは理不尽だという想い・・・・・。  でも、それは親を嫌いになったということではないし、まして「困らせてやろう」な~んていう悪意を抱かせるほどのものではないんです。  それどころか、自分が家出な~んていうことをしでかしたら親がものすごく心配するだろうということもよくわかっていて、それを回避するためにクローディアにしろ KiKi にしろちゃんと手を打つんですよ。

ところがそこはやっぱり子供なんです。  子供特有の無邪気な浅はかさとしか言いようのないことしか思いつかないんですよ。  クローディアは「心配しないで」と書いておけば親は心配しないだろうとタカをくくっているし、KiKi は期限付きならOKだろうとこれまたタカをくくっている・・・・みたいな。  まあ、KiKi が期限付きにしたのは親を安心させるためばかりではなくて、生活能力がクローディアよりも未発達だったうえにクローディアにはいたスポンサー(弟のジェイミー)がいなかったから、自分の所持金では1週間が限界だろうと思っていた(実際には1週間も無理であることがすぐに判明)というのもあるんですけどね。

クローディアと KiKi の家出の類似点は今の親元での生活が耐えられないというほどのものではなく、逆に「家なき子」や「小公女」の主人公たちのような厳しい生活は自分には耐えられないことも分かっているということだと思うんです。  まして時間が来ればゴハンができてきて、いつも洗濯された洋服を着ることができているのは「親のおかげ」であることもちゃんと分かっているんです。   だからクローディアはメトロポリタン美術館を家出先に選ぶし、KiKi はどこへ行くかは決められないけれどとりあえず期限だけを決めていたりするんです。

そしてクローディアと KiKi の家出の相違点は KiKi の方が著しく計画性に欠けていたのに対し、クローディアの方は「計画をたてる5分間は、探し回る15分間に匹敵するのよ」と別の場面で言うように、用意周到です。  確かに思い付きとしては「メトロポリタン美術館」なんていうのは素晴らしいと思うけど、実際の深夜の美術館なんていうのはもっと不気味なんじゃないかなぁ。  そこは姉弟二人連れという心強さがあったのかもしれないけど、KiKi だったら動くはずのない展示物(彫像とか石棺の蓋とか)が動いたような気がして眠れなかった・・・・・みたいなことがあってもおかしくないと思うんだけど、この姉・弟はひたすら無邪気に遊びまわっています ^^;


さて、物語前半は家出をした姉弟がどんな風に美術館に隠れ住んだか?とか、乏しい所持金をどんな風にうまく使っていったかという「都会のサバイバリスト物語」なんだけど、途中から様相を変えていきます。  そのきっかけとなったのはメトロポリタン美術館がたまたま入手したばかりの新しい展示物「ひょっとしたらミケランジェロ作?の天使像」との出会いにありました。  一流の研究家たちがまだ結論を出せずにいるこの「ホントにミケランジェロ作?」という謎に家出中の姉・弟は挑み始めます。

最初のうちは「家出」という大きな秘密を姉と弟二人だけで共有し、とにかく誰にも見つからないことが一番大事なことだったのに、ここから先はこの2人、結構大胆な行動に出始めます。  それまではメトロポリタン美術館を訪れる子どもの団体に紛れ込んで自分の存在を隠そう、隠そうとしていたはずなのに、いつの間にか「天使像の謎を解いた英雄」を目指し始めちゃいます。  この辺り、子供らしいスリルを追求する気持ち、英雄に憧れる気持ち、「謎」に挑戦する気持ちというようないくつもの気持ちが分刻みでコロコロ変わり、その気まぐれさ加減も実に子供らしい・・・・(笑)

そしていつしかクローディアの中では、

家に帰る時は出てきた時とは違う自分になっていたい。  そのためにはミケランジェロ作(?)の天使像の秘密を解明することが絶対に必要なこと。

と思い詰めるまでになっていました。  唐突と言えば唐突、因果関係不明と言えば因果関係不明なロジックだけど、彼女の中では「自分だけの秘密を持つ ≒ アイデンティティの中心を母親から秘密に置き換える事が出来る」ということになっていたのではないかと KiKi には感じられます。

美術館での隠遁生活の間、クローディアの言ったりしたりすることはどこか「小さなお母さん」的でした。  弟のジェイミーに「歯を磨け」「シャワーを浴びなきゃ」「ちゃんとした食事をしなきゃ」「今日は○○の勉強をしましょう。」ってね。  これらはみんな言ってみれば母親の受け売りで、彼女の価値観の中心には母親の姿があったことは間違いないことだと思うんですよ。

家出中、「ふつうの子ならホームシックにかかるわよね。私達、情が薄いのかしら」なんて弟と話しあうシーンが描かれているんだけど、これって口では「情が薄い」と言いつつも実は親が近しい存在である事、本人が意識せずに親の存在を再確認しているような絶妙なエピソードのように感じられるんですよね。  そういう意味ではこの時点ではクローディアは家を出てきた時と何ら変わりがない、親の存在が自分の価値観・アイデンティティの中枢にデンと腰を下ろしたままの状態のような気がします。

でも、「親の知らない天使像の秘密」を持つことによって、彼女の中には独立した何かが確立する。  その欠片が「秘密」と呼ぶしかない実体のない何かなのではないか?  そんな気がするんですよ。  そして物語の最後でクローディアは実に意味深な発言をしています。


人が秘密をもってたとしても、その人が秘密をもってることをだれも知らないと、そのうちつまらなくなっちゃうからよ。  それで、その秘密が何かってことは人に知られたくないけど、せめて秘密をもってるってことくらい、人に知られたくなるのね。


個としての自分を知って欲しいと願う気持ち。  でも同時に土足で踏み込んでこられることを厭う気持ち。  クローディアが「秘密」と呼ぶものは彼女の根幹に関わる重要なもので、少なくとも母親と共有するようなものではありません。  でもその「秘密」を彼女が持っていることを知らなければそれまでの母と娘の関係は何も変わらず、「秘密」そのものがただ単に「誰の目にも触れずに忘れ去られたもの」となってしまいます。  でも母親は知らなくても少なくともクローディアはそれを「私の秘密」として大切にするだろうし、もっと嬉しいことにクローディアには共犯者がいます。  弟のジェイミーがそうだし、誰よりも強力な共犯者はフランクワイラー夫人です。  

たまたま身寄りのないフランクワイラー夫人がふと見せた「母親願望」に応えるかのような形で2人の家出人は家に送り届けられる車の中で最後にこんな会話をします。


「(フランクワイラーのおばさまは)あたしたちのおばあさんになればいいわ。  (私たちの本当の)おばあちゃんは亡くなったから。」

「それを僕たちの秘密にして、おばさんにも言わないことにしよう。  お母さんにもならないで、いきなりおばあさんになったのは、世界中であのおばさん一人だね。」


彼らはこうしていくつもの秘密を携えて、「家出の旅」を終えました。


さて、最後に・・・・  この本の宮崎駿さんの推薦文は以下のとおりです。


この本を読んで、しばらく日本を舞台に移しかえて、映画にできないものかと試みました。  家出する主人公の少女は、メトロポリタン美術館ではなく、上野の国立博物館にかくれ住むというわけです。  でも大人のぼくでもあの博物館で夜を過ごしたくはありません。  まるでお墓のようでこわいのです。  それで、やめになりました。  いい話なのに、ちょっと残念でした。


でしょ!  やっぱり怖いよねぇ。  ああいう所。  クローディアたちは度胸があるよなぁ・・・・。    

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このページは、KiKi (Brunnhilde)が2013年9月27日 10:31に書いたブログ記事です。

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