シルマリルの物語 J.R.R.トールキン

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先日「J.R.R.トールキン 或る伝記」を読了した流れで、これまでどうしても通読という形では読了できていなかったこの大作に手を出してみました。

シルマリルの物語
著:J.R.R.トールキン 訳:田中明子  評論社

51ZYS2Y3B6L._SL500_AA300_.jpg  (Amazon)

唯一なる神「エル」の天地創造、大宝玉「シルマリル」をめぐる争い、不死のエルフ族と有限の命を持つ人間の創世記のドラマ。  「指輪物語」に先立つ壮大な神話的世界。  上下巻をまとめ、著者トールキンの手紙も収録した新版。  (Amazon 内容紹介より転載)

「シルマリルリオン」(シルマリルの物語)は、上古の代、即ち世界の第一紀の事蹟を記したものである。  「指輪物語」は第三紀末の大いなる出来事を語ったものであるが、「シルマリルリオン」に語られていることは、それを遥かに遡る昔、一代目の冥王モルゴスが中つ国に拠点を定め、上のエルフたちがシルマリルの奪回を図ってかれに戦いを挑んだ、遠い時代から伝えられてきた伝承なのである。  -クリストファー・トールキンの「初版序文」より  (単行本扉より転載)

いや~、結構苦労しました ^^;  内容より何より、まずこの本、重い!  物語の重厚さをこの重さを以って体で実感しろ!と言われている位重い。  特に KiKi のように「お布団読書」が身についてしまっていると、この重さがあたかも苦行のようです。  そして次に襲ってくるのが「指輪物語」や「ホビットの冒険」のような物語口調というよりは、創世神話口調であるが故のある種の堅苦しさ、歴史の教科書にも似た固有名詞や出来事の列挙に冒頭からめげさせてくれちゃいます。

でも今回何とかその重圧を跳ね返して読了することができたのは、あの「J.R.R.トールキン 或る伝記」を読むことによって知った、この物語の出版に拘ったトールキン先生の想いの深さへの感動と、この物語を何十年と言う年月をかけて練り上げたその執念への敬意があったればこそでした。  

と同時にこの物語が冒頭から筋を追って書き上げられたものではなく(≒ 私たちが手にしている「シルマリルの物語」として完成されたものではなく)、トールキン先生ご自身はあっちを書いたりこっちを書いたり、書いているうちに既に書き上げたところを直したりと様々なプロセスを経た遺稿を残されただけのものだったということ、この「シルマリルの物語」はそんな断片的な遺稿を息子さんであるクリストファー・トールキン氏が可能な限り時系列に並び替え、最終稿と考えられるものを寄せ集めたものであることをしっかりと念頭に置いて取り組むことができたということにもあるように感じます。

と言うのもね、そこかしこに「既に別のところで語ったように・・・・・」というような言葉が出てくるんだけど、時に読者の立場からしてみると「え? まだ語ってもらった覚えはないけど・・・・・。  ひょっとして私が忘れちゃった??」と不安になってしまうようなことがあるんですよ。  これ、順を追って書かれたもの(最低でもそういう観点で推敲されたもの)という前提条件に立って読むから湧き上がってくる疑問なわけで、「ふ~ん、まだ語られた覚えはないけど、まあいいや。  そのうち出てくるんだろう・・・・」ぐらいな気分で読むとその度に躓くということがなくなります。  そして多くの場合、確かにページ的には後の部分でそれにまつわる逸話が詳細に語られていたりすると「なるほど・・・・」と合点がいく、そういうことがままありました。

そして、過去に挫折したもう一つの要因、「まるで教科書みたい」と感じられる固有名詞や出来事の列挙の部分に関しても、彼はこの「シルマリルの物語」で物語を書こうとしていたのではなく、言語学者として言葉が生まれるそのいきさつやその言語を考案し使う使い手の歴史を書こうとしていたというスタンスで読めば、「音を楽しむ」スタンスで眺めたり、時には読み流すということができるようになり、今回の読書では先へ進む障害とはなりえないことを発見しました。

