え? そうだったの??  完全看護 その3

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さて、夜中のトイレ通いが原因で、病院から追い出されることになった付添人のじぃじ。  なんとかじぃじを傷つけないようにということで「体が辛いだろうから・・・・」とか「適度なタイミングで交代も必要だから・・・・」とか「今後の介護生活のことを考えたら私たちが倒れるわけにはいかないんだから・・・・」等々と言葉を選びながら交代を促すんですけど、なかなか首を縦に振りません。  「お前たちも沼津と群馬を移動したばかりで疲れているんだから・・・・」とか「私は軍隊時代にもっと辛いことを経験しているし、鍛え上げているから大丈夫・・・・」とか「どうせ家に帰ってもばぁばのことが心配で眠れないんだから・・・・」なんぞと言い募ります。  挙句、「私はもう共倒れは覚悟しているけど、お前たちに倒れられたらそれこそ大変なんだから・・・・」なんぞという訳のわからないことまで言い出す始末です。

そこで仕方なく看護婦長さんに言われたことをかいつまんで伝え、病院としては入院患者ではないじぃじの心配まではできないし、何かあった時には責任が取れないからと言っていることを伝えました。  それを聞いたじぃじはさすがにかなり傷ついた表情をしていたのですが、一応納得はしてくれて、その日の夜は試しに KiKi と交代することに同意してくれました。  まあ、その間も周りで起こっていることにはまったく無関心のばぁばが執拗に繰り返す「おしっこ問答」(この詳細は後日、お話します。)に悩まされ、頭は爆発しそうです。  

さて、いよいよ面会家族が帰るという段になると、ばぁばの激しい抵抗が始まりました。  じぃじが

「じゃあ、明日又、会いに来るからね。  今日は私は家に帰るけど、 KiKi が泊まってくれるから淋しくないだろう?」

と声をかけると、悲痛な声で

「やだ!!  置いてかないで!  KiKi って誰?  そんな人、知らない!!」

と叫びます。  娘のことがわからないばぁばしてみれば、じぃじに置いて行かれることだけが不安をかきたてる要因で、叫ばずにはいられないほどであることは頭ではわかります。  でも、KiKi にしてみればそれこそ群馬→沼津の移動の直後で、せめてこの夜ぐらいは家でゆっくり休みたいのが本音なのに、それに輪をかけての拒絶を耳もとで叫ばれると、そのショックたるや生半可なものではありません。  

最初に KiKi のことが判らなかった時のショックも半端なものではなかったけれど、この時の KiKi は半ば放心状態。  目の前にいる母は母であって母でない人。  見知らぬ老婆以外のナニモノでもありません。  そんな状態のばぁばを前に今度は一度は納得したじぃじが KiKi に向かって言い始めます。

「ほら、こんな状態だから・・・・。  交代してあげようっていうお前の気持ちは嬉しいし、病院の言っていることもわからないじゃないけど、やっぱり付き添いは私じゃなきゃダメだと思うぞ。」

と半分諦めたような、半分勝ち誇ったような口調です。  再び「付き添い交代議論」を繰り返し始めている KiKi たちを尻目にばぁばは

「みんなで私を捨てようとしている!  私のことが嫌いになったんですか!?  だったら私はどこか他所へ行きます!!」

と叫び続け、ベッドから降りてこようとします。  くどいようですが、ばぁばは大腿骨を骨折し、この時点ではまだまだちゃんと歩ける状態ではありません。  でも残念ながら認知症に侵されたばぁばの脳は自分が骨折したことも、手術を受けたばかりであることも、リハビリの最中であることもすぐに忘れてしまうのです。  その為、家族全員が揃って面会している時間以外はベッドに拘束されていました。  ふと目を離した隙に骨折していたことを忘れてベッドから降りようとして、又は歩き回ろうとして再び転ぶようなことにでもなったら、目も当てられないからです。  でもこの2度目の「付添人交代議論」を KiKi たちが繰り広げている間は家族全員が病室に顔を揃えている状態だったので、拘束が解かれていました。

