ホビット ゆきてかえりし物語 (上) J.R.R.トールキン

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先日、このエントリーでもお話したとおり、同じ物語の「瀬田訳」を読了したばかりですが、たまたま衝動買いしたこちらの存在を思い出したので、せっかくの機会・・・・・とばかりに読んでみました。  本日の KiKi の読了本はこちらです。

ホビット ゆきてかえりし物語 (上)
著:J.R.R.トールキン 訳:山本史郎  原書房

51ZpwHXHnxL._SL500_AA300_.jpgのサムネール画像  (Amazon)

映画「ロード・オブ・ザ・リング」で世界中にブームをまきおこした J.R.R.トールキンの「指輪物語」。  その前章の物語「ホビット」の定本(第四版)の新訳版!  著者自筆の挿絵および各国語版の挿絵を収録。  時代を越えて読み継がれる名作の理解を助ける詳細な注釈つき。  2012年12月、3部作の第1弾「ホビット 思いがけない冒険」がついにロードショー!  (Amazon より転載)

KiKi が子供時代に出会った「ホビット」の日本語版は瀬田貞二さん訳の岩波書店のハードカバー本でした。  その後、長じてから原書房から山本さん訳の「ホビット―ゆきてかえりし物語」(↓)が出た際にこの「ゆきてかえりし物語」というフレーズに惹かれて(実際、原題・・・・かどうかははっきりしないけれど KiKi が持っている英語版 には There and Back Again という副題がついている)、読んでみようかと何度も思いました。

ホビット―ゆきてかえりし物語
著:J.R.R.トールキン 訳:山本史郎  原書房

51DFN3A19VL._SL500_AA300_.jpg  (Amazon)

ファンタジー界の金字塔「指輪物語」誕生のきっかけとなったのが本書。  著者トールキンがわが子のために書いた童話で、初版は1937年。  その後、続編となる大作「指輪物語」を書き進めるトールキンは、物語の整合性のため、前編ともいうべき「ホビット」に手を加え、2度3度と版を改めている。  51年版にはすでに邦訳があるが、本書は、アメリカのトールキン研究者ダグラス・A・アンダーソンが66年版をベースに、テキスト改訂の歴史をたどり注釈版として88年に出版したもので、本邦初の翻訳。  言ってみれば「ホビット」の決定版である。

特徴としては、著者自身によるイラストや、世界各国の翻訳版からの多様な挿絵が豊富に収められているところ。  そして、行間にときどき打たれる注ナンバー。  これは面倒であれば当然無視してかまわないが、本書は「注釈版」と銘を打つもの。  トールキンファンにとってはここがもっともおいしいところともいえる。  たとえば、闇の森を抜けて進むビルボが、巨大なクモの群れにお団子にされた仲間のドワーフたちを勇猛果敢に救出するくだりには、トールキンの談話としてこんな注釈がついている。  「話に蜘蛛の顛末をいれたのは、(中略)とくに息子の1人が激しく蜘蛛嫌いなのです。  この子をすっかり怖がらせてやろうと思って書いたのですが、この企みはまんまと成功しました」。  本書は「トールキン通」への道を約束してくれるだろう。  (Amazon より転載)

でも、結局長々とこの本を購入せずに(ついでに図書館で借りて読むこともせずに)きたのはひとえにこの「翻訳」に関して芳しからぬ評判を耳にしていたからでした。  そしてその芳しからぬ評判の中でもっとも KiKi の読書意欲を削いでくれちゃったのは、会話文の翻訳のところで「ナンタルチア」とか「サーラバイバイ」という一世を風靡(?)したかもしれないけれど死語と化しているように感じられる言葉が出てくるというお話と、ゴラムのセリフの中の "My Precious" が「僕チン」となっているというお話でした。

KiKi は辛うじて「ナンタルチア」は何気に記憶にあるものの「サーラバイバイ」はよくわからなかったし、"My Precious" の「僕チン」に至っては「何故そうなる??」と疑問符だらけ(ゴラムの "My Precious" は自分のことを言っているケースと指輪に呼びかけるケースがあるのに僕チンではその二重人格的な異様さがよく伝わってこない気がした)で、全体を読まずして「あとは推して知るべし・・・・」みたいな気分になっちゃって敬遠してここまできてしまいました。

でも映画化のおかげで比較的手を出しやすい文庫本も出たことだし、「ナンタルチア版」からは改訂もされていると聞いていたし、さらにはこちらのサイトで「ナンタルチア」や「サーラバイバイ」はともかくとして、情景描写なんかのところでは瀬田版よりも正しい翻訳になっている部分も多いということを聞きかじっていたこともあり、今回購入→読書という流れになりました。  さらに言えばトールキン・ファンの KiKi にとっては嬉しいほどの重厚な注釈(この上巻では本文246ページに対して、注釈が96ページ!)があるのも魅力でした。

ま、てなわけで注釈をいちいち参照しながら読み進めていたので上巻だけを読了するのに結構な日数がかかってしまったのですが、前評判から恐れていたほどには読みにくい訳ではなかったように感じました。  「ナンタルチア!」は消えて「驚き、桃の木、バナナの木」となっているのには結構笑えました。  「サーラバイバイ」は相変わらず・・・・・・。  「僕チン」は「愛シ子チャン」に変更されていて「僕チン」よりはいいけれど瀬田さんの「いとしいしと」のセンスにはちょっと及ばないかなぁ・・・・という感じでしょうか?(苦笑)

