さすらいの孤児ラスムス A.リンドグレーン

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今日もリンドグレーン作品です。  ある意味ではこれまでに読んだリンドグレーン作品の中で KiKi の一番のお気に入り作品かもしれません。

さすらいの孤児ラスムス
著:A.リンドグレーン 訳:尾崎義  岩波少年文庫

Rasmus.jpeg  (Amazon)

孤児院をぬけだした少年ラスムスは、アコーディオンをかなでる陽気な風来坊オスカルに出会い、いっしょに旅をします。  ところが、ラスムスがピストル強盗事件の現場を見てしまったことから、ふたりは犯人に命をねらわれてしまいます。  (文庫本裏表紙より転載)

KiKi の子供時代、いわゆる「孤児」の物語はそれこそ掃いて捨てるほどありました。  そんな中には最初から孤児の子もいれば、ある時期までは保護者がいたのに、何らかの事情で孤児になってしまった子のお話もありました。  そしてそういう物語を読むたびに

両親がいて、その保護下にあって、贅沢ではなくても飢えることはなくて、理不尽な暴力にさらされることもなければ、寒さに震えることもない

という自分の境遇に幸せを感じ、KiKi にとってはどうでもいいと思われるような細かいことにやたらと口うるさい母親も、色々説教する割には自分も似たようなことをしている勝手な父親に対して日頃感じていた不満の欠片を反省し、「まあ許してあげよう」なんぞと偉そうに思った(← まあその程度の反省だったわけですが ^^;)ものでした。

そんな数多くの物語の中でこの作品がちょっと他作品と異なっていると子供心に感じたのは、物語の主人公、ラスムスが孤児院にいる時代に感じていた様々な出来事に対する感想の部分の記述でした。  特に印象的だったのが、孤児院の子供をもらいにきた子供のいない夫婦(特にその奥さん)と初めて面会する際の孤児たちの気持ちの描写でした。

小さくて巻き毛で綺麗な女の子はもらわれやすい
(≒ 針毛でいつもどこかしら薄汚れている男の子である自分を貰ってくれる人は滅多にいない)

そんなラスムスの諦めの気持ちとそれでもひょっとしたらという期待の気持ちが何とも言えない寂しさ・うら悲しさを感じさせ、子供ながらに文字通り胸が痛かった記憶があります。  そしてその胸の痛みがあればこそ、ラスムスが孤児院を飛び出すに至る「自分の力で僕の親になってくれそうな大人を探すんだ!」という気持ちにストレートに寄り添うことができたものでした。

とは言え、やっぱり齢わずか9歳の男の子の1人旅。  特に最初の一晩は危なっかしいことこのうえない。  何だかこのまま不幸への街道まっしぐら・・・・・となるかと思えば、最初に出会った大人が「善良な優しい人」だったことにより、ほっとさせられます。  でもまあ、定職についている風でもない、逆立ちしても裕福のゆの字も転げ落ちて来なさそうな風来坊なんですけどね。

イマドキの子供であれば仮にどんなに人のよさそうな顔のおじさんでも、相手がパリッとしたスーツを着ておらず、いかにも風来坊、アコーディオン片手に流しのようなことをしている人物についていこうな~んていうことは滅多に思わないだろうことを考えると、そこにある種の「時代」と共にラスムスが置かれていた環境に対する気持ちの切実さを感じます。

さて、そんな風来坊ですが、KiKi たち世代の「週刊マーガレット」愛読者にとっては憧れの存在だった、フランス革命の時代を駆け抜けた男装の麗人と同名でオスカルとおっしゃいます。  KiKi にとってこのオスカルという名前は最初はこの物語のオスカル以外の何者でもなかったのですが、その後の成長過程であっちのオスカル様と出会い、今回この物語を再読してみるまでこっちの風来坊がオスカルであることはすっかり忘れていました。  もちろん「ラスムスが家出2日目に出会う実にいい人!」という記憶はしっかり残っていたんですけどねぇ・・・・・。 


で、そのオスカルとラスムスの旅の始め頃は実にほのぼのとしていい感じなんですよね~。  風景描写もよければ2人の会話も微笑ましい。  何だか胸がポカポカしてくるんです。  ところがそんな光景もあっという間に暗転。  今度はピストル強盗事件に遭遇し、挙句はその犯人に追い回され・・・・・とホノボノしてはハラハラ、ハラハラしてはホノボノの連続で息をつかせません。  リンドグレーンさんの作品だから決して最悪の結末を迎えることはないというある種の信頼感がありつつも、ピストル強盗犯との追いかけっこあたりの描写は「挿絵効果」も相俟ってスリル満点です。

自分が風来坊ゆえ、悪いことは何ひとつしていないにも関わらず警察が苦手なオスカル。  もちろんその背景には定職につかず街から街を渡り歩く風来坊に対するある種の偏見と何か事件が発生すると真っ先に疑われるという経験があってのことなわけだけど、そんなオスカルであってさえも警察に対する最低限の信頼だけは常に持ち続けているらしく、犯人の逮捕やたまたま見つけた強奪品の処置は警察に委ねます。

風来坊のオスカル、「孤児の家」育ち & 家出中のラスムス、そしてオスカルと顔見知りのマイ・ペースのおばあさん2人というある意味で社会の第一線からはどこかちょっぴり外れてしまっているメンバーの活躍でピストル強盗事件は無事解決。  そこで話は終わるかと思いきや最後の最後にとびきりの物語が待っていました。

なんだかんだで2人が行き着いた農家は、ラスムスが「孤児の家時代」に夢見ていた自分を引き取ってくれる新しいお父さん、お母さん、そして自分の家のイメージそのままのお宅でした。  しかもそのお宅には子供がなかったため、誰か男の子を貰いに行こうと考えていたところだと言います。  最初はその夢のような話にうっとりし、幸せを感じたラスムスでしたが、ふとしたはずみに思い出します。

この家に貰われたら、オスカルとは離れなくちゃいけない。

と。  この事実に直面した後のラスムスの心理描写は秀逸です。  いかにも子供らしくちょっとした嬉しい話(子犬が産まれたばかり)を聞くと、そのことで頭がいっぱいになっちゃってオスカルとの別れの悲しさを忘れちゃったり、暖かいベッドで目覚めると幸せを感じて「これこそ夢見ていたこと!」と思ったりもするんだけど、いざオスカルの立ち去って行く背中を見るとオスカルと離れるということがラスムスにとってどれだけの喪失感をもたらすのかを痛みと共に思い出し、もうそれ以外のことは何も考えられなくなっちゃったり・・・・・と。

結局ラスムスは裕福な農家に貰われるという選択肢を自ら放棄し、オスカルと共に生きることを選びます。  そしてその彼にとって夢のような幸運そのものだった裕福な農家の夫妻に自分の代わりに貰われる子供として「孤児の家」時代の親友を推薦するのです。  その男の子も巻き毛ではない男の子でした。  

そして風来坊だとばかり思っていたオスカルは実は・・・・・。

私たち現代人が忘れてしまった純な心、本当の意味での暖かい眼差し。  そんなものを思い出させる作品だと思います。

  

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このページは、KiKi (Brunnhilde)が2014年11月10日 13:40に書いたブログ記事です。

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