この議論には積極的には参加していなかったダーリンがベッドから降りようとするばぁばを必死になって押しとどめようとしたのですが、「火事場の馬鹿力」とはよく言ったもので、どこか遠慮のあるダーリンよりも必死度で勝るばぁばの力の方が上をいっています。  慌てて議論を中断し、加勢に加わるじぃじ & KiKi。  でも3人掛かりで押さえようとすればするほどばぁばの興奮度はそれに比例してアップしていきます。  家族の場合、ここで力づく・・・・とはどうしてもいかず、宥めたりすかしたりしながらベッドの上に居続けさせよう、興奮を鎮めようとするわけですが、とにかくベッドから降りること以外には何も考えていないばぁばには太刀打ちできません。

そしてこの大騒ぎに気がついた看護婦さんが数人、病室に飛び込んできました。  そして KiKi たちの目の前で暴れるばぁばを押さえつけ、ベッドに括りつけました。  もちろんばぁばの悲痛な叫びはそれまで以上に激しいものになり、病室は修羅場と化しました。  ばぁばの叫びがすすり泣きに変わった頃、じぃじが看護婦さんに向かって KiKi に対するよりもさらに勝ち誇ったような口調で

「もうこの人(ばぁば)には娘のことがわからないんです。  だから付き添いは私じゃなければダメなんです!  しかも娘は長距離移動で疲れているんです。  私は疲れていません!」

と言い募ります。  本来ならここで KiKi が何かを言うべきだったんでしょうけど、KiKi 自身はつい先ほど耳もとで叫ばれた「KiKi って誰?  そんな人知らない!!」ショックの延長線上にあって、目の前で起こっている全ての出来事が現実とは思えないまま、ただひたすら茫然としていました。  すすり泣き続けているばぁばの背中を機械的に、ほとんど何の感情も湧かないまま撫で続けていました。  その後、看護婦長さんとじぃじの間で何事やら会話が交わされていたのですが、すべてが無声映画みたいな感じで KiKi の耳にはほとんど何も届きませんでした。

     

ふと気がついた時には病室に残っていたのはすすり泣き続けているばぁばとその背中を撫で続けている KiKi だけでした。  それから暫くして婦長さんが病室に再び顔を出しました。  そして

「確かにお母様はお父様でないと安心できないのかもしれません。  でも、とりあえず今日のところはお父様には私の一存でお引き取りいただきました。  とにかく娘さんの付き添いを1日、試してみましょう。  こんなことを言っては失礼かもしれませんが、お母様はもう何が起こったかは忘れていらっしゃると思います。  そして病室に1人じゃなければ安心されるかもしれません。  それにね・・・・・何と仰ってもお父様はお歳でいらっしゃいますから・・・・・。」

と仰いました。  KiKi は思わず

「ご面倒ばかりおかけして申し訳ありません。  父を休ませてあげたいのは私も同じですから、今日のことに関してはきっと婦長さんのご判断が正しいんだろうと思います。  でも、1つだけ・・・・・。  決してこれは私が付き添いをするのがイヤだということではないんですけど、先ほどもご覧になったような状態です。  こんなことを言うこと自体情けないことなんですけど正直なところ、私には付添人の役割を全うできる自信がまったくありません・・・・・。  実の娘だったはずなのにね・・・・・。」

そんな KiKi に励ましと優しい言葉を残して婦長さんは病室を去って行きました。  次第にすすり泣きがおさまってきたばぁばは自分が何に泣いていたのか、つい先ほどまで病室がどんな状態だったのかはすっかり忘れてしまったようで、ケロリとした表情で「ここは静かでいいわね。」とかこの後自宅介護になってから何遍も繰り返されることになる差し障りのないような話を1人で喋りまくっていました。  対して KiKi は「へぇ、そうなの。」「そうね、よかったわね。」「あら~、そうだったの。」というような返事を無感情のままひたすら返し続けました。  そしてその夜・・・・・・

