僕は、そして僕たちはどう生きるか 梨木香歩

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久々の梨木作品です。

僕は、そして僕たちはどう生きるか
著:梨木香歩 理論社

41yuTZrCZpL._SL500_AA300_.jpg  (Amazon)

やあ。  よかったら、ここにおいでよ。  気に入ったら、ここが君の席だよ。  コペル君14歳、考える。  春の朝、近所の公園で、叔父のノボちゃんにばったり会った。  そこから思いもよらぬ一日がはじまり...。  少年の日の感情と思考を描く青春小説。  (Amazon 内容紹介より転載)

これまで梨木作品はその大半を読んできたけれど、この作品はこれまでの作品とはどこか一線を画している印象です。  梨木さんは常に現代社会にある種の不安、危うさのようなものを感じ、それをどちらかというと刺激は強すぎず、でも心にはずっしりと残る文体、語彙で語りかけるタイプの作家だと KiKi は思っていたのですが、この作品ではそんな確信犯的に自ら纏い続けてきたオブラートをばっさりと脱ぎ捨て、ある種の意志表明をした・・・・・そんな印象です。

タイトルからして吉野源三郎さんの「君たちはどう生きるか」を念頭に書いた作品であることが容易に察せられるのですが、主人公の名前(呼び名)も同じコペル。  でも2人のコペルの生きた時代の違いはエピソードの数々から明らかです。  その時代の違いが「生きる」ことに対する姿勢の安易さや、現代社会に溢れる欺瞞の数々の1つの要因なのかもしれません。

14歳の少年の1日の出来事の割には重いテーマが満載・・・・なのですが、逆に言えばある種の「気づき」が、そしてその気づきに誘発された「思考」が、それまで他人事、どこか自分とは関係ない世界の出来事として見聞きしつつも無視してきたようなことにあらためて真剣に目を向けてきた、その証としての出来事の多さ・・・・・だったのかもしれません。  とは思うのですが、このコペル君。  どこか不自然な気がするのは気のせいでしょうか??  言い訳のように「子供らしくない子」であることを、そう言われていることを自覚している子であるというのも、う~ん・・・・・。

まず、土壌研究を趣味とするコペル君と草木染作家のおじさん、さらには小学校時代の親友だったユウジン君のおばあちゃんの自然保護運動(と、こんな安易な言葉で語るようなものではないけれど)あたりのエピソードではサラリと環境問題を語ります。  でもそれはこの物語のメインテーマではなく、もっと重いものがこの後続々と出てくるんです。

戦時中に兵役を逃れ山に隠れ住んでいた米谷さんのエピソードでは「個と集団」に関する1つの視座を、ユウジン君が小学生時代に可愛がっていたコッコちゃんのエピソードでは教育問題と米谷さんエピソードに通じる「個と集団」に関するポイントを。  そしてコッコちゃんエピソードとユウジン君ちの敷地の片隅に隠れ住んでいたインジャのエピソードでは「耳触りの良い言葉に隠された悪意」を・・・・と、アプローチこそ異なれど KiKi が日頃から感じていたある種のこの社会の危うさをこれでもかっていうぐらいストレートに語り始めます。


個人的にはこの物語にある種の共感を覚えたのもまた事実なのですが、正直なところ「よい読後感だった」とは言い難い、それこそ何かひっかかりのようなものを感じるんですよね。  何ていうか、エピソードの1つ1つにある種の作為的なもの、もっと言えば作者の結論が先にありきで、それを無理やり14歳のコペル君の悩みの中で納得させていくかのような性急さのようなもの・・・・・を感じてしまいました。  もちろん、梨木さんがこれらのエピソードと同種のものに接し、こう考えた・・・・という真摯な思考プロセスの末に書いた物語だったのかもしれないとは思うんです。  でも・・・・・・。

何故、これを14歳の少年の思考として描いたのか?さえどこかぼけてしまっているような・・・・・。  これは特にインジャのエピソードがどこか全体から浮いてしまっていることによるものもあるかもしれません。  そしてその部分に関しては、梨木さんの怒りの感情があまりにも剥き出しになっているが故に「コペルらしさ」が感じられないのかもしれません。

ただ、1つ強烈に共感できるのは

「泣いたら、だめだ。  考え続けられなくなるから。」

と言う言葉でした。  これ、KiKi も時々感じるんですよ。  泣く、感動する、笑うってとっても大切な感情だし、そこから得られるものも数多くあるわけだけど、時に、それは自己憐憫やら自己満足、さらには自己陶酔に通じるものがあって「泣けた、感動できた、笑えた自分に満足して、それで終わり」というようなところがあるのも又事実だと思うんですよね。  で、せっかく掴みかけた思考のきっかけを棚上げしちゃうような・・・・・。

多くの日本人は自分は「弱い立場」にいると、ある種手前勝手に考えています。  自分から「私は強い立場の人間です。」な~んていう風に考えているのは、権力の近く(国家権力とか会社の役員とか)にいる人ぐらいでしょう。  そしてどこかで「弱い立場≒善人」と思い込んでいるようなところもあるような気がします。  多くの場合、それはその通りだったりもするでしょう。  でも、集団の中に埋もれた時、「自分よりさらに弱い立場の人を振り返らない傾向がある」のも又事実。  安全な所に自分の身を置いた安心感も手伝い、「みんなもこれでいいんだから、間違っている筈がない」と思考停止に陥る可能性も高い。  この物語はそんなことに対する1つの警鐘にはなっていると感じました。  

全体としては、「自分の言葉で考えようよ。  表向き綺麗そうな言葉を鵜呑みにするのはやめようよ。  協調することは人が社会で生きていくうえで大切なことだけど、それを大切にするあまり、思考停止に陥らないように気をつけようよ。  そして、自分の想いに囚われどこか協調性を失っているように見える人を排除するのはやめようよ。」というようなことが言いたい物語なんじゃないかと思うんだけど、そしてその主張にはすこぶる共感する KiKi なんだけど、でも、やっぱりどこか居心地が悪い・・・・・・。  これ、図星をつかれたから・・・・なのかな?  それもあるかもしれないけれど、それだけじゃないような気もする・・・・・。  う~ん、うまく纏まりません。

何となく、何となく・・・・ではあるけれど、本全体から梨木さんの焦りのようなものが発散されているようで、どこか「らしくない」と感じ、落ち着かない気分の KiKi なのです。  

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このページは、KiKi (Brunnhilde)が2014年8月 3日 13:43に書いたブログ記事です。

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