上巻全体を読んでの感想としては、子供に薦めるなら、そして「古の時代のお話なんだよ」という雰囲気を味わいたいなら瀬田訳の方がなんのかんの言ってもやっぱり上をいっているかな・・・・と。  更には、映画(の字幕)で使われる固有名詞のほとんどが瀬田訳に準じているようなので、そういう面での混乱を避けるなら、さらには「ホビット」→「指輪」を一連の物語として読むなら統一性という面でも瀬田訳の方が混乱しないで済むだろうなと感じました。

一方で、原書を片手に英語のお勉強を兼ねて読書するなら山本訳には見るべきところが多いと感じました。  これを特に感じたのは物語冒頭でガンダルフがビルボを訪ねてきた際の最初の挨拶のところです。  瀬田訳ではビルボが「よいお日和を」と言うことになっている(これはこれで名訳だと思う)けれど、この山本訳では原文をそのままカタカナ書きした「グッドモーニング」となっています。  原文そのままのカタカナ書きとは何事だ!と憤慨されていらっしゃる方も世の中にはいるようだけど、KiKi にはなまじ「よいお日和を」と綺麗な日本語にしちゃうよりは情景がアリアリと目に浮かびました。

この "Good Morning"、私たち日本人は「おはよう」の意味だと学校では習うけれど、イントネーション次第では「おはよう」という挨拶という以上に「ごきげんよう(はい、さようなら)」というような意味になることもあるわけで、そこを茶化してのユーモアあふれる会話をトールキン先生は描いています。  そんな英語文化がより切実に伝わってくるのは、翻訳も何もしていないけど、単なるカタカナ書きの「グッドモーニング」の方が勝るなぁと感じたりもするわけですよ。

まあ、KiKi 自身の「馴染み」という点でも、「指輪物語」との連続性という点でも、そしてさらには川や山などの名付けのセンスという点でも瀬田さん訳の方が評判がいいのはよくわかるのですが、瀬田訳でよどみのない日本語だけどこれはいったいどんな情景なんだ?と頭に映像が浮かばないようなシーンを山本訳で読むと「なるほど・・・・」と思うところも多いです。  さらにはそこにあたる部分を英語で読んでみると「山本センセイの勝ち~!」となることも多々あるということがわかっただけでも、こちらを購入して読んでみた甲斐があるというものです。

会話部分はどこか品のある瀬田訳に対し、ちょっと悪乗り気味の山本訳という感じです。  でも、原文を読んでみると子供向けのこの「ホビット」という作品の持つカラーはより山本訳に近い(ちょっとハチャメチャなエンターテイメント風)だと思うんですよね。  だからこそ流行語になった「ナンタルチア」とか「サーラバイバイ」が使われているのはよくわかる・・・・・(苦笑)  言葉の持つイメージみたいなものは確かにそれらの流行語にこそあったりもするわけですから。  ただ、「翻訳の賞味期限」みたいなものを考えると、これはちょっといただけない戦略だったかな?と思わずにはいられません。

さて、この本がオススメできる最大の理由はトールキンの自筆の挿し絵がふんだんにしかもカラーで掲載されているところだと感じます。  但し地図は別です。  まずこの上巻には地図が載っていません。  地図の話をしている場面であってさえも・・・・・。  (具体的にはビルボの家の居間のシーンとエルロンドの館の2か所)  一応、下巻の方には「荒れ野の地図」も「スロール(こちらの本ではトロール)の地図」も二色刷りで掲載されているのですが、地図の話をしている時に同じ上巻の中にその絵がないのは不親切だなぁと感じました。  そして、その下巻に掲載されている地図にも不満が残るのは、地図上の文言が全て日本語になってしまっているところです。

もちろん日本の読者に対するサービスなのはわかるけど、「荒れ野の地図」はともかくとして「スロール(こちらの本ではトロール)の地図」の月光文字はやっぱりルーン文字じゃないと雰囲気がぶち壊し・・・・・と感じるのは KiKi だけかしら??  こういう冒険ものにはやっぱり神秘性は必要で、「これはいったい何が書いてあるんだろう??」と思わせるところにも大事なポイントがあるのになぁ・・・・・とちょっぴり残念な気分になりました。  

このスロール(こちらの本ではトロール)の地図、本来ならビルボの居間でみんなが眺めた時には月光文字の部分が見えず、エルロンドの館で初めてそこに月光文字があることがわかり、そこで文字が読めるというしかけになっています。  先日このエントリーでもお話したようにトールキン先生はこの地図の装丁について「スロールの地図(物語の中で月光文字が浮かび上がることになっている地図)を製本後に糊付けで加え、その裏面には光にかざして見た時に見えるように月光文字(アングロサクソンルーン文字)を配したいと願った。」というほど拘りをお見せになった地図なんですよ。  それなのにその月光文字部分が日本語で、しかも地図上の他の文字よりも大きなフォントで書かれてド~ンと載っちゃったらトールキン先生が意図したものとは大分変わってしまうのに・・・・・・・と思わずにはいられません。

ま、何はともあれ、まだまだ物語は前半戦。  下巻から闇の森に突入するビルボたちの珍道中をこのまま読み進めていきたいと思います。


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