ふと気がつくとばぁばが拘束紐が縛られている柵を叩いたり引っ張ったりする音が病室に鳴り響いていました。  同じ病室に KiKi がいるわけですから、できることなら解いてあげたい気持ちはヤマヤマなのですが、万が一のことがあった場合に KiKi 1人で何とかできる自信はまったくないわけで、暫くは眠ったふりをして様子を観察することにしてみました。  最初のうちは  

「何で、こんなになっちゃったのかしら??  もう嫌!」

というようなことをブツブツと言っていたのですが、そのうちになかなか解けない紐にも苛立ち始め、騒ぎ始めました。  そこで仕方なく声をかけてみました。

「どうしたの?  こんな夜中に。」

すると、ばぁばはその時初めて同じ部屋に KiKi がいることに気がついたようでした。  そしてこれ以上はないだろうというほど不機嫌そうな声で

「あんた誰?」

と聞いてきます。  言っても判ってもらえないだろうなぁと覚悟はしつつも

「私?  KiKi よ。  今日は○○さん(ばぁばの名前)と一緒にお泊りしているのよ。  忘れちゃった??」

と答えてみます。  すると案の定   

「KiKi?  そんな人、知らない!!  あんた誰!  私の部屋に知らない女がいる!!  イヤ~!」

と叫び始めました。  何とか落ち着かせようと声をかけるのですが、病室は暗い(病室の電気のスイッチが点けられなかった)ため、顔が識別できる状態ではありません。  ばぁばは昼間であれば KiKi の顔を見て少なくとも「敵カテゴリー」には入れず「お友達カテゴリー」の人として接してくれていました。  でも、夜中の真っ暗な病室では顔の判別ができないのです。  そして「KiKi」という名前もそういう名前の娘がいたことも忘却の彼方であるため、どんなに言葉を尽くしても納得なんてしてくれません。

この夜中の大騒ぎに再び看護婦さんが出動です。  ばぁばは既に睡眠剤を処方され服用していたのですが、それはさほど強くない睡眠剤でした。(恐らく副作用を懸念して選ばれていた睡眠剤だったのだと思われます。)  今度はかなり強力な睡眠剤が使われ、ばぁばは静かになりました。  その間、KiKi はその強い睡眠剤を使用することに同意した以外は全くの役立たずでした。  

翌日の朝、昨晩かけたご迷惑のお詫びに・・・・とナース・ステーションを訪ねました。  そのドアの外に立った KiKi は中で夜勤の看護婦さんが話している声を耳にしました。  決して意図して盗み聞きをしたわけでもそうしたかったわけでもありません。  でも聞こえちゃったんです。

「まったくあの隔離部屋には困ったもんよねぇ。  じぃさんは夜中にウロウロするし、娘さんはまったく役に立たないし・・・・。」

「でも、夕べみたいに騒がれるぐらいなら、ウロウロの方がまだましじゃない?」

「でも、万が一あのじぃさんに何かあったらその責任・・・・てなことになってもねぇ。」

「でもとにかく誰かに付き添ってもらわないとやってられないでしょ。  念書でも書かせてじぃさんを泊まらせるしかないんじゃない?  だって娘さんのことはわからないんだから。  婦長に相談してみましょうよ。」

「でも厄介よねぇ。  ホント、早く出ていってほしいわ~。」

そのまま踵を返してナース・ステーションを後にしたのは言うまでもありません。  もちろん KiKi が何の役にも立たなかったことは本人が一番よくわかっています。  でも、この問答を聞いてしまった時の KiKi の気持ちがどんなだったかは思い出したくも言いたくもありません。  とにかくその足でばぁばがいる病室に帰ることはできず、そのままトイレに直行しました。  そこで声を押さえて大泣きしました。  でもまだ執刀医の先生から退院許可も出ていないし、ばぁばのリハビリは始まったばかりです。  その日、じぃじとダーリンがお見舞いに来るのがどれだけ待ち遠しかったことか。  結局、味方は家族しかいない・・・・・・。  そう実感した出来事でした。



to be continued ........

    


     

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このページは、KiKi (Brunnhilde)が2013年10月 8日 10:54に書いたブログ記事です。

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