ゲド戦記4 帰還 U.K.ル=グウィン

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モノの本によれば第3巻と4巻の間には発表までに長い間隔があったとのこと。  そのためか、第3巻までは表紙にしろ、各章の章題の下に付されている挿し絵にしろ、それらが切り絵細工風の趣のあるものだったのに対し、この第4巻からは何気に現代ものっぽい挿し絵に変更になっています。  と同時に第3巻まではメインの読者対象が子供だったのに対し、この第4巻は大人、それもちょっと鬱積した気分を抱えた女性を対象にしているのかな?と思わないでもありません。  ま、いずれにしろ本日の KiKi の読了本はこちらです。

ゲド戦記4 帰還
著:U.K.ル=グウィン 訳:清水真砂子  岩波書店

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魔法の力を使い果たしたゲドは故郷ゴント島に戻り、テナーと再会する。  大火傷を負った少女も加えての共同生活が軌道にのりだした頃、三人は領主の館をめぐる陰謀に巻き込まれてゆく。  太古の魔法を受け継ぐのは誰か。  (ソフトカバー版扉より転載)

ゲド戦記4 帰還
著:U.K.ル=グウィン 訳:清水真砂子  岩波少年文庫

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平和と秩序を回復するため全力を出しきったゲドは、故郷の島に帰った。  心身ともに衰えた初老のゲドに、思いがけない女性との再会が待っていた。  (岩波少年文庫HPより転載)

この物語の原語版が世に出たのが1990年、続いて日本語版が出たのが1993年なのだそうです。  いわゆる「ジェンダー」という言葉が「性の自己意識・自己認知(性同一性)」の問題を扱う世界で使われ始めたのが1950年代から1960年代にかけて、その同じ言葉が社会科学の分野で使われ始めるようになった(社会・文化的に形成された性;要するに性的役割というような分野で使われるようになった)のが70年代でした。  そしてその70年代に始まった定義が80年代に入るとフェミニストの間では「ジェンダー」という言葉の当然の定義となされるようになりました。  そういう意味ではこの物語が書かれた背景には確実にアメリカ社会における「女性の社会的自立・社会進出」の影響があったことは想像に難くありません。

だから・・・・・なのか、そこかしこに「ジェンダー論」的な表現が顔を出します。  だいたいにおいて、「ゲド戦記」と銘打っている割にはこの第4巻、メインの登場人物は第2巻の「壊れた腕環」でゲドに助け出された元大巫女のテナーと彼女がひょんなことから引き取ることになった大火傷を負った少女テルー、更には彼女たちの生活を何かと助けるコケばばとよばれるまじない女っていう感じで、色々な世代の女性のオン・パレードです。  


KiKi も自身が「男尊女卑がまだまだ当たり前だった時代」に社会に出て、社会人時代の最後の時期には一応役員と呼ばれるポジションまでいった♀なので、恐らくもっと若い時期、それも会社にいても会議には出席させてもらえず(会議の最中に呼ばれることがあれば、それは吸い殻で一杯になった灰皿のお掃除か、会議で使われた資料の追加コピーか、お茶のお代わりか)、「うちの課の女の子」と呼ばれていた時期にこの本を読んでいたら、コケばぁやテナーの気持ちにもっと寄り添うことができたように感じます。

でも、今の KiKi にはちょっとそのあたりはウザったい・・・・・ ^^;  自分は一体何者なのか?  自分の人生とは?  人間とは??  というような大きな命題までは共感できるんだけど、そこからさらにジェンダーの領域までに踏み込んでいる 「女として生まれた自分の存在価値は?」 とか 「女の人生とは?」 という記述の部分になると、何気に古臭さとか偏狭さみたいなものを感じちゃいます。  まあ、逆に言えばそれだけ「時代の方が変わった」証なのかもしれません。

今の KiKi がこの物語を読むとテナーの抱える悩みよりもゲドの抱える空虚さの方により共感できちゃう自分がいます。  社会の中でそれなりの「力」を持ち、それなりの「仕事」を成し遂げた人間は、それができていた世界から足を洗った瞬間に、「まるで子供のように、どっちへ向かえばいいのか、何をすればいいのかわからない」というのはよくあることだと思うんですよね。 

魔法の力を使い果たしたゲドは、まるで高度経済成長期の「燃え尽きサラリーマン」が定年退職を迎え、「濡れ落ち葉状態」な~んていう不名誉極まりない形容詞付きで表現されていたのとどこか似通っています(苦笑)  とは言え、一介の「燃え尽きサラリーマン」と一度は「大賢人」とまで呼ばれた男はやっぱり違うわけで、痛ましいほどにヨレヨレ & 茫然自失状態のゲドであっても、ちゃんと自力で「自分を見つめ直す」根性と覚悟ができちゃうところが秀逸だと感じました。  特にゲドが魔法の力を失うに至ったのは「自分で選んだ道」でありながらも、どこか時代に、世の要請に流されてクモと対決せざるを得なくなったという要素があるだけに、事前の覚悟・心の準備みたいなものはお世辞にも確立していたとは言えないわけだから・・・・・。
  

KiKi もある意味では何年か前に生き方の大転換を図りました。  組織の中で持っていたそれなりの「力」も経済力という「力」もその時に捨て去りました。  その決心をする大きな要因だったのは、ばぁばの認知症罹患という事態(要するに外側からの要請)だったけれど、幸い KiKi の場合は、若い頃から常に「10年先、自分は何をしていたい?」というのを考え続け「そうなるためには今何をすべき?」を考え実践するトレーニングをしてきたので、今現在の生活はそこで描いた自分なりに描いた Vision に沿っているから大きな迷いとか喪失感みたいなものとは無縁の生活ができています。  

でも最近になって、その「要介護4の認知症罹患患者(うちのばぁば)の介護」を経験してみて初めて、「自分が何者か、何をしたかった人間なのか、自分の身近な人間が誰なのか、今自分はどこにいるのか がわからなくなってしまう可能性」に否応なく気がつかされ、万が一自分がそうなった場合の恐怖をかなり現実的なものとしてイメージするようになってきています。

この物語で帰還したゲドは、「世間がかつての自分を求めにやってくる」ことに恐怖を感じていました。  でも、彼は魔法の力こそ失くしたけれど、自分が「ゲド」であり、呼び名が「ハイタカ」であることはちゃんと覚えています。  でもうちのばぁばのように、時に自分の名前さえ忘れてしまうようになったら、何を自分の核として生きていけばいいのか・・・・・?  

物語ではそんな老年期にさしかかったゲドとテナーが描かれるのと同時に、彼らの色々な意味での後継者となるテルー(テハヌー)と 「暗黒の地を生きて通過し、真昼の遠き岸辺に達した王者アレン(レバンネン)」も活躍し、世代交代が描かれています。  もちろんその「世代交代」という現実をちゃんと認識できれば人は「それなりの生き方」を考えることもできると思うんですよね。  でも、うちのばぁばのように自分の亭主も自分の娘もわからなくなってしまったら、世代交代もへったくりもないわけで、そうなったらどうやって、何を支えに生きていけばいいのか??

そんなことを考えさせられる読書となりました。

  

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このページは、KiKi (Brunnhilde)が2013年11月 8日 10:42に書いたブログ記事です。

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