鳥と雲と薬草袋 梨木香歩

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今回図書館から借り出してきた本の最後をしめくくるのは梨木香歩さんのエッセイです。  今日は2つのエントリーを書いているので短め Review になります。

鳥と雲と薬草袋
著:梨木香歩 新潮社

21NsvfbmLrL._SL500_AA300_.jpg  (Amazon)

鳥のように、雲のように、その土地を旅する。  ゆかしい地名に心惹かれる―地名に召喚される土地の記憶をものがたる葉篇随筆。

作家の胸奥の「ものがたり」がはぐくまれる場所に、滋養を与える旅の記憶。  49の土地の来歴を綴り重ねた葉篇随筆。  読む者の心も、はるばると時を超える。  旅に持ち歩く「薬草袋」のなかの、いい匂いのハーブのブーケや、愛着のある思い出のメモの切れ端のような......  日常を生きるときの常備薬ともなり、魂を活性化する、軽やかな愛蔵本。  (単行本帯より転載)

梨木香歩という人の感性がもっともストレートに伝わってくるのはエッセイにあるような気がします。  未だ物語としては構築されていない、それでも感情を揺り動かし「何か」を感じたこと、それが短い文章の中に凝縮され、さらにはまだどことなく「とりとめのなさ」みたいなものを感じさせる書き物。  それが彼女のエッセイだと感じます。

今回のエッセイは地名からイメージされるあれこれが彼女らしい繊細な文章で綴られます。  一葉一葉に「音」に対する彼女の繊細な感性が滲み出ています。

彼女の作品を読むたびに KiKi が感じるのは、梨木香歩さんという人は人間という生き物にどこか諦めのようなものを感じつつも本当の意味では見捨てきれない拘りみたいなものをずっと抱えて生きている人なのではないか?ということです。  そしてその見捨てきれない拘りの根っこにあるものが人間が生きて受け継いでここまで生き延びてきたという気が遠くなるような時の流れに対する愛着のようなものがあるように感じます。

「古代の言葉はかっちりしたものではなくもっと風が吹く音のような、小鳥のさえずりのようなものだったのではないかと・・・・」

という言葉の中に生きとし生けるものの言葉とは呼べないほどの囁きのようなものを感じます。  TVのバラエティ番組の中で「目立つこと」を主眼に喋り捲るタレントたち。  その姿をなぞるように公共の場(例えば電車の中やバスの中、喫茶店の中等々)で大声を挙げて喋り捲る現代人。  風が吹くような小鳥のさえずりのような音を奏でていた人間の末裔が何千年という時を経た結果、そうなったことを考えると、その長い時の流れの中で何か大切なものを捨て去ってきたに違いないと思わずにはいられません。

逆にそんな「音」に拘る彼女だからこそ、市町村合併で消えてしまった古い地名や新たに生まれた地名などに、地名を行政上の整理区画・シンボルというよりは音としてその場所を特定する何かを感じるのが梨木さんという人なのだろうなぁ・・・・と。  そしてその古い地名には当然のことながらそれに気がつく人だけに控えめに発せられる何らかのシグナルがある。  その一つ一つを丹念に、決してお金儲けのためではなく、あくまでも先人からのメッセージとして発掘して、それを何物にも代えがたい宝物として愛おしむ・・・・・そんな姿が垣間見れたような気がしました。

平成の大合併で由緒ある味わい深い多くの地名が消え、お役所が行政上の都合等々で名付けた新しい名前には「効率化」「イメージの良さ」が優先されていることにある種の寂しさを感じる感性を私たち一人一人がもっと大切にする必要があるような気がします。  もちろん改名という行為にはそれなりの目的があるわけですが、それが「記号としての分かりやすさ」(地勢をイメージできるわかりやすさではなく)を基調としているならば、その「記号としての分かりやすさ」を優先する気持ちの奥底にあるある種の無知・ずぼらさを恥じるべきではないかと思わずにはいられません。

私たちを取り巻く物にはどんな仕組みで動いているのかわからないものが多々あります。  そんなものが溢れている時代に生きていると「分からないこと」に対して何の罪悪感も羞恥心も感じないようになります。  例えば KiKi の子供時代、コンセントのプラグというやつはネジで止まっていて通電が悪くなるとそのネジをはずし配線を確認し、もしも内部で断線しそうになっていればハンダゴテで修理するな~んていうことを自宅で誰もがやっていました。  でも、今はプラスチックでガチガチに固められていてそんな修理を自宅でする人はいません。(・・・・と言うより自宅で修理はできません。)

それが現在の安全基準だと言ってしまえばその通りなんだろうけれど、その作業をしなくなったことにより電気がどのように通電するのかを知らないのが当たり前、コンセントプラグはただ壁の穴(コンセント)にさせばいいというだけのものに成り果ててしまったように思います。  うまく点灯しなかったスタンドが自力で直った時の感動もなければ、自分で大切に直したスタンドという愛着もわかず、スイッチを押せば自動供給されるのが当たり前、そうでなければ捨てるだけ(買い替えるだけ)という感覚だけが残ります。  

日本の経済活動のことを考えたらそんな消費一辺倒の生活にもそれなりの意味があるとは思うけれど、先人がどんな風に電気を使うことを考えてきたのかを知るよすがの1つは今となっては「与えられて当たり前のもの」「仕組みはわからないけれど便利な物」に成り果てています。  同じように古来からの命名には「先人の知恵が凝縮されていたかもしれない」のに、それを「記号として分かりやすい」「効率がよい」というだけで、あっさりと捨て去ってしまっていいものなのかどうか・・・・・。

地名の話をしている中で唐突に現れる以下の言葉にそんなことを感じた読書でした。


さきへ、さきへと岬の先端まで辿りついて、鳥ならば飛べもしよう、魚なら泳ぎもできよう、けれど人は、そこからどこを目指すのか。  岬に辿りついた人は、一様にしばらく声もなく茫然と海の彼方を眺める。

さあ、ここまでだよ、と限界を知らされることは、人にとっての救いではないだろうかと、行き過ぎた文明の末路が目の前にちらつくようになったここ最近、特に思う。  もうここから先へは行けないのだ、と悟ることは、もうここから先に行かなくてもいいのだ、という安堵にすり替わる。


文脈的には KiKi が書いたようなこととはまったく違うことを伝えようとしている文章ではあるけれど、この言葉を読んで KiKi の頭に去来したのはこんな想いだったのです。  

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