もちろん、そうやって読み流していると、往々にして巻末の「語句解説」と本文の間をいったりきたり・・・・ということにはなるのですが、それでも既に読み終わったはずの頁を遡るのと比較すれば遥かに楽な作業だし、何よりも言葉を音として捉えることに重きを置くことによって、ストーリーを追う作業に過去の読書よりも遥かに集中することができました。  結果、細かい部分はともかくとしておおまかなストーリーは頭に残ったように感じます。

 

彼の神話ではこの世界は、イルーヴァタールという創造主が、アイヌアという神々(? 精霊?  力を持つもの?)を使って創造しました。  このアイヌアのうち、当初最も有能だったのがメルコールというマイヌアなのですが、力があるものは慢心するのが世の常らしく、彼は次第に邪な心を持つようになります。  そのメルコールこそが、あの指輪物語で悪の象徴だったサウロンのボス、冥王モルゴスです。  このモルゴスの破滅までが、第一紀でこの後に、二紀、三紀と続きます。

さて、そんな中、創造主が最初に世界に住まわせたのがエルフ族でそれに引き続き人間族が生まれます。  あの大作「指輪物語」や「ホビットの冒険」に出てくるエルフと言えば、イメージ的に非常に高貴で完成された人々・・・・という印象ですが、創生期のエルフはそこまで立派な存在ではありません。  ある意味、強欲だし、身勝手だし、お互いがお互いを憎しみ殺し合うことさえするのです。

この話と北欧神話の間にある1つの共通点に「破ることができない誓約」というものがあります。  言語学者だったトールキン先生はやはり「言葉」には強い思いを抱いていたようで、一旦口にした誓約は破ることができない(というか、そうであるべき)という思想を強く抱かれていたようです。  この辺り、「誓約に縛られていたヴォータン」とどこか似ています。  誓約に縛られた存在であるがゆえに、「シルマリルという宝玉をこの世の果てまで取り返しに行く」という誓約を立ててしまったフェアノールの一族は、相手が誰であろうとシルマリルを奪い返すために戦うことを余儀なくされ、同族から恨みを買うようにもなり、迷走状態に陥ります。  そしてエルフ族のこの迷走につけ込んで、悪の種を育むのがモルゴス一党です。

エルフが「○○のエルフ」と分岐していく様やら、後から登場した人間族が悪に魅入られモルゴス一党に加わるものとエルフと連合するものに別れていく様が第二紀、第三紀を通じて語られ、ようやく最後の方で「指輪物語」に出てきた「エアレンディル」とか「エルロンド」、更には「イシルドゥア」な~んていう名前がチラホラしてきます。

モルゴスが滅びる結果をもたらした大災厄はあたかも「アトランティス大陸の大洪水 & 沈没」を彷彿とさせます。  そういう意味ではヨーロッパに古くから伝わる数多くの伝承から色々な素材を集めてきて再構築した物語であることは明白なのですが、それを似て非なる物、トールキン・オリジナルと呼ぶに相応しい物語にまで構築したのはやはり「言語」とその成り立ち、そしてそれを使う者の歴史というぶれない視点があるところだと感じました。

さて、「ガンダルフ」や「サルマン」、「ラダガスト」といったイスタリたちがいかにして中つ国に遣わされてきたのか?はこの「シルマリルの物語」ではあまり詳細に語られておらず、どうやら「終わらざりし物語」に描かれているらしい・・・・・。  これはどうあっても「終わらざりし物語」まで進まなければいけないような予感がしてきました。  トールキン神話の道のりはやっぱりまだまだ遠かった・・・・・ ^^;

とりあえずは今回図書館から借り出してきた「星をのんだかじや」とか「ブリスさん」とか「ビルボの別れの歌」、「サー・ガウェインと緑の騎士」を読んで、さらには我が家の積読本「仔犬のローヴァーの冒険」、「小品集」を読んでから、「終わらざりし物語」に進むかどうか考えたいと思います。


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このページは、KiKi (Brunnhilde)が2014年6月27日 10:40に書いたブログ記事です。

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